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エンジンの逆襲! 2011年秋、すべてを一新したマツダ車が登場

nikkei TRENDYnet 12月8日(水)11時5分配信

エンジンの逆襲! 2011年秋、すべてを一新したマツダ車が登場
マツダの環境戦略とその核になる環境技術の全貌が明らかになった。トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車がハイブリッド車や電気自動車といった次世代車の開発に力を振り向ける中、マツダは今後、どのように展開していくのか。
キーワードは「SKY」

 マツダの環境戦略とその核になる環境技術の全貌が明らかになった。

 トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車がハイブリッド車や電気自動車といった次世代車の開発に力を振り向ける中、体力的に劣るマツダがどのような環境戦略をとるかは、同社の今後の位置づけや生き残りに大きく影響する。

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 同社が開発した環境技術とは、排気量1.3Lのガソリンエンジン単体で、燃料1Lあたりの走行距離が30kmというハイブリッド車並の燃費を実現するというものだ。来年春にも搭載車の第一弾を発売する。

 「SKYACTIV-G(スカイアクティブ・ジー)」と呼ばれるこの先進的なガソリンエンジンの登場は、もしマツダが将来、このエンジンを使ってハイブリッド車を作ったとすれば、トヨタやホンダのハイブリッド車の燃費を楽に抜いてしまうことを意味している。

 さらにマツダは「SKYACTIV-D(スカイアクティブ・ディー)」と呼ばれるクリーンで燃費のいい次世代ディーゼルエンジンも開発中で、2012年頃に日米欧で市販するクルマで実用化予定だという。高い燃費性能を誇りながら、尿素SCR(選択還元触媒)やNOx(窒素酸化物)吸着触媒などの高価なNOx後処理装置を装着することなく、厳しい排ガス規制をクリアするという優れモノだ。

 つまり、私がこれまで予言してきた通り、エンジンの逆襲が始まったのである。

 ガソリンとディーゼルの両SKYACTIVエンジンの技術は、今後のマツダのエンジンの基盤となるものだ。

 マツダの新エンジンの意味を理解するために、環境問題とエンジン開発の流れをおさらいしておこう。

 ガソリンエンジンの技術開発は排ガス規制への対応の歴史と言える。始まりは、1970年代に米カリフォルニア州で大問題になった大気汚染であった。急速に増加した自動車の排ガスが問題視され、米国は世界初の排ガス規制「マスキー法」を制定した。日本でも「昭和53年規制」が布かれ、都市部の大気汚染問題に自動車メーカーは真剣に取り組んだ。その後、ガソリンエンジンは三元触媒の開発と電子制御の進展により一気にクリーン化が進んだのである。

欧州が選択したエンジンの改善

 それでも先進国の排ガス規制は、年を追うごとに厳しくなっていった。1990年代に入って議論されるようになった地球温暖化問題への対応に、すぐに着手する余裕は多くの自動車メーカーになかったのが本当のところだろう。それくらいクリーン化の厳しい要求が続き、それに応えるのに自動車は必死だったのである。

 ここで私たちが知っておくべきことは、人体に有害なNOxなどの排ガス低減と、人体には無害だが温室効果があるCO2排出低減は、一般にトレードオフの関係にあるということだ。燃費をよくしようとしたらNOxなどが出やすくなる。

 ガソリンエンジンは低負荷(エンジン回転が低い領域)でも高負荷(回転が高い領域)でも燃費は悪くなる。つまり、ガソリンエンジンが効率よく仕事をできる範囲はごく狭いのである。こうした基本的な制約の中で、クリーン化と燃費向上のトレードオフをどう克服するかは、自動車メーカーを悩ませた。

 状況を一変させたのはトヨタだった。京都議定書が採択された1997年、世界初のハイブリッド車、初代「プリウス」を発売した。ホンダも2000年には初代「インサイト」を開発し、ガソリンエンジンは電気モーターとハイブリッド化することで、クリーン化と燃費向上を同時に目指せることを証明した。ガソリンエンジンが苦手な低負荷をモーターが補うことで、低負荷での燃費悪化を克服したのだ。

 欧州では、1990年代の中頃から後半にかけて、地球温暖化問題に対する意識が高まった。これに合わせて、乗用車でも排ガスのクリーン化以上に燃費性能を優先する傾向が強くなり、ガソリン車より燃費に優れるディーゼル車が普及し始めた。ディーゼル車は排ガスが弱点とされてきたが、コモンレールなどディーゼルエンジンの排ガス抑制技術が開発され、ディーゼルでも排ガス規制に対応できるようになったのが大きかった。

 とはいえ、欧州でも排ガス規制強化の動きがなくなったわけでない。最近は、欧州メーカーもディーゼルエンジンのクリーン化の追求にかかる負担を無視できなくなってきた。

 小型車がメインのフォルクスワーゲン(VW)は、クリーン化しやすいガソリンエンジンに軸足を置いて燃費対策に取り組んだ。そこで生まれたのが「ダウンサイジング+過給器」という新しいガソリンエンジンの方向性である。

 ディーゼルの比率が高い高級車メーカー、BMWやダイムラーも、排ガス浄化と燃費向上の両方を追求するガソリンエンジンの改善に取り組んだ。自然吸気のリーンバーン(希薄燃焼)エンジンの開発である。両社は環境対策の柱の1つにハイブリッド化の推進を掲げているが、その場合もガソリンエンジンの基本性能をしっかりと進化させることを忘れていない。これがドイツ流だ。

 では、ハイブリッド車で先行したトヨタとホンダはどのような開発方針をとってきたのか。残念ながら、ドイツメーカーがとったようなガソリンエンジンの環境性能向上には力を入れてこなかった。ガソリンエンジンの進化では後れをとってしまったのだ。皮肉というほかない。

マツダの技術革新

 トヨタやホンダとは対照的に、マツダはエンジンの改善に挑んだ。

 エンジンの効率を高めるためには何が必要なのか。基本的なエネルギーの損失要因には4つの要素がある。

・ポンプ損失(スロットルが閉じている低負荷時は空気を吸う抵抗が増える)・排気損失(排気ガスで捨てているエネルギー)・冷却損失(排熱)・機械損失(ピストンなどの摩擦抵抗)

 つまり、これらの損失をいかに減らすかがポイントになる。

 マツダの新ガソリンエンジンは、可変バルブタイミングの技術を使って低負荷でのポンプ損失を低減し、これまでのガソリンエンジンの常識では考えられない高圧縮比「14」を実現した。この高い圧縮比がマツダのブレークスルーである。

 だが、圧縮比を高めればノッキング(異常燃焼)の不安が大きくなる。これを克服したのが、新開発のエキゾーストマニホールド(エンジンの複数の気筒からの排気ガスをまとめて排気管に渡すための部品)である。これによりノッキングの原因になる、残留ガスの掃気(そうき)を可能にした。

 さらに、新ガソリンエンジンは200気圧の高圧で燃料を直接シリンダーに噴射し、ガソリンの気化潜熱でシリンダーを冷却する。ピストンは冷却に有利な形状を工夫し、ボア(シリンダー径)は極力小さくした。これらにより、冷却損失を低減している。

 高圧縮比などの特徴を持つ4気筒自然吸気の新エンジンは、従来のエンジンに比べて燃費とトルクがともに15%高まった。排気量2Lクラスでも、約18km/Lの燃費を稼ぐという。詳しいスペックは未発表だが、95オクタンの燃料で馬力160ps、トルク220Nm前後のパフォーマンスを実現するだろう。

 新エンジンを搭載したプロトタイプ車をドイツのアウトバーンで走らせた。印象は、低速トルクが大きくてとても乗りやすかった。スロットルを踏み込むと圧縮比14の新エンジンは、シュルシュルと聞き慣れないエンジン音を出しながら加速する。

 加えて、新開発の6速トルコンATの変速が非常に速くてスムーズであった。新しいのはエンジンだけでない。マツダはガソリン用とディーゼル用にそれぞれ専用のトルコンATとマニュアルギアボックス(合計4つ)を、新しく設計し直している。

 将来的には主要車種のほとんどに新エンジンを搭載することになるだろう。新エンジンには排気量で1.3Lから2.5Lクラスまであり、車種でいえば同社の「デミオ」クラスから「アテンザ」クラスまでカバーできる。

 では、大型車はどうするのか。燃費の悪いV6ガソリンエンジンを使い続けるのは、エンジンの効率を追求するマツダの新路線にはそぐわないような気がした。

後処理不要の低コストディーゼル

 「もう、V6ガソリンエンジンは作らないのですか」という私の質問に、マツダの研究開発担当である金井誠太取締役専務執行役員は笑いながら、「将来はそうせざるを得ないですね。ですからイエスかなぁ〜」と答えてくれた。

 少なくとも、SKYACTIVエンジンのロードマップにV6がないことは明らかだ。なぜなら大トルクの発生は多気筒エンジンでなくても可能だからだ。

 具体的にはV6エンジンを何で置き換えることになるのだろうか。1つは、2.5Lの新ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド化だ。モーターと組み合わせれば350Nm程度のトルクを出せるだろう。もう1つの可能性が、トルクの大きいディーゼルエンジンだ。

 今回、マツダは新ガソリンエンジンだけでなく、新クリーンディーゼルも発表した。これは大型車の環境性能向上を視野に入れたものだと私はみる。

 マツダが発表した新クリーンディーゼル「SKYACTIV-D」の概要は、排気量が2.2Lで、最大トルクで400Nm級という大きなトルクを発揮する。

 世界の排ガス規制は、ディーゼルが容易に達成できないレベルにまで厳しくなっている。そこで、欧州メーカーは現在、高価な後処理(尿素SCRや白金触媒)を付加することで規制をクリアしている。ところが、マツダの新クリーンディーゼルは、PM(粒子状物質)削減用のDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)以外には後処理が不要だというではないか。

 マツダは従来のディーゼルの燃焼方式を改め、もっとも効率が高い(燃費が良くなる)上死点で燃料を噴射することを狙った。実現できれば大きなブレークスルーである。そのため、噴射圧を新ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」の何と10倍にもなる2000気圧にまで高めた。また圧縮比は、従来の「16」から「14」へと、ガソリンエンジンとは対照的に世界一の低圧縮比を実現した。奇しくも新ガソリンエンジンも新ディーゼルも圧縮比は同じ「14」。燃焼原理の違う両エンジンが同じ圧縮比というのだから驚く。

 ディーゼルは空気だけを圧縮し、高温になった瞬間に燃料を噴射することで自己着火させる燃焼方式である。

 ガソリンは空気と混ざりやすいが、燃えにくい性質を利用して混合気を圧縮する。燃えにくいから最後はプラグで火を点ける。一方、ディーゼルが使う軽油は空気と混ざりにくいが、非常に燃えやすい性質を持っているため、燃えカス(有害物質)が発生しやすい。

 さて、プラグがないディーゼルエンジンの圧縮比を14まで下げると低温始動時に燃焼が不安定となる。そこで、可変バルブタイミングを使って、排気ガスの熱をシリンダーに戻すことで燃焼を安定させた。

 燃費は、2.2Lの新クリーンディーゼルを「アテンザ」クラスに搭載したとき、EUモードのCO2排出で105g/km(6速MT)。つまり、燃料1Lあたり約25kmの燃費となる。

 日米欧で2012年に実用化するという「SKYACTIV-D」は、これまでのディーゼルよりもローコストでしかも低燃費を実現した。

フォードが禁止したハイブリッド

 マツダのSKY戦略は決してハイブリッドの否定ではない。同社が理想と考えているのは、効率のよいエンジンに小さなバッテリーとモーターを組み合わせたハイブリッド車だという。

 2010年3月、トヨタからマツダがハイブリッド技術のライセンス供与を受けることで両社は合意した。マツダから見たとき、トヨタとの提携は理想のハイブリッド車構想を実現するためのものだ。マツダはハイブリッド車を開発する前にまず、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの2つの伝統的内燃機関をしっかり進化させることを優先したのだ。今回、ガソリンエンジンが苦手だった低負荷時(低いエンジン回転)の効率を改善したことで、組み合わせるモーターもバッテリーも小さくできるわけだ。

 マツダのハイブリッド技術開発に関しては逸話がある。

 実はマツダはハイブリッド技術の独自開発を、かつて親会社だった米フォードから許可されていなかったのだ。フォードは、自社で開発した「エスケープ・ハイブリッド」のシステムを、マツダに使わせればよいと考えていた。

 怪我の功名というべきかもしれない。そのため、2005年頃に「内燃機関(ガソリンエンジンとディーゼルエンジン)をどこまで進化させられるか」という自動車技術の基本中の基本に挑戦する気運が生まれたのである。

 マツダのスローガンである走る愉しさを謳った「Zoom-Zoom」(「ブーブー」に当たる英語の子ども言葉)と環境をどう両立させるのか。マツダはSKYACTIVエンジンのほか、新環境戦略に基づいてクルマの環境性能を最大化するために、プラットフォーム(車台)からシャシー(サスペンション・ステアリング系)、ギアボックス(オートマチックおよびマニュアル)に至るまで刷新していく。2011年秋にはすべてを一新した新しいマツダ車が誕生する。


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最終更新:12月8日(水)14時0分

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