教育関係者が「子どもが減る」ことに頭を悩ます一方、医療関係者は「高齢者が増える」ことに不安を隠さない。「現在でも患者が多すぎるぐらいだから、人口が減ることは問題ではない。しかし、高齢者の割合が高まり、かつ彼らを診療・ケアする若い人材が不足すれば、病院はパンクしてしまう」。病院関係者からこんな危惧の念が聞かれるが、医療・看護関係の人材不足は日々深刻化している。
厚生労働省のまとめでは、来年度の看護職員の数は、必要数(約140万人)に対して、約5万人不足する見通しだ。数年後にはベテラン職員の大量退職が控えており、'25年には約20万人が不足するという試算も出されている。
職員が減少すれば、統合を余儀なくされる病院も現れ、規模の小さな自治体からは病院がなくなってしまう可能性がある。病院のない、高齢者中心の自治体。まさに、悲劇としか言いようがない。
さらに、人口減少は地域の治安崩壊をも引き起こす。人口が減少すると、空室・空き家が増えることになるが、空き家が増えると、ゴーストタウン化・スラム化が進み、治安が悪化する傾向がある。このことから欧米では、計画的に空き家を取り壊したり、人口減少に対応したコンパクトな街づくりを進めたりするケースが増えている。
一方日本では、人口減少社会がそこに迫っているというのに、いまだにいたるところで---人口減少の始まっている町でさえ---高層マンションの建設が相次いで進められている。「100年は持つ高層マンション」などと謳っている物件も多いが、100年後には誰が住んでいるのか。誰も住んでいないのに、それを取り壊す費用もない、そんな薄汚れた摩天楼が聳え立つ様は、さぞかし不気味なことだろう。
シブヤは巣鴨になる
そんな中、人口増加が見込まれている数少ない自治体がある。東京都はその筆頭格だ。しかし、悲しいことに「だから東京は安泰だ」とはならない。人口減少よりはるかに恐ろしい、爆発的な「高齢者増加」が起こるからだ。
前出の松谷明彦政策研究大学院大学教授が語る。
「65歳以上の高齢者は、'05年からの30年間で、全県平均34.7%増える見込みです。ところが東京では、67.5%の増加が見込まれています。つまり、東京は日本のどこよりも高齢者が増えるのです。高齢者が7割増えれば、老人ホームも7割増やさなければならなくなる。
税金を担う主たる働き手は15.8%減少すると見られているので、彼らの税負担は大変なものになる。特に20~30代の人口は31.3%も減り、東京都の人口に占める割合も現在の3分の1程度から約2割程度にまで縮小する。繁華街のイメージも変わるかもしれません。若者相手の渋谷、新宿、六本木などの街が小さくなって、巣鴨のような町が大きくなっていくとも言えます」
東京には、人口減の心配はない。しかし、高齢者だらけで働き手の負担ばかりが増大する"住みにくい街"に変わったとき、若者が地方に逃げ出していく可能性もある---松谷氏はそう指摘するのである。
東京だけに限らず、大阪・兵庫・京都といった他府県の都市部でも事情は同じだ。京都府は「2030年には約10%人口が減り、65歳以上の割合が、'25年には30%を超える」との見通しを発表。これを受けて、11月18日には人口問題を考える研究会が府内で開かれた。都市部も、人口問題とは無縁でないことが、お分かりいただけるだろうか。
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