きょうの社説 2010年12月9日

◎間垣重文景観申請へ 足元の「宝」生かすモデルに
 「間垣(まがき)の里」で知られる、輪島市大沢、上大沢両地区の国重要文化的景観( 重文景観)選定を目指す同市教委は、文化庁に申請する重文景観の構成素案をまとめた。市教委は年度内に素案を精査し、住民との合意形成が得られ次第、申請手続きに入る方針である。

 文化的景観とは、生活や産業に根付いた地域独特の美しい景観で、県内では昨年初めて 、「金沢の文化的景観」として金沢市の中心区域などが重文景観に選定された。「間垣の里」が選ばれると、里山・里海地域で文化的景観の保全と活用を図る県内のモデルケースとなる。選定に向けて、足元の「宝」といえる景観を生かした地域づくりに官民が一体となって取り組んでもらいたい。

 地域の特色ある景観は大切な資源であり、まちづくりに生かす動きが全国的に広がって いる。強風や荒波などから民家を守るためにニガタケを組んだ間垣も、能登の原風景の一つといえる。だが、過疎化や高齢化、材料不足などで将来、姿を消す可能性も指摘されていることから、輪島市教委は重文景観選定を起爆剤として間垣の景観を後世に伝え、地域活性化にも役立てようとしている。

 構成素案には間垣のほか、ニガタケの群生地や、椀(わん)木地の作業場跡などを加え 、民俗的色合いを濃くした。市と住民が課題や将来構想などについて十分に協議して、地域の景観を守る方策を講じてほしい。振興策として、体験型ツアーなどによる交流人口拡大や農水産物のブランド化なども申請作業と合わせて具体化していく必要がある。

 能登にとって海岸線の景観は大きな観光資源である。輪島市の「間垣の里」をはじめ、 白米の千枚田、北前船ゆかりの黒島地区、珠洲市の揚げ浜式塩田など、奥能登ならではの暮らしと風土が作り上げた景観は、北陸新幹線金沢開業の際にも首都圏からの誘客のセールスポイントとなる。それぞれの魅力に磨きをかけ、広域的な情報発信も求められる。景観は身近すぎて、その価値に気付きにくいといわれる。郷土の景観にあらためて目を向け、各地の資源を掘り起こしていきたい。

◎サイバー攻撃 安全保障の新たな脅威
 米インターネット検索大手のグーグルが中国事業を展開中に受けた「サイバー攻撃」は 、中国共産党指導部の指示で行われた疑いがあるという。このことは、サイバー攻撃対策を国の安全保障の重要課題に位置づける必要性を示している。日本も安保政策として、サイバー攻撃という新たな脅威への備えに本腰を入れる必要がある。

 サイバー攻撃とは、インターネットを通じてコンピューターシステムに侵入し、データ を破壊したりする。ウイルスを送り込んだり大量のデータ送信によって、政府や企業のシステムを機能マヒに陥れる手口が目立ち、テロに利用される危険もある。

 今年の防衛白書は、こうしたサイバー攻撃への対処法やネット空間の安全性確保が各国 の軍隊にとって「死活的な問題」になっていると指摘し、国防政策で「サイバー戦」を重視する主要国の取り組みを紹介している。

 例えば、米国防総省はことし5月、敵対国の機関やハッカーによるコンピューター侵入 に対抗するため、約1千人規模の「サイバー司令部」を設置した。この配下にはさらに大規模な陸海空3軍のサイバー部隊がいるという。韓国も今年、国防情報本部の下にサイバー司令部を創設した。また、北大西洋条約機構(NATO)は2008年にサイバー防衛センターを設けており、欧州連合(EU)は先月、初のサイバーテロ演習を実施したところである。

 また、中国はサイバー戦の攻撃と防御の方法、戦術を開発する情報戦部隊を組織してお り、北朝鮮もサイバー部隊を作って攻撃を仕掛けているとされる。

 日本は5月に、サイバー攻撃などから国民生活を守る「情報セキュリティー戦略」を策 定した。防衛省にはシステム防護隊が組織されているが、国防政策としての取り組みはまだまだ不十分である。9月には実際、防衛省と警察庁のホームページが、サイバー攻撃とみられる大量のデータ送信で機能停止に追い込まれた。優秀な人材の確保を含め、ネット空間の防衛体制の強化を急ぎたい。