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【正論】拓殖大学大学院教授・森本敏 普天間は共同使用拡大で解決を
韓国哨戒艦「天安」撃沈、尖閣諸島沖の中国漁船衝突、北朝鮮による韓国砲撃と激震続きの北東アジア情勢は今後、さらに剣呑(けんのん)になる可能性が高い。中国、北朝鮮が領有権を主張して海洋で活動する傾向が強まっていて、しかも、その両国が協力関係を緊密化しているからである。北東アジアの政権はおしなべて、他国に妥協するなという国内圧力を受けており、小さな事件も大きな外交案件に発展して国益がぶつかりかねない状況が生まれているためでもある。
こうした中、日本にとっての優先課題は、日米同盟を信頼性あるものにすることしかない。日米安保体制は、ユーラシア大陸内部への対応を想定しておらず、その深化への中心課題は、いかに対中海洋戦略を日米で共有し、抑止と対応の機能を強化するかにある。
◆合意順守に信頼回復かかる
それには、日本として米軍再編計画を強力に支える必要があり、支援の中核を成すのが普天間飛行場移設問題の解決である。菅直人政権は、8カ月間にわたり迷走した鳩山由紀夫前政権の負の遺産をなお引きずっており、米国の対日信頼感は回復していない。それを取り戻すことこそ、日本が直面する課題であり、北東アジア情勢に対応する重要な手立てになる。
そのためには、5月28日の普天間問題に関する日米合意を順守する道筋を示さなければならない。米国は沖縄県知事選までは待ってくれたが、これ以上は待てないという態度を近く示すであろう。
他方、現職の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事の当選は歓迎されるとしても、普天間飛行場代替施設の建設工事申請に許認可を与えることは、「県外移設」の公約を掲げて再選された知事として容易ではあるまい。
沖縄県民の声は「差別」への不満である。なぜ沖縄を本土と差別するのか、なぜ本土の安全のため沖縄だけに米軍基地を押し付けるのか、という問題に真剣に取り組まなければ、普天間問題は前に進まない。経済振興策だけでは「差別」感は解消しないのである。
となると、前進への鍵はどこにあるのか。キーワードは「共同使用の拡大」だ。それにより、沖縄駐留米軍の活動・訓練機能をできる限り本土に移転することを抜本的に検討すべきときであろう。
◆在英米軍基地をモデルにせよ
在英米軍基地のように自衛隊の基地・施設をすべて米軍が使用できるようにし、代わりに米軍施設も自衛隊が使えるようにする。米軍基地の管理・運営は基本的に自衛隊が担当、米軍基地従業員も自衛隊が雇用する。それに伴う経費はかさむものの、その分、接受国支援が相当に減額できる。基地問題も円滑に処理され、専用の米軍基地の比率は格段に低下する。
新たな基地問題の発生を防ぐため、地元が反対する自衛隊施設では、米軍の訓練や活動は極力、控えてもらうことにし、歓迎される施設には受け入れてもらう。これによって、日米防衛協力を日常の訓練や業務を通じて拡大することもできるようになるであろう。
また、普天間飛行場の代替施設は日米合意通りに辺野古周辺に造るとしても、それも自衛隊の管理施設にするというやり方もある。九州一円で米軍訓練施設を改めて探す努力も払うべきである。普天間問題が迷走していたころ、十分な検討をせず放置した施設についても検討し直すべきである。
米海兵隊は将来、アジア太平洋地域において固定的な基地を設けて運用されるのではなく、地域全体を遊撃的に動き回って柔軟に展開、抑止機能を発揮するという態勢を取ることになるであろう。
◆グアムを急ぎ対中戦略拠点に
ハワイ−沖縄−日本本土−韓国−グアム−豪州−東南アジア−ディエゴガルシアと、拠点を持ち回りのように移して活動する部隊運用体系になる。その分、沖縄の負担が軽減される可能性は高い。空軍も同様だ。海軍は本来、西太平洋全域に展開しており、初めからそういう体系になっている。
そのためにも、グアム基地をできる限り早期に戦略基地化することが、南シナ海、東シナ海に進出する中国海軍に対する戦略上、必要となる。米国は普天間飛行場移設と、グアム基地への海兵隊移転をリンクして扱ってきた。その原則を変えることはできない。普天間飛行場問題が動くまで海兵隊移転を保留したまま、グアム基地のインフラ整備を促進する応分の負担を日本としても負い、引き換えに、グアム基地を借りて自衛隊の訓練・補給基地として活用できれば共同使用はさらに拡大する。
米議会には反対が起きると思われるが、この措置によって、米国と、オーストラリア、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟各国などとの共同訓練が可能となり、グアムを、アジア太平洋地域の新たな基地センターに発展させられれば、米太平洋軍にとっても大きな財産になるであろう。
限られた施設・区域を十分に活用して沖縄の負担を軽減、普天間問題を前進させて飛行場返還を実現することは、日米両国の政府にとってのみならず、沖縄にとっても利益になるに違いない。(もりもと さとし)