さすがの日本国民も、タニマチ政治と政治の不手際、長引く不況に嫌気がさしたのは必然だったといえよう。8月30日の衆議院選挙で民主党と鳩山由紀夫党首が勝利したのは注目すべき事象だ。これで54年間に及ぶ自民党支配に終止符が打たれたことになる。前回民主党政権が誕生したのは1993年。細川護煕氏率いるこの非自民8党連立内閣は、僅か11ヶ月という短命に終わった。それでも民主党自体は10年以上党として存続し続け、衆議院では4年間の任期満了を目指している。
鳩山氏は30日の選挙で民主党が圧勝したあと、10数年ぶりの圧倒的な信任を得た。民主党を中心とした連立政権はいま、衆参両院を支配している。こうした政治の激変は、小泉元首相が日本経済のてこ入れと反構造改革派の追放に信任を得た2005年の選挙以来だ。
鳩山氏登場以前に首相の座を務めた自民党の3人はさえなかった。ブッシュに相対するオバマのように、鳩山氏は反小泉派だ。鳩山氏の信条は友愛。小泉氏は改革を叫んだ。鳩山氏は反資本主義であるのに対し、小泉氏は競争を受け入れた。鳩山氏がアジアや国連も包含しようとするのに対し、小泉氏は親米だった。鳩山氏は中国の台頭は不可避で、日本は過去に築き上げた富で対応していかねばならないという。一方小泉氏は中国に強硬姿勢をとり、防衛力増強の一助となる経済成長を望んでいた。
これは看過できないレベルの相違で、アジアにおけるアメリカの国益にも影響が予想される。鳩山氏のケインズ理論への傾倒は世界第2位の経済大国に不況の波を再来させ、それがまた10年ほど続くという結果を招くかもしれない。鳩山氏は農業保護主義と最低賃金の引き上げ、環境責任という名目での税金の引き上げ、老人や子を持つ親、失業者などに対する援助を増やす事を掲げている。中小企業を過度な競争から守ることも目標の一つだ。鳩山氏の減税公約は最小限で、予算の無駄を削減する目標も具体的ではない。自由貿易協定(FTA)に関する姿勢も中立だ。彼の選挙活動で「経済成長」という言葉はほとんど聞かれなかった。
官僚政治にメスを入れるという鳩山氏の意図する改革は有意義なもので、有権者の支持も得られている。だが、日本の政治の旧習である郵政には触れようとしないのだ。彼の狙いは政治家が政策を決定していくという、普通の民主主義においては至極当たり前の事だ。だが政策自体が良くなければ、意味をなさないのではないか。
外交においても、民主党は小泉路線との違いを打ち出している。アジア太平洋地域の他の米同盟国のように、鳩山氏も日本の安全保障にとって日米関係が礎石となることは認めている。しかし、鳩山氏の選択肢は多くない。日本が仮に自衛隊から専守防衛という制約を取り払ったとしても、軍備増強に余念のない中国に量的な面でかなうことはないだろう。自民党と同じく、民主党もアメリカを必要とするのだ。
だが鳩山氏はまさにその同盟関係に距離を置くというメッセージで大衆を引きつけることに腐心している。鳩山氏は手始めに、海上自衛隊によるインド洋での米連合軍用の燃料補給を中断させるとみられる。具体的効果には乏しいが、象徴的な施策を意識するのも重要だ。民主党は日米地位協定の見直しを交渉し、最も効果の高いパワーを持つ国連との関係を強化したいと考えている。北朝鮮の核・ミサイル実験を踏まえると楽観的に見えるが、日本の政治家もオバマ大統領のように、核のない世界というユートピアを思い描くのが好きなようだ。
驚きなのは、北アジアでの同盟関係の礎石におけるこの反資本主義、反米路線への変換をオバマ政権がほとんど意識していないように見えることだ。政治経験の少ない鳩山氏が、今後日本にとって最も大切な同盟国から学べることは少なくないかもしれない。