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社会

【短期集中連載】発生から1年「新宿駅痴漢冤罪暴行事件」の闇(2)


なぜ、JRは「息子の死」の真相を追及する母の想いを踏みにじるのか

ukisima1207.jpg
2人の職員が暴行に加担していた疑いがあるJR新宿駅。

 大学職員の原田信助さんが痴漢の容疑をかけられて自らの命を絶った、いわゆる「新宿駅痴漢冤罪暴行事件」。新宿警察署の極めて不適切な捜査対応が悲劇の引き金となった可能性については前回指摘した通りだが、事件の"舞台"となった新宿駅の対応に問題はなかったのだろうか。

 実は、警察と並んで信助さんを追い込んだもうひとつの"共犯組織"が、JR新宿駅と、それを統括するJR東日本だと指摘する声は多い。

 今回、真相を知る上で重要な鍵となるのが、駅構内に設置されている防犯カメラの映像である。信助さんが暴行を受けた階段には、上部から階段を見下ろす形で一台のカメラが設置されている。尚美さんは事件から2カ月が経過した今年2月、この記録映像の開示を、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)に求めた。しかし、JR東日本危機管理室のOという担当者からの回答は、

「所定の保存期間が満了したから消去してしまった」

「警察からも保全の指示はなかった」

 というものだった。そこで尚美さんは8月11日、公開質問状により再度、JR東日本に対して「なぜないのか?」「もしあるのなら、見られるのか?」と追及したところ、今度は以下のような回答が返ってきた。

「今回のご質問を受けて再度確認しましたところ、これとは別に本件事象発生直後に、本件事象の発生箇所周辺の防犯カメラの映像を提供するよう、警察当局から捜査事項照会を受け、映像を提供しておりました。現在は警察当局に提出しました防犯カメラの映像は返却され、当社で所持しております。しかし、こうした防犯カメラの映像の提供につきましては、他に映っているお客様の肖像権等の問題もございますので、司法機関等からの法的手続きによる場合を除き、閲覧等のご要望はお断わりしております」(JR東日本の回答文書から)

 事件を取材したある記者は、吐き捨てるように言う。

ukisima08.jpg
事件現場となった新宿駅の階段。

「人の命が奪われた重大な事件の証拠となりうる映像記録を、『警察から言われなかったから消しちゃったよ』と平然と答え、しつこく聞いてみたら『ごめんごめん、よく探したら別のカメラの映像があって、警察に渡していたのを忘れていた。ただ、プライバシーの問題があるからあんたには見せないよ。どうしても見たければ裁判所通してね』ってことです。対応に誠実さのかけらもないばかりか、JR側は尚美さんに対して、嫌がらせとも取れる卑劣な行為さえしていますよ」

 JRによる「嫌がらせとも取れる卑劣な行為」とは何なのか。尚美さんは、真相究明へ向けて腰の重い警察に業を煮やし(それまで尚美さんは、被疑者不詳のまま新宿警察署に二度告発したが、新宿署は二度とも却下している)、ほぼ毎日、新宿駅西口や事件のあった構内などで目撃者探しのためにビラ配りを続けてきた。しかしJR新宿駅のU助役は、この行為に対して次のような「嫌がらせともとれる」対応を行なっている。尚美さんが証言する。

「JR新宿駅での目撃者探しは3月11日から続けてきたのですが、10月13日に真相究明へつながる可能性のある重大な目撃証言があったんです。その目撃者の方の陳述書を10月18日に検察庁へ提出した翌19日に、私を2カ月間応援してくださっていた、ある一般の方が、私がいつもビラ配りをしていた場所に立っていたところ、駅員が近づいてきて『こんなところに立ってないで、改札の外に行ってください』と言ったそうです。翌20日には一人の駅員の方が1メートル程の距離から私の顔に向かってフラッシュをたいて撮影しましたので、『肖像権がありますので、写真はお返しください』とお願いしたのですが、駅員の方は『あなたを撮ったのではない。工事中の現場の写真を撮っただけだ』と、駅長室に走り去ってしまいました。26日には久しぶりに応援に駆けつけてくださった方と一緒にいたのですが、今度はUという名前の助役がやってきて私たち2人をカメラでフラッシュ撮影し、『明日からは、もう来ないでください』と言いました。仕方なく、私たちは追い立てられるようにその場を去ったんです」

 U助役は、尚美さんらが階段を上り終わるまで監視するように見送ったという。JR側が尚美さんを威力業務妨害で訴えようとしていると助言をしてくれた識者もいたというが、その意図はいまだ分からない。いずれにしても、13日の目撃証言がJR側を焦らせたと考えるのが自然だろう。

 妨害工作と言われても仕方がない行為を、JR新宿駅がここまでしつこくする理由はいったい何なのか。真相が明るみになると、JR側にとって困る内容が映像に映りこんでいるということなのだろうか。尚美さんが続ける。

「目撃証言が少しずつ寄せられたことによって、今回の事件の中身が、酒に酔った大学生らによる『集団暴行事件』であったことが徐々に分かってきました。実はボイスレコーダーには、現場に駆けつけたJR新宿駅職員のKとHという2人の駅員も暴行に加担していたと思われる内容が、警察からの事情聴取に対する息子の言葉の中に記録されているんです」

 尚美さんによれば、Kという名札をつけた駅員が信助さんを怒鳴りながら何度も繰り返して突き飛ばしたことや、Hと名乗った駅員が信助さんのネクタイを掴み、引っ張りながら振り回した行為など、両駅員が現場到着の当初から信助さんを痴漢犯人と決めつけ、大学生の暴力行為を止めるどころか逆に暴行に加担していた事実を、信助さんが警官や刑事に必死に訴えている声が記録されているのである。

「目撃証言で少しずつですが事実が浮彫りになるにつれ、誤認逮捕をした警察や、職員が暴行に加担したJR新宿駅はそれらを明るみにされては困るのでしょう。組織防衛に全力を尽くしながら、人の命をあまりに軽く扱う警察やJRを見るにつけ、こういう組織に『なんとかしてくれる』と期待していた自分が本当に情けなくなります」(尚美さん)

 尚美さんのブログには、連日多くの励ましのコメントが寄せられている。その中のひとつに以下のような書き込みがあった。

「警視庁新宿警察署長の○○○○(訳注:本文は実名)とJR東日本新宿駅駅長は、前途ある優秀な若者が亡くなっている重大な事態に鑑みて微塵の嘘偽りのない誠意ある回答をするのが社会的道義的務めだ。嘘は必ず新たな嘘を生み出し話の辻褄が合わなくなる。これ以上の醜く見苦しい嘘偽りは控えるべきだ」(原文ママ)

 至極まっとうなこれら一般からの声に、新宿警察署とJR東日本はいまだ誠意ある回答を示していない。

 そしてさらに取材を進めると、組織防衛のために事実の隠蔽に加担した勢力がこれらふたつの「当局」だけでないことが分かってきた。「報道」という錦の御旗で強引な取材を続けたある大手放送局も、最終的には外部圧力により尚美さんを裏切り、何一つ報じることなく「事件現場」というアリーナから立ち去っていったのである。

 次回は、ある在京キー局がとった極めて不可思議な取材姿勢についてお伝えする。
「3」へつづく/取材・文=浮島さとし)

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2010.12.07 火   はてなブックマーク BuzzurlにブックマークBuzzurlにブックマーク livedoor クリップ みんトピに投稿 newsing it! この記事をChoix! 友達に知らせる Twitter



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