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社説:あかつき失敗 原因究明し再起めざせ

 非常に残念な結果である。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、金星探査機「あかつき」の軌道投入に失敗した。

 5月に鹿児島を旅立って半年。金星の近くでエンジンを逆噴射し、金星を回る軌道に乗るはずだった。ところが、噴射が途中で止まってしまった。

 日本は98年に打ち上げた火星探査機「のぞみ」でも、火星周回軌道への投入に失敗している。火星、金星と続いた失敗は重く受け止める必要がある。

 のぞみの場合、通信機の電源系統に問題があった。地球の重力圏を脱する際にもトラブルがあり、旅程の遅れを招いている。

 失敗を教訓に、あかつきの電源やアンテナはトラブルに対応できるように設計された。小惑星探査機「はやぶさ」で起きたトラブルにも対応した。にもかかわらず、肝心のエンジン噴射がうまくいかなかった。

 このエンジンは日本が新開発したセラミックス製で、宇宙空間での試験もうまくいっていた。ところが、逆噴射後に大きな姿勢の乱れが起きた。エンジンが破損した可能性も否定できない。

 いったい何が起きたのか。機器の問題だけでなく、開発・点検体制も含め、原因の徹底究明が不可欠だ。原因がわからなければ、宇宙技術への信頼は回復できず、今後の方針も決められない。

 金星を通り過ぎたあかつきは、6年後に再び金星の近くに戻ってくる。JAXAはその時に再度、軌道投入を試みるという。

 エンジントラブルの原因によっては軌道への再投入はできない。燃料が持つか、部品の劣化が起きないかなど、不確定要素も大きい。ただ、数々のトラブルを乗り越えたはやぶさの例もある。可能性があるのなら、あきらめずに再挑戦してほしい。

 今年は、はやぶさの地球帰還で宇宙開発への関心が高まった。あかつきの失敗は、計画中の水星探査機や、はやぶさ2に影響する可能性もある。だが、個別のケースに左右されないようにしたい。

 日本の宇宙開発の司令塔は、08年に発足した内閣府の「宇宙開発戦略本部」だ。しかし、明確なビジョンは示せないままだ。国として宇宙開発全体の大きな方向性を示した上で予算にメリハリをもたせるべきだ。

 惑星探査はすぐに何かの役に立つわけではない。だが、最先端技術にはさまざまな波及効果がある。開発を進め、人材を育成しておかないと国際競争からも取り残される。人類の知的好奇心に応える意味も大きい。今回の失敗を乗り越え、次につなげてほしい。

毎日新聞 2010年12月9日 2時36分

 

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