人口問題が深刻化すると、経済、産業も大きな影響を受けるのは間違いない。場合によっては、日本経済の壊滅もありうる。複数の経済学者は、本誌の取材に対して「労働力人口が激減するため、国内総生産(GDP)の成長率は長期的にマイナスとなる」と予測し、現在約550兆円の実質GDPは、'50年には約350兆円にまで減少するとの声もあった。
「全体のGDPが下がるのは、人口減少社会では当然。それよりも、一人当たりのGDPを増やすことが重要」という指摘はもっともだが、しかしここ数年、日本の一人当たりGDPは低下し続けており、そう簡単に上昇に向かうものではない。
家を建てる人も激減する
数字上の問題だけでなく、実際の経済の現場では、いたるところに綻びが生じ始めている。
「人口問題によって特に小売業が大打撃を受けることになるでしょう」
こう話すのは、奈良女子大学大学院教授で『人口減少時代のまちづくり』の著者である中山徹氏だ。
「卸売・小売店を対象にした、経産省の『商業統計調査』最新版によると、国内の小売店数は'82年に172万店舗でピークに達してから減少に転じ、'07年には113万店舗にまで減っています。これは不景気だけが原因ではない。すでに人口減少が進んでいる地方などで、経済活動の一部が縮小し始めているからです」
'09年に経産省が発表した、家計の支出に関する調査データによると、'07年の家計消費支出は278兆円。これが'30年には250兆円になるという。実に10%以上も支出が減るのだ。
「小売店数の減少はこれからも続くでしょうが、特に深刻なのは商店街です。総務省の統計によると、従業員4名以下の小規模小売店数---このなかには商店街の店が多く含まれると思われます---は、'82年の144万ヵ所をピークに、'07年は75万ヵ所と半数近くまで数を減らしています。なんの対策も講じられなければ、加速度的に小規模小売店は姿を消していくことになるでしょう」(中山氏)
「シャッター商店街」は、もう珍しい風景ではなくなった。この風景が日本中に広がるだろうという予測だが、商店街の死は、町そのものの活気や生気を奪いとり、自治体の機能低下・活力低下に拍車をかける。"日本の壊死"は、足元からじわじわと進んでいる。
家計消費の減少には、日本の製造業・販売業も戦々恐々としている。ハウスメーカーを例にとってみよう。住宅を買う層の中心は30~44歳で、現状、新築物件の約半分はこの層が買っている。しかし、この層は今後10年のうちに15%減少すると予測されている。従来どおりの営業をやっていたのでは、ジリ貧になるのは確実だ。
「関西圏を例にとると、主要顧客層がこの10年だけで70万人も減少します。一体どれだけの影響がでるのか、正直見当もつきません」(大手住宅メーカー・マーケティング担当者)
国内に生き残りの道がないなら、日本の企業は海外に「逃げだす」ことを模索するだろう。
「体力のある企業は、労働力不足と内需の低下を見越して、国内投資ではなく海外投資を積極的に行っています。これからは、そうして海外に軸足を置く企業がどんどん増えていくはずです」というのは、信州大学の真壁昭夫教授だ。
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