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【社会】

弁済金、被害者に渡らず 判決後、被告が供託取り戻す

2010年12月6日 13時56分

 刑事事件の被告らが、被害者に謝罪の意思を示すために被害弁済金を法務局に供託した。供託は、判決で刑を軽くする理由の一つとして考慮されたが、判決確定後に被告らが全額取り戻していた。被害者は被害弁済が被告らに有利な事情になることが許せず、受け取りをいったん拒んでいた。そのため弁済金は供託されたのだが、結果的に被告らは被害弁済をせずに有利な判決を得たことになった。 (望月衣塑子)

 集団準強姦(ごうかん)事件で、二〇〇五年に起訴された三人の被告とその両親が被害弁済金として五百万円を供託した。被告側は一審で、供託を刑の減軽理由とするよう主張した。判決は供託を被告側に有利な事情と認め、二人を執行猶予判決、一人を実刑とした。実刑となった被告だけが控訴した。二審でも実刑だったが、供託金については判決の中で考慮された。被告側は判決言い渡しの数日後、被害者の女性の意向を確認しないまま供託金の取り戻し請求をして、全額引き出した。

 女性は、被告全員の刑が確定した後に、被害弁済を受けようとした。その時になって既に供託金が返還されていることを知った。

 女性は「減軽理由となった供託金を被告側が取り戻すことは違法。事件と取り戻し行為で二度にわたって精神的苦痛を受けた」として、被告三人に損害賠償請求を求め東京地裁に提訴した。今年九月の判決は、取り戻しを不法行為とは認定せず、慰謝料の増額理由としてのみ認め、被告に五百五十万円の支払いを命じた。

 あるベテラン裁判官は「被告と被害者の間に供託金授受の合意が成立していないため、被告が供託金を取り戻しても、法律上は被害者の供託金を受ける権利を侵害した不法行為とは言い切れない」と説明する。一方で「被告側が供託金を法廷での見せ金として使ったのだとしたら、それは刑事裁判への背信行為であり、被害者に対し極めて不誠実。供託制度を悪用したと言える」と話す。

 全国犯罪被害者の会「あすの会」の高橋正人弁護士は「裁判員や裁判官は供託金を預けただけで刑を軽くするのではなく、被告が供託金の取り戻し請求権を放棄したかどうかを確認するなど、本気で慰謝料を支払う気があるのかどうかを見極めて判断してほしい」と訴える。

 法務省の担当者は「被害弁済の供託金が取り戻されるような事態が起きることは想定外だった。今後は被害者参加制度のパンフレットに今回のような事案があることを記載するなど、周知活動をしたい」と話している。

(東京新聞)

 

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