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【G2最新刊の記事を公開!】「ネット右翼」とは何者か 「在特会(在日特権を許さない市民の会)」の正体(第1回・下)

G2 12月6日(月)21時27分配信

安田浩一(ジャーナリスト)


在特会はネット上の政治サークルを出自とする右派系市民団体だ。ここ数年、急速に勢力拡大を果たし、世間の注目を集めるようになった。同会公式サイトによれば、会員数は9837人(11月15日現在)。北海道から鹿児島まで全国29支部を持ち、海外にも約250人の会員を抱える。会費を必要とせず、クリックするだけで会員資格が付与される「メール会員」がその大部分を占めるにしても、数ある保守・右翼団体のなかでも有数の規模を誇ることは間違いない。

その名称が示す通り、同会が最重要の政治課題として掲げているのは在日韓国・朝鮮人の「特権剥奪」だ。日本は長きにわたって在日の犯罪や搾取によって苦しめられてきたというのが同会の“現状認識”であり、日夜、「不逞在日との戦い」を会員に呼びかけている。

昨今では、糾弾対象はいわゆる「在日」のみならず、韓国、北朝鮮、中国といった同会いうところの「反日国家」や、それらに宥和的な民主党政権にも及び、各地で精力的な抗議活動を展開している。デモや集会では数百人規模の動員力を見せ付けることも珍しくない。

この在特会の生みの親であり、“理論的指導者”でもあるのが桜井だ。カリスマと呼ばれ、ときに「先生」と崇めたてまつられる人物である。サスペンダーに蝶ネクタイといった芸人のような出で立ちでありながら、「朝鮮人を追い出せ」といったヘイトスピーチを何のためらいもなく繰り返す。その特異なキャラクターはネットを通じて国外にも知れ渡り、最近では『ニューヨークタイムズ』など複数の海外メディアが、「外国人排斥を主張する、日本の新しいタイプの右派指導者」として彼を取り上げた。

ネットの動画サイトにアップされる桜井の映像には何万という再生回数がつき、その一挙手一投足に、いわゆる「ネット右翼」と呼ばれる者たちが「支援するぞ!」といった賛辞のメッセージを寄せる。

以前から私は在特会主催の講演会などに何度か足を運んでいるが、確かに桜井の姿には、芝居がかっているとはいえ、ある種のカリスマ性を感じたのは事実だ。蝶ネクタイ姿の桜井が登壇すると、会場からは割れるような拍手と声援が沸き起こる。饒舌で、澱みなく、緩急自在な桜井の話法は、まるで新興宗教の教祖そのものだ。脆弱な論理は力で押し切り、根拠の怪しい「事実」を平然とタレ流し、話の各所で「朝鮮人の悪行」や「シナ人の狡猾さ」を叫ぶように訴えれば、聴衆は大いに盛り上がる。本名や経歴を一切明かさず、謎のベールに包まれていることも、なおさら桜井の“神格化”に力を貸した。

しかし―。昔の級友たちが語る桜井の前身、つまりTは、饒舌どころか寡黙であり、その存在すら疑われるあやふやな印象しか残していない。外国人の排斥を主張した場面など誰の記憶にもなく、むしろ彼自身が「排斥」されていたのではないかと思わせるような人物像しか浮かび上がってこないのだ。

Tの“飛躍”はいつから始まったのか。何がそうさせたのか。

◇安田浩一(Koichi Yasuda)
1964年静岡県生まれ。週刊誌、月刊誌記者などを経て2001年よりフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続けている。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)ほか。Twitter ID: @yasudakoichi

(第2回につづく)

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最終更新:12月6日(月)21時27分

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