2010年10月12日 22時0分 更新:10月13日 3時13分
朝鮮労働党創建65周年と金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男正恩(ジョンウン)氏の後継者としての登場で祝賀ムードにあふれる北朝鮮の首都・平壌(ピョンヤン)を9~12日に訪れ、1人で街を歩く機会を得た。ネオンは深夜になっても消えず、高級レストランに市民が詰め掛ける。深刻な食糧難や電力不足に悩む農村とは無縁の「特権都市」の姿は、平壌と地方間の格差の急速な拡大をうかがわせた。【平壌で米村耕一】
市内を流れる大同江(テドンガン)の河畔近くに「食堂」という看板を掲げた数軒の店が並んでいた。11日午後8時半過ぎ、夕食を終えた客が家族と共に現れて自家用車に乗り込んでいく。
一軒に入ってみた。外観は粗末だが、内部は個室もある高級レストランだ。メニューを見ると価格表示は米ドルで、焼き肉盛り合わせが22ドル(約1800円)、高級ブランデー「ヘネシーVSOP」が100ドル(約8200円)。ほぼ満席で、周囲の客の胸には「金日成(キムイルソン)バッジ」が光る。大きな冷蔵庫に輸入ビールや食料品がぎっしり詰まっていた。
外貨を北朝鮮ウォンに交換する闇両替商も街のあちこちで見られる。統制が緩くなっているようで、外国人である記者が話しかけても逃げることなくレートを教えてくれた。
同日昼過ぎに歩いた平壌駅周辺の路地では、「新聞」と書かれた売店に人だかりができていた。「新作」という張り紙があり、CDやDVDが売られている。DVDの再生機を持つ市民も多いようだ。売店の前では、三輪自転車の荷台にトマトやナシを並べる女性がおり、ウリを持った別の女性が合流した。自然発生的な即席の市場だ。トマトは1キロ2800ウォン(闇レートで約200円)。話しかけると「ナシが甘いよ」と薦めてきた。
数十人が囲む小さなテントもあった。「くじ」だという。1回1000ウォン(同約70円)で折りたたんだ白い紙を受け取り、中に書かれた番号にしたがって商品がもらえる。みそや食用油が当たると周囲の客も「ウォー」と歓声を上げていた。
深夜になっても、平壌駅前のビル屋上には「朝鮮の心臓 平壌」と書かれた赤いネオンサインが輝いていた。平壌は、党や国家機関関係者が人口約300万人の大半を占め、外部からの人口流入を厳しく制限する「特権都市」だ。中国を6月に訪れた農村出身女性は「年に何日か、それも数時間ずつしか電気がつかない」と話していたが、平壌ではそんな雰囲気はまったく感じられなかった。
北朝鮮は、10日の閲兵式取材のため各国から計95人の記者を受け入れた。今回は、人数が多すぎて手が回らず自由行動が許されたようだ。市内の経済状況が比較的良いことが背景にあった可能性もある。深夜に宿泊先の高麗ホテルへ戻ると、当局者が玄関で待っていたが、「平壌の夜景も悪くないだろう。現状をそのまま報じてくれればいい」と言っただけだった。