きょうのコラム「時鐘」 2010年12月9日

 見えるはずもないが、夜空の金星の辺りが気になる。探査機「あかつき」は周回軌道に入れず、遠くに去るのだという

米国に遊学した人から愉快な話を聞いた。名月の夜に「月見をしよう」と声を掛け、「いいね」と返事があった。日本なら酒、ここでは上等のウイスキーでも出るか、と思っていたら、米国人は天体望遠鏡を携えてきた

いくらも例外はあるが、私たちは月のクレーター観察より風流に浸るのが好きである。奇跡の生還の最後を火の玉になって終えた「はやぶさ」の映像に、多くの人が心を揺さぶられた。望遠鏡で月見をする人たちには、わが身を捨てて役目を果たす「潔さ」を見る思い入れは、理解できないに違いない

最近まで、漫画や小説の世界では火星人も金星人も活躍していた。天体望遠鏡派による研究は、そんな夢を笑い話にした。おかげで利口になったが、無くしたものもある

が、よくしたもので、探査機は6年後に金星に再び近づき、やり直しの機会が来るという。奇跡の夢はつながっている。大威張りするほどではないが、世界の果てではニッポンも頑張っている。