2010年12月9日1時15分
11月、ロシアのメドベージェフ大統領は帰属問題係争中の日本固有の北方四島の国後島を訪問した。ロシア国内向けの演出という見方もあったが「クナシリ」の霧の彼方(かなた)にはロシアの極東政策が大きく張り出している。
北極圏には世界の天然ガスや石油の未確認埋蔵量の約4分の1が眠っているとされ、周辺諸国は領有権の確保を狙う。ロシアは4月、ノルウェーと40年余争ってきた北極圏のバレンツ海と北極海の大陸棚をほぼ2等分する境界線を引くことで合意した。
調印式に出席したメドベージェフ大統領は、この海域で、埋蔵量4兆立方メートルという大ガス田を開発している半官半民企業のガスプロムの会長を務めていた。矛先を変えて国後訪問で日本を瀬踏みしたに違いない。
北極圏は海底資源だけでなく、地球温暖化の行方にもかかわる。21世紀半ばには北極から氷が消えるという予測もある。そうなると、ロシア北方の北極圏を通る「北東航路」、アラスカやカナダに沿った「北西航路」や北極点近くを通過する新航路がスエズ、パナマ両運河経由に替わる主要海路になる。北極には国連海洋法条約が適用されるが、資源、海上路をめぐる国際紛争は避けられない。
南極観測隊に参加し71歳で南極を再訪した畏友(いゆう)は「世界中を『南極』にしよう」と題する啓発書を記した。国境も軍事基地もなく、領土権の凍結、資源開発活動の禁止など南極条約に守られた南極のような平和的枠組みを広げようと主張する。
日本は英国のように北極沿岸国機構、北極評議会のオブザーバーにもなっていない。「海のものとも山のものとも」ではない大局的地政外交戦略を再構築すべきだ。(昴)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。