2010年10月12日 21時5分 更新:10月13日 0時52分
年金記録問題解決に向け、「国家プロジェクト」とされる紙台帳とコンピューター記録の全件照合が12日に始まった。古い手書きの「原簿」とコンピューター記録を突き合わせ、支給漏れをなくし本来の年金額を受け取れるようにすることを目指す。社会保険庁の後継組織・日本年金機構=紀陸孝(きりくたかし)理事長=も信頼回復へ正念場を迎えるが、効果を疑問視する指摘もある。
この問題には、記録がない「消えた年金」や、記録が改ざんされた「消された年金」もあるが、全件照合は、コンピューター記録はあるものの基礎年金番号に結びつかず持ち主不明の「宙に浮いた年金」の解決が主な狙い。
この日午前9時、全国29カ所の作業拠点の一つの東京都江東区のビルで、電子画像化された紙台帳を照合用に印字する作業を始めた。報道陣には非公開とされた。
紙台帳は、旧社会保険事務所や市町村が保管してきた「被保険者名簿」などの手書き記録や、これをマイクロフィルム化したもの。複数の会社に勤めた人らは1人で何件もの記録があり、旧社保庁は推計8億5000万件としてきたが、紙台帳の電子画像化を進めた結果、重複分などを除いた7億2000万件のうち、判読不能なものなどを除き6億件を当面の照合対象とする。
作業は外部委託と機構の職員計1万8000人で実施。基礎年金番号から紙台帳を検索できる新画像システムを使い、紙台帳とコンピューター記録を2人が別々に突き合わせる。加入・脱退時期や保険料の納付(加入)月数、厚生年金では標準報酬月額などもみる。不一致のあった記録は、加入者については原則本人に通知し、本人が希望すれば記録を訂正する。受給者については、本人の希望がなければ原則、訂正して年金が増えるケース以外は通知しない。
旧社保庁時代のサンプル調査では、厚生年金だけでも、コンピューター記録と原簿の不一致は1.4%。全体でどのくらい不一致が判明するかは不明だ。
根本的な問題もある。宙に浮いた年金は、紙台帳からコンピューター記録への入力・転記ミスなどが主な原因とされたが、「届け出段階や転居や転職に伴う『原簿の間違い』も存在する」(機構本部職員)。このため、国民年金では、コンピューター記録の納付記録の方が紙台帳より長ければ、コンピューター記録に合わせる。
今後、本人に通知が届かなかったり、意思確認できないケースも想定される。年金記録問題に詳しい野村修也弁護士は「全件照合の効果は限定的。記録がない『消えた年金』には効果がない。大量の税金を投入するなら外部検証を行い、包括的な救済基準も打ち出すべきだ」と指摘する。
政府は13年度までに全件照合を完了させる予定。今年度は427億円、11年度の概算要求にも876億円を計上している。【野倉恵】