論調観測

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社説:論調観測 ウィキリークス 何が公益で何が危険か

 内部告発サイト「ウィキリークス」が米政府の外交公電を大量に入手し公開を進めている。外交と機密情報、内部告発の是非、インターネット時代のメディアの責任など難しいテーマを含んでおり、世界中で論議が盛んだ。自らの活動と密接に関係する問題であるだけに、新聞も悩みながら論じているようだ。

 ウィキリークスから公電情報を入手し報道したメディアの一つ、英ガーディアン紙は、「情報の大半は米政府の公式見解と大して違わない」と機密性の低さを指摘したうえで「(情報暴露に)概して大人の対応をしている」と米政府を評価。同紙から公電情報を譲り受け報じたとされる米ニューヨーク・タイムズ紙は、「(今回の暴露)情報は米国内外の人々が知るに値する政策を明らかにしており貴重」と露骨なまでの肯定ぶりだ。

 一方、ウィキリークスから情報提供の打診を受けながら条件が折り合わず入手しなかった米ウォールストリート・ジャーナル紙は、ウィキリークスの創設者、アサンジ氏を「自由社会のためになっていない」と非難しつつも、「あいまいな法的根拠で起訴すれば、ジャーナリストの起訴に道を開きかねず心配」と警戒。機密維持が困難なインターネット時代だからこそ、政府は機密の量自体を少なくし、アクセスできる人物も限定すべきだと論じている。

 これとは方向を異にするのが、「新しい時代に合わせて、政府や企業が機密情報の管理を強化するのは当然」と主張した読売だ。「ネット時代だからこそ、メディアも含め情報を公開する側は、これまで以上に自らに厳しく、抑制的でなければならない」とした。政府に情報開示を迫り、政府が隠したがる情報を掘り出して報じる役割の報道機関が自ら「抑制」を唱えるとはどういうことなのか。

 毎日は、外交関連の会話が部分的に暴露されることによる外交上の打撃や政府関係者の身の危険を指摘しつつ、ウィキリークスが10月に公開したイラク戦争関係の機密情報について「米政府が自ら公表してしかるべきだった」と、暴露の意義も認めている。一方、朝日は4日現在、国内全国紙で唯一、この問題を社説に取り上げていない。

 結局、非開示情報の公表が公益か否かは、私たちが良識に従い一件一件判断するしかない。一律に規制を強化したり、組織の不正を暴こうとする人を短絡的に締め出そうとすれば、自由や民主主義を阻害し、私たちの首を絞める結果になるだろう。【論説委員・福本容子】

毎日新聞 2010年12月5日 東京朝刊

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