さまざまな細胞になる能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、脊髄(せきずい)損傷のため立てなくなった小型霊長類のマーモセットに移植し、立ち上がれるまでに回復させることに、慶応大と実験動物中央研究所(川崎市)のグループが成功した。マウスの実験では同様の結果を得ていたが、ヒトに近い霊長類での成功は初めて。臨床応用に一歩近づいたと言えそうだ。
慶大の岡野栄之教授が7日、神戸市で開催中の日本分子生物学会で報告した。
交通事故などが原因で脊髄を損傷するが、根本的な治療法がない。岡野教授らは、首の脊髄を損傷して手足がまひしたマーモセットに、iPS細胞から作った神経の基になる細胞を、損傷から9日目に移植した。この時期の移植がもっとも効果的とされる。
移植後は運動機能が回復し始め、約1カ月後には後ろ脚で立つことができ、手の握力も回復した。患部に注入された細胞が神経細胞となり、脊髄を再生したためとみられる。iPS細胞は腫瘍化しにくいタイプを使い、約3カ月後でも腫瘍はできなかった。
岡野教授は「跳びはねられるほど劇的に回復した」と話し、今後はより安全性の高いiPS細胞で同様の効果を得られるよう研究を進めるという。iPS細胞は作成に半年以上かかり、脊髄損傷後に作っても移植に間に合わないため、国立病院機構大阪医療センターと共同でiPS細胞を事前に作っておく「細胞バンク」の研究も進めている。【野田武】
毎日新聞 2010年12月8日 2時30分(最終更新 12月8日 2時54分)