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2010年12月06日10時00分
こうして、古代による長々とした演説が主張するドメスティックな「愛」と「自己犠牲」の論理は、自爆テロのそれと何も変わらないことになってしまう(ちなみに太平洋戦争の旧日本軍によるいわゆる「特攻」は、国民国家間の戦争でのことであり、近年の自爆テロと同列に語ることはできないはずだ)。
以下、具体的な指摘をいくつか。
作劇について、基本的な姿勢は支持したい。もとの作品の基本的な設定・ストーリーを踏襲する姿勢は評価されるべきだ。往年の特撮やアニメの名作をリメイクする試みは近年いくつかあったが、多くが設定やストーリーを大幅に変更してしまい、結果としてつまらない作品になってしまうケースが少なくなかった。本作品では、もとの作品にたいして十分な敬意が払われており、いわゆる名台詞や名場面もきちんと実写でやってみせている。
とはいえ、いくつか変更を施している箇所もあり、それらはいずれも作品の要となっている。最大のものは物語の設定上の変更点にある。つまり、なぜヤマトはイスカンダル星をめざすのかという、旅の「目的」である。これについては、もしかすると賛否が分かれるところかもしれないが、ぼくはなかなか興味深く、評価すべきポイントであるようにおもう(ただし、もっとうまく展開できたはずだが)。人物設定のうち、何人かが女性に変更されているが、これもおおむね成功といっていいのではないか。明らかな失敗は、高島礼子の佐渡先生だけだ。
しかし難点は演出である。ドラマを構築できているとはいいがたい。ひとつのシークエンスにひとつの意味を貼りつけるばかりなので、ひどく記号的である。まるで漫画をひとコマずつ見ているみたいで、シークエンス間のつなぎから流れが失われてしまっている。それに歩をあわせるようにして、演技も全体に大芝居である。艦橋など室内の場面が多く、演出の力量がむしろ露わになってしまった感がある。
脚本は説明が多すぎ。プロット構築において、いちおう伏線は定石どおりに張っているのだが、いずれもちょっと弱い。ストーリーの進め方にもメリハリがない。ヤマト発進の場面などきわめて大事なカタルシスを演出してもらいたいのだが、なんだか、あれよあれよというまに出発してしまう。
というわけで、作品の出来については、案の定というべきか、疑問符がつきまくる結果であった。それでも、まあ、アニメの名作を正面からリメイクに挑戦すること自体は、けっして悪いことではない。こうなったらもう、つぎは『機動戦士ガンダム』の実写版しかあるまい。
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明治学院大学 文学部 芸術学科(芸術メディア系列)准教授。
専門はメディア論。いわゆる「媒体」よりも「媒介」が大切だとおもっている。書物・出版・編集、テーマパークやコンビニ、クリスマスの文化、乗物、映画、ミュージカル、旅行、散歩、家、日常といったものに関心をもち、これらをメディア論の課題として引きうける道を模索中。東京大学、北海道大学、公立はこだて未来大学ほか非常勤講師。
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