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[17208] ~白き馬は義に従う~ (恋姫無双 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:16f4d508
Date: 2010/11/27 16:51
プロローグ

side 一刀

黄巾の乱を切っ掛けとした永きにわたる戦乱の世が終わりを迎えようとしている。

天の御遣いとして、桃香や愛紗、鈴々と共に平和な世界の実現のため多くの戦いを駆け抜けてきた。
直接ではないにしろ多くの人たちを殺してきてしまったが、それ以上に多くの人たちをこれから幸せにしてみせる。

だから俺は…

公孫瓚、そして何進、いや義人!
お前達をここで倒して、大陸を統一する!

「全軍に告げる!天の御遣いの名にかけて、この一戦が最後の戦になることを誓おう!だから、俺に力を貸してくれ!行くぞ、全軍、突撃!」



side 義人

思えば遠くまで来たもんだな…
俺の視線の遥か先には数多の武将の旗が翻る。特色的な薩摩十字、「劉」「曹」「孫」etcetc…

「壮観な眺めだけど、あれ、全部敵か。状況はまさしく四面楚歌ってね。」

「そうなるようにしたのは義人だろ?」

何気なく呟いた俺の言葉に反応したのは白蓮。ただ一人、最後まで俺についてきてくれた女。

「もう一度聞くけど、本当にいいのか?一刀の陣営にいかn…」

言葉の続きは、唇でふさがれた。

「…私はあなたを選んだんだ。私の意思で。だからさ、最後まで共に行こう、義人。」

「…そうだな。いまさらだった。行こうか、白蓮。」

『戦いを終わらせに。』



     
~白き馬は義に従う~


プロローグから遡ること約20年。荊州南陽郡宛にて一人の赤子が産まれた。

(…俺、爆誕☆ってか?まさか転生することになるとは…。ていうかここどこよ?)

赤子を抱きかかえた母親と、産婆、そして父親が喜びを爆発させている横で当の本人であるその赤子?はそこはかとなく虚ろな視線を巡らせていた。

(神様の言うことを信じるなら、俺が生きた世界には戻れないってことだけど…。とりあえず両親らしき人達はアジア系か。服装は…古代中国?部屋の雰囲気なんかもそれっぽいな。
映画のレッドクリフがこんなところで役に立つとは…。ん?ということはこの世界はまんま三国志の時代である可能性が高いか?)

「ねぇ、あなた。せっかくだからこの子を名前で呼んであげて?」

「おぉ、そうだったな!良く聞け!お前の名前は進だ!何家の長子、何進だぞ!」

(ゑ?)


side 何進

早いものであれから7年経ちました。肉屋の倅の姓は何、名は進、字は遂高です。今日も元気に店の手伝いをしています。

「いらっしゃいませ! 父さん!お客さん来てるよ! 少しお待ちください。今、父がきますので。」

「相変わらず進君はしっかりしてるな。最近、勉強の方はどうだい?」

「論語はほとんど覚えました!そろそろ孟子を勉強しようかと…」

「ほう!それはすごいな!将来が本当に楽しみだ!おっ、親父さんが来たみたいだね。じゃあ、またな進君!」

「はいっ。ありがとうございます!」

突然だが、古代中国は凄いの一言につきる。7歳の男の子が論語をほとんど覚えたといっても「すごい!」の一言で済まされてしまうのだ。
要するに、確かに少数ではあるものの、そういった天才たちが実在するということだ。そんな訳で、知識面での俺Tueeeeee!フラグは速攻で叩き折られました(泣)

それに、元大学生の俺に詳しい専門知識なんかもないしな。行政とかなら現代のシステムを参考にしたりすることができるかもしれないけど。あとあるのは、現代的発想くらいか?
肉体的にも平均的な7歳の男の子。この世界には魔法とかもないみたいだし、チートはなさそう。

まぁそんな訳で、ちょっと頭のいい、若干大人びた肉屋の小僧として生活を送ってます。
「何進」って名前は危険な香りしかしないけどな!しかも肉屋だし。







(あとがき)

はじめまして。「けーぷ」といいます。このたびは読んでいただき、ありがとうございました。
「恋姫」でssを書いていきたいとおもいます。(設定は無印PC版を基本に。アニメ版は、私は見てません。)
ヒロインは、あの娘で。…かわいいじゃんよ!!もっと大切に扱ってあげて!
そんでもって、なければ作っちゃえばいいのよ!的なノリで書き始めてしまいました。…登場はだいぶ先になる予定ですが。
当方、ssは初めてになるので至らない部分は多々あると思います。改良の余地があると思った方がいましたら、感想版の方に具体的に書いていただけると、とても嬉しいです。


…需要はあるのだろうか??

2010年7月16日投稿

(追記)
2010年11月15日改訂。
読みやすくするため無意味な改行を無くしました。

(追記2)
2010年11月18日。
チラシの裏からその他板へ移動しました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第二話・上(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:16f4d508
Date: 2010/11/18 20:28
side 義人

突然だけど、俺の生前の名前は「義人」。儒教における主要思想の五常(仁•義•礼•智•信)のひとつ、義の人ですよ。これはもう義に生きるしかない!

…なんてアホなことは言ってないで、なんでそんな話をし始めたかというと、「真名」の件があるからだ。
この世界には姓、名、字以外にも「真名」があるということを、とある出会いを契機として先日知った。…イェッス!恋姫の世界観か!?やったね!?リアル系三国志の世界でなくて本当によかった!
…いや、例え恋姫世界だとしても、俺は男。基本モブキャラの男。死にまくる男。…深く考えないようにしよう!アハハハ!

閑話休題。実際に恋姫世界だとして世間を見てみると、確かに男性よりも女性の方が優秀な人が多い気がする。家長も女性の場合の方が多いしな。刺史等の役人も高官は基本的に女性のようだ。
…むしろなんで7年も生きてきて気づかなかったんだろうな?

ま、そんな訳で「真名」があるわけです。

両親をはじめとする親族や、目上の親しい人たちからは基本的には「名」で呼ばれ、他からは「字」で呼ばれることが多い。では「真名」は?
ずばり、同年代のマブダチ(古い?)から呼ばれる時に使われるのだ。しかも「名」や「字」と違い、「真名」は「こうありたい」という願いと誓いを込めて自身でつける。
だから、俺はこの世界でも「義人」と名乗ることにした。自分が自分であることを確認するため、そして来るべき戦乱の世の中で正しく生きていくために。





~白き馬は義に従う~第二話・上

side 何進パパ

私には7歳の息子がいる。
10年程前、当時下級官僚だった私は、中央で宦官同士の政争に巻き込まれ無実の罪を着せられた。良家の子女だった妻と離縁させられ産まれたばかりの娘からも引き離されて、都を追放された。
2年程全国各地を当てもなくさまよい、身も心もボロボロでたどり着いたのが荊州南陽郡宛。すなわちここだ。
そして幸運なことに、この地で私は新しい家族を得ることができた。

7年前には息子も産まれた。

この息子がまたよくできた息子で、もぅ可愛くて可愛くて。論語なんかでも分からない時なんかはすぐ私に「父さ〜ん、教えて〜」と言いながら近寄って来るんです。
心ない人はウチの息子を見て、ガキのくせに妙に大人ぶりやがって気味が悪いと言う人も居る。
確かに若干大人びているけど、そこがまた可愛いんじゃないですか!

だからこそ、私はこの子に私が持っているすべてを伝えたい。…もはや時間も余り残されていないのだから。



side 何進

乱世の前触れとして疫病の流行というものがある。確かな根拠はないが、そういうものらしい。
そしてこの時代の医療技術、公衆衛生のレベルは、低い。そんな訳で一度流行り病が発生すると、冗談にならないくらいの死者がでる。

そして、今がまさにその時だった。

始まりはささいなこと。近所の運送業を営んでいる若い兄ちゃんが、遠方の仕事から帰ってきてから数日後に風邪で寝込んだ。
最初のうちは風邪を引いた本人も、周囲の人たちも「すぐによくなるさ」と楽観していた。

だが、日にちが経っても病状はよくならない。それどころか、下痢や嘔吐の症状も併発しはじめた。さすがにおかしいと思ったその兄ちゃんの家族が、医者を読んだが原因は不明。
近所付き合いがあった我が家からも俺がお見舞いに行くことに。
見るからにヤバい顔をした兄ちゃんと話しているときに、気になる話を聞いた。

兄ちゃん曰く「仕事で南に行ったときに生で水を飲んじゃった。テヘ☆」…死にそうな顔で言うなよ。
中身が現代人とはいえ、医学知識皆無の俺ができることはなく、せいぜい「お大事に」としか言うことができずに家へ帰った。

それから数日後、その兄ちゃんは死んだ。

そこからは早かった。

まずその兄ちゃんの家族が同様の病状を発症し、親交が深かった人たちも発症。そして看病した人たちも発症。疫病は凄まじい早さで町に蔓延した。
さらに、感染した人から順番に死んで行った。
それは我が家においても、例外ではなく…

母さんが死んだ。父さんも体調が悪いようだ。俺はまだ元気だが…

母さんの葬儀をなんとか終えた日から、父さんから鬼気迫る気迫を感じるようになった。
以前から論語をはじめとする教養は父さんから習っていたが、そのペースが凄まじくあがった。命がつきる前に俺に全てを教えようとするように。
さらにどこで仕入れてきたのかは知らないが、官僚の仕事の仕方、賄賂の上手な拒否の仕方、中央における派閥争いの詳細等なんでも俺に教えてくれた。…まじアンタ何もんだよ?

そして全てを伝えきった父さんは、倒れた。



side 何進パパ

私は息子に、全てを伝えきった。自信を持ってそう言うことができる。
この体も良く持ってくれた。もう思い残すことはない。…愛しい息子の成長をこの目で見届けることができないのは残念だが。とても残念だが!
だが妻をいつまでも一人にしておく訳にもいかないしな。

「進、こっちへおいで」

寝床から起き上がることも叶わず、息子を傍へ呼び寄せる。

「いいか、今から話すことは私の遺言だ」

「はい、父さん」

…泣きそうな表情を必死に隠そうとしながら、私の言葉を一言一句聞き逃すまいとするように最愛の息子は頷いた。…本当にいい子に育った。願わくば、この子が幸せな人生を送れますように…

「私の体は、もう持たない。私が死んだら葬儀は簡素に行い、少しでもお金を節約しなさい。」

「…はい。」

「それから、葬儀が済んだらこの家を引き払って洛陽へ行きなさい。…そこにお前の姉が居るはず。」

「…はい。…はいぃ!?」

「おそらく当面の生活の面倒は見てくれるはずだ。家を引き払えば子供一人分くらいの路銀にはなるだろう。そこのつぼの中にも母さんが貯めていたへそくりがあるしな。使いなさい」

「ありがとう、父さん。母さんもへそくりとか貯めてたんだ…っていうか待って!?姉さんがいるとか初耳なんですけど!?」

「…まぁ言ってなかったしな。ふう、しょうがない。簡単に話すぞ。私は昔、洛陽で下級官僚をやっていた。妻も娘もいたが、紆余曲折があって追放されて現在に至る。」

「…はしょりすぎじゃないですか?」

「気にするな。あぁちなみに私は何も悪事は働いてないからな?おまえの父はそれは立派な役人だった…。それはさておき、要するに異母姉だな。あの家はおそらくお前を受け入れてくれる。」

「いまいち釈然としませんが、分かりました。」

「それと最期に、進」

「なんですか、父さん?」

「私はお前を愛していたぞ。…逞しく生きろよ」



side 何進

そういって父さんは眠るように息を引き取った…








(あとがき)

早速の感想ありがとうございます。力になります。テンション上がっちゃって、続きをあげちゃいました。
さて、第二話・上でした。いかがだったでしょうか。
次あたりから原作キャラを出して行こうかと思います。というか確実に一人は出ます。誰でしょう(笑

2010年7月16日投稿

(追記)
2010年11月15日改訂
読みやすくするため無意味な改行を無くしました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第二話・中(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:16f4d508
Date: 2010/11/18 20:28
side ???

風の噂で荊州のとある町で大規模な流行り病が発生していると聞いた。
医者を志す自分としては見過ごすことはできない事態だ。師匠に報告しないと…

「師匠!疫病の噂は聞かれましたか!?しばらく前まではその町の情報もあったらしいですが、最近では情報さえ流れてこないらしいです。感染の拡大を恐れて誰もその町へ近づかないと聞きました。いかがされますか?」

「儂もその噂は先ほど聞いた。かなり深刻な状況のようじゃな。既に生きておる者はおらんと言う者もおったが…だが儂らが行かない訳にはいかんだろう。流派六不治の名にかけて。そうじゃろう、バカ弟子よ!」

「はい!流派六不治の名にかけて!ならば急ぎましょう、扁鵲師匠!」



~白き馬は義に従う~第二話・中

side 何進

父さんが死んでから数日がたった。

遺言の通りに簡素な葬儀を終え、家も引き払い、さあいざ洛陽へといった段階になってから気づいたことがある。
…洛陽へ行く手段がねぇ!

平時ならば、行商や旅の人たちに連れて行ってもらえばいいのだが、今は非常事態真っ最中。
この町に誰も寄り付かないのだ。
さらに、この町に見切りを付けて脱出する人も今の段階になっては居ない。残っているのは、この町から離れる気はないという人たちばかりだからだ。

まじでどうしよう…



さらに数日後。
俺は一人で洛陽に向かって歩いていた。7歳の子供が一人で旅とかアリエネぇよ(涙)しかも徒歩で。
結局よい方法が思い浮かばなかった俺は一人で洛陽へ向かうことにした。

この町に残るにしろ、旅に出るにしろ、死ぬ確率はあんまり変わらないんじゃないかと考えたからだ。
持てる範囲で荷物を持ち、旅に出た。
疫病の噂のおかげで街道には人影もなく、そのため賊に襲われる心配もせずにしばらくは旅を続けることができた。



旅に出て数日後。

最初の町にたどり着く前に、俺は街道の真ん中で倒れていた。

「…お腹いたい。ケツもいたい。もう下痢もでない」

そう、どうやら俺もついに発症してしまったらしい。しばらくは気力で歩いていたが、先ほどついに力つきて倒れてしまった。

「ここまでか…」

助けてくれる人も居ない街道で、助かる見込みのない病を発症する。あぁ、まじでついてないな…

「せめて死ぬ前に…………………あれ?ダメだ何もおもいつかねぇ(汗)え?そこはなんかあるだろ、自分!?」

そんな間抜けなセルフつっこみをしていると急激に意識が朦朧としてきた。うわ、まじやべぇ…
そして意識を失う前に最後に聞こえてきた声が…

「元気になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」

お?なんかお腹が楽になってきt…………



side 華佗

噂の町へ向かう途中、街道で倒れている人影を見つけた。

「師匠!人が倒れています!」

「うむ!見えておる。急ぐぞ!気の流れが良くない!」

慌てて倒れている人に駆け寄り、抱き上げてみるとなにやらブツブツと言っていた。見れば俺と同じくらいの年頃か?

「師匠!まだ意識はあるようです!うなされているようですが…」

「よし、華佗よ。その少年を仰向けに寝かせ、お前は離れるのじゃ。」

言われた通りにしてから、師匠からはなれる。そして師匠の方を見ると、その体からはす凄まじい量の「気」が発散されていた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「流派、六不治は!

患者の鍼よ!

全身!

遍く!

病魔退散!

げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

師匠、美しいです……

金色に輝く鍼が、少年にささると「気」がながれこんでいった。
やがてその輝きがおさまると、そこには穏やかな寝顔をした少年がいた。その少年は助かったのだ。

「………やべ、気を流し込みすぎたかもしれんのう(汗)」

え、師匠?!






(あとがき)

是非とも某BGMを思い出しながらお読みください。
オリキャラの扁鵲については後日簡単に説明したいと思います。ちなみに「へんじゃく」と読みます。
そんでもって記念すべき最初の原作キャラは若かりし頃の華佗くんでした。
どうなんですかね?引き続き感想を、お待ちしています。

2010年7月16日投稿

(追記)
2010年11月15日改訂。
読みやすくするため無意味な改行をなくしました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第二話・下(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:16f4d508
Date: 2010/11/18 20:29
side 何進

………んぅ……………ん!!!  ガバッ

……ここはどこだ?確か街道で倒れたよな。…死んだんかな?にしては質素な部屋だし。転生した時はもっと豪華な場所だった。
無難に考えて、通りすがった人にでも助けてもらったのかな?体調もいいし、着替えもしてくれたみたいだし、マジいい人なんじゃね?

とりあえず人を捜そう…
寝台から降りて部屋の扉の方へ向かおうとした時、ちょうどその扉が開いた。そこには俺と同じ位の年頃の勝ち気そうな赤髪の少年がいた。…どこかで見たことあるような??

「お!起きたか!体調はどうだ!」

「あっああ、かなりいい感じ。俺を助けてくれたのは君?」

「俺も手伝いはしたけど、君の病を治したのは俺の師匠だ!ついてきな、今あわせてやるよ!」

「ありがとう。ところで、名前を教えてもらってもいいか?”君”じゃ不便じゃない?ちなみに俺の名前は何進。よろしく」

「おおっ!俺としたことが、ぬかった!正体を告げないなんて医者としてあるまじき行為!!申し遅れたな、俺の名は華佗!医者王になる男だ!!!」

…熱い奴だな(汗)っていうか医者王で、華佗!?

この世界は恋姫か!!



~白き馬は義に従う~第二話・下

side 何進

扉をくぐるとそこには、もぅ師匠としか表現のしようのない初老の男性がいた。せーの、ししょぉおおおおおおお!!!

「む、目が覚めたか。体調はどうじゃい坊主?」

「はい、おかげさまでかなりいい感じみたいです。」

「そうか、それは何よりじゃ。儂は扁鵲という。流れで医者をやっておる。そこの華佗は儂の弟子じゃ。」

「流れで医者?珍しいですね?それはともかく、助けていただいて本当にありがとうございました。危うく死ぬ所でした…」

「うむ。こちらの見立てでも治療があと少し遅れてたおったらお主はしんでおったな。間に合ってよかったわい。」

げぇ、そんなにやばかったんかい…まじで感謝だな。

「重ねて感謝します。…ところでここはどこです?民家のようですが人が住んでるようにはみえないですね?」

「うむ。空き家を借りておる。ところでお主、南陽郡宛という町に心当たりはあるかの?」

「え?えぇ。あります。と言うか俺の出身地です。それがどうかしましたか?」

「やはりそうか。倒れていた所からしてそうかと思っておったんじゃが、それはさておき。ここはその宛じゃ。」

「!そうですか…。もうここには戻って来るつもりはなかったんですがね。あぁ、そういえばお医者さんでしたよね?町の様子ご覧になりましたか?」

「うむ。ひどい状況じゃったな。もう全員の治療はすんでおるが。もう大丈夫じゃろう。」

…は?

「え?もう治療は済んだって…?」

「そのままの意味じゃ。お主が寝ておった2日の間に全ての病人を治療した。潜伏期間も考えてもうしばらくは注意が必要じゃが…」

…すごいな、この爺さん。さすが華佗の師匠ってことか?町の皆も助かるみたいだし、本当に良かった。でも、こんな簡単に助けることができるなら、一日でも早く来てほしかった。そうすれば、父さんや母さんも…

「そうですか。ありがとうございます。おかげで町も無くならなくて済みそうです。……ちょっと町をみてきます。暫くしたら戻って来るので、ここにいてくださいね?」

そういって俺は家からでた。彼らから離れないと、助けてくれた彼らを感情にまかせて罵倒しそうだったからだ。どうしてもう少し早く来てくれなかったんだ!って口からでかかっていたし…



side 華佗

何進が家から出て行った。一時は瀕死の状態だったことを考えると、本当に元気になった。でも、最後の表情はなにか激しい感情を抑えているようにも見えた。……実を言うと何進のことについては俺も師匠も、名前や現在彼がおかれている状況も知っている。彼が寝ている間に町の人たちに確認したからだ。

「……師匠、やはり俺たちは恨まれてますかね?もう少し早くついてれば、あいつの両親も助けられたかもしれないし…」

「そうじゃな。じゃが、医者とはそういうもんじや。万能な医者などおらん。医者とは、究極的には、命の取捨選択をする者のことを指す。そして周囲の感謝の言葉も、怨嗟の声も全て受け止める。これからも、本気で医者を目指すと言うなら覚えておくことじゃな。」

師匠の言うことは理解できる。重みもあるし、真実なんだろう。それでも、俺は全ての人を救いたい!だからこそ、俺は王を目指す。医者の王を!

「ふふん。その顔は納得しとらんの。じゃが、それでよい。あくまで儂の言葉は覚えておくだけで良い。進む道、目指す場所は自分で決めい!」

「はい!俺は、全てを救う医者の王になる!これだけは譲れません!」

「いい心構えじゃ。頑張れよ、バカ弟子よ。では、早速。救わなければならない人がいるぞ。」

「……?それは?」

「何進じゃ。彼は今、精神的に非常に不安定じゃ。儂らのせいでもあるが……。彼を救ってこい。逆効果にならんようにの?」

「!!なるほど、確かに……。ですが、師匠。今、彼に話しかけても確実に逆効果にしかならないと思いますが…」

「儂の見立てでは大丈夫じゃ。というか必要なことじゃな。彼はここで儂らを罵倒せず、離れることをえらんだ。おそらく内に溜め込むことができる人間じゃの。そういう人間ほど、早めに吐き出させたほうがいいんじゃよ。ほれ、とにかくさっさといってこい。」

うーん、本当に大丈夫だろうか…?そっとしておいたほうがいいと思うんだけど?



side 何進

人気のない町外れで、むしゃくしゃした心を落ち着かせるためにとりあえずそこに生えていた木をボコボコに殴ってみた。木はびくともせず、俺の拳から血が流れてくるだけだった。ちょっとは落ち着いたかな?

「少しいいか?」

声のした方を見るとそこには華佗がいた。……まさか追ってくるとは。こういうときって普通そっとしておかない?熱いだけじゃなくて空気も読めない奴だったのか…
正直、鬱陶しいな。

「後にしてくれないか?今はそんなに機嫌がよくないんだ。もう少ししたらさっきの家へ戻るからさ。」

「そんなことを言わずに、俺のはn」

「しつこいな!!!今は誰とも話したくないっていってんだろ!!」

「少しでいいんだ!聞いてくれ!」

「うるせぇっていってんだろ!さっさと失せろ!役にたたない医者の、さらに役に立ちそうも無い弟子なんかと話してるような時間はないな!」

「!!俺のことは別にいい。実際にまだまだ役に立たないしな!でも!師匠を悪く言うのはやめてもらおうか!この町でも師匠は多くの人を救っている!!」

「そうだな、確かにたくさんの人が救われた!それなのに!どうして俺の父さんと母さんを助けてくれなかった!もう少し、本当にもう少し早くお前達がきてくれていたら、死なずに済んだ!!俺が一人になることはなかったんだ!」

……あぁーあ。言っちゃったよ。



side 華佗

そう叫ぶと、何進は俯いて涙を流しはじめた。……これが医者の宿命、か。重いな。だけど、全て受け止めてみせる!

「何進。俺の話を聞いてほしい。」

「………お前何なんだよ、本当にしつこいよ。もういいよ、さっさと話せよ。」

「俺も二年程前に両親を流行病でなくした。」

「!!」

「まったくお前と同じ状況だよ。両親が死んで、俺も死にかけてた。そのとき師匠に救われた。自分が助かったことはとても嬉しかったけど、それ以上に両親が死んでしまったことが悲しかった。師匠を、どうしてもっと早く来てくれなかったんだってずっと責めてた。身寄りを無くした俺は、結局師匠と共に旅をすることになった。最初はすごくいやだったけどな。自分の両親の仇みたいな男だぜ?絶対嫌だよ。それでも、生きて行くためには仕方が無かった。」

「……それで?」

だいぶ落ち着いてきたみたいだな。

「一緒に旅をして気づいたんだ。師匠は俺の両親の死に間に合わなかったんじゃなくて、俺の死に間に合ったんだって。」

「どういうことだよ?」

「あの人はホンモノの医者だってことさ。旅をしている間ずっと人を救ってた。どんな場所でも、どんな時間でも、どんな人でも。あの人は人を救うことに人生を捧げている。だからあの人には無駄な時間なんて存在しない。俺の両親の死に間に合わなかったのだって、きっとどこかで誰かの命を救ってたんだろうって思ったんだ。そして流行病の噂を聞きつけて急いで俺の町にきてくれたんだろうって。」

「そんなことを言われても……」

「こんな話をしても納得できないことはわかる。俺も実際に一緒に旅をしていなかったら今でも師匠のことを恨んでいたかもしれないしな。」

「ならなんでそんな話を俺にする。」

「お前に言っておこうとおもってな。……師匠は立派な医者だ。でも、そんな師匠でも俺や、お前の両親のように救えない人がいる。だから俺は世界中の人たちに、何より自分自身に誓った。全てを救う医者の王になると!誰も死なせはしないと!」



side 何進

まさか華佗にそんな過去があったとはね……それにしても”医者の王”か。そこまでマジだったとは。でも……

「だけど、俺の両親は死んだぞ……」

自分でも意地の悪い聞き方だとは思う。けど。華佗がなんて答えるのか聞いてみたい。

「分かっている。俺はまだまだ力不足だ。師匠にさえ遠く及ばない。だけど、諦めない。いつか必ず医者の王になってみせる。だからお前には俺の真名をもって誓おうと思う。必ず医者の王になると。」

……マナ?………あぁ、”真名”か!そういえば恋姫の世界にはそんなもんがあったな。しかし今まで聞いたこと無かったぞ?

「すまん、華佗。真名ってなんだ?」

「ん?そこから説明が必要か?…まぁ俺らの年齢くらいだったら知ってる奴らの方が少ないか。真名は名や字と違い、”こうありたい”という願いと誓いを込めて自身でつけるものだ。普通は十代の中盤で名乗り始めることが多いみたいだな。大人は小さい子供にはあまりその存在を教えることは無いらしいぞ。あまりに変な名前を名乗っても残念なことになるとかで。」

「へぇ…。知らなかったな」

「まぁ、自身の真名を決めるってのも大人になる一つの儀式かな?通過儀礼みたいなもんさ。幸か不幸か、俺の場合は世間を見る機会が早かったからな。自分で言うのもなんだけど、同年代に比べて進んでるから。お前も見た目よりも大人びてたから、てっきり真名は知ってるものだと。」

…”真名”か。

「話を戻すぞ。俺は医者王になって全ての人を救う!そんな誓いを込めて真名をつけた!俺の真名は”命刻”この世に命を刻む者だ!この真名をお前に託す!だから俺を見ていてくれ。」

「命刻か。…いい真名だ。分かった。お前が医者王に本当になれるのかしっかり見といてやる。さぼんなよ。それと、俺の真名をお前に教えてやる。」

「!!いいのか?というか真名のことは知らないってさっき言っていたが…こんなにすぐに決めてしまっていいのか?」

「いいよ。俺の生き方は決まってる。俺の真名は”義人”だ。俺は、義に生きる。」





(あとがき)

第二話終了です。主人公の真名をやっと出せた…。会話文が多く、内容も薄かった気もします。今後の課題でしょうか?
華佗や扁鵲師匠に関しては多大なオリジナル設定を炸裂させています。彼らについてはこれからも多くのオリ設定が出てきますが、ご了承ください。
もう少ししたら Ham project (光の/当たらないあの娘に/もっと愛を 略してHam)を発動したいと思います。今しばらくお待ちを…

2010年7月18日投稿

(追記)
2010年11月15日改訂。
読みやすくするため無意味な改行を無くしました。
また、ひらがな表記になっていた一部語句を漢字に変更。作者の変換し忘れです。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第三話(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:16f4d508
Date: 2010/11/27 16:13
side 何進

華佗との言い争いから数日たった現在、俺と華佗そして扁鵲さんは洛陽へ向かっている最中だ。

あの言い争いのあとも数日は宛にいた。扁鵲さんや華佗の頑張りもあり宛で猛威を振るっていた疫病も収束。町もだんだん活気を取り戻し、人々に笑顔が戻ってきた。一時期は死にかけていた俺も驚異的な早さで体調を回復し、今では病気にかかる前より遥かに元気だ。…まぁこれには理由があるのだが。

ともかく、元気になった俺は最初の予定どおり洛陽へ向かうことにした。特に行き先を決めていなかったらしい華佗達も共に洛陽へ向かうことになった。




~白き馬は義に従う~第三話

side 何進

「話しておきたいことがあるのじゃが、ちょいといいかの?」

ある日、いつものようにその日の旅を終え、とある町に泊まっていた時のこと。町民の診療から宿に戻ってきた扁鵲さんが珍しく言いにくそうに俺に話しかけてきた。ちなみに華佗は隣の部屋で何かを叫びながら修行しているらしい。あいかわらずうるさい奴だ…別にいいけど。

「?別にかまいませんが…どうしました?」

「いやの、お主の体のことについてなのじゃが…。ちょいとこちらの手違いでの、困った事になってきてるんじゃ。」

「……は?え?病気は治ったんじゃ!?え?何、俺死ぬの?」

「いや、確かに病気は治っとる。それは心配せんでいい。むしろ元気になりすぎてきておるというか……」

「??全く話が見えないのですが……とにかく話してくれませんか?」

「うむ。その前にお主は”気”というものを知っておるか?」

「いえ、全く。扁鵲さん達に会うまでは存在すら知りませんでしたよ。」

扁鵲さん曰く、”気”とは誰もが持っているもので、肉体にも精神にも作用する特殊なエネルギーらしい。”気”は体の各所に存在する丹田から生み出される。この”気”を用いて医療行為に及ぶのが扁鵲さん達のスタイルのようだ。ところがこの”気”だが非常に扱いづらいものであり、またそもそも普通の人達はごく少量しか持っていないとのこと。一般人は丹田が開いておらず、”気”が練れないのだそうだ。天分の才か、相当の努力が無いと”気”は練れず使いこなせない。

さらにこの”気”だが、一般的に女性の方が扱いが上手く、丹田が開いてる事が多いとのこと。そのためにこの世界においては圧倒的な武力を示す者は女性に多いらしい。…なるほどなぁ。呂布なんかはきっと全ての丹田が開いてるに違いない。そんでもって、この世界では女性が強いのが当たり前なので”気”が注目されることもないんだとさ。女性の武将達も無意識に”気”を使っているらしいしな。

それはともかく、なんでそんな話を俺にしたんだ?

「”気”のことは分かりましたけど、それと俺に何か関係が?自分で言うのもなんですが、俺は肉体的には確実に普通人ですよ?」

「それがの、こちらの手違いでお主の丹田が開いてしまったのじゃ。」

俺、強化フラグきた?!

「へぇ?今までの話からするといい事なのでは?俺も気が使えるようになるってことなのでは?」

「うむ。まぁ確かに使えるようにはなる。じゃが今のままでは”気”の力にお主の肉体が耐えられず、内側から死んで行くじゃろうな……。もともとお主は、自身でも言っておった通り肉体的には平凡じゃ。丹田は一つも開いとらんかったしの。じゃが先日、儂がお主を治療した際に”気”を多く流し込みすぎたようでお主の丹田を無理矢理開かせてしまったようなのじゃ。ここ数日お主の気の流れを観察しておったのじゃが、確実に以前よりも多くなっておる。本当にすまんことをした……」

強化フラグと死亡フラグは表裏一体ってか!?

「……”今のままでは”って言ってたよな?死なないで済む方法はあるんだろ?教えてくださいよ。俺は死にたくないですよ。」

「うむ。言うのは簡単なんじゃがの。要するに鍛えればいいんじゃ、体を。”気”に耐えられるように。それと”気”の制御も覚えられたら完璧じゃな。じゃが制御の方は本当に難しくての。才が必要じゃ。…おそらくお主にその才は無さそうじゃから、結局体を鍛えるしか無さそうなんじゃが……どうする?」

「いや、どうするって聞かれても、死にたくなかったら鍛えるしかないんじゃないですか?責任もって鍛えてくださいよ。」

「まぁ、そうじゃよな。……本当に辛い修行になるが、儂が責任をもって鍛えてやるぞ。本当に申し訳ないの。」

「もういいですよ。どっちみちあなたに助けられてなかったら俺は死んでたんだし。それより具体的にはどうすればいいんですか?」

「とりあえずはこのまま洛陽に向かう。お主も家族に会わねばならんのじゃろう?幸いお主の”気”の流れはまだまだ微弱じゃ。半年ほどじゃったら何もせんでも大丈夫じゃろう。お主の用事がすんだら我らが教団の本拠地”鶴鳴山・泰聖殿”へ向かい、そこでお主の修行を始める。」

………何かえらいことになってきたな(汗)



side 何進

”気”についてのあれこれを聞いてから数日たった。俺の体の事を聞いた華佗によって扁鵲さんはボコボコにされていたがそれはさておき。俺の命的にもそこまで急ぎの旅ではないのでまだ洛陽には着いていない。道中でいろんな町に立ち寄りながら扁鵲さん達は多くの人々を治療していってた。

俺も”気”を使えると聞いてから何となく考えていたことがある。それは、俺も扁鵲さん達のように気を使って人々を助ける事ができるんじゃないかということだ。

この世界に生まれて初めて旅をしているわけだが、世の中の状況は思っていた以上にひどかったのだ。おれが住んでいた宛という町は裕福ではなかったが、役人がまともだったおかげで、みんなそれなりに幸せに暮らしていた。それが当たり前だと思っていた。

ところが、世界はそんなに甘くはなかった。旅をして立ち寄る多くの町では人々が重税に苦しみ、飢えや病に苦しんでいた。何回か見かけた役人やあるいは兵士達は腐っていた。

そんな世の中で扁鵲さんや華佗は多くの人たちを救っていた。俺もそれを手伝いたいと思うのも自然な流れだろう?

「話があるんですが、いいですか?」

とある夜、俺は扁鵲さんに話す事にした。

「なんじゃ、急にあらたまって?」

「聞いてもらいたいことがあるんですが、いいですか?」

「かまわんぞ?いうてみぃ。」

「俺も”気”を使えるようになるんですよね?」

「ん?そうじゃな、ちゃんと修行すればの。」

「なら、あなた達のお手伝いを俺にもさせてくれませんか?俺も、人を助けたい。その力があるなら、役に立てたいんです。扁鵲さん達が人々を治療する姿を見て、俺にもできることがあるならって。だめですか?」

俺がそういうと扁鵲さんは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに苦虫を噛み潰したような顔になった。…なんでだ?

「お主がそういってくれることはとても嬉しい。……じゃが、残念ながらお主には向いておらん。能力的にの。」

扁鵲さんがいうには俺が医療に向いていないのには大きく2つの理由があるらしい。1つは俺の開いた丹田の種類。俺はお腹の調子が悪かった事から、扁鵲さんの鍼を腹部に刺された。そのため、”下丹田”という丹田がひらいた。だが、医療に必要なのは眉間に存在する”上丹田”というものらしい。この”上丹田”が開いてはじめて病魔や気の流れが見えるようになるため、医療行為には必須とのこと。さらに、俺が自然に”気”を使えるようになった訳じゃないことも問題らしい。医療行為は当然、繊細に”気”を扱わなければならないのだが、修行を重ねても俺には恐らくそれができないであろうとのこと。

以上のことから俺には医療は向いてないらしい……

「そう、ですか……。それは残念です。少しひとりにしてもらえますか…?」



side 華佗

…何進は意気消沈して部屋をでていった。またこのパターンかよ!!

「師匠!もう少し言い方があるんじゃないですか?!せっかくの好意だったのに!彼は本気でしたよ?!」

「じゃが、儂の言ったこともわかるじゃろう?変に期待を持たせるのも酷な話じゃ。人には向き不向きがあるのは変えようの無い事実じゃからの……」

それは確かにそうだけど……!

「何進のところへいってきます!」



side 何進

宿のそばの広場でボーっと夜空を見上げていたら後ろから声がした。…やっぱ来たか。

「隣いいか?」

「別にいいぜ。」

「ありがとう。………お前が俺や師匠の事をあんな風に見てくれていたのはすごく嬉しい。できれば、俺もお前と一緒に世の中のy」

「なぁ、華佗。お前は才能があったのか?」

「……あぁ。そうだ。師匠と出会う前から”気”が見えた。………師匠が言うには俺は医の神に愛されてるって。」

……そっか。やはり才能、か。

「なぁ、世の中ってやっぱ才能なのかな?」

「………才能は確かに必要だと思う。だけど、それ以上に努力も必要だよ。それに、人はだれしも才能を持ってる。その才能が自分のしたいことと一致してるかどうかは別として。」

「確かに、そうかもな。……なぁ、俺が”気”を使えるようになるのは確かなんだよな?」

「ん?あぁそれは確かだ。俺の目にもお前の”気”の流れが日々、強くなってることがわかる。」

「ならさ、この俺の”気”って何に向いてるかわかる?」

「何進の開いた”下丹田”は普通は武術に有効だな。”気”の量が他の丹田に比べて多く、精密な制御はできない分、発勁なんかには向いてる。」

………武術。”矛を止める術”、か。そう遠くない将来に戦乱の世になるのは確実だ。それに、俺の名前は”何進”。まだ、確証はないけど、俺は多分、流れに身を任せたら、大将軍になる。そう、大将軍になるんだ。史実では全くその力を生かせなかったみたいだけど、俺は!!

「華佗。いや。命刻。」

「!なんだよ急に真名で呼んだりしてさ。」

「頼みたい事があるんだ。」

「なんかマジみたいだな。いいぜ、言ってみな義人。」

「そう遠くない内に戦乱の世の中になると思う。世の中みんなそう感じてるだろう?」

「……まぁそうだな。世の中は荒れるだろうな。小規模な農民反乱なんかの噂も最近は時々聞くしな。」

「俺はその戦乱の世を武力をもって終わらせる。」

「はぁ?!何いってるんだよ?本気か?」

「本気だよ。だから俺は強くなる。誰よりも!………そして多分、誰よりも多くの人間を殺す。」

「!!!」

「だからさ。命刻。お前には、俺が殺す以上の人たちを救ってほしいんだ。」

「………医者に向かって、人を殺すなんていい度胸してんな。………だけど、俺も世の中がキレイゴトだけで済むとも思ってない。いいぜ、約束しよう。おれはこの真名にかけて、お前が殺す以上の人を助けてみせよう!そしておまえも誓え!兵以外の、罪のない人々は絶対に殺さないし、殺させないと!」

「義人の名にかけて誓おう。俺が殺すのは、平和のためだけだ。」




(あとがき)

ご指摘いただいた地の文を増やしてみました。どうでしょう?
内容的には何進の強化フラグ、決意表明といったところでしょうか。

そんでもって恋姫世界の女性キャラが強い理由に関して独自考察をいれてみました。原作で華佗や楽進が”気”を用いていたのでそこから考えました。以下に簡単な説明を補足で。

丹田は全部で5つあります。上から順に、頭頂部の”頂丹田”、眉間の”上丹田”、心臓の下の”中丹田”、下腹部の”下丹田”、足の裏の”底丹田”です。
それぞれの丹田は”気”を生み出すだけでなく、独自の役割があります。これは本編中で書くと思うのでここでは割愛します。
この恋姫世界においては丹田がいくつ開いているかが武力の大きな指標のひとつになります。
例えば、本編でも書きましたが、原作最強の呂布は5つひらいてます。
ほかに例を挙げると、関羽、夏候惇、孫策などは4。趙雲、張遼、黄蓋などは3です。………貂蝉は5で。一般の男性兵は0です。

ただし丹田の数はあくまで武力の一つの指標にすぎず、相性などもありますので、それだけでは絶対的な差にはなり得ません。

2010年7月18日投稿

(追記)
2010年11月15日改訂。
(あとがき)より一部文言を削除しました。

(追記2)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第四話(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:16f4d508
Date: 2010/11/18 20:29
side ???

私がこの”外史”を観測しはじめてからもうずいぶんと経った。だが長かった雌伏の時も、もう終わる。戦乱の世に向けて時代は動き出している。時代を彩るであろう多くの英傑達も既に産まれ、己が目指す先に向かって動き出している。今日もまた英雄の資格を持つ者が一人、この洛陽にたどり着いたみたいだし。この子は特に面白い雰囲気を持ってるわね。……”外史”のさらに外からきた?調べてみる必要があるわね。

”ご主人様”が来るまであと約10年、か。



~白き馬は義に従う~第四話

side 何進

洛陽についた。
言わずと知れた後漢王朝の都だ。西暦100~200年代においては間違いなく世界でも五指に入る都市だろう。現代人の俺から見てもかなり立派な都市だと思う。て言うかすげぇ。現代で言う京都市のパワーアップ版っていったところだろうか?というか京都の都市造成が中国の都を参考にしていたから当然なんだろうけどな。

日本の都との最大の違いは皇帝がいる朝廷の位置と城壁の有無か?。日本においては平城京以降は朝廷は都市の北端に置かれ、都市を壁で囲うことも無いが、中国では都市の中央に朝廷が存在しその周囲を城壁と町が取り囲んでいる。城壁は大きいモノで2つあり、都市中心部の朝廷をまもる城壁、都市の最外区画を守る城壁に分けられる。都市の中央に行けば行く程、身分のいい者やお金持ちが住み、最外城壁の付近や或は城壁の外に住む者は卑しいとされている身分の者だったり流民だったりする。さらに人口も数十万とも数百万ともいわれるとにかく巨大な城塞都市、そして天子がおわす場所、それが洛陽だ。

宛から洛陽までは約200キロある。俺たちは約一ヶ月かけて、扁鵲さんや華佗は道中で多くの人々を治療しながら、洛陽へたどり着いた。

「武力をもって戦乱を終わらせる。」
そう誓った俺はあの日、華佗と話した後に扁鵲さんにも話をした。扁鵲さんはあまりいい顔をしなかったが、それでも俺が本気で決めた道だって分かってくれると、俺がその誓いを守れるように扁鵲さんもまた本気で俺を鍛える事を約束してくれた。

その日以来、俺は成長を阻害しないギリギリのラインでの筋トレや、”気”による体の歪みの矯正を受けたり、道中で商人から購入した軍略の指南書を読みながら旅を続けた。
さらにこちらの世界に来てから最初のほうで諦めた”現代知識”の活用についても本気で考えるようにした。この世界は古代中国を参考にしたあくまで”オリジナル”の世界。史実のこの時代では不可能だった技術も再現できる可能性はある。

そんなこんなで割と忙しい日々を送っていた。

「ここが洛陽か……マジすごいな。」

「洛陽は初めてなのか?」

「あぁ、というか宛から出たことが無かったからな。華佗はどうなんだ?」

「俺は2回来た事がある。今日は遅いからさっさと宿に行こうぜ!洛陽には師匠の友人がいるから、そこにいつも泊まらせてもらうんだ。ただし、その人ちょっとすげぇから。」

ニヤッと嫌な笑みを残して華佗は進みはじめた。何だよ、ちょっとすげぇ人って。嫌な予感しかしないんですけど。

俺たちは立派な城門をくぐり、洛陽の町に入って行った。
そこには夜だというのに多くの人がおり、飯屋で晩飯を食ってたり、広場で歌いながら騒いでいたりした。本屋なんかもチラチラみかける。ここは本当に西暦200年前後なのかって思う程の都市の水準なんですが?

俺が周りを物珍しそうにキョロキョロしながら大通りを歩いてると、急に通りの人波が割れた。?何だ?割れた人波の先を見てみるとナニカがもの凄い勢いでこちらへ近づいて来ていた。は?なんだあれ?俺があっけにとられていると、

「あんのバカもんが。もう少し普通に出迎えられんのかい。」

「師匠!やってしまっていいですか!主に俺の貞操を守るために!!」

「かまわんぞ。どうせあいつは死にゃあせん。」

状況に全くついて行けない俺をおいて扁鵲さんと華佗が話をすすめている。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

流派、六不治は!

患者の鍼よ!

全身!

遍く!

病魔退散!

俺に、近づくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「華ぁぁぁ佗ぁぁぁぁちゅわぁぁぁぁん!!!!!!!!!会いたかったわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!! ぷげら! んもう、いけずなんだから☆」

「この化物が!攻撃用の気の籠った鍼くらって無傷かよ!!!ていうかこっちくんな!!」

華佗と、謎の筋肉ダルマさんは追いかけっこを始めた。逃げる華佗の表情はマジである。確かに、あんなのに追いかけられたら怖い。マジ半端無く怖い。

「あの、扁鵲さん?何ですか、あの人?」

「ふぅ。儂の友人の貂蝉という。洛陽で踊り子をやっておる。」

あれが、貂蝉か。笑い的な意味で原作では割と好きなキャラだったけど、これは……。リアルにいたらかなりきついな。

「扁鵲さん?友人は選んだ方がいいんじゃないかと思うのですが?」

「まぁそういうな。ああ見えて、なかなか立派な奴じゃよ?人間的にも、踊り子としても」

まぁ人間的に立派だって言うのは分かるけど、踊り子としても?

「あいつの本気の演舞は素晴らしいぞ。もっとも、めったに見られないがの。」

へぇ。意外だな。というかそろそろ止めないと華佗が捕まるぞ?あ、つかまった。

「うをぉぉぉぉぉっ!!!離れろ!!いや、ダメだって!!本当に離してくれ!!!師匠助けてくれぇぇぇぇ!!!!」

「貂蝉、離してやってくれ。本気でいやがっておる(汗)」

「もぅ。しょうがないわね。華佗ちゃん、また遊びましょうね☆ さて扁鵲、久しぶりね。今回はどうしたのかしら?暫く洛陽にくる事は無いと思っていたのだけど?」

「うむ。予定が変わっての。この子の用事での」

「扁鵲、この子”気”が。」

「分かっておる。こちらの手違いじゃ。儂が責任を持って面倒を見る。 おぉ、そういえば紹介が遅れたの。 この少年は何進という。」

「初めまして。何進といいます。よろしくお願いします。」

「うふ、いい子ね。私は貂蝉よ☆よろしくね、何進ちゃん。」

お互いの紹介を終えた俺たちは貂蝉さんの家に案内された。
貂蝉さんは貧民街の元締めみたいな人らしく、なかなか大きな家に住んでいた。俺は晩飯をいただきながら、洛陽にきた経緯と、目的を話した。父さんが言っていた俺の”姉”とやらの家も貂蝉さんが場所を調べてくれる事になった。貂蝉さん曰く、明日には分かるからとのこと。これはマジ助かる。家名とかしか聞いてなかったから場所が分かんなかったんだよな。

晩飯を食い終わると各々したい事をはじめた。俺と華佗は修行。扁鵲さんと貂蝉さんはふたりで久しぶりの再会を祝いながらお酒を飲みはじめた。
俺は貂蝉さんの家をでて、裏庭で夜の筋トレと柔軟を始めた。一通り終えて、休憩してると視線を感じた。

「精がでるわね☆頑張る男の子は好きよ♬」

「……貂蝉さんか。目指してる場所があるからさ。それに俺は凡人みたいだしね。ところで何か用ですか?」

「もう、つれないのねぇ。まぁいいわ。真面目な話があるのだけれどいいかしら?」

きたか。

「いいですよ。で、何です?」

「”外史”って知ってるかしら?」

「いきなりですね。まぁ、あなたに隠してもしょうがないんで、知ってますが。」

「素直な子は好きよ☆もう一つ聞くけど、あなたはこの世界を知ってる?」

「えぇ。知ってます。」

「やはり、”外史”の外の者か……。珍しいわね。どこでおかしくなったのかしら? それはともかく、あなたにひとつ忠告があるわ。」

「何ですか?」

「あくまでこの外史の主人公は”北郷一刀”ということよ。」

まぁたキツい事言われそうだな。

「それで?」

「さらにあなたには良くない”相”がでてるわ。……悪い事は言わないから、静かに暮らしてなさい。」

よくもまぁ勝手なことをペラペラと。

「あのさ。貂蝉さん。俺はさ、今、この世界に生きてるんだ。物語の世界じゃないんだよ。世界の実情をみて、そして俺には力がある。確かにあなたの言う通り、主人公は”北郷一刀”かもしれない。でも、それでも、譲れないものってあるだろう?それに、確かに主人公じゃないかもしれないけどさ、登場人物なんだ。主人公になれないんだったら、最高の引き立て役になってやるさ。どんな手段でもいいから、俺は俺のやり方でこの世界を平和にしたいんだ!」

俺は想いの丈を貂蝉さんにぶつけた。俺の故郷では多くの人が死んだ。父さんも母さんも死んだ。旅の途中で色んな人が苦しんでいた。これは全部、俺自身の経験なんだ。”現実”なんだよ!だから、俺は目をそらす訳にはいかない!

「ふふっ。いい目だわ。ゾクゾクするわよ、あなた。いいわ、そこまでの覚悟があるのなら私は何も言わない。頑張りなさい。私ができることなら手伝ってあげるから☆あ、もちろん”ご主人様”が優先だけどね♬」

なんだ、これ?ひょっとして、

「俺のこと試しました?」

「しょうがないじゃない。私はあなたのことを知らないんだもの。それに、遊びでこの世界に関わられても迷惑だしね。この世界は”現実”なのだから。」

「そうですね。わかってます。」

「みたいね。悪かったわ。ごめんなさい。けど、最後にひとつ。あなたに良くない”相”が出てるって言うのは本当。気をつけなさいね。」

そう言い残して貂蝉さんは家の中に戻っていった。しかしまぁ、疲れた。それに良くない”相”ってなんだよ。死亡フラグかよ。あぁ、もぅめんどくせぇ…





(あとがき)

貂蝉登場☆ってかんじでした。何進の決意はこれをもってほぼ完成です。あとはひたすら強化して、戦乱を待つってとこですかね。

ご指摘いただきました”!”、”…”、及び視点変更ですが、自分では全く気づいていませんでした。読み返してみると確かに頻繁に使ってます。これは気をつけたいと思います。ご指摘、本当にありがとうございました。
今回の第四話を作るにあたっては上の3点を注意してみたつもりなのですが、いかがでしょうか。感想おまちしています。

2010年7月19日投稿

(追記)
2010年11月15日改訂。
読みやすくするため無意味な改行を一部で無くしました。
また逆に、同様の理由で改行を一部で増やしました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第五話(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:16f4d508
Date: 2010/11/18 20:29
side ???

今日もまた代わり映えしない一日が始まると思っていた。
いつものように朝食を終え、舞の稽古へ向かおうとしたら何やら屋敷の表が騒がしい。ちょうど表の方から小走りでやってきた侍女長に話を聞いてみる事に。

「何かあったの?」

「あぁ!お嬢様!ちょうどよいところに!ただいま屋敷の表に何真様の息子を名乗る少年が来ております!いかがいたしましょう?!」

なんですって!?何真お父様の息子?でも、父様は10年前にこの家からいなくなってしまったはず。息子なんて聞いた事が無いわ。異母弟ってことになるのかしら?というよりも、まずその子の素性を確かめないと。タチの悪い悪戯だとしたら洒落じゃ済まないわね。

「このこと、お母様には?」

「まだ誰も。私がお伝えする手はずになっております。」

「そう。なら、母様には後でいいわ。お体に障ると良くないしね。ねぇ、あなたはその少年のことどう思う?」

「はい、恐らく、本当に何真様の息子かと。だから慌てているのですが…。風貌は何真様によく似ておられます。歳の割にしっかりしていて、利発的な少年です。何真様についていくつか質問してみましたがほとんど正確に答えました。さらに、何真様から教育をしっかり受けていたようで、論語や孟子もほぼ完璧でした。…何真様が間違えて覚えていらっしゃった箇所を除いてです。」

これはもう、ほぼ決まりかしら?

「そう。なら、一回会ってみましょうか。」

本当に突然ね。だけど、ついてるわ。



~白き馬は義に従う~第五話

side 何進

突然だが、俺の目の前には立派なお屋敷がある。洛陽の中心部に位置する高級住宅街の一角にある、とあるお屋敷の前にいる訳なのだが。貂蝉さん曰く、ここに俺の姉とやらがいるらしいのだが。父さん?あなたは下級官僚だったのでは?え、下級官僚でもこんな豪邸に住めるのか?というかむしろ、父さん、あなたは将来をめっちゃ嘱望されてるような”出世することが確定している”下級官僚だったのでは?

俺がその家のあまりの立派さに惚けていると、門の通用門が開き、中から人が出て来た。お手伝いさんっぽいその人は手に箒を持っていた。朝の掃除か?その人はすぐに俺に気づいたようで話しかけて来た。

「おはよう、ボク?どうしたのかな?当家に何かごようかしら?」

「あっ、おはようございます。あの、こちらの家は”何”家でよろしいでしょうか?」

「そうよ。本当に用事があるみたいね。誰かのお遣いかしら?」

「いぇ、僕一人です。で、もう一つ聞きたいのですが、この家に10年程前に”何真”という男はいましたか?」

俺がそういうと、今までにこやかに対応してくれていたお手伝いさんの表情が変わった。これは、当たり、だな。

「えぇ、確かにそのような名前の方がいたとは聞いた事がありますが。それで、何のご用件ですか?」

「申し遅れました、何真の息子の進といいます。僕の姉さんに会わせてもらえませんか?」

おぉ、ポカーンって顔は久々に見たな。



軽くパニック状態に陥ったお手伝いさんが家へ駆け込んでから数分後、そのお手伝いさんの上司と思われる人が出て来た。門前で立ち話も何なのでということで家の内へ通された。外から見ても立派な家だったけど、中も立派だな。ただ、どことなく活気が足りないような気もするが、はてさて。

とある部屋へ通されてからは、お手伝いさん上司(仮)に質問攻めにあっていた。俺の名前、住んでいた所、どうして今の時期になって洛陽にきたのか、父さんの風貌、雰囲気、はたまた論語や孟子の暗唱など。…最後のはなんだったんだろうな?
暫く続いた質問が終わると、そのお手伝いさん上司(仮)は”しばらくお待ちください”といって部屋から出て行った。

数分後、その人は、一人の少女を連れて戻って来た。


「はじめまして、何進さん。私は当家の当主代理を務めている何思よ。よろしくね。」

多分、俺の姉であろう人は、ツリ目のかなりキツい性格をしてそうな10代前半位の少女だった。そんでもってかなり可愛い。キレイ系っていったほうがいいかも。それはともかく。

「はじめまして。何進といいます。この度は急に押し掛けてしまってすいません。」

「かまわないわ。なかなか面白いことになってるしね。ねぇ、それよりも、あなたって私の異母弟ってことになるのかしら?」

「父さんからはそう聞いてます。」

「そう。で、本題だけど、当家に何のようかしら?何かあるから来たのでしょう?」

「はい。実はお願いがあってきました。僕をこの家の養子にしていただけませんか?ご存知かもしれませんが、最近、洛陽の南の宛と言う町で疫病が発生しました。その疫病で僕は身寄りを全て失いました。死の間際に父さんが、洛陽の何家を頼れって言ったので…。」

「何真お父様も死んだの?」

「はい。」

俺がそう応えると、何思さんは黙ってしまった。ショックだったんだろうか?しばらくの間、部屋を静寂が支配した。

「何進?」

「はい。」

「私のことはこれから姉さんと呼びなさい。」

「いいんですか?そんなにすぐに決めてしまっても?僕が言うのも何ですが。」

「かまわないわ。あなたは嘘をついてなさそうだし、父様にも似ているし。それに父様の最期の望みだったのでしょう?」

「そうですが。」

「じゃあ、決まり。よろしくね、何進?」

そう言って何思さん、いや姉さんは俺に微笑みかけた。こんなにすんなり決まるとは、ちょっと意外だな。というか、確実に何か裏がある気がする。今回は何のフラグがたったんだよ?(涙)



side 何思

私に弟ができた。やっぱり人生って何があるかわからないわね。あまりにすんなり何進のことを弟だと認めてしまったせいか、彼は若干戸惑っているみたい。失敗したわね。これならもっと疑えば良かったかしら?でも、実際に彼は父様のことを知っているみたいだし。背後関係はこれから調べるとしても、多分大丈夫でしょう。ま、そこは女の勘なんだけど。

とにかく、何進と名乗る少年が賢いのは一連の会話からして確実。それに彼はまだ若いし、何よりも今現在の当家に足りていない男だ。こんなに使えそうなモノを離す訳にはいかない。

約10年前の話。私の父様は、宦官同士の政争に巻き込まれ、無実の罪を着せられて都から追放された。父様を深く愛していた母様は体調を崩した。母様もこの家の使用人達も宦官を憎悪している。そんな家で育った私も、物心ついたころから宦官のことが大嫌いだった。

母様は、父様を奪った宦官どもに何としても復讐したい。体調を崩しながらもいつもそのことだけを考えていたらしい。そしてあるとき閃いたようだ。即ち、私が後宮にはいり、帝の寵愛をうけて皇后となり、母様が外戚として権力を握り、宦官どもを一人残らず排除するということを。

それからというものの、私は帝に気に入られるような女になるべく、稽古ごとに精を出し、私を後宮に推挙してくれる人を捜し、父様の旧知の文官達に手を回し、容姿に磨きをかけていた。つまらない単調な日々だったけれど目標があれば、人間なんとかなるものみたい。

全てが順調にいっていたが、足りないものがあった。それが、信用できる身内と、いざ外戚として私達が権力を握った際に軍部を掌握する人材。私も母も軍事のことはわからない。学ぶような時間もないしね。かといってどこの馬の骨とも知らない奴に軍部を渡したりはできないし。父様の繋がりで文官には知り合いもそこそこいるけれど、武官はほとんど知らないし。

そんな風に困っていたときに現れたのが何進。本当に信用できるかどうかはまだわからないけど、とりあえず身内である点がまず好評価。頭も悪くなさそうだし、それにどうやら体を鍛えている雰囲気もある。武官になりたいのならますます好評価。ただ、父様が知らない女に産ませた子っていうのが心配ね。母様がどう反応するか分からない。嫉妬に狂った女はなにするか分からないとよく言うもの。……実際に母様は何かしそうで怖い。母様に何進を紹介するのは暫く先にしましょうか。

とにかく、何進は父様のことも好きだったみたいだし、敵討ちだと言えば協力してくれる可能性はかなり高いと思う。
いずれにせよ、まだ暫くは私も後宮にはいらないから信頼関係を深める時間はあるわ。

逃がさないわよ、何進。



side 何進

絶対なんかあくどい事考えてるよ。何てったって未来は悪名高き何皇后。容姿もいいし、これはもうまさしく”傾国の美女”クラスの女なんじゃない?

姉さんと初めて会った後にはすぐに正式な養子縁組を結んだ。これで俺も晴れて”何”家の一員というわけだ。名前は全く変わらないけどね。当主である義母様にも挨拶をしたかったのだが、今日は特に体調がよくないらしくまた日を改めてとのこと。うゎぁ…。これまたきなくせえ(汗)

諸々の手続きを終えた所で昼食を食べることになった。豪華絢爛ってわけでもないけど、まず一般庶民の家ではお目にかかれないような食事だ。そんな旨い食事を食べながら、俺はさっそく2つ目のお願いを姉さんにしてみることにした。先手必勝って言葉もあるしな。

「姉さん、ちょっといいかな?」

「なにかしら、何進?」

「頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

「とりあえず言ってみなさい?内容が分からないことには返事のしようがないわ。」

「それもそうだね。……養子にしてもらって何なんだけど、実は旅に出たいんだ。7年程。それで、できれば旅費を出してほしいかなぁ、なんて思ってたり。」

「……理由を聞かせてもらっていいかしら?」

「実は俺、今のままだと半年程で死ぬかもってお医者さんに言われてさ。”気”の流れがどうたらでよくないんだって。それで、死なないようにするには体を鍛えないといけないんだけど、洛陽は修行には向いてないみたいで、漢中まで行かないといけないんだ。」

美人はどんな顔してても美人ってのは嘘だな。俺の話を聞いた姉さんはあっけにとられた顔をして、微妙な顔をして、最後には怒りの表情に。

「何進?いくらなんでもそれは非常識すぎないかしら?養子になってすぐに旅費をもらってから旅に出たいなんて、それって詐欺だと疑われてもしょうがないと思わない?」

ごもっともな話だな。俺でもそう思う。でも実際に死にそうっていうのも事実だし。まぁこの家にあまりいたくないってのもあるけど。嫌な雰囲気だし、この家。



side 何思

流石に予想外ね。なに考えてるのかしらこの子は。賢そうな子供だと思ったのだけど、間違いだったかしら。仕方ないけど話を聞いてみましょうか。

「ふぅ。そのお医者さんっていうのはどんな方なのかしら?」

「扁鵲さんっていう人で、貂蝉さんの知り合いなんだ。あ、ちなみに俺は今、貂蝉さんの家に泊まらせてもらってるんだ。そういえば貂蝉さんってしってる?」

急になんて名前だしてくるのよ、この子は。この洛陽で貂蝉の名を知らない者はいない。表ではその奇抜な風貌にとぼけた性格、そして踊り子としての圧倒的な才能で知られている。
そして裏では、逆らってはいけないというか触れてはいけない人物として宮中まで知られている。特に悪事を働いているという訳でもないのだが、とにかくヤバい人物だと認識されているのだ。個人の”武”が圧倒的であり、人脈も意味不明なレベルで広く、そして人に好かれる才もある、とにかくやっかいな人物。
ただ救いがあるとすれば、すすんで表に出てくることはほとんどなく、まるで自分は傍観者だというような姿勢を崩さないことだ。そのため、触れないことが一番というのが裏での共通認識だ。私も可能な限り関わりたくない。

さらに扁鵲という名も聞いたことがある。なんでも流れの医者で奇妙な技を使いどんな病でも治してしまうという。

こんな名前出されたら、要求に応えるしかないじゃない。本当に貂蝉と知り合いなのか?なんて聞いて実際に連れて来られても困るし。触らぬ神に祟り無しよ。それにこの子が父様の子供だっていうのはほぼ確実なんだから。

もういいわ。この子はかなり賢い。だからこそ、こちらに取り込んでおきたい。変に搦め手使うよりも正面からいったほうがよさそうね。それにここで取り込んでおかないと、雲隠れとかされても面倒だし。逃がさない。

「何進、もういいわ。あなたは私が思っていた以上に賢い。それに腹の探り合いは疲れたわ。ここからは本音でいくけど、用意はできてるかしら?」

あら、呆気にとられちって。可愛い顔するじゃない。ふふ。

「先に言っておくわ。私は将来、皇后になる。そして宦官を一人残らず殺すわ。」

「はぁっ?!ちょ、姉さん、いきなり何を?」

「復讐よ、復讐。お父様が追放された理由は知ってるでしょう?だから私は宦官どもを殺すの。そのための皇后よ。で、何進。あなたに手伝ってほしいことがあるのよ。」

「え?は?」

「私が皇后になれたら我が”何”家は外戚として権力を得るわ。父様の知り合いとかを使えば文官は掌握できそうなの。宦官派の役人は粛正すればいいしね。問題は軍部なのよ。私の周りには軍部を掌握できそうな人材がいなかったの。つい先ほどまで。」

「……それが俺?」

やはり賢いわ、この子。もう冷静にこちらの話について来てる。

「そう。あなたよ、何進。あなたに軍部をあげるから私について来なさい。………父様の復讐に力を貸して。」



(あとがき)

何家の色々でした。

ちょっと展開が早すぎたかなぁとも思いますが、この辺りでグダグダするよりは、早く原作の時間軸に辿り着きたいというのがありまして。まだヒロインも書けてませんし。読者の皆様的にはどうなんでしょうか?
このあたりもちゃんとしっかり作り込んでほしいという感想が多ければ、そのようにしたいと思いますが。
感想お待ちしています。



”約束された出世の道(セシュウーン)”………すいません、思いつきです。ただ言ってみたかっただけです。ほんとごめんなさい。でも、アップしちゃうのさ☆

2010年7月20日投稿

(追記)
2010年11月15日改訂。
読みやすくするため改行を増やしました。
また、(あとがき)でとても削除したい部分が有りましたがそこはスルーの方向で脳内会議が決着しました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第六話・上(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:18
side 何進

世の中には何事にも適量というものがある。…ハズだ。
栄養を取りすぎたら太ってしまうし、取らなすぎたら死んでしまう。
甲子園球児たちの例で有名だが、スポーツでもオーバーワークが話題になる。
そんなわけで何事も適量が一番いい、ハズだ。

だが人間というモノはよくできていて、確かに「適量」を超えてしまうとマイナスの効果しか無いが、「限界」を超えると凄まじいプラスの効果がうまれてしまう。
ようするに俺が何を言いたいかというと、師匠の鍛錬が半端じゃないってことです☆



~白き馬は義に従う~第六話・上

side 何進

何思姉さんとの話し合いは有意義だった。
あそこまで深い話をするとは思ってなかったけど、俺の「戦乱を終わらせる」って目標には確実に近づけるし。姉さん達の動機や目的もわかったし、それに反対する理由も無い。
俺を手元に置いて利用しようって魂胆も、貂蝉さん達の名前を出したらあっさり諦めてくれた。…逆に貂蝉さんがすげぇよな。
ともかく、俺と姉さんはお互いwin-winの関係になれそうでよかったよ。

姉さんや何家の皆さんとの詳しい打ち合わせは一週間あまりつづいた。
その中で決まったことをいくつか。

まず、俺を含めた何家の第一目的。「宦官勢力の完全排除」。
そしてそれを達成するための条件として「何思の後宮入りと、皇帝からの寵愛を受け、外戚としての立場を得る」。これに関しては父さんの旧友達を中心にして、すでにおおよその準備は終わっているらしい。

さらに姉さんが権力を得た後にその基盤をしっかり作るために、文官に関しては父さんの旧友を取り立てること、そして武官では俺を中心として勢力をつくることがきまった。
ただし、ここで問題になるのが俺の実績のなさだ。父さんの友人達のグループは位は高くないとはいえ皆それなりの仕事をしており、さらに「清流」などとよばれクリーンなイメージで民衆にも人気があるらしい。そのため、彼らが昇進することに対しては大きな反発も生まれず朝廷が機能不全になるとも思いにくい。

一方の俺だが、実績どころかいまだ碌に戦ったこともない人間である。というわけで俺の年齢も考慮され、何家の一連の計画は7年後に本格的にスタートすることとなった。基本的にこの世界では14歳前後が成人とみなされるからだ。扁鵲さんに目安として教えてもらっていた修業期間の7年にもピッタリ一致するし。俺は14歳になり洛陽に戻って来てから、近衛で実績を積みつつ、姉さん等の力を借りつつ、武官としての頂点を目指す事になる。

以上をまとめると7年後までに俺がやる事は「強くなる」ことだけである。何とも(言うだけなら)簡単な話だ。
その他の下地作りは何家が全てやってくれるらしい。頼もしい限りですな。

やることができると時間が経つのも早いもので、俺は少しでも早く強くなるために早速、扁鵲さん達の本拠地があるという漢中へ向かうことになった。

そういえば、いい忘れていたが俺に部下?ができた。
姉さんが「人の上に立つことに早くから慣れておきなさい」とかいってつれてきた。
名前は「朱儁」というらしい。……何進の部下で朱儁ねぇ。なるほど。
彼は何家の使用人の子供だったが、両親をなくしてしまったらしい。朱儁の両親の働きに感謝していた何家の計らいで身寄りをなくした後は、何家が彼の面倒を見ていた。
そんな朱儁であるが今回の俺の登場により、年齢が同じこともあって俺の付き人というか部下のようなポジションになった。
彼自身は、何家へ恩返しができると喜んで了解してくれたらしい。
今回の俺の漢中行きにも当然ついてくるとのこと。これは、部下っていうかお目付役かな?まぁいいけどね。


side 朱儁

私が何進様に仕えるようになったのは突然のことだった。

いつものように屋敷の手入れを終えて、自分の部屋で読書をしていると侍女長に呼ばれた。なにやら急ぎの用らしい。
両親を亡くした後、実の母のように私を育ててくれた侍女長であるが、そんな彼女がいつにもない様子で慌てている。

「侍女長、何かあったのですか?」

「何真様の息子を名乗る子供が数日前からこの屋敷の滞在しているのは知っていますね?」

「はい。使用人の間ではその話題で持ち切りですから。直接お会いした事はありませんが。」

「そうですか…。その子供ですが、正式に何家の長男として養子になりました。これからは私達が仕えるべき主の一人になります。よいですか?」

「えぇ、それは別にかまいませんがなぜ私にそのような話を直接?使用人一同の報告会のときでも構わないのでは?…裏の話ですか?」

「そういうことです。」

話はかわるが私の両親は何家の裏を担当していた。基本的には情報収集を行ういわゆる「草」。暗殺や破壊活動等の非合法活動も行っていたらしい。
その結果として二人共に任務中に死んでしまったようだが。
そんな二人を親に持つ私も当然そのような教育を受けていた。来るべき宦官の排除には私も裏方として参加する予定なのだが…

「では今回の任務は何でしょうか?」

「あなたには何進様専属の従者になっていただきます。どのような手段を使っても構いません。彼を絶対に死なせてはいけません。後ほど何思お嬢様から直接お話があるはずです。」

その言葉を聞いた時、私の心は歓喜で埋め尽くされた。
一族の長男の専属護衛。これほどの名誉なことがあるだろうか。
たとえ彼がどのような素性の人間であろうと、現在の何家にとって重要な人間であることにはかわりない。
そのような立場の方の護衛を任される。それだけ信頼されているという事実が嬉しい。
ようやく何家へ恩返しをできる時が来た。

「この命に代えても、お守りいたします。」

さらに詳しい話を聞くとどうやら私にはお目付役的な働きも期待されているらしい。
何進様が洛陽を離れる際もお供し、定期的に彼の様子を洛陽の何家へ報告する事が義務づけられた。
何家が何進様に期待する役割の話もきいた。
何家のためにもこの任務、必ず果たしてみせる。



side 何進

洛陽での紆余曲折を経て現在は漢中への旅の途中。扁鵲さんによるとそろそろ目的地に着くらしい。
俺、扁鵲さん、華佗の三人に朱儁を加えた一行で洛陽から長安等の都市を経由し医療行為をしながら旅を続けた。

最初はどこか他人行儀だった朱儁ともこの三ヶ月でだいぶ打ち解けた。
「ご主人様」って呼び方だけは変えられなかったが。というか朱儁、俺がその呼び方を嫌がってるのをわかって言ってるだろ。
そして朱儁は驚くほどハイスペックだった。
俺の護衛を任されているだけあって、野党に襲われたときも活躍してたし(俺もちょっとは役にたったよ、ホントだよ)、料理等の家事スキルも素晴らしかった。
従者に圧倒されっぱなしの主人ってのも格好悪いから頑張らないとな。

それは置いといて、やはり今回の旅でも官の腐敗ぶりには驚かされた。
こんな世の中じゃダメだ。やはり、はやく力が欲しい。

そして今、俺たちは山の中を歩いている。
既に街道から離れ、さらに山奥の人里からも離れ、獣道も無くなり2日たつ。
本当にこの道であってんのかよ(汗)

「扁鵲さん、この道であってるんですか?」

「大丈夫じゃよ。そろそろ着くぞい。」

「あぁ、こっちであってるぜ!俺もちゃんと確認してたしな!」

「我慢弱いご主人様ですね。そんなんだからモテないんですよw」

「扁鵲さん、華佗ありがと。そして朱儁君?どうしていつも君は一言多いかな?」

「これもご主人様のことを思ってです。」

「余計なお世話だっつの。ていうかお前、性格変わってない?」

「人は環境に対応する生き物なのですよ、ご主人様。それにご主人様ごときが私の何を知ってるといううんですか?」

「てめぇ、喧嘩売ってんのかコラ(怒)」

「私は勝てる喧嘩しか売らない主義なのですが?」

「ということはだ、俺には勝てるから喧嘩を売ってると?」

「…ふっ」

「ぶっとばす!」

俺と朱儁が殴り合いをしていると(実際には朱儁が一方的にぼこってる)遠くから扁鵲さんの声が。

「着いたぞぉーーぃ。早く来んか!」

「しょうがないですね、今回はこれぐらいにしてあげますよご主人様。早くいきましょう?私はホコリ一つついてませんが、ボロボロのご主人様立てますか?。」

ほんと、この従者どうにかしてくれ…



side 何進

漢中の山奥にそれはあった。
鶴鳴山・泰聖殿。
扁鵲さん達の教団、流派六不治の総本山にあたる隠れ里だ。

そもそも流派六不治とは遥か昔の戦国時代に初代扁鵲という人が生み出した気を用いた医療体系らしい。
時代が下るにつれて自然崇拝を行う道教系の宗教教団になってきたとのこと。
さらに歴代の扁鵲の中に気の武術への応用を思いついた者がいたらしく、独立した戦闘集団も保有している。
気を用いたその武術体系はいつの時代も常に権力者たちにとって是非とも手に入れたい代物だったが、教団自体が俗世の権力に不干渉をきめていたこと、さらにそもそも気の運用の難しさからいつの間にか人々の記憶から忘れ去られた。
現在では小規模の部落を教団の信者のみで維持しており、長老会に認められた者だけが里をでて、外界で医療行為をしつつ情報収集をおこなっているらしい。

俺を助けてくれた扁鵲さんは現在の教団のトップらしく、上記の活動中に俺や華佗をたすけてくれたようだ。

本来ならば教団の信者以外には門外不出の気の扱いについてだが俺の場合は、扁鵲さんのミスによるものであること、俺が気を扱う才能がないため俗世にもどっても流派を興し広める事ができそうにないこと(そこまで才能がないんかい(涙))、さらに教団も世の乱れを憂いており、将来の権力者に近い俺が強い武力を持つ事は世の中にプラスになると判断され、特別に気の扱いを身につける事が許された。

それからの日々は凄まじいの一言につきる。

俺は下丹田が開いていたわけだが、初日にいきなりそこに鍼をぶち込まれ気絶。
気の総量を増やすためといいつつ、一ヶ月程毎日のように気を送り込まれた。

一ヶ月後、どうやら体に気が漲ってきたらしく鍼をぶちこまれても気絶しなくなった。
そこからはひたすら体を鍛え続ける日々。
来る日も来る日も武僧にしごかれ毎日ボロボロに。
夜には華佗の練習もかねて治療をうけまた翌日に。

そうして月日は経って行った。



side 朱儁

漢中に到着してから何進様は毎日のように凄まじい鍛錬をつんでいる。
あまりに激しいので何進様の命が心配になった私は、主を守ると言う任務を果たすためにも鍛錬を行っている武僧に苦情を言いに行った訳だが、にべもなく却下された。

何進様に死なれても困るので実力行使をしてでも鍛錬を軽くさせようとしたら、いつの間にか私も武僧に稽古をつまされることに。
武にはそれなりに自信があった私だが、武僧を倒す事ができず惨敗。何進様を助けに行く事ができなかった。

…上等じゃないですか。私は何進様を守るためにあるのです。
それに、私は負けず嫌いなんですよ!

当初の目的から外れているが、私も日々、武僧と戦い成長を実感していた。
さらに何進様もどうやらギリギリ死なない程度には手加減されているらしいということに気づいた私は、何進様のことをほんの少し気にしながらも武僧との戦いに集中していった。



戦いを重ねる程に自分が強くなる事を実感していた私だったが、対照的に何進様は伸び悩んでいるようだった。
そもそも武術をはじめた時期からして仕方ない上に、気の制御なんていうよくわからないものもやっているのだからしょうがないと思うのだが。

何となく、悩んでいる何進様をみていて思った事がある。
この人は強い人なのかもしれない、と。

彼と知り合ってからいつの間にか一年程になる。
この一年、ずっと何進様を見て来たがはっきり言って全く強くなっていない。
確かに気の総量は増え、体つきも立派になって来たが、ただそれだけだ。まだまだ全然弱い。
それなのに彼はこの一年間、一度も弱音を吐かなかった。

一度、彼にきいてみた。
「どうしてそんなに頑張れるんですか?」と。

そしたら彼は、夜空を見上げながら答えてくれた。
「やらなきゃいけないことがあって、やりたいことがあるんだ。
それは幸せなことだと思うんだよ。
俺は昔はさ、ただ流されるままに毎日を過ごしてたんだ。そして何も為さないままに終わってしまった。
だから今回はさ、自分が生きた証っていうのかな、何かを残したいんだ。
道は姉さん達が用意してくれてる。
だから俺は、ただひたすら強くなるために頑張れるんだ。」

そういって微笑んだ彼の表情は当分忘れる事ができそうにない…

「なら早く強くなって下さい。私は自分より弱い主人なんて主人と認めない主義ですから。」

「ということは、今の俺は主人とは認めてないってことですか?あいかわらず一言おおいやつだな。」

「今の発言は自分は弱いですぅっていってるようなものですよ、ご主人様?」

「…上等だ、表でろや(怒)」

「ヤレヤレ、いいでしよう。かかってきなさい、弱いご主人様?」

そうやってまたいつものように私と彼は喧嘩を始める。
ずっとこうしていたいような、二人だけの時間。
だけど、いつかこんな時間を許してくれない日々が来るでしょう。
だから今だけでも…










(あとがき)

俺、このSSが完結したら結婚するんだ…


(追記)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第六話・中(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:26
side 何進

何かに集中しているときの体感時間の早さはどうにかならないものだろうか?
漢中に来てからいつの間にやら四年たつらしい。
そろそろ十二歳になりますよ。
その間はひたすら鍛錬に励んでる日々だったなぁ。

最初はただボコボコにされているだけの日々だったが、最近では何となくではあるものの武僧の皆さんの動きが分かってきたような気もする。
丹田の方も一年に一個ペースでむりやりこじ開けられて今では全部で五あると言われている丹田のうち四つまで活性化している。
おかげで体の底から力が湧いてくる。…全く使いこなせていませんが。

ひたすら鍛錬に励んでるとは言ったものの、流石に四年あれば色々あるわけで。
人生にはちょいっと振り返る事も必要だと思うんだ。



~白き馬は義に従う~第六話・中

side 何進(十歳)

武術。
いま俺が必死に手に入れようとしているモノである。
漢中に来てから二年程たったある日のこと。俺の修行をずっと見てくれていた武僧が突然言った。

「基礎はできたな。」

「はい?なんか言いましたか、先生?」

「あぁ。基礎ができたと言った。」

漢中に来てから俺が許可されていた鍛錬は、ひたすら山野を走り回る事、木を切ったり薪を割ったりする事、重い物を運ぶ事、突然殴り掛かってくる先生の攻撃からひたすら逃げ回る事だった。それに加えて鍼での治療や、気の増強を行っていた。

「失礼ですが、先生。今までの鍛錬で出来上がりそうな基礎が思いつかないのですが?」

「まぁ確かにいわゆる武術らしい事はしてないな。」

「ですよね。」

「ならば逆に聞くが武術らしい基礎とはなんだと思う?」

「無難な所だと突きや蹴り、あとは型とかですかね?」

「間違いではないな。だが武術にはそれより前に必要な事が有る。」

「心構えですか?」

「それは一番最初だな。心構えに関しては君が漢中に来たときから心配していない。現に君は今も逃げず、僕に文句も言わず日々努力して来た。何か志が無いとできないことだ。」

「ありがとうございます。でも、心構えでもなく、基本的な動作でもないとなるとなんですかね?思いつきません。」

「そうだな、手がかりをだそうか。君は何か為したい事を為すために武術を納めようとしている。そうだな?」

「はい。」

「では、それを為すために必要なモノはなんだ?無くてはならないものと行ってもいい。力でも、意志でもなく、技術でもない。もっと根本的な物だ。わかるか?今までの鍛錬を思い出してみてくれ。君は僕になにをされてた?」

難しい事を聞いてくるな。まるでナゾナゾじゃないか…うーん。
今までしてきた鍛錬か。体力作りと、逃げ回る事?
…………なるほどな。

「わかりましたよ、先生。」

「ならば改めて問おう。今までの鍛錬で君は何を手に入れた?」

「生き残るための力です。」

「正解だ。何かを為すにはとにかく生きていなければならない。」

先生曰く、武術に必要なのは、というか何事もそうだと言っていたが、とにかく生き残ることらしい。死んでしまったらそれまでということだ。
武術と言う漢字は「矛を止める術」を意味する。
決して争いを意味している訳ではない。さらに勝ち負けも重視しない。
究極的には争いが無くなれば武術的にはOKということになる。
そこで大切になるのが「生き残る」ことらしい。何を為すにも生きてなきゃ意味ないもんな。

「なるほど。正論ですね。では俺が基礎ができたっていう理由も教えてもらえますか?」

「自分の体を見てみろ。何か気づいた事はないか?」

ついさっきまで先生に追いかけ回されていたから全身がボロボロなんだが。あちこちに打撲やら擦り傷切り傷が。
ん?でも、

「そういえば急所は無傷かもしれません。」

「ちゃんと気づいたな。お前は今日、初めて生き延びた。今までは僕が寸止めをしていなかったら死んでいたからな。これからはお前が逃げに徹したらそうそう死ぬ事はないだろう。これをもって第一段階は合格とする。」

「ありがとうございました!」

「あぁ。次の段階はただ逃げ回るだけでなく反撃するために必要なことを鍛錬していく。ちなみに君を指導する人は変わるから。」

「え?そうなんですか?」

「僕は基本的に一撃離脱と追撃を得意としてるから。戦場での武将のような立ち回りは苦手なんだ。お前が目指すのは暗殺者じゃないだろう?相応しい人を用意しておいたからこれからも頑張ってくれ。もうひとつ付け加えると、僕から逃げ切れるって本当に凄い事だから自信をもっていい。」

ようするにこの先生はプロの暗殺者ってことですか(汗
しかし確かに最近は自分でも逃げ足は速くなったと思ってたしな。朱儁との喧嘩でもだいぶ攻撃を避けられるようになってきてたし。朱儁、攻撃→俺、回避が延々と続く感じで。最後に調子にのった俺が攻撃をしようとして朱儁にカウンターを喰らって終了ってのが最近のパターンだったな。
まぁなにはともあれ。

「二年間、ありがとうございました!」



side 朱儁(十二歳、※何進も同じ年齢)

漢中に来てから早いもので四年程経つ。
私とご主人様との関係は相変わらず。時々ご主人様をからかい、喧嘩をする。
そんな関係は相変わらずだったが変化した事もある。その一つがご主人様の武術の実力だ。最近では私に拮抗してきている。
私もこの四年間を無為に過ごして来た訳ではない。
それどころか以前に比べて遥かに強くなった。
だが、ご主人様の成長する早さが二年前を境にして急激に上がった。

二年前のある日の夜、ご主人様は上機嫌で私達にあてがわれていた家に帰って来た。
あまりに上機嫌でうざかったが、気になったので話を聞いてみると武術の基礎ができたとかで先生に認められたらしい。
「朱儁を倒す日もそう遠くない」等とほざくのでとりあえずボコっておいたが。
……ボコった後にそのまま彼は寝てしまったが、そんな彼の寝顔が可愛いと思ってしまう私は重傷かもしれない。あぁ、もう。

そんなことはおいておくとして事実、彼はその日以降目に見えるぐらいの早さで強くなっていった。
彼の新しい先生との鍛錬方法は単純明快。
先生が殴り掛かるので反撃しろというもの。

ご主人様の話によると速さは以前の先生が圧倒的に速かったが、今回の先生は隙がないとの事。
そのせいか無茶な攻撃をしてはいつも返り討ちにあっていた。
だが人間は学習する物らしく、最初は隙だらけで見るからに素人丸出しだったご主人様の攻撃も日々を追う毎に無駄が無くなっていった。

この頃になると私もご主人様との喧嘩で苦戦するようになった。
こちらの隙に正確に攻撃してくるようになり、虚動にもひっかからなくなってきた。
何よりも無茶な攻撃が減り、こちらの反撃が入りにくくなった。ええぃ、鬱陶しい。そして全く面白みのない戦い方をする。

最近ではご主人様との喧嘩ではどっちが勝つかわからないところまできている。
彼は先生との戦いでもそろそろ一撃いれることができそうなくらいにまで成長した。

そしてついに、今日。
ご主人様は先生に一撃をいれた。



side 何進(十二歳)

「はぁっ!」 どすっ

ついに俺の右手が確かな感触を捉えた。先生は苦悶の表情を浮かべている。これは、有効打だよな?

「何進」

「はい。」

「合格だ。いい突きだった。」

「ありがとうございます!」

「いやぁ、しかし本当に四年でここまで強くなるとはなぁ。扁鶸さんの見る目も確かだったということか。何にせよおめでとう。これで君は次の段階に進める。次は私達の流派に伝わる型と武器の扱い方を指導して行く事になる。君はすでに生き延びる力が有り、相手に攻撃を入れる力もある。私が君に指導したのは如何に自分が傷つかずに相手を倒すかという事だったわけだが、次の段階ではいよいよ相手を武力で圧倒する術を覚えてもらう。今までは負けない方法。これからは勝つための方法と言う訳だ。」

「なるほど。」

「ちなみにまた教える者が変わる。最後になるが、私は攻撃は大したことはないが、防御に関してはこの里でも三指にはいる。その私から一本取ったんだ。自信を持ってこれからも頑張りなさい」

「はい、二年間ありがとうございました!」

ついに先生から有効打をとれた。自分が強くなっている事が実感できる。
そして、俺はまだまだ強くなる!


そして夜、意気揚々と家に帰ると居間で朱儁が本を読んでいた。

「珍しいな、居間で読書なんて。」

「そうかもしれませんね。」

なんかいつに無い雰囲気だな。どうしたんだ?

「何かあったのか?」

「いえ。特には。」

「そうか…」

会話が続かないな。こんな事は今まで無かったんだけどな。本当に、朱儁の奴どうしたんだ?

「あの…」
「なぁ…」

同じタイミングでの発言。余計に気まずいわ。

「なんだ?朱儁からどうぞ?俺はただちょっと声をかけただけだから。」

「それでは私から。先ほどご主人様が第二段階を合格されたとききました。」

「あぁ、そうだけど?」

「私と一手、勝負しましょう。どれだけ強くなったか見てあげますよ、ご主人様。」

なんだ?らしくない誘い方だが。まぁいいか。俺も試してみたいと思っていたし。望む所だ。

「いいぜ、そっちこそダサイ負け方しないようにせいぜい頑張りな!」


side 朱儁

月明かりに照らされた広場で私とご主人様は向かい合っている。
こうやって向かい合ったのは何度目だろう。そしてこれから後何度、私達はこうやって戯れる事ができるのだろうか?
胸に去来した、郷愁にも似た何かを振り切り、私は不敵に、いつもの私らしく、こう言った。

「さっさとかかってきたらどうですか?ご主人様?」

「上等!」

獰猛な笑みを浮かべた彼は一言そう叫ぶと、私にむかってきた。

先手を取るべく私は間合いに素早く踏み込もうとしたが、その直前で後ろに飛び退いた。
彼の蹴りが入りそうになったからだ。どうやらいつの間にか彼の方が間合いが広くなってしまっていたらしい。背、のびたんだ…

一度後ろに引いてしまった私を彼は容赦なく責め立てる。
間合いの差を生かして足技を主にしつつ、大きな隙をつくらない、負けない戦い方。
蹴り、蹴り、蹴り。

だが元来、蹴りは威力重視で隙が大きい。
いくら隙を作らないようにしても…そこだっ!

彼が蹴った足を引き戻そうとするその動作に合わせて私は踏み込む。
彼の顎を狙い、右正拳。今まではこれで終わっていたが。

「あっぶねぇ!」

彼は首を捻りなんとか避けた。
だが私も手を抜くつもりは無い。
顔があった場所をすり抜けた右手でそのまま彼の首を掴み、顎に左の肘を叩き込もうとしたが、

「そうはいくかよっ!」

蹴り足が戻りきっていない不安定な体勢ながら、首を掴まれた勢いを利用して逆に私に膝蹴りをいれてきた。
お互いの肘と膝が、顎と鳩尾に入ったが、浅い。

「やるじゃないですか、ご主人様。今のは危なかったですよ」

「はっ!当然だな!そんでもってお前の攻撃は全然効いてねぇぞ!なんだ今のヘボイ肘はよ!」

そういいつつ彼はまた私に攻撃を加えてくる。ちなみに戦っているときの彼はいつもの雰囲気と違って荒々しい。だが、それがいい、ってのはおいといて、

今度は、蹴りへの反撃を警戒しているのか手技できた。小刻みな運足で、致命傷にはならないものの決して軽くない突きを連続してだしてくる。
まったく、あなたが得意なのは反撃でしょうに。そんなに突っ込んでどうするんですか。

右、右、左、鍵突き、上げ突き、そして肘と連続して出してくるがやはり彼の攻撃の練度自体は高くない。
現に今の間でも私は避けているだけだったが、一回は確実に彼を倒す事ができた。…やはりまだ早いんですかね。

現在の彼の練度を確かめた私は若干の失望と、そしてよくわからない安心を感じながら彼を倒すべく前に出た。

次の右に合わせて終わらせる。

きたっ右!ここでっ!

そこで私の意識は途絶えた。


…………気づくと満天の星空を眺めていた。右の頬には冷たい手ぬぐいの感触が。頭の下には暖かく、固いけれどなんとなく柔らかい感触が。

「おぉ。気づいたか?」

どうやら私は彼に膝枕をされていたらしい。私の顔が火照ってくる。まったく、普通は逆でしょうに。
寝転んだまま彼の顔を見てみると夜空を見上げていた。顔が火照ったのを見られずすんで安心したが、私を見てくれていなかった事はそれはそれで腹立たしい。

「気づきません。心ない主人に思いっきり殴られましたから。」

「おまえなぁ」

そういって彼が苦笑する雰囲気が伝わってくる。こんな空気の中にいつまでもいたい。本気でそう思う。
でも、区切りは必要。
私は、仕える者だから。

「最後、私はどうやって負けたんですか?」

「ん?そうだな、どこまで覚えてる?」

「私は最後にあなたの右に合わせて反撃をしようとしました。」

「そこか。俺は更にお前の右に合わせて左の反撃を合わせたってわけだ。」

「なるほど。ということはあれは虚動?ですが確かに右手は動いていましたが。」

「アレは今回初めておまえに対して使った新しい虚動なんだ。肩をちょっと動かすんだ。あれならすぐ左がだせるからな。」

「そういうことですか。ふぅ、私はまんまと引っ掛かったわけですか。」

「まぁそうなるな。」

脳震盪が治まったため私は立ち上がる。彼の方を向いてみるともの凄く嬉しそうな顔をしていた。
やれやれですね…

「さてと、そろそろ寝ようぜ?明日も早いしな。」そう言って家へ帰ろうとする彼。

「ちょっと待って下さい。大事な話があります。」

「どうした?」

振り返った彼を確認してから、私は彼の足下に跪いた。
突然の私の行動に彼は驚いているようだが、さっさと進めてしまおう。

「我が名は朱儁 公偉。我が人生を貴方に捧げます。貴方が求めるならばどこまでも貴方と共に有りましょう。貴方の理想のために私の命、お使い下さい。」

「…本気か?」

「以前にも言ったでしょう、私より弱い主人に仕えるつもりはないって。」

「そういえばそうだったな…。ならばその命、この何進 遂高が預かろう。それと俺の真名。義人をお前に預ける。」

真名をこの時機でね。やっぱりこの人は心の機微が分かってる。これなら大丈夫そう。

「ありがとうございます。何進様。私の真名は”義仕”です。以降はその名で御呼び下さい。」

「おまえ、その真名、」

「今つけました。」

「いいのか?」

「当然です。むしろ文字を一字いただきましたがよろしかったですか?」

「問題ない。っていうか嬉しいな。これからよろしく頼むぞ。俺が進む道はきっと厳しい。ちゃんとついてこいよ!」

「おおせのままに、我が主。」






(あとがき)

ばっちゃがいってた。二次元とは結婚できないって………



(追記2)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 番外編その一(恋姫無双 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/18 20:30
ぴーんぽーんぱーんぽーん

あてんしょんぷりーず

今回は番外編になります。
この作品では番外編は本編に関係します。
が、読まなくても問題有りません。
というか本編で触りきれなかった、あるいは本編の全体の話の流れに雰囲気が合わないと作者が判断した日常の出来事が番外編として補完されます。

つまり、
危険です。

二次創作は基本的に作者の妄想、欲求を具現化する行為だと作者は考えていますが、この番外編はその傾向がひどくなります。

ぶっちゃけ自重しません。
するつもりもないんダゼ☆

そう言う訳で、本編にかんする厳しい批評や感想は受け付けますが、というかむしろ今後の糧とさせていただきますが、番外編に関しては肌に合わない方はスルーでお願いします。
もちろん同士からの感想は超おまちしていますが(キリッ

それでは始まるよー




side 何進

最近はやりの「男の娘ー」♬
………え、違う?

おほん、失礼。
転生前の話になるが、「男の娘」なるものが流行っていた。
「こんなに可愛い子が(ry」である。

先に言っておく。
俺も一時期、大好きでした。だって可愛いじゃないか!

昔の偉い人はいいました。
「可愛いは正義」であると。
真理だと思います。可愛ければ性別は関係ない!……そう思っていた時期が俺にもありました。えぇありましたよ。

でもね。
やっぱり女の子じゃないとだめなんですわ。

次元を問わず、可愛い女の子はいるけど、本当に可愛い男の娘は二次元にしかいないんだ!(涙)
男の娘は儚い夢なんだ…

その事実に気づいた後は、再び元からの大好物だった「ボーイッシュな女の子」が一番の好物になりました。

で。
何故こんな下らない話をしてるかといいますと。

朱儁は女の子だったわけなんだ(滝汗



side 朱儁

昨日の事だ。
以前から、というか何進様にお会いしてからずっと抱いていた疑念が確信に変わった。

すなわち「何進様は私を男だと思っているのではないか?」ということだ。
そういえば確かに何進様は私の事を時々、朱儁君などとよんでいたし、普段の生活でも異性に対する労りや、あるいは遠慮がないなぁとは思っていた。

だがそれはあくまで男の子である何進様が別に性別を気にしてないからだと思っていた。
私と何進様は今年で十二歳になる。
一般的に男の子に比べて女の子のほうが男女の性差や恋愛感情に早く興味を持つらしいので、私は、まるで私を男であるかのように扱う何進様に対して、まだまだ子供なんだな、なんて優越感と母性本能?を感じていた。

だが。
私の事を女として認識していなかったとなると話は別だ。

私はこんなにも異性として何進様のことを気にかけているのに、彼はこちらをそもそも女としてすら認識していない。
これだけの屈辱があるだろうか。
いや、無い!

女の矜持を刺激された私は、如何に私が素晴らしい女であるかを何進様に知らしめることを決意した。
だがここで思いつく。
私ではいい方法を全く思いつけない。

幼い頃から『草』としての知識は得て来たものの、性に関する知識だけは父の方針でえることができなかったのだ。

どうするべきか。
悩んだのも数瞬。頼るべき偉大な先人たちがいるではないか。

私はそのことに気づくとその日の洗濯物を抱え、その偉大なる先人にして賢人が集う賢人会議(おばちゃん達の井戸端会議)へ出陣した。



side 何進

つい先日のこと。
修行の第二段階を終えた俺に対して朱儁が勝負を挑んで来た。
結果は俺の初勝利。

驚いた事に朱儁は勝負の後、俺に本当の意味での忠誠を捧げてきた。
その気持ちを受け取る事に、人の命を預かるということに恐怖を感じなかったといったら嘘になる。
はっきりいって断りたかった。

でも。
俺はいずれ、それこそ万単位の人間の命を自由にできる立場に立とうとしている。
そんな俺が一人の命を、人生を背負えなくてどうするのか。

そのことに思い至った俺は朱儁に最後の確認をした後に、その命を預かった。

その日から朱儁の俺を見る目が変わった。
おそらく、あの目、態度、雰囲気は俺に対して好意をいだいている。親愛や友情などではない。あれは間違いなく愛情だ。
俺は鈍感な主人公じゃないからな!勘違いヤローって可能性は捨てきれないが。

だがひとつ問題がある。
それは、朱儁が男である、ということだ。

残念だが俺はノーマルだ。
彼の好意には応えられない。

彼が過ちを犯す前に道をただしてあげようと思った俺は昨晩、朱儁に向かって言い放った。
「子供は男女の間にしか生まれないんだぜ?」と。

俺たちはまだ十二歳。
これぐらいの表現が、道を踏み外そうとしている朱儁少年には適切と判断してのチョイス。
自分の判断を褒めてやりたいくらいだ。

が、俺のこの発言を聞いた朱儁は暫くの間「何を言ってるんだこの人は?」的な顔をした後に、どうやら思い至ったようで顔を真っ赤にしていた。
やはり俺の洞察力は正しかった。

などと一人で感心していたらいきなり朱儁にぶん殴られた。
涙目で。

そして現在に至る。
今日は一日、朝から朱儁を見かけていない。

基本的に俺と朱儁は日中は別々に修行やらなんやらしているので大きな変化はないが、朝飯をつくってもらえなかったのは残念だった。
あいつの作る料理はおいしい。
この四年にわたる共同生活で俺の胃袋はしっかりハートキャッチされている。
つくづく女じゃないのが残念だ。

いつものように修行を終え、華佗による治療を終えたあと家に戻ると家の様子がおかしい。
家全体から何とも言えない桃色?のオーラがでている。

若干の身の危険を感じつつ家にはいり、居間の戸を開けるとそこには

超絶美少女が立っていた。

「は?」

思わず惚けた声を出してしまう。何で俺の家にこんな美少女が?というか誰よ?
スレンダーながら女性らしい肉体に成長するであろう体のラインを強調した、いわゆるチャイナドレスを身に着け、長い髪を後ろでアップにまとめた切れ長の瞳の美少女が静かに俺を見つめていた。

「えーっと、どちらさま?」

動揺しつつも何とか無難に質問をしたつもりだったが、その美少女は俺の質問をきくとクスクスと笑い出した。
そんなに変なことを聞いたか?

「何か変なこと聞いたかな?」

「あはははっ! 主、本気で聞かれてるのですか?だとしたらその目、一度しっかりと華佗殿に看てもらったほうがよろしいのではないですか?」

「は?…………………え?朱儁?」

「二人だけの時は義仕と呼んで下さいといいましたが、主?」

「え?え?でも朱儁は男だろ??君は明らかに女の子じゃないか?………だけど、その声、しゃべり方は間違いなく朱儁?顔もそういわれてみれば……?え、マジ?」

「そもそも私は自分が男であるとは一度も言った覚えが有りませんが?」

「……いわれてみれば、そうかも知れない?」

え?マジで?



side 朱儁

家に帰ってきた何進様は私を見るなり固まった。
そしてその顔がだんだんと赤くなっていた。
よしっ、これは成功ですね!

賢人達によると私が男だと思われていた最大の要因はその服装にあるらしい。
私は幼い時より動きやすい格好を好んでいたため、現在でも男が着るような衣装を好み、髪も短くしている。
さらに話し方も淡々としており、中性的らしい。
以上のような要因が重なり、何進様は私のことを男だと思っているとのこと。
まったくあの人は。

そこで私は賢人達の協力を得て、どう見ても女にしか見えない格好をして何進様の認識を改めさせることにした。
いかにも女性らしい衣装を用意してもらい、髪には付け毛をつけて長くして、化粧も薄く施した。それに加えて普段の話し方もしなをつくって女性らしくした。
鏡で確認してみたところ、完璧な少女がそこにはいた。
むしろ結構いけてるのではないかとも思う。

賢人達も太鼓判を押してくれ、いざ私は決戦に挑んだ。

勝敗は火を見るより明らかだ。
私の勝利!

私が勝利の余韻に浸っていると、動揺からようやく立ち直ってきたらしい何進様が口を開いた。

「確かに、お前の口からはお前の性別を聞いた事はなかったな。その、悪い事をしたな、昨晩は。」

ちゃんと原因に辿り着けるところは評価してあげたいと思う。ついゆるみそうになる表情をひきしめる。

「わかってくれればいいですよ。」

「あぁ、ありがとう。」

あいかわらず顔は真っ赤なままだがだいぶ動揺からは立ち直ってきてるらしい。こちらをチラ見しているのは可愛いから許します。

「これにこりたら二度と私を男扱いしないで下さい。いいですか?」

私は女としての矜持を大変満足のいくレベルで取り戻した。
これで今回の件は一件落着。
あとは片付けて寝ようと思った私だったが、我が主はやられっぱなしをよしとするような人物ではないことを失念していた。

「朱儁、いや義仕。」

急に何進様の口調が凛々しくなる。そんなにあらたまって何でしょうか?顔は真っ赤なままですが。

「どうしました。主?」

「先日の誓いは覚えているよな?」

「当然です。忘れる訳が有りません。」

「あれに対する返答を変えさせてもらってもいいかな?」

どういうつもりですかね、この主は?あのような大切な誓いを変えたいだなんて……

「とりあえず聞くだけ聞きましょう。場合によっては私の、あなたに対する信頼は大きく揺らぎますが。」

「あぁ、構わない。」

「では、どうぞ?」

「一人の男として言う。朱儁、いや、義仕。君の全てが欲しい。君の人生は俺が背負い、命は俺が預かろう。だから君の心も俺に捧げてくれないか?そして俺と共に歩んでくれ。」

「え?それって?」

自分の顔が上気するのが分かる。心臓もうるさい程に高鳴っている。

「そうだな、いわゆる愛の告白ってやつだ。受け取ってくれるか?」

だからそんなに顔を真っ赤にして言わないで下さい。私まで恥ずかしくなります。
答えは最初から決まってますが。

「えぇ。喜んで。我が主。絶対、離さないで下さいね?」




(あとがき)

スイーツ(笑)

感想版にあいるんさんが書き込んでくれたことから発動した番外編でした。
この番外編は朱儁に関する反応が読者の皆様からなかったら没にするつもりでした。
あいるんさん、ナイス感想です。本当にありがとうございます。
せっかく書いてたので没ネタにならなくて良かった……

次話は本編に戻ります。

皆さんの感想をお待ちしています。

ではでは。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第六話・下(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:32
side 何進

何をやっても通用しない。
そんな錯覚を覚えてしまいそうになるほど眼前の扁鵲さんの"武"は圧倒的だった。

積み重ねた時間、武の才能、気の扱いに関する才能、体格、間合い。
挙げればそれこそきりがない程あるであろう俺と扁鵲さんの差。

だがそんなことは分かっていた事。

それでも、どんな絶望的な状況でも俺は負けるわけにはいかない。
そう、負けるわけにはいかないんだよ!



~白き馬は義に従う~第六話・下

side 何進

漢中にきてからそろそろ七年が経とうとしている。
長いようで短い、本当に短い七年だった。
七歳でここに来てからひたすら修行の日々。俺ももう十四歳になる。この世界では立派な成人男子だ。

そしていよいよ本当の物語が始まる。

「主?どうされました、ぼーっとして?」

物思いに耽っていた俺に話しかけて来たのは朱儁。真名は"義仕"。
この七年、常に俺と共に有り、そしてこれからも俺と共に歩むであろう俺の大切な人だ。

「あぁ、ちょっとここでの暮らしを思い出してた。」

「そうですか…。いよいよ明日ですからね。」

「そうだな。明日だな。」

先日、俺は修行の全ての段階を終えた。はっきりいってかなり強くなったぞ?
まぁそれはさておき、明日がいよいよ修行の最後の仕上げ。
流派六不治の最強の男、扁鵲さんとの組み手だ。
それをもって俺の漢中での生活は終わりとなる。

「どうですか?勝てそうですか?」

「まぁ、普通に考えたら無理だろうな。」

「そこはダメでも格好つけてほしいところですけど、まぁそうでしょうね。どうされるのですか?」

「下手な小細工は通用しないだろうし。全力で正面からあたるよ。それだけだ。それにこれから先、勝てない相手にあたることもあるかもしれない。そんなとき逃げる訳にはいかないだろう?」

呂布、関羽、夏候惇、孫策。どの勢力にも必ず一人は武神といっても過言ではない将がいる。
これから先、俺がどれだけ上手く立ち回ったとしても全ての勢力と友好関係になることはできないだろう。
そんなとき彼女達は最大の脅威となる。残念ながら漢王朝には彼女達と対等に渡り合える人材は原作的にもいない可能性が非常に大きい。
だから俺は、彼女達の高みにまで至らなければならない。

「まぁ、見てなって。最後は気合いと根性だ。」

「またそんな適当なことを…。本当に頑張って下さいよ?それと忘れないで下さい。貴方には私っていう最高の女がついてるんですから。負けたら承知しませんよ?さて、もう寝ましょうか。」

そういって義仕は微笑んだ。そんなこといわれたら頑張らないわけにはいかないじゃないか。



side 朱儁

三年前。私は何進様に心からの忠誠を誓った。
最初は何家に対する恩返しのつもりだったが、彼のその誠実な人柄と目標に対する姿勢をずっとみてきて、この人にだったら私の全てを捧げてもいいんじゃないかと思ったから。

そして実際に私の見立ては間違っていなかった。
誰も口に出しては言わなかったが、皆が絶対に不可能だと思っていた七年での修行の達成を目前にしているからだ。
考えてもみてほしい。
肉体的に恵まれている訳でもなく、武に関する圧倒的な才能も無く、さらに今までに武に触れた事も無いような七歳の少年が、わずか七年で武の達人達に肩を並べようとしている事がどれだけ凄い事なのか。
そしてどれだけの努力が、精神力が必要なのか。
確かに"気"という後天的な才能を手にし、適切な指導を行ってくれる指導者と、修行に最適な環境は用意されていた。
だがここまで辿り着いたのは間違いなく彼自身の力によるものである。

だからこそ私はこの人が目指している世界を見てみたい。
そしてその世界を作るために、彼の力になりたいと思う。

彼が進むために最後に残された課題が、明日の扁鵲さんとの組み手。
これまでの修行ではある課題が最初から設定されており、その課題を達成したら次の段階に進むという順序で修行が行われてきた。
実際に彼は、「生き抜く」「負けない」という課題を達成し、つい先日には「勝つ」という最後の段階も修了した。

話は変わるが、三年前に彼に組み手で負けた後も私は彼とずっと組み手を続けて来たけれど、現在では彼は七年前どころか三年前に比べても圧倒的に強くなっている。
贔屓目に見なくても、努力のみで天下無双の領域に踏み込みつつある。
それが現在の彼の状況だ。

で、最後に用意されたのが扁鵲さんとの組み手。
はっきりいってあの人は化物だ。
実際に戦っている姿は見た事はないが、溢れんばかりの"気"は私でさえ感じられる程だし、その立ち振る舞いには一部の隙もない。
里の人々に聞いてみても、間違いなく扁鵲さんが最強であるとのこと。
その扁鵲さんとの組み手をもってこの修行は終わるらしい。

だが、ここで問題になることがある。
即ち今回の扁鵲さんとの組み手による修行の修了のための必要な達成条件が分からないのだ。

何をもって修行を終わりとするのか。
何進様は知らされていないようなのだ。

候補としては「扁鵲さんに勝つ」が筆頭だが、普通に考えて、はっきり言ってこれは不可能。
他の候補としては「扁鵲さんに善戦するも惜敗。だがその実力は認められて」といったところだろうか?

何進様はどう考えているのか気になったのでこの話をふってみると
「考えるだけ無駄。勝つ事だけを考える。」と言っていた。
道理ですね。

来るべき乱世においては善戦にはなんの価値もない。
まして敗北になど。
勝利以外に価値を求めようとするのは平和な世の中になってからでいい。

だから、絶対勝って下さい。



side 何進

夜が明けた。
山岳の向こうから昇ってくる太陽を視界に収めながら最後の突きを放つ。
朝の静寂の中、拳が空気を裂く音が響く。

これで今日の朝練も終了っと。この朝練も七年続けてきた。
最初のうちはまともに突きもできず、よく義仕にからかわれたもんだ。
今では自分で言うのも何だが、だいぶマシになった。

「よぅ!朝から精がでるな!」

汗を拭っていると華佗がこちらに歩いて来ていた。そういえばコイツはコイツで七年間相当の努力を重ねて来た。
生来の才能もあり、医療に関してだけは流派の中でもトップクラスの腕前を持つようになっていた。
順調にいけば将来は"扁鵲"の名を継ぐ、ハズだったのだがなんと本人が拒否。
流派六不治に存在する攻撃用の気の運用の習得を、自衛用の最小限を除き拒否したのだ。
本人曰く「医者に武力はいらんからな!」とのこと。さすがだよな。

長老会としては華佗に"扁鵲"をいずれ継いで欲しかったようだが華佗の意志が固い事を見ると、以後も友好的な関係を続ける事を条件に、流派六不治から分派をつくることを認めた。
そうして人を救う事に特化された「五斗米道」という流派がうまれ、華佗はその継承者となった。

「あぁ。今日が最後の総決算だからな。気合いが入らないわけないだろ?というかお前こそこんな朝から俺の所にくるなんて珍しいじゃないか?」

「親友の晴れの日だからな!激励に来たんだ!別におかしなこともないだろう?…うん。体の調子も気の流れも完璧だな!体調管理も上手くなったな!」

「そりゃあこんだけ長い間お前に世話になってたら自分でも気にするようになるっての。」

「それもそうだな!……ところで実際のところ今日はどうなんだ?」

「そうだな、はっきり言ってかなり厳しい。だけど、勝つ。」

「ははっ!そうか!期待してるぜ!お前がたとえ死んでも、この俺が必ず生き返させてやる!だから思いっきりやってこい!」

「危ないこというなよ。まぁ、けどありがとな。全力でいかしてもらうぜ。」




そして今、俺の目の前には扁鵲さんがいる。
昔は分からなかったが今ならわかる。この人はメチャクチャ強い。
…………仮想、呂布ってところか。

「ふむ。いい顔をするようになった。まずはこの七年、よく頑張った。正直なところその非才の身でここまで辿り着くとは思っておらんかった。」

「自分でも驚いてますよ。人間、頑張れば意外と何でもできるみたいですよ?」

「確かにの。…うむ。多すぎる言葉もここまでくると無粋かの。では始めようか。お主の七年、儂に見せてみよ。」

そう宣言すると扁鵲さんの体から"気"が溢れ始める。
………それなんて北斗神拳?なんて冗談を言ってる場合でもないな。

俺も体の底から力を外に向かって解放していく。
"気"を扱う才能がない俺が唯一身につけることができた技、身体強化。
ちなみにこの技、この世界の有力女性武将だったら誰でもできる技で、ほぼ全員が無意識にしているらしい。俺の親愛なる部下の朱儁も普通にしてた。本人は気づいていないようだが。……自分の非才が泣ける。
とはいえ、俺は七年にわたる鍛錬と華佗等による肉体改造の結果、"気"の総量自体は並の女性武将どころか一流の武将を上回っているらしい。
あとは技量の差で一流の武将達とも戦えるところまではきているのだ。

よし。
そろそろ漲って来た。
いくか!

扁鵲さんにいざ挑もうとした瞬間、扁鵲さんが俺の視界から消えた!?

…上か!

“がしっっ”

上からの飛び蹴りを十字受けでなんとか耐える。
ぃってぇ。
何て高さから蹴り入れてくるんだよ!

まるで俺の油断を注意するかのような(事実そうだろうが)扁鵲さんの先制攻撃から始まった組み手。
一度とられた流れはなかなか奪い返せない。
扁鵲さんの怒濤の攻撃を何とか受け、捌き、避けてはいるものの、そのどれもが致死級の破壊力を持っている攻撃だ。
掠るだけで、あるいは受けるだけでダメージが溜まっていく。
このままじゃジリ貧だ。何とかしないと!

とは言ったものの攻撃がやむ気配もなく、カウンターを合わせる隙も見当たらない。
くそっ、焦るなよ、俺!

扁鵲さんの攻撃が続き、時間だけが過ぎて行く。
その間俺はずっと逃げ回っていた。
まだだ、まだだ、まだだ!

始まってからどれだけの時間が経っただろうか。
ついに俺は扁鵲さんの一瞬の隙をみつけ、


攻撃、しなかった。

「ふむ。よくわかったの。」

「はぁ、はぁ、はぁ…… あなた程の達人が見せるにしては大きすぎる隙です。」

「なるほど、やはり自制心と忍耐力は素晴らしいの。」

「それだけが取り柄なものでね!」

そういって今度はこちらから攻める。
三年前ならいざ知らず、今の俺は攻撃もそれなりのものだ。防御の方が得意ではあるが。

一見無防備に立っていた扁鵲さんへ、踏み込む。

瞬間、俺の顔面へ向けて拳が迫るが想定内。
懐へ潜り込むように避け鳩尾へ拳を叩き込もうとするが更に膝が俺の顔面に迫る。
が、これも想定内。
体を駒のように回転させてその膝蹴りを受け流し、その勢いも利用して後ろ回し蹴りを叩き込む!この間合いなら!

確信をもって放った俺の渾身の一撃は、だがしかし空をきった。
この距離で避けられた?!

体勢が崩れた俺に対して、俺の伸びきった蹴り足を扁鵲さんが右手で掴もうとしているのが見えた。
さらに左手の掌底が俺の顔面に迫る。
まずいっ!

完全に死に体になった俺は顔面を守りつつ、わざと軸足を崩して無理矢理に地面へ倒れ込もうとする。

その結果、掌底はくらってしまったものの守りの上から、足を掴まれる事はなんとか回避できた。
地面を無様に転がりながら扁鵲さんからなんとか距離をとり、急いで立ち上がろうとした。だが、

ぐらぁ

やばい、『徹し』か!
どうやら先ほどの掌底はただの掌底ではなかったようで。
脳震盪の結果、立ち上がる際に立ちくらみが。

慌てて前方を見ると既にそこには視界を埋め尽くすほどの大きさで拳が迫っていた。

やべぇっ……



side 朱儁

何進様!

扁鵲さんの攻撃がついに何進様を捉え、殴られた何進様はそのまま吹き飛んだ。
今の突きは完璧に入っていた。
場が静寂に包まれる。

「ってぇ……」

あの攻撃を喰らってたった?!
唇が切れたのか血を流しながら、フラフラではあるものの何進様は確かに立っていた。

「なるほど、儂の拳を見た瞬間、自分から後ろにとんだわけじゃな。」

なるほど、確かにそれなら。いやしかしそれでもあの威力の攻撃なら失神してもおかしくない。

「さらに"気"による部分強化もこの土壇場で体得したか。」

「えぇ、上手くいってよかったですよ。もう少しで出来そうだったんです。お陰でコツが掴めました。」

何進様はボロボロになりながらそう言ってニヤッと笑った。
大丈夫。まだ彼は全然諦めていない!

「ほう。それでどうするんじゃ?」

「こうするんですよ!」

そう叫ぶと何進様は右手の拳を扁鵲さんにつきだした。



side 何進

突然だが、何事においても訓練する際にはイメージが大切らしい。
例えば全く同じ筋肉トレーニングをする二人の人がいたとする。
一人はせっせと筋トレに励むが、明確なイメージをもっていない。
もう一人は同様に筋トレに励むが、前述の人とは異なり、筋トレをする際にいつも未来のマッチョになった自分をイメージしつつ、さらにムキムキのお兄さんの写真を見ながら筋トレをしたらしい。
筋トレの効果の結果は後者の人のほうが圧倒的に上だった。


要するに何が言いたいかというと、俺もこの七年間あるイメージを持って修行をしていた、ということだ。
そして俺は右手の拳を扁鵲さんに向ける。

「俺の右手が光って唸る!!!!」

ではどんなイメージを持っていたか?
基本的に俺は徒手で修行を重ねて来た。

「お前を倒せと輝き叫ぶ!!!!!」

さらに流派六不治は"気"というものを用い、常人には不可能な技も可能だ。

「必殺!!!!!」

恋姫原作でも結構パロられてたしな。個人的にも大好きなので。
ま、そんなわけで

「シャぁぁぁぁぁイニングぅぅぅぅぅぅフィンガァぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





(あとがき)

後悔はしてない。


(追記)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第七話 第一部完(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/18 20:30
side 何進

結果としてあの組み手は引き分け。

俺の全力全開の一撃は届き、ガードの上からにも関わらず扁鵲さんに止めをさした。
だが扁鵲さんも只では倒れず、俺に渾身の一撃をぶち込んでから気を失った。
気を放出しきって文字通りスッカラカンになっていた俺もその攻撃に耐えられず失神。

結局ダブルノックダウン。

……絶対わざと攻撃喰らったよな、あの人は。



~白き馬は義に従う~第七話 第一部完

side 何進

結論から言うと先の組み手の最後、やはり扁鵲さんはわざと俺の攻撃を受けたとのこと。
まぁあれだけ隙が大きい技をバカ正直に喰らってくれる時点でおかしいはずなんだ。

あの組み手で扁鵲さんが見たかったのは只一つ。
俺の『可能性』だった。

そして俺は最後のあの技で見事にそれを示すことができた、ということらしい。
扁鵲さんはその技を実際に受け止める事で俺の真価を計ったとか。

「本気でやればまだまだ負ける気がせん」とおっしゃってました。
全くもってその通りで少し情けないが。

何はともあれ最後に課題を達成した事には変わりがない訳で。
七年にわたる俺の漢中での修行はこれで終わりを迎えたことになる。

免許皆伝とか何かその辺りのものでも貰えるかと漠然と思っていたが、華佗と同じような理由で分派を名乗るように言われた。
華佗の場合は流派六不治の武の部分を切り捨て医に特化した事で分派となったが、俺はその逆。
医を切り捨て(というかできない)武に特化したために流派六不治は名乗れない。
そこで俺も勝手に流派を名乗っておけと言う事らしい。

当然、流派東方不敗にしたけれど。
ネタとかは置いておくとして、実際問題、この流派を名乗る事はもの凄く気合いが入る。
さらに俺が修行をした漢中と言う土地が中原からみたら西の最果てにあたるため、これから中原で戦っていこうとする俺に実にピッタリ当てはまる。
すなわち、東方=中原で負ける気は無いと宣言してるようなものだから。

俺の流派の名前を聞いた華佗、扁鵲さんに武僧の皆さんは苦笑いしながらも期待していると言ってくれた。
義仕(朱儁)だけはもの凄く賛成してくれたので嬉しかったけれど。

そんなこんなをしつつ、組み手の傷が癒えるまでに洛陽への旅の準備をしたり、お世話になった人たちへと挨拶をしてまわってたがついに漢中を旅立つ日がやってきた。



side 何進

集落の入り口、簡素な見張り台の元で俺たちは別れを惜しんでいた。
今回洛陽へ向かうのは俺と義仕の二人だけ。華佗は見聞を広めるために一人で諸国を旅するらしい。
扁鵲さんは後進の育成のために今暫くは里に残る。

義仕が里の女性陣にもみくちゃにされている傍らで俺は男どもの熱い激励を受けていた。

「朱儁ちゃんを泣かせたら承知しないからな!」
「幸せにしてあげるんだぞ!」
「もし、泣かせたらその時は僕が暗殺しに行ってあげるから。」

…懐かしの先生もいるな。

「何進!」

「おぅ、華佗か。」

「いよいよだな! 約束は覚えているか?」

「もちろんだ。俺は罪の無い人は絶対に殺さないし、殺させない。そしてお前は俺が殺す以上の人を救う。だろ?」

「よし!お互い、頑張ろうな!聞いているとは思うが、いよいよ外の世界は戦乱が近いそうだ。間に合わなかったなんてことがないよう全力を尽くそうぜ!」

「当然だ!」

「ほぉ、面白い約束じゃな。」

「扁鵲さん。長い間、本当にお世話になりました。」

「お主こそよく頑張った。その力、世のために役立てて欲しい。」

「はいっ!必ず。」

「最後じゃが渡しておくものがある。受け取れ。」

そう言って手渡されたのは一振りの剣。鞘の拵えは普通。剣を鞘から抜いてみても普通の剣にしか見えない。

「扁鵲さん、これは?普通の剣にしか見えませんが……?」

「確かに普通の剣じゃ。…………神代のな。」

は?神代?

「その剣に銘はない。だから儂らは畏敬の念をこめて普通の剣とよんでおる。お主はその剣を持つに相応しい器量を見せてくれた。好きに使うがいい。」

「大切なものなんじゃないですか?」

「構わんよ。所詮は普通の剣じゃから。」

悪戯好きそうな笑みを浮かべながらそう言われてもな。絶対なんかあるだろ、この剣。
しかも俺は剣はほとんど使わないしな。どうしようか。

「本当に頂いてもいいんですか?」

「いいんじゃよ。修行を修了した証とでも思っておきなさい。」

「そうですか?じゃあ頂きますが。」

こんなものもらってもなぁ。ま、とりあえず持っときますか。
神代って言うからには何かあるかもしれないし。

さぁってと。

「よしっ!朱儁!そろそろいこうか!洛陽へ!
皆さん、長い間、本当にお世話になりました!感謝してもしきれません!このご恩はいつか、必ず!ではまた!」



(あとがき)

第一部、いわゆる幼年期が終わりました。
まず始めにここまで読んでくれた皆様に感謝を。

私事ですが、この作品が人生初のSSになります。
書きはじめた当初はどんな評価をいただけるかとても不安でしたが支持して下さる方が非常に多く、創作をする上で非常に力になりました。
また長期間の更新停滞も速効でやらかしてしまいましたが、再び感想を書いて下さる方もいてとても励みになりました。
本当に感謝しています。ありがとうございました。

さて。
次回からの第二部では洛陽を舞台として多くの原作キャラが登場し、また世の中の流れが戦乱に向けて加速して行きます。
いよいよメインヒロインも登場する、予定です。

もうひとつ。
今回の第一部完をもって、「チラシの裏」から「その他板」へ移動します。
自分の作品に責任を持とうと思い、またもっと多くの方に読んでもらいたいと思い決めました。
これまで「チラシの裏」でこの作品を読んで下さった方々、本当にありがとうございます。
そしてこれからも、この作品を読んでいただけると幸いです。

ではまた第二部、「その他板」でお会いしましょう。

けーぷ



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第八話 第二部開幕(恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:35
side 公孫瓚

自分は特別な人間だとずっと思っていた。
幽州啄郡の太守の子として生まれ、武も文も誰よりもできた。
母様も父様も領民も私に大きな期待を寄せ、私もその期待に応えられると思っていた。

十二歳を超えた頃。
本格的に太守となるべく教育を受けるために洛陽に上洛した。

朝廷の文官集団"清流"の指導者の一人として、また学者として高名な廬植先生の私塾で私は学ぶ事になっていた。

そこで私は「ホンモノ」に出会ってしまった。

今まで私を支えていた太守の子としての尊厳も、公孫家も所詮は数ある地方領主にすぎないことを知り、傷つけられた。
自分が一番だと思っていた武も文も、それこそ数えきれないくらい、私よりも凄い人たちが洛陽にはいた。

だけどまぁ、そんなことはいいんだ。
領主の役目は自分の尊厳を満たす事ではないし、武も文も諦めるつもりは無い。
洛陽にきてからの二年間でそれくらいの気持ちの整理はできた。

上洛して、一番衝撃を受けた事。

それは「天」に愛されている人は本当にいるんだって気づいた事。

廬植先生の私塾で出会った劉備という名前の女の子は何かに優れていると言う訳ではなかった。
武も文も私の方が出来る。

だけど何て言うのかな?
彼女はそんな事じゃ計れないんだ。

超えられない壁を感じながら日々を過ごすうちに、私はいつしか「普通の子」と呼ばれていた。

私だって努力はしてるさ。
誰よりも努力しているつもりもある。
先にも言ったけど、諦めるつもりも無い。

それでも心が折れそうになる時があるんだ。
無性に誰かに支えて欲しくなる時が有る。

そんな時に出会ったんだ。
非才の身に有りながら、天上の領域に挑もうとしてるソイツをさ。

確かにアイツの武は圧倒的だけど、天才達とは何かが違う気がする。
華やかさが足りないというか、才能を感じさせないというか。
文のほうもよくできるし面白い発想もするけれど廬植先生なんかには敵わないみたいだし。

彼自身も自分の非才には気づいているらしい。
でも。
それでも彼は心身ともに強くなる事を諦めず、一番になる事を諦めない。

そんなアイツに私は希望を見た。
いつの間にか好きになってたしね。

でも彼にはすでに愛する人がいて。

私はそこに割って入ろうとは思わずこの思いは胸に秘め、彼とはよき異性の友人としてつきあうことにした。

何事も無ければ彼は朱儁と添い遂げ、私はそれを近くで祝福しているはずだった。
彼と友人としてつきあううちに朱儁とも仲良くなり、親友といっても過言ではない間柄になった。彼と一緒にいるときの朱儁の幸せそうな顔は今でも忘れられない。
だから私としては本気で二人の友人を祝福しようと思っていた。

それなのに、どうして…




~白き馬は義に従う~第八話 第二部開幕

side 何進

「洛陽よ!私は帰ってきたぁっっっ!」

「わざわざそんな大声で叫ばなくても分かりますよ、主。嬉しい気持ちはわかりますが。」

漢中に別れを告げでから約一ヶ月。
俺と朱儁は実に七年ぶりに洛陽へ戻って来た。道中でも色々あったが、大きな問題は無く洛陽に辿り着く事が出来た。
大きな問題は無いとは言ったが世の中の乱れはいよいよ看過できないレベルになりつつある。早くしなければ。

朱儁が何家とずっと続けていた情報交換によると、洛陽の政情も不安定になってきているらしい。
何思姉さんの後宮入りと皇子の出産、それに伴う何皇后派"清流"の勢力の伸長と既存の宦官派との軋轢が次期皇帝の座を巡る争いにまで飛び火し、現在朝廷の内部は一触即発の状態。

幸いにして現在の皇帝である霊帝がいまだ健在であることから両派は表立った活動は行っていないものの、もし霊帝が体調を崩したりしたらその静かな状況は一瞬に吹き飛ぶ可能性もあるようだ。

そんな冷戦真っ最中な洛陽に戻って来た訳である。
洛陽の治安や町の雰囲気自体は清流の役人が上手に治めていることもあり、他の都市とは比べ物にならないほど良いものだがこれがいつまで続くのかは誰にも分からない。
ひとえに皇帝の健康に懸かっているのだから。

ひとまず何家の屋敷に戻ってみたはいいものの何思姉さんは後宮にいるため当分の間は会えそうにない。
朱儁と侍女長の感動の再会を見終えてから、侍女長や清流の指導部に俺と朱儁を加えての情報交換と会議が行われた。

その会議に清流の指導部として参加していた人物に驚いた。
「廬植」さんである。

いわゆる「三国志」においては劉備の先生として有名だが、史実では漢王朝の将軍として黄巾の乱の平定に非常に大きな役割を果たした人物だ。
俺の目の前にいる「廬植」と名乗った妙齢の美女は現在朝廷で上級官僚をしながら、身分の貴賤を問わない私塾を開いているらしい。

父さんからそれなりの教育を受けていた俺だが何家はそれだけでは足りないと判断したようで、俺と朱儁は廬植さんの私塾に通う事になった。
……劉備フラグきた??

それはともかく、廬植さんの話を聞く限りでは現在の情勢はしばらく続きそうである事。
さらに軍部は次期皇帝に関しては中立を表明している、というか現皇帝派として清流と宦官派が暴走しないように制御しているらしい。
その軍部をどちらが先に自陣営に引き込むかで二派は火花を散らしているらしいが。

さて、ここで漢王朝の軍部に触れておかなければならない。
実をいうと漢王朝には常備軍は存在しない。争乱や戦乱、一揆が発生すると基本的にはその地方の領主まかせである。
ただし北方騎馬民族の長城内への侵入や、あるいは漢王朝への反逆等の漢王朝の尊厳に直接関わる場合、さらに地方レベルでは対処が不可能になってしまった場合に漢王朝が動く。
この際には皇帝、あるいは三公が諸候に命令し人員を供出させて官軍を編成する。
そういうわけで朝廷における軍部には、実は戦闘を行う実戦部隊はほとんど存在しない。
軍部の仕事は諸候への勅命の原案を作る事、参加する兵力の割り振り、官軍の指揮系統の確立などである。

そんな意外と文系な軍部が有するほぼ唯一といっていい戦力が皇帝を守るための「近衛軍」である。
近衛軍はその性質上、皇帝への絶対の忠誠が必要だ。さらに皇帝を守護し、少ない兵力でも諸候に威圧感を与えるために相当の手だれが揃っているらしい。
規模としては三千人にも満たないらしいが、中原最強の軍、それが近衛軍である。

俺と朱儁は廬植先生のところで政治を学びつつ、近衛軍にも入隊することになった。
何思姉さんと廬植さん達清流が無理矢理ねじ込んだらしい。
本来なら他勢力の介入を徹底的に排除する軍部だが、さすがに皇后直々のお願いには逆らえなかったようだ。

それに事前に何家が調査した所によると、良家の子弟が近衛に入隊してもそのほとんどが部下の信任を得られず辞めて行くらしい。
さらに俺に与えられる予定の百人隊は近衛軍でも最悪のじゃじゃ馬部隊らしく、前任の隊長も心労で除隊したとか。
軍部もわかりやすいことをするなぁ。
…展開が読めすぎて辛い。頑張ろう。

「以上の事でいいかな。何進君?」

「はい。了解しました廬植さん。洛陽にはまだ戻ったばかりで色々と準備が必要ですが、近いうちにそちらの私塾へ顔を出します。」

「あぁ、そうしてくれ。私のほうにも色々準備は有るからね。近衛軍に関しては近日中に皇后陛下からの紹介状が届く手筈だからそれを持っていきなさい。」

「本当に何から何までありがとうございます。」

「いや、私は何もしてないさ。全ての道筋は何真君がつくってくれてたからね。彼の遺志を継ぐ。それが私達清流にできることさ。」

「父さんの遺志…」

「そうだよ。彼は宦官が専横を行う現在の朝廷の状況をとても苦々しく思っていてね。世の中のためにも、そして皇帝陛下のためにも権力をあるべき場所に戻そうとしたんだけどね。志半ばで洛陽を離れざるを得なくなってしまった…。今回はもう宦官どもには負けるつもりは無い。」

「そうだったんですか…。お互い頑張りましょう。とりあえず、当面は近衛で頑張らないとな。」

「そうしてくれ。君の実力に関しては朱儁から聞いてるから心配はしてないよ。思う存分やってくれていい。その他の雑事は私達に任せてくれ。」

「お願いします。」

「いい返事だ。話は変わるけど、君は本当に何真君に似ているな。私が彼と初めて会ったのもちょうど君の年齢ぐらいの時でね。あまりに似ているから驚いたよ。」

「そうなんですか?」

「自分じゃあまり分からないかもしれないけどね。まぁ、何真君に似ているから君を信じてみようと思ったのもあるな。」

「……そんな理由で信じていいんですか?」

「今はいいさ。君には内緒だけど別の手段も準備してるからね。だけど、信じたいんだ、君を。あまりに似すぎてるから。何進君、期待に応えてくれ。そして私達に未来を見せて欲しい。」



side 何進

洛陽に戻って来てから数日がたった。
何家の屋敷からは近衛や私塾が遠いこともあり、俺は朱儁とそれなりの屋敷で二人暮らしをすることに。
……それ、なんて新婚?

中古で手に入れた屋敷を片付け、生活基盤を整えた俺たちは現在、廬植さんの私塾へ向かっている。
廬植さんの私塾は洛陽の中心部と外郭部のちょうど真ん中辺りに有り、身分を気にせず通える立地になっている。
寮も完備しており、洛陽のみならず地方からも多くの子弟が集まっているらしい。

教える内容は論語や孟子といった基本的な教養にはじまり、実践的な政治、あるいは兵法、さらには武術と多岐にわたる。
元々は廬植さんの個人的な伝を元に教師を集めていたらしいがあまりのクオリティの高さに、いまではその私塾が文化人、知識人、武人のサロンと化しているらしい。
私塾の門弟達はそのような人々に囲まれて思い思いに学んでいるとのこと。

私塾の敷地の門をくぐるとそこは活気に溢れていた。
ちょうどお昼時で天気もいいということもあり、多くの人たちが庭に持ち出した机で食事をとりつつ議論に華をさかせていた。

「思っていた以上だな。朱儁は昔、来た事があるんだっけ?」

「そうですね。漢中へ行く前は時々きてましたよ。本当に色んな人がいるので飽きないですし、武術もここでいろんな人と手合わせしながら磨きましたし。」

「へぇ。」

「昔もかなりの活気でしたが、今はより凄くなってますね。廬植さんもどこまで手を広げるつもりなのやら。とにかく廬植さんに会いに行きましょうか。」



side 劉備

運命の出会いなんて意外とどこにでもあるのかもしれない。

その日もいつものように白蓮ちゃんと廬植先生の授業を受けていた。
ふと、集中力がきれたので横の白蓮ちゃんを見ると、ちょうど白蓮ちゃんと目があった。
彼女も集中力が切れちゃったのかな?

時機が合ってしまったことが何だか面白くて、二人で笑いを堪えていると先生に気づかれてしまった。

「劉備、公孫瓚。まったく…君たちは何がそんなに面白いんだ?しょうがないな、時間も昼食にちょうどいいから今日はここまでにしておこう。私は昼食を食べたら政務の方に戻るかな。」

先生がそう言って教室を出ようとすると、先生の秘書さんが教室にはいってきた。

「どうした?」

「先生にお客様がいらしてます。何進様と朱儁様だそうですが。」

「あぁ、来たか。その二人は問題ない。間違いなく私の客人だよ。先に行って対応しておいてくれ。私もすぐに行く。」

「かしこまりました。」

そういうと秘書さんは教室をでていった。
先生にお客さんか。よくあることだけど、先生の表情はいつもよりも楽しそうに見える。
ちょっと気になった私が先生にお客さんのことをきこうとしたら、

「先生?」

「どうした公孫瓚?」

「お客さんのことを聞いてもいいですか?」

白蓮ちゃんも気になったみたい。

「別に構わないよ。どうした?」

「えーっと、そのお客さんが来たって聞いた時先生が嬉しそうだったんで気になったんですよ。」

「顔にでてたか?恥ずかしいな……。今回のお客は昔世話になった恩人の息子でね。そうだな、歳も近いし君たちも来るかい?」

「いいんですか?」

「彼らも気にしないと思うよ。それについでだから昼も一緒に食べようか。ついておいで。」

私がポーッと聞いてるあいだに話がまとまったみたいで先生と白蓮ちゃんが教室をでていくところだった。

「桃香!早くいこう!」

「今行くよ!」


先生についていった先の部屋には二人の人がいた。
一人は体付きがしっかりしていて、いかにも鍛えてますよといった雰囲気の、意志の強そうな目をした、だけどどこか優しい雰囲気のある男の子。
もう一人はすらりとした体型で、髪を後ろに上げてまとめている落ち着いた雰囲気のとても綺麗な女の子。

私達が部屋に入ってきたときに二人は談笑していて、そんな二人の間にながれる空気をみて、二人はお互いの事を大切にしてるんだなってことがすぐに分かった。
当然私も年頃の女の子である訳で。
いいなぁ、私もいつかは素敵な恋をしたいな。
とか思っちゃっても無理はないと思う。

「何進君、朱儁、待たせたかな?今まで授業をしていてね。」

「俺たちはちょうど到着した所だから気にしないで下さい。約束の時間までまだ少しありますし。ところでそちらのお二人は?」

「私の門弟だよ。歳も近いし、紹介しておこうかと思ってね。ここのことでわからないことがあったら彼女達にきくといいよ。ほら自己紹介をしないか。」

「はじめまして。公孫瓚だ。よろしくな。」

「劉備です。よろしくね。」

「こちらこそよろしく。何進だ。今日からここで政治を学ぶよ。で、こっちが」

「朱儁です。何進様と同じく政治を学びます。よろしくお願いします。ちなみに何進様は私のものなので。」

「は?おい!いきなり何言い出すんだよ!」

「いえ。何進様が公孫瓚さんと劉備さんをジロジロ見てたことなんて何も関係ないですよ?あんだけ熱い告白しておいて他の女なんてジロジロ見てんじゃねーよ馬鹿主とかは思ってないですよ?」

何この可愛い生き物は……?
私と白蓮ちゃんが呆気にとられている内にだんだん空気が甘くなって来た。
何これ。

「悪かったって。名前がひっかかっただけだよ。公孫ってわりと珍しい名前だろ?それに劉姓は言わないでも分かるだろ?」

「そうですね。その通りだと思います。……で?何か言ったほうがいいことがあるんじゃないですか?」

「あぁ、もう!恥ずいから一回しかいわないからよく聞いておけ!俺はお前を愛してる!」

「よくできました、我が主。というわけで公孫瓚さん、劉備さん。我が主は私の事を愛してるらしいのでその辺りはよろしくお願いしますね。」

何進君が恥ずかしさに悶えている横で、朱儁さんはとても満足そうにしていた。
顔を真っ赤にして。
何なんだこのバカップルは。
助けを求めて廬植先生の方を見るとニヤニヤしながらとても楽しそうにしていた。
白蓮ちゃんもどうしていいかわかんないみたいでおろおろしてた。
この場はどうやら私がどうにかしないといけないみたい。

「えっと、よろしくね?」





(あとがき)

第二部開幕。
この話からその他板で連載していきます。みなさんよろしくお願いします。

今回は内容的には「開幕」ですかね?
原作キャラでは公孫瓚と劉備が登場しました。

第二部オープニングを独白で飾ってくれた公孫瓚ですが、最後の方で空気なのは仕様(笑)です。
彼女が本気をだすのは今暫く先になります。
本気をだしたら、彼女は最高よ!!!!!

それではまた。

2010年11月18日投稿。


(追記)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第九話・上 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:42
side 何進

数多くの英傑が登場する「三国志」。
その中で個人として"最強"の称号が相応しい武将は呂布で異論はないと思う。

では兵を指揮する将として"最強"は誰だろうか?
曹操、関羽、周瑜。あるいは諸葛亮。その他にも多くの候補が考えられる。

だがこの質問もある限定を加えると一人の武将に決まる。
後漢末期、すなわち黄巾の乱の前後の時期という限定だ。

漢帝国成立に多大な貢献をした名将"韓信"の再来ともいわれた、漢帝国最後の名将。
「三国志」初期における最高の将。
彼が本気で天下を欲したら、そもそも三国時代さえなかったかもしれない。

三国志初期最強の武将。
それが皇甫嵩だ。



~白き馬は義に従う~第九話•上

side 何進

「何進おじさん、はじめまして!!」

「ぷふっ!主、聞きました?おじさんですって!ぷふふっ!!」

クールビューティの代名詞の朱儁が俺の横で笑いを堪えている。
俺は若干、十四歳で”おじさん”と言われたあまりの衝撃に呆然自失。
それはまぁ確かに劉弁殿下にとっては”叔父さん”にあたるわけだが。そりゃねえよ、殿下…
ていうか入れ知恵したのは間違いなく何思姉さんだろ。
あ、そういえば今は何皇后だったな。

皇太子劉弁。
霊帝の第一子にあたる皇位継承権第一位のお方だ。御歳三歳。
俺の姉の何思姉さんが後宮に入ったのが五年前。
それから順調に霊帝の信頼を得て、そして子を授かったのが約四年前。
生まれた皇子は健康にすくすくと育ち、今現在、俺のことを”おじさん”と宣ったわけだ。

そしてこの皇子こそが俺たち何家と清流が仰ぐべき主になるお方。
何姉さんに似たのか容姿はとても可愛いらしい。機転がきき、頭もいいと専らの噂。
身内贔屓じゃなかったらいいんだけどな。

それはともかく俺と朱儁は現在、宮殿にきている。
何皇后との面会がやっと実現したのだ。近衛への紹介状も直接、皇后殿下から受け取ることになった。

前世も合わせて人生初の朝廷への参内に大いに緊張しつつ、多数の近衛の兵士に監視されながら何皇后殿下の前に案内されたのがつい先ほど。
謁見の間に満ちていた緊張した空気の中のなか、最初に沈黙を破ったのが皇子の先の発言である。
緊張はほぐれたけどさ何思姉さんよ、他にも何かやりかたはあっただろうに。

三歳児の無邪気な発言が場の空気を和ませはじめていたまさにそのとき。
三歳児の無慈悲な発言が場の空気を凍らせた。

「朱儁おばちゃんもはじめまして!」

今、確かに部屋の中の温度が下がった。
凄まじい殺気を横から感じる。そんな殺気を皇子に向けていいんかい!
近衛の兵士達も既に臨戦態勢。ただし女性の近衛兵士は我関せずだった。なるほど、皇子はその歳で早くも女の敵か。やるじゃん。
じゃなくて。
助けを求めるべく姉さんの方を見てみると大粒の汗をかいていた。
…想定外ですか、そうですか。
当の本人の皇子は殺気など微塵も感じないらしくニコニコしている。
コイツは大物になるかもな…。

状況をどう打開しようかと必死に考えを巡らしていると、またも皇子が何かを言おうとしている。
ちょっと待て!まだフォローを思いついてないんだ!

俺は絶望感を感じながら、死刑宣告を聞く死刑囚のような気持ちになっていた。

「母様から聞いたよ!朱儁さんは、何進おじさんと結婚するんでしょ?なら僕のおばさんだ!ねぇ母様、そうだよね?」

奇跡だ。
俺は今、奇跡の瞬間に立ち会っている。
横から感じていた凄まじい殺気はいつの間にやら消た。
ちらりと横を見てみると顔を真っ赤にして俯いている朱儁がいた。超幸せオーラを振りまきながら。
周囲を見渡してみると、近衛のお兄さん方はヤレヤレと呆れ顔を、お姉さん方は俺と朱儁を指差しながら姦しく騒ぎ立てていた。
姉さんの方を見てみるとちょうど目があった。
とてもいい笑顔でサムズアップをされた。


皇子とのなかなか刺激的な初対面を終えた俺と朱儁は何思姉さんと久々の談笑をしていた。

「二人とも立派になったわね。見違えたわ。」

「それはそうでしょう。なにしろ七年ですよ?何思が母親ってことに私は驚きですよ。あなたみたいな腹黒に母親が勤まるんですか?」

「あら?あいかわらず言うわね。そちらこそどこの馬の骨ともしれない男にゾッコンだなんてらしくないんじゃないかしら、朱儁?」

予備知識がなければ冷や汗ものの二人の会話だが実はこの二人、大の仲良しである。
朱儁が俺と共に漢中に行くまでは何思姉さんと朱儁は主従の関係は守りつつも姉妹のように育っていたらしいのだ。

「馬の骨とは失礼ですね。貴方の弟でしょうに。それに何進様はいずれ軍の最高位につきますからご心配なく。あなたのほうこそどうなんです?できもしない子育てに苦労してるんじゃないですか?…あれ?皺、できてますよ?」

「…上等じゃない。表にでなさい。皇后様が直々に相手をしてあげるわ。」

「構いませんよ。七年前と同じだと思わないで下さい。私はめちゃくちゃ強くなりましたから。」

お二人とも、本当に仲良しなんですよね?


キャットファイトどころか虎でもそこまでやらねーよというほどの激しい戦いを二人が繰り広げている間、俺は皇子と遊んでた。
子供は癒されるねぇ。
ていうか朱儁はともかく、姉さんもかなり強いんですが。


遊び疲れた劉弁君が眠りについた頃に二人はお互いの健闘、成長を讃えながら部屋に戻って来た。
もうそろそろ本題に入ってもいいんじゃないかな?

「何進、待たせたわね。」

「主、失礼しました。ついつい熱くなってしまって」

「劉弁君も寝た所だし、ちょうどよかったですよ。朱儁も気にするな。久しぶりなんだからな。」

「じゃあ早速で悪いけど本題に入りましょう。何進、コレを。」

そう言って姉さんが俺に渡したのは上等そうな封筒。

「これが?」

「そうよ。近衛への紹介状。私直筆の上に印まで押してあるわ。はっきりいって国書並みの手紙よ。」

「すごいな…。確かに預かりました。明日、兵舎へ向かえばいいんですよね?」

「確かそのはずよ。詳しい話は帰る途中に何家の本宅に寄って聞きなさい。」

「わかりました。」

「頼むわね。期待してるわ。今の朱儁よりもよっぽど強いのでしょう?朱儁でさえ、並の武将じゃ相手にならないわよ?まさか本当にそこまで強くなるなんて思ってもみなかった。」

「自分でも驚いてますよ。まぁ見てて下さい。上手くやりますよ。」

「えぇ。本当に頼むわ。……最後にもうひとつ大事な事があったわ。」

「何ですか?」

「朱儁を泣かせたら漢帝国が貴方の敵になるわ。気をつけてね?」

まじっすか。



side 皇甫嵩

ある日の夜。
兵舎の外で素振りをしていると当直の連中が帰ってきた。
今日は僕の所属する部隊は半分が王宮、特に皇后殿下の護衛。もう半分が非番だった。
非番だった僕は寝る前に体を動かそうと外で素振りをしていたわけだ。

素振りをしつつ、帰って来た仲間たちの方を見てみるといつもと何か雰囲気が違う。何かあったのかな?
気になった僕は彼らに近づき、当番部隊の隊長を勤めていた張温に声をかけた。

「張温。任務ご苦労様。なんだか騒がしいけどどうしたんだ?」

「皇甫嵩か。鍛錬かい?精がでるね。いやね、今日の護衛でとてもいいものをもせてもらってね。久々にニヤニヤさせてもらったよ。」

「へぇ、気になるね。教えてもらえる?」

「ならば俺が教えてあげよう、皇甫嵩君!」

そう言いながら興奮気味に割り込んで来たのは周慎。今日の当番部隊の副隊長。美形のお兄さんだが、普段はどうしても三枚目臭が消せない残念な人。お気楽で、陽気な盛り上げ屋。だがこう見えて弓を扱わせたら誰よりも上手い、我が部隊が誇る射手だ。真面目な時はガチでイケメンなのだけどね。
ちなみに張温は”姐さん”。以上。近接戦闘の達人だ。

「周慎、わかったからそんなに近づくな!」

「「俺はお前と結婚する!」「あぁっ、主!私も愛しています!」」

「何なんだその三文芝居は。しかも気持ち悪い裏声で。」

「だから今日俺たちが見た光景のまとめだよ。なぁ、姐さん?」

「若干の誇張はあるけどだいたいあってるかな。周慎の言う通りだね。」

「誰ですかそんなことをしてたのは?」

何だ色恋沙汰か。思ってたよりも分かりやすい話題で残念だ。
そういうのは実際に見るのが楽しいと思うんだよね。
興味を失ってしまった僕は何気なくきいた質問の答えに驚くことになる。

「皇太子殿下の叔父で皇后殿下の弟さんだぜ。……名前は何進。」

その名前は!?

「皇甫嵩君、気づいたか?」

普段はおちゃらけた雰囲気の周慎が真面目な顔をしている。
気づいたら周りの部隊の皆も僕たちの話を聞いていた。

「張温、確かなのか?」

「えぇ。周慎はバカはいっても嘘は言わないよ。それは皇甫嵩も知ってるだろう?」

「そうだったな…。これは皇后殿下にわざと護衛をやらされたか?」

「その可能性はあるわね。実際に今日の配置変更は三日前に突然決まったし。」

僕たちの隊長潰しは皇后殿下の耳に入っていて当然。だとすると、これは何進とやらの売り込みか?
さすが何皇后。計略はお手の物ですか。今回のは分かりやすいが、相変わらず油断ならない人だ。

「二人から見て何進とやらはどうだった?」

「あれはヤバいかもしれないな。試しに何度か狙撃しようとしたけどほとんど読まれてたぜ。」

「私からみても立ち振る舞いに隙はなかったね。人間的にも面白そうな奴だったよ。」

「そうか。二人が言うなら相当なものだね。……何進が来るのは明日だったな。僕も見極めさせてもらうとするよ。」

今回こそは信じられる隊長だといいんだけど。



(あとがき)

皇甫嵩、張温、周慎の三人のオリキャラが登場。
どんどんオリキャラが増えていく…
書き分けが難しい。

2010年11月20日投稿

(追記)

感想版にて指摘をいただいた箇所を訂正。
申し訳ありませんでした。
そしてありがとうございます。

2010年11月21日


(追記2)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第九話・中 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:45
side 皇甫嵩

将が将たる所以はどこにあるのだろう?

武力?

知力?

あるいは人望?

いずれも間違いではないと思う。
だけど僕は、たとえ先に挙げた三つの要素を全て満たしている人がいたとしてもそれだけではその将にはついて行こうとは思わない。

逆に武力が無くても、頭がお粗末でも、人望のかけらも無い最低な人間でもただ一つの力があれば、僕はそれでいい。

僕が将に求めるもの。
それは「結果を出す」力。

武力は僕が補えばいい。張温も周慎もいる。他の隊員も相当の手練揃い。
知力はどこかから軍師でも連れてくればいい。僕もそれなりに自信があるし。
人望は結果がでれば勝手についてくる。

さぁ、何進。
あなたは僕にどんな「結果」を見せてくれる?



~白き馬は義に従う~第九話•中

side 何進

俺の眼前には百名の近衛軍の隊員が並んでいる。
彼ら全員がこれから俺の部下になる。

どいつもこいつも俺の事を探るような、計るような目つきでみているがしょうがないことかな。
軍人としての実績が無く、それどころかおそらく洛陽では俺の存在さえ殆ど知られてなかったはず。まさに突然湧いてきたかのような謎の人物。
しかも皇后の弟で、皇太子の叔父。
気にするなと言う方が無理な話だろ。

隊員達の俺に対する評価は置いておくとして、俺の彼らに対する感想。
一言でいうと想像以上。
全員の一挙一動が研ぎすまされていて、かなりの練度を感じさせる。

隊長が頻繁に変わる事から不良軍人の溜まり場みたいな部隊かと思っていたけど、逆だ。
おそらく部下達が優秀すぎて隊長が認められなかったんだろうな。まさに隊長はいらない子状態。
近衛軍の中でも有数の、もしかしたら一番優秀な部隊なんじゃないか?
そう感じさせてくれるくらいの部隊だ。

隊員の誰もが素晴らしいが、特に凄いのが皇甫嵩、張温、周慎の三人だ。

皇甫嵩は俺が着任するまでは隊長代理を務めていた。
実際の所この部隊は彼の部隊みたいなものだろう。年齢は俺と同い年らしい。
皇甫家は代々続く軍人の家系で有名だ。暫く前になるが彼の伯父も異民族征伐で功名を挙げていたはず。
ようするに彼は将来の軍部を背負って立つことを期待されているサラブレッドなのだろう。
そんな将来有望な人物の彼が所属している部隊が弱い訳がない、っていったところか?
しかし逆になんで皇甫嵩自身を隊長にしないのかね?
事前に入手した資料によると皇甫嵩は文武に優れ部下からの人望も厚いらしい。
年齢的に若いから、だったら俺が隊長になるのもおかしいしなぁ。
資料には詳細不明とありどうやら本人が隊長になる事を拒否しているらしいとだけ書いてあった。

張温は部隊の交代部隊の隊長を務めている。
超近接戦闘の達人で屋内戦等のプロフェッショナルらしい。宮殿内の護衛では欠かせない人材だとか。
部隊の中での立ち位置は「姐さん」。
若い皇甫嵩の手に負えないトラブル等は彼女が処理していたようだ。
そのサバサバした性格から性別を問わず人気があるらしい。

周慎は特に名のある役職には就いていないが、基本的には張温の補佐をしている。
弓の名手で、本人曰く「その矢は千里先の的も貫く」らしい。
陽気でおちゃらけた性格なのでイマイチ真意が分からない人物だが腕が確かな事は本当のようだ。
もともとは狩人あがりの野盗だったらしい。
紆余曲折を経て現在は近衛軍にいるようだ。

ちなみに張温と周慎は昨日、姉さんの護衛をしていたはず。
昨日は本気ではない微妙な殺気を感じたけど、俺の事を計っていたのかな?

さてと、そろそろ自己紹介をしないとな。

「みんな、はじめまして。何進だ。これからこの部隊を率いることになる。よろしく頼む。」



side 皇甫嵩

何進隊長と僕たちの初顔合わせは無難に終わった。
彼がどんな挨拶をするか興味を持っていたが当たり障りの無い挨拶に終始していた。
これまでの隊長達は、皮肉な言い方をするならば、なかなか面白い挨拶をしてくれていたからその点で彼は期待はずれではある。いい意味で期待はずれなわけだが。
着任そうそうで「命を預けてくれ」だの「俺に着いてこい」だの言われても困るだけだし。

彼の無難な挨拶は僕たちの心に特に何も響きはしなかったが、同時に特に反発心も起こさせず、今までに無いほどに何事も無く着任式が終わった。
部隊のみんなの評価もとりあえず「様子見」だった。

……みんな気づいてるのかな、その評価がすでに今までより確実にいい評価であることに。


何進隊長が着任してから既に一ヶ月ほど経つ。
この一ヶ月で彼は隊員達の心をそれなりに掴みつつある。

特に、武力を将の一番大事な素質だと思っている隊員達からの評価はかなり高い。
最初の軍事調練での僕との一騎打ちで互角以上に戦い、さらに勝ちを収めたことが大きかったかな。本気でやったのに負けたのでかなり悔しかったが、あそこまで強かったのは嬉しい誤算だった。
それ以降も安定して素晴らしい武力を見せていた彼に対して、最近では若い隊員を中心に教えを請うている者もいるみたいだし。
さらに、徒手での戦闘は間違いなく一流だが武器の扱いは二流止まりの何進隊長にたいして、古参の兵達が嬉々として武器の扱いを指導している様子もみた。その際の隊長の素直に指摘を受け入れる態度も好評らしい。

その他にも女性隊員からの評価も高い。
何進隊長の補佐官として同時に入隊してきた朱儁さんへの誠実な対応が、女性的にとても良いものらしい。

逆にモテない男性隊員からの受けは最初は大変悪かったが、最近では周慎と裏でコソコソ何かをやっているらしく、それつながりで男性隊員からの評価も上がって来ている。
周慎曰く、「隊長も”漢”だった」とのこと。その発言をしたときの周慎の顔は作画が崩れていた。とても嫌な微笑みを浮かべていたな。
あの二人は何をしているんだ?

そんな感じで僕たちの部隊はゆっくりとだが、今までにないほどにいい感じで隊長を受け入れようとしていた。
だけどまだ僕は見せてもらってない。
あなたの本気と志を。



side 何進

特に大きな問題も無く隊長に着任してから一ヶ月が経った。
最初は俺の熱意とやる気を猛烈アピールでもしようかと思っていた時期もあったが、何家制作の報告書をしっかり読んだ結果として無難に、自然体で行くことにした。今までの隊長でもやる気も実力もあったが空回ってしまった結果として除隊した人もいたようだし。

現在の所はこの方針が正解だったらしく悪くはない雰囲気だ。
部隊の大半の隊員からは好意的な視線を感じるし、朱儁からの報告でも表立って俺への反感を表明している人物はいないらしい。
ただし皇甫嵩を中心とする一派は未だ俺と距離をおいているが。

皇甫嵩といえば、最初の軍事調練での一騎打ちには正直焦った。
今回は模造刀を用いての一騎打ちだった。
俺は基本的に徒手での戦闘を得意にしているため剣や槍を用いての戦闘は微妙だ。
それに対して皇甫嵩はどうやら剣の遣い手らしく剣を扱わせたら近衛軍内でも一、二を争う程の腕前らしい。

試合が始まるやすぐさま劣勢に追い込まれた俺だったが、模造刀ならではの造りの甘さをついて拳で武器破壊。
そのまま徒手での戦闘にうつり、そこからは何度か危ない場面もあったが、皇甫嵩に勝つ事ができた。

勝つ事は確かにできたが、もし皇甫嵩が実際に愛用している剣を使用していたらわからない試合だった。
武器のことも考えないといけないな。
今現在は部隊の古参兵達に色々な武器を見繕ってもらっているが中々いいものが見当たらない。
手甲なんかも試してみたが、関節の自由度が下がるためあまり好きになれない。どうしたものだろう。

朱儁にも相談してみたが中々良案は見当たらない。本当にどーしたもんか。
ちなみに朱儁は暗器遣いである。……ちょっと怖いって思ったのは内緒な。

武器の話はおいておくとして、皇甫嵩に勝てた事もあったのか、最近では俺に徒手での戦闘を習いにくる隊員もできた。
宮殿警護では武器の持ち込みが一切禁止される場合もあるので俺の技術もかなり役にたつらしい。
そんなわけで部隊の中でも割と武闘派な人々には特に受け入れられてきている。

さらに別の話だが、俺は朱儁との関係で部隊のみんなからバカップル認定されているようで最初のうちは男性隊員からの視線がとても厳しかった。
あまりにも厳しい視線だったので男性隊員のまとめ役的な周慎に相談に行った訳だけど、これが果たして正解だったのかどうか自信が無い。

いつの間にか周慎と洛陽の歓楽街で飲んでおり、とどまる事をしらない俺のテンションが暴走状態に。
俺がどれだけ絶対領域とうなじを熱く愛しているかを延々と語ってしまった。
熱く語る俺の周りにはいつの間にか多くの酔客、もとい同志達が集まっており俺を煽る煽る。
ますます熱くヒートする俺はアホな持論を延々と朝まで語っていたという残念な状態に。
演説をかましている最中には気づかなかったが酔客の中には俺に反感を持っていた隊員達も居り、次の日に隊舎であった際には尊敬の眼差しで敬礼をされた。
ふっ、日本が誇る「萌え」は国籍を超え、更には時代を超える事が実証されてしまった訳だ。さしずめ俺は伝道師といったところだろうか?

その暴走以降、ちょいちょい暇を見つけては周慎やその仲間たちと飲みに行っては語り合っている。
今では酒宴では俺は隊長を飛び越えて、漢(かん)と漢(おとこ)をかけて漢将軍と呼ばれている。……悪くない気分だぜ。

ちなみに朝帰りは最初の一回以外はしてません。
初めて朝帰りをした時の朱儁の対応はやばかった。最初は無表情でぶち切れていたが、最後は泣きながら全力で殴り掛かって来た。
……猛省。



side 何進

それからさらに一ヶ月がたった。
何度か皇甫嵩に補佐されながら宮殿警護の指揮も執り、部隊の長として振る舞う事にもなれてきた。
けどまぁ、指揮のなんと難しいことか。
やることが決まっている警護でさえこうなのだ。
実際の戦争だとどれだけ大変なことやら。

この日も警護を終えて兵舎に帰って来た。
執務室でぼーっとしていると部屋の外に人の気配が。

「隊長、失礼しても?」

「あぁ皇甫嵩か。いいよ、入ってくれ。どうした?」

「新しい命令が軍部から来たのでお持ちしました。」

「そういう仕事は朱儁じゃなかったっけ?」

「はい。ですが彼女は現在来週の警護の調整を別の部隊としていますので。」

「そういえばそうだったな。命令書を見せてくれ。」

そこには、最近洛陽の近郊で賊が発生した事。
洛陽には直接の被害は出ていないものの、近郊の街や物資の輸送に被害がでていることなどが書かれていた。
そして最後にはその賊の討伐を何進隊が行うことと書かれていた。

「なるほどな。報告は聞いてたけどウチの隊が担当する事になったのか。」

「そのようですね。おそらく何進隊長に実戦を早めに経験させておこうという軍部の意向でしょう。」

「だろうね。……出撃は明日の正午にするか。手配を頼む。朱儁にも連絡を。来週の警護は空けてもらえ。」

「かしこまりました。」

いよいよ実戦か……

「何進隊長。」

「どうした?」

「ひとつお聞きしたい事が。」

「何だよ?」

「人を殺したことは、ありますか?」





(あとがき)

皇甫嵩は男。
念のため。

2010年11月21日投稿。


(追記)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第九話・下 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:47
side 朱儁

眼前には先の戦闘で焼け落ちた野盗の本拠地がある。
戦闘は特に問題なく終わった。

こちらに死者はでず、重傷を負った者もいない。
結果だけ見るならば今回の討伐は大成功。

だが戦場跡を検分していたときに改めて気づいた事がある。
戦闘中にも分かっていたことだけれど。

確認できた全ての死体の致命傷が刃物によるものだ、ということだ。
さらに今回は賊の討伐とは思えない程に投降してきた者が多い。
そのほとんどは打撲によって無力化されていた。

……これはまずいかもしれませんね。



~白き馬は義に従う~第九話•下

side 何進

軍部からの命令が届いた翌日には俺の部隊は全ての準備を終えて出撃していた。
隊の全員が騎乗し、さらに必要最低限を除いた兵糧などの物資は途中に寄る街の物を徴発する(もちろんすぐに代わりが洛陽から補填される)という官軍ならではのスタイルをとった俺の部隊の行軍速度は通常では考えられないものだったようだ。

賊も洛陽の動向は気にしてはいたようだが、彼らが想定していた以上の早さで俺たちが対応したため特に有効な手をうつ事も出来ず、ただ本拠地に籠っていることしかできなかったらしい。
朱儁が指揮する諜報部隊の活躍もあり賊の正確な人数、本拠地もすぐに把握する事が出来た。

賊は洛陽からそう遠くない丘陵地帯にあった遥か昔に放棄された洛陽の支城に本拠地を構えていた。
規模は五百人前後とかなりの規模。

元々はどこにでもいるような大した事が無い小規模な盗賊集団だったようだが、洛陽に流れて来た流民を吸収していくうちにこれだけの規模になった。
さらに一度内紛があり、その際にかなり頭がキレる人物がその集団の実権をにぎったらしい。
その結果としてただの賊にしては規模の大きいものになり、さらにはその集団を維持できていたようだ。

地形も把握し、敵の情報も得て現在は賊の本拠地からそう遠くない場所で野営をしている。

「さてと、最後に作戦を確認するぞ?皇甫嵩、頼む。」

「はい。兵力で劣る僕達ですが練度は比べるまでもありません。賊のほとんどは素人である事が事前の調査で判明しています。ですが、わざわざ正攻法で行く必要もないので今回は夜明け前に奇襲をかけます。最初に朱儁さんが率いる別働隊が城内に侵入。門番や見張りは可能な限り無力化。その後確認済みの兵糧庫および武器庫に放火します。朱儁さん、いいですか?」

「お任せを。」

「その後は火の手を確認したら何進隊長と僕、皇甫嵩が率いる部隊がそれぞれ城門の北と東から突撃します。朱儁さんは何進隊長の部隊に合流を。」

「了解。」

「主の事はご心配なく。」

「お願いしますね。所詮は賊ですから激しい抵抗は恐らく無いでしょう。南の城門に逃げようとする賊が集中するはずです。張温隊はそこにあらかじめいてください。殲滅をお願いします。」

「まかせなさい。」

「周慎隊は遊撃を。基本的には張温隊の手伝いをお願いしますが。あとは任せます。」

「まっかせろい。」

「では僕からは以上です。」

「おぅ、皇甫嵩、ありがとな。じゃあそろそろ行くか。各自、自分の部隊に作戦を徹底させておく事。」

「では最後に何進隊長。」

「どうした?」

「外に部隊の全員を集めています。訓示を。」

「やっぱりそういうことってやるんだ?」

「えぇ。やりますよ。お願いします。」



side 皇甫嵩

「全員整列。」

僕の号令に部隊の全員が姿勢を正す。
全員が装備を完全にした臨戦態勢。各人の表情もいい緊張感で引き締まっている。
出撃前の張りつめた、だがまだ静かな、何かを堪えるようなこの空気が僕はたまらなく好きだ。

「出撃前に何進隊長から訓示がある。敬礼!」

一糸乱れぬ動作で僕達の正面に立つ何進隊長に敬礼をする。
今回が初めての実戦ということだが彼には過度の緊張は見えない。今の所は大丈夫そうか?
一応彼の部隊には多くの古参兵をつけたからいざという時は彼らが何とかしてくれるハズだが。

「楽にしてくれ。」

何進隊長の言葉で全員が休めの体勢になる。

「さてと、今回が俺がこの部隊に配置されてからの初の実戦になる。さらに皆知ってると思うけど今回が俺の初陣だ。」

部隊の皆が隊長の言葉に聞き入っている。
彼が何を言うのかとても興味深そうだ。

「俺は上手く出来ないかもしれない。だけど俺はこの二ヶ月以上君たちを見て来て、自分のこと以上に君たちの事は信頼している。君たちは実力も誇りも兼ね備えた最高の武人だ。そんな君たちが俺に力を貸してくれる。これほど心強いことはない。だから最後まで俺を支えて欲しい。そして君たちの力を俺に見せてくれ。」

あくまで自然体、か。
けど悪い気はしないかな。
周りをみても皆まんざらでもない顔をしている。

「それと。今回の敵はそのほとんどが素人だ。死んだら恥ずかしいと思わないか?」

ニヤリと意地の悪そうな表情をする隊長。
なるほど、そうきますか。
そう言われたら意地でも死ぬ訳にはいかない。もっとも、こんな所で死ぬつもりは最初から全くないが。

「だから死ぬな。全員がそろって洛陽に帰還できる事を期待している。よしっ!準備はいいな!全軍、配置に付け!!!!」

『応!!!!!!!』



side 何進

そろそろ夜が明ける。
夜明けのタイミングでの奇襲は常套手段だな。
その他の配置にしろ作戦にしろ特に目新しいものはなく、普通。
いい言い方をすれば王道か?
今回の軍議で気づいたが、俺の部隊には将足り得る人材はいても軍師がいない。
皇甫嵩もそれなりのもののようだがその本質は武人。俺も兵法書を読む事は読むが、ただそれだけ。
朱儁、張温、周慎も同様に武人であってもブレーン足り得ない。
洛陽に帰還したらちゃんと考えとかないといけないな。

俺がそんなことをつらつらと考えていると、俺が率いる事になった隊で副長を務めてくれることになったある古参兵(俺は心の中では鬼軍曹と呼んでいる)が話しかけて来た。

「隊長、大丈夫ですか?」

「んぁ?あぁ、大丈夫だ。大丈夫じゃないように見えたか?」

「放心してましたよ?」

「…そうか?そうかもな。気をつけるよ。」

「無理はせんでください。私も初陣のときはそりゃあ酷いもんでしたよ。」

「そうなのか?」

「えぇ。というか初陣ではみんな大体そんなもんです。皇甫嵩の坊ちゃんでも取り乱していましたし。」

「あいつが?それは見てみたかったな。」

「普段は冷静なぶん見てて面白かったですよ。だから隊長も考えすぎんで下さい。私達もついていますんで。」

「そうだな。ありがとう。…悪いな気を遣ってもらって。」

「新兵の面倒を見るのも私達古参の仕事です。気にしないで下さい。」

「ありがとな。…さて、そろそろ夜明けも近い。準備はできてるか?」

「いつでも大丈夫ですぜ。」

「隊長!副長!煙が確認できました!!」

「わかった!全員、配置に付け!隊長!」

いよいよか……

「準備はできてるな!何進隊、全軍突撃!!!俺に続け!!!」



side 何進

賊が本拠地としている城に向かって突撃をした俺たちだが、矢が降り注ぐ事も無く無事に城に到着。
朱儁達の破壊工作がうまくいっているようで城内は騒然としていた。
さらに俺たち何進隊や皇甫嵩隊があげた閧の声に気づいた連中もいたようでそれがさらに混乱に拍車をかけた模様。

すっかり廃墟と化し、ほとんど門としての機能を果たしていない城門を突破。
そこではじめて賊と遭遇。
ここまでくると流石にそれなりに準備ができている連中もいるようで、多くはないが少なくもない人数の賊が俺たちを迎撃しにきた。

だが一目見てそれとわかる素人。
俺が率いる部隊は瞬く間に賊達を殲滅していく。
俺も近くにいた賊から手当り次第に蹴り、殴り、投げ飛ばしていた。
ちなみに今回の俺の装備は手甲である。他の隊員はほとんどが剣や槍。周慎等の一部が弓といったところだ。

朱儁が放ったであろう火が広がって行く赤い世界のなかで、それ以上に赤い血が舞っていた。
部下達が一切の容赦なく、その剣で、槍で、賊の命を奪って行く様子が視界に入る。

これは実戦だ。
分かっている。分かっているんだ!!

それでも俺の肩の力は抜けず、拳は精彩を欠き、さらに急所をわざとはずして攻撃してしまう。
辺りの賊を一通り無力化したあとに周囲を見渡してみた。
俺が通った後には多くの賊が倒れていたが、そのどれもが生きていた。

そのことに気づいた瞬間、張りつめていたものが緩んだ。
殺さないで済んだことにほっとした。

「主!ご無事ですか!?」

赤い世界の向こう側から朱儁が走って近づいて来たことに気づいた俺は、そのまま彼女に倒れ込んだ。



side 朱儁

与えられた任務を遂行し、急いで何進様のもとへ向かった。
私が到着した時には既に北門付近での戦闘は終結しており、何進様の部下達が残党などを確認しているところだった。
確認が済みしだい張温さんのところへ応援へ向かうのだろう。

そして何進様は己の拳を見つめながら立ち尽くしていた。

「主!ご無事ですか!?」

私がそう叫んで何進様に駆け寄った瞬間に、彼は緊張の糸が切れたかのように私の方に倒れ込んで来た。

「主!主!?……義人!?」

「……大丈夫だ。」

「早く返事をして下さい!本当に心配になりますから!お怪我は?」

「問題ない。かすり傷ひとつ無いと思うぜ。たださ、情けない事に力が入んないや。……しばらくこのままでいてくれるか?」

「はい、主……。副長!」

「おぅ、朱儁の嬢ちゃん。よくやったな。」

「ありがとうございます。主は私が見てますので張温さん達の応援を頼めますか?」

「任せろ!おぃ、お前ら!南門に向かうぞ!……嬢ちゃん、隊長は頼むぜ。」

副長は最後に小さな声で私に耳打ちすると部下を率いて南門に向かって行った。
私の腕の中にいる何進様を見てみると、小さく震えていた。
暫く無言で抱き合っていると何進様がぽつりぽつりと話はじめた。

「情けないな。覚悟はして来たつもりなんだよ。親友と交わした約束も、もちろん覚えているんだ。でもさ、体が動いてくれないんだ。拳に、足に、手に感じる人の感触がさ。どうしてもダメなんだ。あぁ、俺は今、人の命を握ってるって思ってしまうとさ。見ろよ、俺が通った後を。誰も死んでない。本当ならさ、殺さずに済んだことはいい事なんだよ。でもさ、今は違うんだ。そうじゃないんだよ!!俺は!!!」

「義人。もういいです。大丈夫です。わかっています。私はあなたを誰よりも。だから自分を責めないで。」

私がそう言うと何進様は声を殺して泣き出した。

………以前から思っていた事がある。
この人の価値観は普通の人とは違うのではないかということだ。
七年前に出会ってから今日に至るまで私と何進様は様々な死に直面して来た。
旅先で知り合った人、漢中でお世話になった人、はたまた偶然立ち寄った街での全く知らない人の死。
その時々に感じていたのだが、彼は人の死に対してとても繊細な反応を見せる。
彼の中での命の価値が重すぎるのだ。

言い方は悪いが、死はありふれたものだ。
その死に一々それだけの反応をしている彼の価値観はとても奇異なものに私の目には写る。
おそらく大多数の人々も同じように感じるはずだ。
すなわち、彼はどこかがこの世界からズレている、と。

その価値観の相違がどこから来ているのかは私には分からない。
これからも分からないかもしれない。

だが、彼がその価値観を持っている限り戦闘では今回のようになってしまうに違いない。
今回は雑兵相手だったから別に構わない。無力化した人数だけだったら何進様は部隊の誰よりも貢献している。
問題は相手が正規の訓練を受けた兵、あるいは実力者だった場合だ。
彼の心の葛藤は致命的な隙に成り得る。

困ったな。
本当にどうするべきか……




(あとがき)

よくあるパターン?
でも必要です。今後のためにも。

2010年11月22日投稿。


(追記)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第十話 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 16:50
side 曹操

私は自分の才を、そして天命を疑わない。

我は天道を歩む者。天命は我にある。

いずれ来る乱世は私がこの手で治めてみせる。
英雄諸候よ、共に戦乱の世で舞おうではないか。
そしてその全ての諸候は私が叩き潰してみせよう。

…とはいえ、私は現状が把握できないような愚か者では無い。
現在の私は数ある諸候の中の一人にすぎず、その領土も兵力も朝廷内における発言力も微々たるものだ。

私の見立てでは世が本格的に乱れるのはもう少し先になる。
だが、それまでただ静観しているのでは能がない。

私にとっては幸いなことに現在の朝廷内部は二つに割れている。
十常侍を中心とした劉協殿下を次期皇帝に推す宦官派、そして何皇后殿下や清流と呼ばれる文官達を中心とした劉弁殿下を次期皇帝に推す派閥だ。

民衆からの人気は圧倒的に何皇后派が高いが、朝廷内での勢力は宦官派の方が強い。
宦官の権力に対する執着は想像以上に強いようで、まさに手段を選ばず朝廷における有力者、名家を自派に取り込んでいる。

一方の何皇后派は、清流の廬植等が中心になり主に実務者段階での勢力拡大を図っているようだ。
実際に洛陽の街を見回してみても民に近い所にいる役人達は殆どが清流の役人だ。
相変わらず廬植の手腕は素晴らしい。是非欲しいわね。

上から行くか、下から行くかの違いはあるものの両派は互いに負けじと勢力を拡大している。
つい最近までは宦官派が若干有利ではあるが、ほぼ互角の争いを繰り広げてきていた。
正直な所私もこの争いに参加するかあるいは静観するかには迷った。

参加するとしたら私の現在の立場から考えても宦官派は無い。
有力者、名家が集う勢力の中では私の立場は弱くなる事はあっても強くなる事はないからだ。
では何皇后派に参加するか、といってもこれも簡単ではない。
確かに廬植の努力は賞賛に値するが彼女の働きだけでは勝利に至る未来が描けない。
あとひとつ、何かがあれば何皇后派の勝利が見える。

そして私は見つけた。
勝利の鍵を。



~白き馬は義に従う~第十話

side 何進

「おーっほっほっほっ!」

初めての実戦からだいぶたった。
俺が悩んでいようがいまいが時間は進んで行く訳で。
その後も何度か賊の討伐に参加したが未だに殺せない。
本当にどうすりゃいいんだ…

「三国一の名家であるこのわたくしが、あなた方の手助けをしてあげようと言ってるのです。これで負けるはずはございませんわ!」

俺の目の前ではやたらゴージャスな女が高笑いをあげていた。
袁紹。
本人も言っているように名門中の名門である袁家の当主だ。

次期皇帝の座を巡る駆け引きが熱を帯びてくる中で、場合によってはこの勝負の決着をつけかねない超名家の袁家は宦官派、皇后派の両派からの再三の誘いを無視し続けていた。
その理由が袁家の世代交代だ。
袁家の前当主が急な病に倒れたのがおよそ一年前。
それからの後継者選びが難航したようで袁紹が袁家の実権を握ったのがつい最近。

前当主は宦官派への参加を考えていたようだが、袁紹は何を思ったのか皇后派につくべく俺の目の前にいると言う訳だ。
袁紹自身の能力は大した事はない、どころか非常におバカな当主であるというのが世間の評価である。
まだ会ってから少ししかたってないが、俺もそう思った。

しかし袁家の力は半端じゃない。
正直な話、袁家が宦官派に参加していたらこの勝負は終わっていた可能性もある。
それ程のものなのだ、三国一の名家というものは。

「麗羽さま、ダメですよ!何進様は皇太子殿下の叔父にあたるかたですよ!そんなに上からいったらダメですって!」

「いぃんじゃないの?何家よりも袁家の方が強いんだし。ねぇ、麗羽さま。」

「さすが猪々子ね。その通りよ!そして斗詩?わかってないわね。わたくしは袁家の当主なの。いいかしら?」

「うー……。何進様、すいません。二人とも悪気はないんです。許してやってください。」

知ってはいたけど中々濃い奴らだな。
ちなみに今は何家本宅で会合を行っている。
数日前に袁家から突然会合が申し込まれて、俺が何家代表として参加しているわけだ。

「君は?」

「顔良といいます。袁紹さまのお世話をさせていただいてます。」

「そっか。顔良、気にしないでいい。こちらがお願いする立場なんだ。それに袁家が何家よりも強いってのも事実だしな。」

「ありがとうございます。本当にすいません。」

「さてと、袁紹。あなたが我々何家に協力してくれる事はわかった。とても感謝している。ついては劉弁殿下が皇位につかれた際にはあなたにも相応のモノを用意したいと思っている。何か希望はあるか?」

「別に何もいりませんわ。」

は……?
袁紹の答えに意表をつかれたのは俺だけではなかったようで顔良も、おそらく文醜であろう女の子もあっけにとられていた。

「何か勘違いしているようなので言わしていただきますわ。わたくしは欲しいモノは自分で手に入れます。それが袁家の当主としての誇りです。今回あなた方の手助けをしようと思ったのは単に面白そうだったからですわ。」

こいつ、何考えてるんだ?

「それともうひとつ。宦官派の連中はあろうことかわたくしに賄賂を贈ってきましたわ。三国一の名家、袁家の当主であるわたくしに賄賂?笑わせないでほしいですわ。どうせ賄賂を持ってくるなら国庫が空になるくらいの金額は用意しておくべきでしたわね。あの程度の金額だなんて、彼らは袁家を舐めていますわ。」

なるほど。こっちが本当の理由だろうな。
ただのバカではなさそうだ。
誇りをもったバカってところか?しかも意外と芯はしっかりしてそうだ。

顔良と文醜も誇らしげに袁紹のことを見ていた。
まぁ確かにこの二人がついてくるほどの人物なんだ。あまり舐めてかからない方がいいかもな。
……かといって褒めすぎるのもなぁ。評価が難しい奴だ。

「そうか。それは失礼したな。まぁとりあえずこれからよろしく頼むよ。」

「えぇ、よろしくお願いしますわ。それでは斗詩、アレをもってきなさい。」

「はい麗羽さま。」

「袁紹、アレってなんだ?」

「あなた方も何かと入り用でしょう?友好の証に差し上げますわ。」

そういった袁紹が顔良に取りに行かせたのは荷車満杯の黄金。
え、マジ?

「宦官派からいただいた賄賂と、それと同額わたくしから出させていただきますわ。賄賂をただお返ししても面白くないですしね。」

「いいのか、こんなに?」

「半分は元は宦官の連中のものですわ。それにこの程度の金額は袁家にとっては大したものではありませんわ。とっておきなさいな。」

「そうか。ならありがたくいただいておくよ。ありがとな、袁紹。」

「どういたしまして。あなたの活躍を楽しみにしていますわ。では今日はこれで。斗詩、猪々子かえるわよ!何進、ごきげんよう!おーっほっほっほっ!」

最後まで騒がしいやつだったな。
しかしこの贈り物はすげぇ。袁紹の金銭感覚おそるべしだな。

「何進様、お客様は帰られましたか?」

「朱儁か。今帰ったよ。それよりみろよ、これ。」

「なんですかこの荷車は?………なんですか、この黄金の山は。主、怒らないので白状しなさい。どこから盗んできたんですか?」

「ちげえよ!袁紹がおいていったんだよ!自由につかっていいんだってさ。」

「……本気ですか?この金額を?」

「みたいだぜ。」

「さすが袁家、でいいんですかね?どうするんですかこれ?」

「とりあえず侍女長と相談だろ。」

「そうですね。…ちなみに私は今、欲しい服があるんですが。」

「……それは俺が買ってやるよ。」



side 曹操

何進。
最近、突然洛陽でよく聞くようになった名前。
何皇后の弟にあたる人物らしい。

長期にわたり洛陽を離れていた何家の秘蔵っ子、権力争いにおける皇后派の切り札というのが諸候の間で流れている噂だ。
実際に情報収集を欠かしたことがない私でさえ彼の存在を知ったのはつい最近のこと。

この微妙な時期の表舞台への登場。
さらに今までは中立だった軍部が何進の入隊を認めたことから、皇后派が彼に本気で期待していることを感じた私は秋蘭に命じて本格的に調査させた。

秋蘭からの報告によると、何進の武は春蘭にも匹敵する程のものらしい。
秋蘭が見間違えるとも思えないけど、それが真実なら俄には信じがたいことね。

さらに近衛軍においても何進が率いている部隊は統率がよくとれており、何進自身の人望もそれなりのものであること。
また何進の部隊にはかの高名な皇甫家の当主、皇甫嵩も所属しており何進にたいして悪い感情は抱いていないらしい。
軍部も皇甫家の意見を無視して動くとも思えないことから、軍部は宦官派につく可能性はほぼなくなったと見ていいだろう。

それについ数日前になるが、あの麗羽が当主をしている袁家が皇后派への支援を非公式にではあるが、表明した。
これにより皇位争奪戦に対して様子見を決め込んでいた諸候も動き始めている。
麗羽のことだから恐らく深い考えは無かったはずだけれど、結果として袁家の参加により宦官派が有利だった風向きは完全に変わりつつある。

事ここにいたっては私としてもこの権力争いに参加しないわけにはいかない。
何家へすぐに連絡をとり、会合を依頼した。

そして今、まさに何家の本宅で何進が来るのを待っている状況である。
……それにしても遅いわね。
一体いつまで待たせるつもりなのかしら。約束の時間はとうに過ぎてるって言うのに。

我が曹家は現段階では大した勢力ではないからこの扱いはしょうがない事だけれど、この私を待たせるなんていい度胸をしてるじゃない。
何進、この事は忘れないわ。
いずれ覚悟しておきなさい。



side 何進

うっ!?
なんだ今の悪寒は?
風邪でもひいたか?

「主?どうされました?」

「いや、何かへんな悪寒が。」

「風邪でもひかれましたか?」

「わかんね。けど体調は悪くないつもりなんだけど。それより早くいかないとな。約束の時間に大分遅れてるよな?」

「そうですね。曹家の方には悪い事をしました。私の失敗です。すいません。」

「お前のせいじゃないよ。気にすんな。悪いのはいつまでたっても帰らない名家の皆さんだよ。まったく、袁家がこっちにつくってわかった瞬間押し寄せて来て。しかも図々しいことこの上ないな。さっさと帰れっつの。」

「確かに。ですが彼らも家の行く末がかかっているのでしょうがないですよ。あぁ、主。こちらの部屋でお待ちです。」

「あいよ。じゃあ、いくか。」

部屋に入って俺が目にしたのはひとりのちびっ子と落ち着いた雰囲気の女性。
二人とも一目見てただ者ではないとわかるオーラを放っていたが、特にちびっ子の方は凄い。
なるほど、これが「乱世の奸雄」か。

ただでさえ圧倒されそうな覇気を放っているちびっ子だが、俺が時間にだいぶ遅れたことがお気に召さなかったようでかなり剣呑な目で俺を見ている。
正直泣きそうです。
曹操に初対面で睨まれるってヤバいんじゃね?

「遅れてすまないな。何家の代理で代表をしている何進だ。こちらは俺の補佐をしてくれている朱儁だ。」

「かまわないわ。こちらこそ忙しい時期に時間を作ってくれたことを感謝しています。曹家当主の曹操よ。よろしく。こっちは夏侯淵。わたしの腹心よ。」

かまわないって表情をしてないんですが曹操さん?

「曹操か。はじめまして。今日は遅れて本当に済まなかった。前に来ていたお客がなかなか帰ってくれなくてね。さて、時間も押してるしさっそく話に入ろうか。」

「そうね。あなたも忙しいでしょうし本題に移りましょう。早速だけれど我が曹家一門は次期皇位には劉弁殿下を推すわ。あなた方に協力させていただけるかしら?」

「ありがとう。助かるよ。こちらこそお願いする。」

「とはいっても曹家自体は大きな影響力はないわよ。それでもかまわないかしら?」

「今は一人でも多く味方が欲しい状況だからな。ありがたい事にはかわりないよ。」



side 曹操

「今は一人でも多く味方が欲しい状況だからな。ありがたい事にはかわりないよ。」

遅れて来たことを除けば特に大きな問題も無く会談は進んでいる。
何進の立ち振る舞いは確かに秋蘭が言っていたように隙がない。これは本当に期待できそうね。
後ろに控えている朱儁と紹介された子もなかなかのものね。

「とはいえ確かに曹家の影響力は小さいな。知ってると思うけどつい最近、袁家が味方についてくれてね。その影響で他の様子見をしていた名家もすこしづつではあるけど俺たちの派閥に参加してきてくれてるんだ。」

ここからが問題ね。
さて、何を言われることやら。
お手並み拝見ってところかしら。

「確かに知ってるわ。それで私はどうしたらいいのかしら?」

「はっきりいって曹家には金銭的な援助や影響力は期待していない。」

「…立場がそちらの方が上とはいえ、さすがに失礼じゃないかしら?」

「話は最後まで聞け。確かに現在の曹家には期待していないが曹操という個人にはとても大きな期待をしている。そして夏侯姉妹にもだ。」

驚いたわね。
こちらのことをかなり把握してるんじゃないかしら。
何家の諜報部隊はかなり優秀だと噂では聞いていたけれど、曹家みたいな中小領主クラスでも把握してるのね。

「とても光栄な評価だわ。それで?」

「実は近衛軍何進隊がそう遠くない将来大規模な増員をすることが決定している。だけど将を任せられる人材があまりいなくてね。」

……これはまずいことになったわね。
誤算もいいところだわ。
この私から人材を横取りする?本当にいい度胸をしているわ。
何進、か。この屈辱、絶対に忘れない。

「だから将を貸してもらえるか?できればそこにいる夏侯淵がいいな。どうだい?」

「私はその申し出を断る事ができる立場なのかしら?」

「俺が言うまでもないだろう?さっき言ったハズだ。俺は曹操という個人は評価していると。」

「ならばこんな扱いをうけて私がただ黙っているとでも?」

「思ってないさ。だけどこっちも割と切羽つまっててね。将を育てる時間も探す時間もそんなにないんだ。それに夏侯淵はあくまで客将扱いだ。こちらの詳しい状況が掴めるって点では君にもそう悪い話じゃないはずだ。どうだ?」

どうだ?って言われたところで選択肢は無いに等しいわよ。
迷わずにもう少し早く何家と接触していたら……
私はもう二度と迷わない。
そしてこの屈辱も忘れない。

「秋蘭。いってくれるかしら?」

「華琳さまの命であればどこへでも。」




(あとがき)

秋蘭!秋蘭!

2010年11月25日投稿


(追記)
2010年11月27日改訂。
感想板にてご指摘いただいた一部カタカナ外来語を漢字に置き換えました。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第十一話 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/11/27 23:49
side 孫策

南の呉の地で母様は何やら画策しているようでとても忙しそうにしている。
母様が何をしているか全く気にならないと言えば嘘になるが、かといって興味があるかと聞かれたらそうでもないと私は答える。

正直な話王族なんて面倒なだけだし、まして国を治めるなんて酔狂な事に関わる気もしない。

私は自由に、何ものにも縛られずに生きて行きたい。
立ちふさがる障害があるなら薙倒し、そこに道がないなら私が創る。

私がどれだけ自由を愛しているかを冥琳に熱弁したら鼻で笑われたけれども。

そんな訳で、上手くいって母様が国を手に入れたとしてその王位を譲るなら蓮華にして欲しいと切に思う。
母様が引退する頃には蓮華も立派になってるだろうし、責任感の強いあの子ならきっと上手くやる。

私は自由に、気ままに、気楽に生きていくわ。

とはいえ私も一応孫家の長子であるわけで、いつまでもふらふらしているわけにもいかないらしい。
どうやら母様は朝廷での権力闘争に首をつっこんだらしく、何家への支援として私と冥琳を何進とやらに貸し出すことにした。

そういう話はせめて本人のいるところでして欲しいものだけれど。
面白そうではあるから嫌ではないけれどね。

せいぜい楽しませてもらうわ。



~白き馬は義に従う~第十一話

side 朱儁

袁家の皇后派への参加。
そして曹家等の中小諸候の皇后派への参加の増加により、均衡していた権力争いは少しずつではあるが皇后派に傾きつつある。

これ自体はとてもいいことなのだが、ひとつ困ったことがある。
何進様の件だ。

諸候が皇后派に参加するようになってきた最大の要因は袁家の参加だが、もう一つの大きな要因は何進様の武の評価が鰻上りになっているため。

初出動の際に百人隊で五百人の賊を損害無しで殲滅したことが評価されたのか、あれ以降も賊の討伐は基本的に我が隊が対応するようになった。

本来ならば近衛軍は朝廷を守護することが役目なため民衆の目に触れる機会もほとんどなく、精強であるという噂程度しか流れない。
そのために実をいうと近衛の存在感は諸候の間でも意外と薄かった。

だが、最近の世の乱れの結果として近衛が表舞台にたつことも増え、そして最も脚光を浴びているのが何進隊というわけだ。
先にも言ったが、賊の討伐は朝廷の守護という本来の任務から外れる。
そのため逆に朝廷警護の任務に慣れておらず、さらに一回目で上等な結果を出した何進隊が半ば賊の討伐専任部隊のようになってしまった。
……もっとも、軍部の意向としては権力闘争に直接関わっている人物をできるだけ宮中に入れておきたくなかったからかもしれないが。

ともかく。
何進隊は近衛軍としては異例な頻度で賊の討伐に出兵し、そのどれもで素晴らしい戦績を収めている。
自画自賛になるが、未だに戦死者無しは正直私もすごいと思う。

その素晴らしい戦績の立役者が何進様である、というわけだ。

ほぼ初めて衆目にさらされた近衛軍。
そして噂に違わぬ精強な部隊。注目度は抜群だろう。

……さらにその若き隊長は可能な限り「不殺」を貫いているとなれば。

実は何進様は未だに一人たりとも殺せていない。
私も、皇甫嵩君も、何進様の隊の副長を努めてくれている古参の兵もまぁ初陣は仕方が無いとした。
実際に殺せない例はあるからだ。

だが私が懸念した通り、出撃する回数を重ねても何進様は一向に殺す踏ん切りがつかないようだ。
それであの武勲なのだから大したものではあるが。

世間の注目を浴びる武将が、「実は人を殺した事が無い」事実が知られる事で朝廷での権力闘争に悪影響を与えることを危惧した私は部隊には箝口令をしき、世間に対しては何家の諜報部隊を駆使して欺瞞情報を流すことにした。

それがすなわち「不殺」である。

何進様が「殺せない」という証拠が無ければ、その事実に気づいているであろう部隊員たちに箝口令を敷くだけで済む。百人程度だったら完璧な箝口令が敷ける。
しかし、我が隊は出撃するたびに大量の投降者を引き連れて洛陽に帰還する。
皆殺しが当たり前の賊討伐での、毎回の大量の投降者。
さすがに不自然なのでなんとか理由付けをしたといった感じだ。

だが皮肉なものでこの欺瞞情報がうまくいった。
民衆はいつの時代も徳やら仁やらあるいは義には弱いようで「不殺」の何進様の評価は高まる一方というわけだ。

以上のように民衆からの支持、そして実績が認められた何進隊は近いうちに大規模な増員を行う。
今までよりもより大きな争乱にも対処でき、さらに洛陽周辺だけでなく全国各地や或は長城の防衛に当たることになる。

規模としては千五百人を予定しているらしい。
ここまでくるともはや近衛軍の一部隊ではなくなる気もするが。

この規模についてはまた色々と事情があるようで、どうやら現在の皇帝も絡んでいるようだ。
何思様の報告によると、かねてから常備軍の創設を切望していた皇帝がいい機会だから実験的に常備軍的なものを創ってしまおうとしたらしい。
この何進軍の運用が上手く行けば、そのまま漢の常備軍として近衛から引き離されて独立することになる。
そうなった場合でもその軍の指揮官が何進様であれば、皇太子の叔父でもあるため身分的にも全く問題ない。

話は戻るが、百人隊が一気に千五百人の部隊になる。
はっきりいって無茶だ。
増員される人員は千四百人だが、その大半はいままでの賊討伐の投降者で構成されることになる。あとは有志を募っている段階だ。
ちなみに近衛軍からは何進隊以外からは一兵たりとも参加しない。

賊の投降者だった者達も生活苦から賊になってしまった者がほとんどであったため、生活が安定してさえいれば人格的にもなんら問題ないとして軍務につくことを条件に恩赦される。
さらにこれは完全に嬉しい誤算だが、投降者の殆どが何進様によって無力化された者であるため何進様に対する忠誠心は意外な程に高い。

そして問題はここから。
すなわち、その千四百人の練度がかなり低い事。
そして将が全く足りていないという事。

何進様の悩みだけでも私としては一杯なのに、さらに軍備のことも考えないといけない?
さすがに手が回りませんよ。

「ねぇ、公孫瓚?私の話を聞いていますか?」

「聞いてるよ。というか呑み過ぎじゃないのか?機密も漏れてたぞ?黙っといてあげるけどさ。」

「何ですか、私が酔っているとでも?このくらいじゃあ酔いませんよ。それよりあなたももっと飲みなさい。」

「あーもぅ、完全に酔ってるじゃないかよ!なぁもう帰ろうぜ?何進も心配してるんじゃないの?」

「うっく。酔ってないですよ。何回いわせるんですか。それに何進様はまだ隊舎でお仕事中ですよ。……美人さんとね!!」 ドンッ!

「うわっ、机叩くなよ!夏侯淵だっけ?確か曹家の武将じゃないのか?なんでそんなやつと何進が隊舎で仕事してるんだ?」

「実は紆余曲折を経て夏侯淵さんは何進様預かりの客将になったんですよ。千人規模の部隊の指揮も経験があるらしくて部隊増員の件で何進様とお話中です。」

「あの人材拾集癖で有名な曹家の当主から武将をまきあげたのか!?」

「しょうがないじゃないですか。今は目をつけたら片っ端から引き抜いてますよ。権力をふりかざして。」

「最悪だな、お前ら。」

「ちなみに残念な普通な人には声をかけてません。悪しからず。」

「なぁ朱儁、いくら酔ってるからってそれは私も怒っていいよな?」

「私がいつあなたの名前を出しましたか?記憶に全くないのですが?」

「はぁぁぁ。もういいよ。私が送るからもう帰ろうぜ?店主!お勘定!」

「な?!私はまだ飲み足りません!それに酔ってもいません!……うっぷ」

「ほら急に大声出しながら立ち上がるから。まったく。帰るぞ!」

「うぅ、義人ぉ……家に帰ってなかったら死刑ですからね。」



side 何進

「今日はこの辺にしておくか。つきあってくれてありがとな夏侯淵。」

「べつに構わないさ。華琳様の命だからな。」

「皇甫嵩もこんな時間まで悪いな。」

「僕の方こそ気にしないで下さい。あなたの部下なんですから。」

「まぁそうなんだけどな。じゃ、おやすみ。」

今日の結論としてはやはりせめてもう二、三人は将足り得る人材が欲しい、ということだった。
まず千五百人を三つに分けるとして何進隊、皇甫嵩隊、張温隊。
さらにそれぞれの隊に副官として朱儁、夏侯淵、周慎が配されることになった。

練度が高い軍ならこれで充分だが、今回は賊上がりの素人を一から鍛えて行かなければならない。
それに将来的にさらなる増員の可能性もある。
そのため各隊にあと一人ずつくらいは副官が欲しいということになった。

少数部隊を指揮するなら近衛出身の隊員でも問題はないが、近衛では俺みたいな隊長でさえ百人しか率いていなかった。
多数の人員の指揮を彼らに求めるのは畑違いだろう。

どうにかして将を引っ張ってこないとなぁ。
ちなみにすでに各方面から夏侯淵のように何家の力を使って人材はひっぱってきてはいるが、これはという人材がなかなかいない。
実際に増員が行われる予定の日も近づいて来ているので、急いで陣容を整えなくてはいけないんだけどね。
ほんとどうしたもんかなぁ。

そんなことに考えを巡らしていると家に着いた。
もう朱儁は寝てるかな?

「……ただいまー」

「おかえりなさい、義人。」

「うぉぅ!びっくりした!起きてたのか?ていうか酒くせぇ!」

「ちょっと普通の人と飲みに行っただけですよー。べつに酔ってないですよー」

「公孫瓚とか?わかったからもう寝ようぜ?な?」

「夏侯淵さんとはお楽しみでしたかぁ?」

「は?何言ってんのおまえ?皇甫嵩も一緒だったし、それに真面目に軍務について話をしてただけだ。やましい事はしてねぇよ。」

「……本当ですか?じゃあ、ちゅーしてください。それで死刑は無しにしてあげます。」

「あぁ、もう悪かったよ!ん!」

「………えへへ。義人、大好きですよ!」



side 朱儁

酒は飲んでも呑まれるな。
まさしく至言ですね。
昨晩の記憶は厳重に封印処理をしておきますか。
……でも、ああいう甘え方もアリ、かな?

今日は廬植先生の私塾で政治を学ぶ日。
今回は残念ながら何進様は忙しいので私一人だけこうして塾へやってきた。

公孫瓚や劉備さんと机を並べて講義を聴いている。

積極的に表舞台に立とうとせず一歩引いて物事を見る点が似ていたのかは分からないが、公孫瓚とはいつの間にかかなり仲良くなっていた。
今では昨晩のように飲みにいって愚痴まで言える関係だ。親友といっても過言じゃないかもしれない。
恥ずかしいので言わないが。
劉備さんは悪い人ではない、それどころかとてもいい人なのだがどうにも苦手でいまいち距離感が掴めない。
友人として適度に付き合っている。

廬植先生の有益な講義を聴き終えた私は公孫瓚達に別れを告げ、兵舎へ向かうべく教室をでた。
私塾の敷地をでようとした瞬間、まるで虎に睨まれたかのような強烈な殺気を感じた。

「っ!!何ものです!?でてきなさい!」

「いい反応だわ。及第点ね。むしろ優秀かしら。」

私の視界が捉えたのは浅黒い肌に扇情的な赤い着物を身に着けた女。この容姿は南方系か?

「私に何かご用ですか?」

「何家の朱儁さんで間違いないかしら?」

「いかにも私が朱儁ですが。あなたは?」

「孫家頭領孫堅、といえばわかってもらえるかしら?」

孫堅?
……思い出した。確か何家の資料でもありましたね。
中央政界が権力闘争にかまけてる隙をついて南の呉の地でなにやら画策していると。

「南ではうまくいっていますか?」

「その返答だとちゃんとわかってくれてるみたいね。よかったわ。」

「それでその孫堅様が私に何の用ですか?」

「最近話題の何家が気になってね。ほら、この敷地は出入り自由じゃない?貴方が今日くるって聞いたから一目見に来たのよ。」

「あなたは南にいると聞いていましたが?」

「つい先日洛陽に戻って来たのよ。南は一段落したから、せっかくだし朝廷の権力闘争にでも首を突っ込んでみよかと思って。」

「それで私に会いに来たと?」

「そうね。先に宦官派の武将は見て回ったけど悪くはないけれど、といったところかしら。あなたにはとても期待ができそうで満足しているわ。」

「それは光栄な評価ですね。それで?」

「あなたに孫家を何家に対して推挙して欲しいのよ。」

「どういうことです?直接何家に会合を申し込んでもいいのでは?」

「それだと他の中小諸候に埋もれちゃうでしょ?名高い何進の副官であるあなたがわざわざ紹介する、となれば我が孫家の立場は重くなると思わない?」

「確かにそうですが。私達に利益がないのではないですか?貴方が客将になってくれるならそれも考えますが、家名を背負う当主は基本的に客将として受け入れませんので。」

「わかっているわ。私もあなた達にずっとついていられる程暇じゃないしね。代わりに私の娘とその親友を貸してあげるわ。それでどう?親の贔屓目なしであの二人は素晴らしいわよ。孫策って聞いたことないかしら。」

孫策、か。
確かに聞いたことがある。
それなりの家の出自だが、自由に世間を渡り歩いていることで洛陽でも有名な人物だ。この人の娘だったのか。
武勇に優れて、弱者に優しいことでも有名。
最近の民衆の流行の間では何進様が尊敬を集め、孫策が人気を集める、というような話も聞いた事がある。
私は直接は会ったことは無いが眼前の孫堅の娘であるなら期待してもよさそうだ。

それにあくまで推挙するだけだったら問題ないだろう。
最悪の場合、その孫策が期待外れだったとしても私の責任だ。
何家や何進様には大きな痛手にはならないはず。

「いいでしょう。私があなた方を何家に紹介しましょう。詳しい打ち合わせは明日でいいですか?今から軍務がありますから。」

「お願いするわ。またここで会いましょう。じゃあね。」





(あとがき)

まったく関係ないけど、『長門有希ちゃんの消失』は最強の二次創作だと思った今日このごろ。
というか公式であれはズルいw
アニメ化超希望。

…ほんと関係ないな。

2010年11月27日投稿。


(追記)
まったく関係ないついでに。
何やら面白そうな企画をしていたので気分転換がてらpixivに小説を投稿してきました。
興味がある方がいましたら「けーぷ」で探していただくか、「学年一位への割と困難な道のり」で探していただけると見つかると思います。
よろしくお願いします。
ちなみにオリジナル短編作品になります。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第十二話・上 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/12/03 18:33
side 何進

ついに何進隊の大規模増員が公式に発表された。その規模千五百人。
漢王朝が初めて外征可能な固有の戦力を持つ事もあり世間の注目度は高い。

部隊名は『建章營騎』にきまった。詳しい由来は知らないが古い時代の皇帝直属部隊の名前からもってきたらしい。
こういうのは誰が思いつくんだろうな?

そして部隊の指揮官である俺には『羽林中郎将』の位が、部隊のナンバー2である皇甫嵩には『騎都尉』の位が与えられた。
他の隊長、副隊長格の朱儁や張温、周慎等は『議郎』とかいう官位を貰っていた。……客将はまぁ、ね?

ちなみに官位に関してだが、これがややこしいことこの上ない。
今までは近衛の一隊員にすぎなかったわけなので特にこれといった官位は持ってなかったし、官位なんて気にしていなかった。
それがいきなりの中郎将。
この中郎将と言う位、俺も初めはその価値を知らずその官位の授与を聞いた時は「ふーん」で済ませた。
だが朱儁に投げつけられた『百官志』という官位の説明書のような書物を読み、さらに朝廷よりこれから貰えるお給料の明細を渡された時にはマジでビックリした。こんなに貰っていいんですか。

この中郎将。
現代的な感覚で言うならば軍隊の少将や中将にあたるポジションのようなのだ。……マジで?皇甫嵩に与えられた『騎都尉』も格はほぼ同じ。
というわけでこの新設部隊『建章營騎』だが、かなり強い独立行動権を有しているらしい。


で、何で官位にこんなにも詳しく触れているのかというと。

話はやや逸れるが、今までは官位の事なんて触れて来なかったし、『軍部』なんて適当な言い方をしていたし、『近衛軍』とも言っていた。
正確に言うなら『軍部』は『光禄勲府』だし、『近衛軍』は『殿内侍従宿衛』になる。
これが長くて難しい。専門の教育を受けてきている上流階級でさえ日常会話では略したり簡単な表現を使う。俺と同様に、教育は受けてきたが官位はさっぱり分からないという者も意外と多い。
であるのなら名士等の教養人を除いた一般的なこの時代の民衆はどうなのだろうか?

そう。わからない。

今回の何進軍に新たに編入される千四百人。その殆どが賊の投降者である。そして彼らは賊になる前は大多数が農民であり、教育を受けていない。この事実はなかなかに大きい。
官位が分からないということは、軍権や将の力関係がわからないことに繋がる可能性がある。
だからといって小難しい単語を一から教えていくのは面倒だし、手間がかかる。

なので俺が率いる『建章營騎』では小難しい官位とは別に『現代』風な分かりやすい階級制度を採用する事にした。
さらに上意下達がうまくいくように大隊、中隊、小隊などといった制度も取り入れる事に。
この時代の中国に限った話ではないが、近代以前は一人の将が管理する兵数がもの凄く多い。そのために一騎打ちの結果としての全軍瓦解などが有り得る。
官軍がそのような状況になるのはかなりいただけないので、将がやられても部隊が機能するようにしたかった。

もちろんこれらの近代的な軍制は兵器の種類や性能、そのほか様々な要因が無いと実現しても意味があまりないことは分かっていたが、皇甫嵩や朱儁などの『建章營騎』首脳部に提案してみたところ「試してみる価値はある」となったので採用される事になった。
命令系統をハッキリさせることはいいことだし、変な武人のプライドやら形式に拘る人がいない農民母体の新設部隊だからこそできることだな。

以上のように部隊の増員も順調にすすみ、はじめて現代知識(笑)も役にたった俺は意気揚々と過ごしている。
……ちなみに現代知識はホントーに殆ど役に立たんな。
何気なく立ち寄った書店で見つけた算術の書に、円周率の値として3.162が載ってた時には驚いた。現代数学の円周率3.14(ryにかなり近い値が西暦200年前後で既にでてるんだからな。
でもまぁ考えてみれば当たり前のことか。現代人が義務教育課程で学ぶ事なんて遥か古代ギリシャの賢人達が見つけた法則がほとんど。民主主義だって共和制ローマが実現している。貨幣経済なんてそれこそ有史以前からだし。

結局のところ現代知識なんてほとんど役にたたない、というかこの時代でもすでに発想が有るものがほとんどだ。
今のところ役にたったのは現代的な倫理観だけか?……まぁこれも俺に関しては功罪あるけどな。

さて、そろそろ時間だし今日も調練に行きますか。



~白き馬は義に従う~第十二話・上

side 何進

『建章營騎』が創設されてから一年が過ぎた。
増員されたからといってすぐに部隊が機能する訳もなく兵がまともに使えるようになるまではだいたい一年かかった。一年はむしろ短いと見るべきか?
だが、部隊が使えるようになるまで賊の討伐が全くないという事がある訳も無い。
そのためすぐ使えそうな連中は全て俺が直接率いる部隊に最初にまとめて編入され、割と早い段階から稼働していた。残りの鍛えなきゃ使えない連中は皇甫嵩隊、張温隊に配され調練を受けていた。
結果として何進隊の練度は他の隊を遥かに上回る精鋭部隊に。一年も部隊を率いていれば愛着も湧くし、それが強いとなれば格別だな。

ちなみに探していた将だが、まずは孫策と周瑜が加わった。はじめて朱儁が孫堅を何家に連れてきた時には驚いたな。「みんなの嫁」の母の性能には圧倒されたぜ。
朱儁と孫堅は廬植先生の私塾で知り合いになったらしい。そして孫家は何家に対する支援として武将を貸し出す事にした。
それが将来『江東の小覇王』と呼ばれうる人物なら文句は無い。一族の長でもないから客将としても問題ないし。

さらに最後の一人の将を捜していた俺たちに意外な所から助け舟?がだされた。
袁紹だ。
どうやら袁家の私設軍にどうしても袁紹とあわない将がいたらしく、顔良の発案でその将が俺のもとに完全な移籍をすることになった。
袁紹としては厄介払いもできて、俺にも恩を売れていい事尽くめ。俺としても顔良が才能を保障する将なら是非欲しい。
そしてあけてビックリの張郃である。

客将ではなく完全な移籍、更には張郃自身が俺に対して友好的であったこともあり今では彼女は何進軍に欠かす事のできない将だ。
しかも何進軍の女性将校では珍しい明るいノリのよい性格でムードメーカーにもなっている。朱儁は静かだし、張温は姉御肌だからまた別。張郃みたいなタイプっていなかったんだな。
実力のほうも名門袁家の私設軍で将をやっていただけに個人の武にしろ、用兵にしろ申し分ない。マジで袁紹ナイス。

紆余曲折もあり、最終的な部隊の編制は以下のようになった。
 中軍 隊長:何進  副隊長:朱儁、張郃
 左軍 隊長:皇甫嵩 副隊長:孫策、周瑜
 右軍 隊長:張温  副隊長:周慎、夏侯淵
各隊の兵数は五百ずつ。

コレだけ見たらかなりいい感じの編成になったんじゃないだろうか?
中軍以外はまだ実戦に参加していないからなんとも言えないが、あのメンツが一年かけて育てたんだ。問題はないだろう。
三軍千五百人全てを動員しなければならないような争乱の情報は今の所無いし、暫くは交代で出撃になるかな。
ただし北方の異民族が長城内に侵入するような気配も見せているという情報がはいっている。もしかしたらそれが初めての全軍出撃になるかも。

ここ一年のことをふりかえりつつ隊舎内で事務作業をしていたら話しかけられた。

「かーしーんっ!」

「ん?張郃か。どうした?」

「私はヒマだーっ!!何かない?できれば出撃をのぞみますっ!それが無理なら組み手しよう、組み手。」

「あのなぁ。俺は今忙しいんだよ。ていうかお前は書類ちゃんと書いたのか?」

「書類?ふっ、そんな物の存在は私は知らない!」

「お前またサボったのかよ!」


「…何進さん。」

「どうした、急に真面目な顔して。」

「うん。袁家からあなたの元に移ってきて本当によかったと私は思ってるんだ。あなたの武は素晴らしいし、人柄も素敵だ。」

「お、おぅ。」

「でもね。一つだけ、本当に一つだけ袁家の方が良かったなって思えることがあるんだ。」

「何だよ。可能なら対処するぞ。言ってくれ。」

「それは書類の作成!!袁家ではそんなもんなかったからね!どうだい、何進さん。ここは一つ書類は全て廃止してしまってはどうだろうか?」

「……馬鹿なこと言ってねぇでちゃんとやれや。」

「ぶー。何進さんが冷たいー。……じゃあこういうのはどうです?」

ニヤリと不吉な微笑みを浮かべた張郃は衣装の肩紐を外しながら俺に近づいてきた。

「ん……。何進さん……。」



「張郃。そこまでです。」

「あちゃー。朱儁、もう戻ってきたのかぁ。残念だなぁ。」

「いいから主から離れなさい。」

「いててて!刃が!刃が首筋に!分かったから!私が悪かったよ!もぉー。ちょっとからかっただけじゃんかよー。朱儁の大事な人はとらないって。」

「いいから離れなさい。そしてあなたはちゃんと報告書を書きなさい。また軍部から催促が来ましたよ?」

「うへぇ。メンドクセー。ねぇ、朱儁。かわりに、」

「主。終わりましたか?」

「……無視するなよぉ。」

「いよっし。ちょうど終わったぜ。」

「では帰りましょうか。張郃、お先に失礼しますね。」

「張郃!ちゃんと書いてから帰れよ!じゃねぇと明日の調練で俺との組み手は無しな!」

「うぅ。ひどい……。バカップルにおいていかれた。はぁー。しょうがないか。書きますよ、書けばいいんでしょー。」


「あれ?張郃さんお一人ですか?何進隊長は?」

「おっ!皇甫嵩君!ちょうどいいところに!何進さんならさっき朱儁と帰ったよ。そうそう、この書類を明日までにだって。じゃあよろしくねー!ばいばい!私も帰る!」

「ふぅ。相変わらず元気な人だな。…………この書類は本当に僕の担当なのか?」




(あとがき)

エロゲのSSを書いてるハズなのに資料の量が半端じゃないんだ(涙)

2010年12月2日投稿。


(追記)

感想にて指摘を頂いたので本文冒頭?の円周率のくだりを改訂。
誤解を生む書き方をしてしまいすいませんでした。

2010年12月3日。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第十二話・中 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/12/05 18:47
side 何進

情報は世界を制す。
現代社会では当たり前の事だ。

この『情報を重視する』って姿勢はもしや現代知識の有効活用なのでは!?と思いついた俺は、ある日得意げに朱儁に諜報機関の充実の必要性と、いかに情報が大事なのかを説いた。
そしたらまた一冊の本を投げつけられた。

兵法書として名高い『孫子』だ。

当然超有名な書籍なので俺も目は通していた。しっかりとは読んでなかったけれど。
『孫子』は十三篇から構成されている。朱儁が俺に読めと言ったのはそのうちの一つ。『用間篇』。

読んで驚いた。
『用間』とはすなわち、「間者を用いる」ということ。
『孫子・用間篇』には情報収集の大切さを説き、いかにして間者を用い戦争を勝利に導くかが書かれていた。後漢末期の段階でさえ『孫子』は数百年前の書物だぜ?それが現代でも全くそのまま使えるんじゃないかって内容。

偉そうに朱儁に説明しようとしたのを詫びて、逆に現在の何家の諜報機関の詳細を聞いてみることにした。
朱儁の両親は何家の間者だった。その縁もあり彼女も俺の知らない所で色々やってるらしい。さすがに立場もあるので危ない任務には参加していないらしいが。
そして何家の諜報機関だが基本的には姉さんの指示で動いているようだ。俺にちょいちょい回ってくる情報はそのおこぼれってとこか。
大陸の情報はほぼ網羅しているが、特に洛陽の政治関係に特化して情報を集めているとのこと。

それらのことを聞いた後。
前から考えていたことを実行に移そうかと考えていた。
すなわち俺個人の諜報機関の創設である。
俺が欲しい情報と何家が本腰をいれて集めている情報はややジャンルが違う。俺は中央の政争よりも地方の動向を詳しく把握したいしな。

……さらに杞憂かもしれないが、もうひとつ理由がある。
史実では大将軍何進は暗殺される前には何皇后と対立関係になる。このことも俺の心に引っ掛かっていた。

今更になるかもしれないが、俺と何思姉さんはほぼ全く一緒に暮らしてない。ぶっちゃけ姉さんという人物を俺はまだ掴めていないわけだ。家族の絆なんてあったもんじゃない。
現在は利害が一致しているから問題ないが将来的にどうなるかわからない。
そして俺が何家にガセネタを掴まされる可能性も無きにあらず。信じていた諜報機関に裏切られることほどどうしようもないことはない。

それに何家とずっと良好な関係を続けられたとしても、セカンドオピニオン的なものがあっても無駄にはならない。

以上のような理由から俺は自分のための諜報機関をつくることにした。



~白き馬は義に従う~第十二話・中

side 何進

諜報機関を作ると決めたのはいいけれど、ぶっちゃけ組織なんてつくったことがない。
さらに今回は何家のツテが使えない。何家がダメなら朱儁にも相談できないしな。最近は俺が自由に使えるお金は増えてきたんだけど。

どーしたものかと悩んでいたときに、そう言えば使えそうな奴がいたなと思いだした。
周慎だ。
ただの陽気な兄ちゃんに見えるがあれで元盗賊らしい。盗賊がどうやったら近衛になるのか全くわからんが。それに盗賊団で頭もつとめていたとか。

さらに俺と周慎がつるんでいてもどうせまた馬鹿な話でもしてるんじゃないかと周囲には思われるんじゃないか?
周慎とはちょいちょい飲みにいってフェチズムについて熱く語り合ってるし。俺が近衛に入隊するときに何家が調べた資料でも周慎の背後関係はシロだったし。

「というわけで協力してくれないか?」

「何でいつの間にかこんな真面目な話になってんすか。」

いつものように周慎と飲みに行った俺は酒の席で提案していた。最初はいつものようにバカ話をしていたが頃合いを見計らって切り出してみた。

「悪かったよ。けど今日は最初からそのつもりだったんだ。」

「なるほどねぇ。確かに俺と隊長が飲みに行って真面目な話なんてするわけねぇしな。いい隠れ蓑ってわけですか?」

「そういうこと。で、どう?」

「この話、他に誰が?」

「俺とお前だけだ。」

「朱儁さんにも内緒なんすか?」

「そうだ。」

「へぇーぇ。……なるほど。割と本気なわけですか。」

「あぁ。朱儁には悪いけどな。今回は完全に何家は抜きで行きたい。」

「ふぅん。……で、俺は何をすればいいんですか?」

「昔のコネとかあれば俺に協力してくれないか聞いてみてくれないか?お前自身は部隊の副隊長だから諜報機関にさく時間もあまりないだろう?だからまぁ仲介役的な働きを期待したい。」

「妥当な判断ですね。じゃあこれぐらいの金額で協力してあげてもいいっすよ。」

「………はぁ。足元みやがってこの野郎。……いいだろう。その倍だす。それでどう?」

「へぇー!間者の使い方分かってるじゃないですか。間者が使いたいならケチったらダメですよ。うん。いいっすよ。頑張りましょう。じゃあ早速提案なんですけど。」

「なんだ?」

「昔の仲間にはすぐに連絡をとりますよ。でももっと確実に使える連中がいます。」

「どこに?」

「牢の中です。」

「……続きを聞こうか。」

「俺たちが賊討伐で連行してきた連中は現在その殆どが『建章營騎』に入りましたよね。」

「そうだな。」

「でも実はまだ牢に残ってる連中がいるんですよ。」

周慎の説明によると現在牢に残っているのは各争乱で中心的な立場にあった連中らしい。煽動されてた元農民達とは違いそう簡単に釈放するわけにもいかないそうだ。
彼らの中には完全に恐怖政治で集団を治めていたような脳筋もいるが、かなり頭のキレるやつもいるらしい。
そういうやつを上手につかえば組織の運営も任せられるし、他の勢力の介入も防ぎやすい。助けてあげた俺に対しても悪い感情は持ちにくいから、情報の運用などでも信用できるのではないかというのが周慎の考えだった。
ちなみに周慎がどうしてこんなに詳しいのかというと、自分の知り合いが捕まってないか確認したことが以前にあったからとのこと。

「なるほどな。確かにアリだな。でも実際に使えそうな奴はいるのか?」

「何進隊が一番最初に出撃した時のことを覚えてますか?」

「あぁ。……その時の首領がつかえるのか?」

「おそらくはかなりのキレ者ですよ。賊の練度が低かったから大した抵抗はなくて楽な討伐でしたけどね。一番組織的に行動していた集団でした。そもそも洛陽近郊であの規模の賊を完全に制御して、集団の規律を保っていた時点でただ者じゃないですって。洛陽で情報収集も行っていたようですし。」

「言われてみれば確かにな。そうだな、一度会ってみるか。面会とかは可能なのか?」

「あんたはアホですか。せっかく周りにバレないようにコソコソしてるのに表から堂々と面会に行ってどうするんですか。明らかに不自然でしょうが。俺の知り合いに手引きさせますんで明日の夜中にこっそり牢まで忍び込みましょう。」

確かにいきなり罪人に会いに行くなんて不自然極まりない。気づかんかったわ。
やっぱ周慎はいい。いい人選をしたかもしれないな。
……ていうか手引きって。やけに手慣れてる気がするのは気にしない方向でいいか。



side ???

牢に入れられてから二年弱が経つ。
読書にもいい加減に飽きた。早く牢からだすか、それが無理ならさっさと殺して欲しい。

名門の家系に生まれ幼い頃から何不自由無く暮らしてきた。そして才もあった。親の勧めで行き始めた塾ではいつも一番だった。政治も軍略も頭を使う事なら何でもだ。
だけど退屈だった。刺激に飢えていたといってもいいかもしれない。

ある日。
何気なく家を抜け出し、所謂高級住宅街も抜け出した。
そして生まれて初めて貧民街ってところに行った。そこで自分の目を疑った。
どうしてこの人たちはこんなに貧しいんだろうかと。世界はみんな、自分みたいな生活をしているわけではないんだと言う事に心底驚いた。

それから暇を見つけては貧民街に足を運ぶようになった。
自分にとって、飢えた民の世界はとても刺激的だった。
何度か足を運ぶうちに怖いお兄さんに絡まれた。誘拐もされた。とても刺激的で楽しい体験だった。
幸いにして誘拐した人物の上司?は非常に話がわかる人物だった。自分が刺激に飢え、そして頭もいいことに気づくと軍師のような待遇で迎え入れてくれた。
このときばかりは本当についてると思った。死んでてもおかしくなかったし。

自分を迎え入れてくれた人物は裏の世界の住人だった。なかなかに優れた人物でもあった。
彼に頼まれるままに謀略を考えて他勢力を嵌めたり、貧民街の住民を慰撫したりしていた。とてもやりがいのある仕事だったな。
世界が自分の手のひらの上で動いているかと思ったらたまらなく快感だった。

そんなことをしているうちに自分たちの勢力の首領は何を思ったか、街から離れて武装勢力をつくることにしたらしい。
しょうがないから家出をして彼についていくことにした。

彼は洛陽の近くの古城に本拠地を構えて略奪行為をはじめた。
自分たちの勢力が上手くいってることをどこかから聞きつけた流民がだんだん集まってきて、気づけばかなりの勢力になっていた。
気をよくした首領は献策を受け入れる事もしなくなり、さらにただの無能に成り下がっていった。

そんな首領に魅力を感じなくなった自分は同志を集め彼を殺した。
頭が弱くなった人間なんて嵌めることは容易い。

集団の実権を握って暫くたった頃。洛陽で討伐が行われることが決まった。
官軍との初めての戦いを楽しみにしていたけど結果は惨敗。
予想を遥かに超える行軍速度と、部隊の練度をもって官軍は自分達を蹂躙した。

このとき自分の読みは初めて外れた。世の中を舐めきっていたってこともあるけれど、それでもそれなりに迎撃の準備はしていたハズだったんだけどね。
自分が蹂躙されたことに、もの凄く興奮した。
世の中には刺激が満ちてるのかもしれない。

そして自分を蹂躙してくれた張本人が今、格子越しに自分のことを熱心に見ていた。
………ゾクゾクする。

「周慎、本当にこの子が?」

「そうですよ。俺も初めて見た時は驚きましたよ。年端もいかない女の子があの集団の頭領だなんてね。」

彼は何進。
世間で現在もっとも注目を集めている人物。例え牢に入っていても外の情報を仕入れる手段なんて色々あるしね。
そんな人がどうしてこんな時間に、こんな所に……?
明らかに正規の手段を経ずに来ている。
……これは何か面白い事になりそう。

「周慎、この子の名前は?」

「それが名前だけは誰が聞いても答えないらしいですよ。」

実家に迷惑をかけるのも面倒だったからね。

「そうか。……はじめまして。俺は何進。君は?」

「……はじめまして。好きに呼んで。」

「そうか?じゃあとりあえずは”君”で。さて、突然だけど君に協力して欲しいことがある。」

そして何進は自分に諜報機関の構想を聞かせてくれた。確かに中郎将までいったなら個人で諜報機関を持っていてもおかしくない。というか必要になるだろう。
何進と何家の関係が実はそこまで盤石なモノではないということは初めて聞いたけど。

「それで自分にどうしてほしいの?」

「その諜報機関の運営をお前に任せたい。」

「……本気?」

「本気だ。」

なんて面白そうな事を提案してくるだろうかこの人は。
さらに詳しく話をきいてみると、情報さえちゃんと集めるならわりと自分の自由にしていいらしい。
話をしてるだけだけど何進の頭が悪くないこともわかった。都の評判を考えても彼なら自分を満足させてくれるかもしれない。
それに協力するなら今すぐに牢から出してくれるらしい。脱獄だって。脱獄後の処理は自分でしなきゃいけないみたいだけど。それが初仕事。
いいね。権力者の裏の仕事を任される。とても刺激的。

「……いいよ。協力してあげる。」

「本当か?頼むな。」

「……うん。任せて。やるからには手は抜かない。それと、名前。」

「教えてくれるのか?」

「……うん。自分の名前は、司馬懿。」











(あとがき)

友人が狩りに出かけたまま現実からログアウトしてしまいました。

2010年12月5日投稿。



[17208] ~白き馬は義に従う~ 第十二話・下 (恋姫 何進転生憑依もの)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34
Date: 2010/12/07 23:37
side 何進

やる事があるときには時間は本当に早く過ぎていく。
俺は十四歳で洛陽に帰ってきたわけだけど、早いものでそろそろ十八歳になる。
いつのまにか四年が経とうとしていた。

近衛で百人隊を率い、建章營騎を調練して実戦に耐え得る段階までもってきた。
俺個人の諜報機関も手に入れた。
次期皇帝の座も今のところは何皇后派が優勢だ。

乱世に向けての準備は整いつつある。

ちなみに諜報機関だが名前は『猫の手』に決まった。
………司馬懿はああ見えて猫が好きらしい。超意外だ。

ていうかあそこで司馬懿が出てくるなんて予想外もいいところだ。名前を聞いた時はマジで驚いたぞ。
そしてあいつは『司馬懿』の名に恥じない働きをしてくれた。
俺が司馬懿に用意したのは、何家に内緒で購入した洛陽のとある一軒家と俺の私財の一部。人員は周慎のツテのみ。
それが一年も経つ頃には立派な諜報機関になっていた。
正直俺には訳が分かりません。どうしたらあそこまでの規模になるんだ?

とは言え俺も全く何もしていなかった訳ではない。
この時代は実はまだ商人の地位は低い。
そこに目を付けた俺は商会に積極的に出資したり、兵の訓練に合わせて商隊の護衛などもさせてみた。
俺の意を汲んで司馬懿も商人を積極的に利用するようになった。
最近では地位を生かした塩や鉄の密売で俺の資産は大変なことになってきています。何家や廬植先生等の清流に見つかったらマズい事になりそうだけど司馬懿なら上手くやってくれるだろ。

いわゆる汚職にあたる行為であることは自覚している。
だけど実際問題としてお金がない事には話にならないからな。
現在は建章營騎の維持費は国庫から出ているために問題ない。だがその支出を見て卒倒しそうになった。常備軍の金喰い虫っぷりは半端ではない。
たかが千五百人規模の部隊であの支出。冗談でもキツいぜ。まぁウチの部隊の装備が上等で全員騎乗ってのもあるけどな。それを抜きにしても軍隊にお金がかかるのは事実だ。
いざと言うときのために俺が自分で部隊を維持できる程度の経済力を持ちたいと思うのは自然なことだと思う。

さらに俺がお金を貯めている重要な理由がある。
俺は領土をもっていないのだ。

群雄が割拠する条件のひとつとして当然ながら『土地』と『生産力』がある。
漢王朝が機能している現在ならば洛陽にいても全国からの税が入ってくるから問題ない。だが群雄が割拠し始めたら確実に洛陽に入ってくる税は減る。仮に割拠せずとも乱が発生すれば税は減る。
最悪の場合、領土をもたない俺と俺の部隊は飢える可能性もある。
それに備えるためにもお金はあって困ることはない。

で、お金を貯めると同時に最近では土地も狙っている。
突然だが『司隷校尉』という官位がある。簡単に言えば、洛陽を含む『司州』という州の太守のようなものだ。司州は現代でいうワシントンDCのようなもので特別な州になっており、太守がおかれておらず朝廷が直接治めている。
司隷校尉とはその司州を治める役人に与えられる官位で現在は空位になっている。その官位を狙い、最近では手を回している。
補足だが中郎将とこの役職は兼務できる。
史実においても中郎将等の武人としての官位と、行政官としての官位を兼ねていた例は見られたハズ。現に俺の周囲にもチラホラいるしな。このあたりが官位がややこしくて訳がわからない原因の一つなんだけども。さらにややこしいことを言うと司隷校尉は軍権も持っていたりするのだが……
マジ官位意味分からん。

それはともかく。
いい人材が手に入ったお陰で裏で色々とコソコソしているわけだが、もちろん日常もあるわけで。


……振り返ってみればこの時期が一番幸せだったかもしれないな。




~白き馬は義に従う~第十二話・中

side 何進

牢から司馬懿を脱獄させた俺と周慎だったが、ぶっちゃけ後処理が面倒だったので司馬懿に一任。
さぁお手並み拝見と見ていたらいきなり篝火を蹴り倒しましたよ、あの娘は。
乾燥していた時期だったこともあり瞬く間に囚人が治められている建物が火に包まれて行く。……中に人が大勢いるのにも関わらず。

彼女の行動に唖然としていた俺たちだったが、牢の中からの悲鳴で我に返った。
慌てて牢に飛び込み格子を破壊してまわることに。幸いにして木製だったため破壊する事は容易だった。
ほぼ全員の囚人を解放する頃には牢の周囲に近衛が展開し始めており、逃げる囚人と捉えようとする軍人で辺りは騒然としていた。
俺と周慎は近衛の隙をついてその場から離脱する事に成功。今回の潜入の際に手引きをしてくれた守衛が詰める詰め所に、ほうほうの体で辿り着いた俺たちだったがすでにそこには何喰わぬ顔をした司馬懿がいた。

俺の立場や俺が脱走を手引きしようとしたことから、この詰め所が一枚噛んでると読んだ彼女は俺たちが囚人を解放している間にこの詰め所に悠々と現れたらしい。
やっぱすげぇな、コイツは。
だけど今はそれよりも……

「司馬懿。」

「……なに?」

「あれ以外の手段はなかったのか!?大勢死ぬところだったぞ!?」

「……あれが一番効率的。………不殺の噂。あれ、うそ?正確には殺せない?」

こいつ!そこまで読むか!?どういう思考回路してるんだよ。

「今はそれは関係ないだろ!あの方法以外にはなかったのか?」

「……あるよ。なめないで。でもあの方法が一番効率的だったことは確か。それに囚人だし別に死んでも問題ない。……あなたが気に入らなかったっていうならあやまるよ。ごめんなさい。次からはできるだけ人命は尊重する方法を採るよ。……それでいい?」

「それで頼むよ。…今回は俺にも非があるからな。せめてもう少し準備してから君に会いに来るべきだった。すまん。でも人命はもう少し大切にして欲しい。無駄な殺しはしたくない。」

「……わかった。…じゃあ、あらためてよろしくね。」

見た目は、はわわ軍師のようなロリっ娘なのに半端じゃなく危ない奴だな…
それに司馬懿と言えば史実でも色々やらかしてる。これは気を抜いたら危ないな。腹黒とかじゃなくてただの真っ黒じゃねぇかよ。




司馬懿を手に入れてから数日がたった。
結局、牢の火災は篝火の台座の整備不足が原因とされて事故として扱われるようになった。さらに司馬懿の他にも数人だが脱獄に成功した者もいたらしい。
結果として俺や周慎の脱獄幇助もバレず、司馬懿のみが目立つ事にもならず、この司馬懿の策?は成功と言えそうだ。素直に喜べないが。

まぁそれはともかくとして司馬懿は現在、俺が用意した一軒家で暮らしている。
朝廷はメンツを気にしたのか脱獄が成功した者がいることを一般には公開していない。そのため司馬懿もそこまで気を使って隠れている必要はなかった。
念のために長かった髪を切り、男の子のような格好をさせてはいるが。………俺の趣味じゃないよ?

近衛も最近では脱獄囚はすでに洛陽を脱出したと考えているようで洛陽での捜索も打ち切られたらしい。

俺は久しぶりに心落ち着く日常を過ごしていた。



side 朱儁

数日前からそわそわしていた何進様だが、ようやく落ち着いたらしく私の横でボーっと廬植先生の講義を聴いている。
……隠すならもう少し上手に隠して欲しいものだけれど。困ったものだ。

何進様が何家に内緒で個人で動いている事に私はすぐに気づいた。
何思や何家が知ったらマズいことになるかもしれないと思った私は何家への報告をしないことに決めた。その上に何進様に気づかれないように何家に対して隠蔽工作までした。
……惚れた弱みってやつなんですかね。間諜失格です。

しかし何進様も私のことを頼ってくれてもよかったのに。
本気で頼ってくれたら私は何家を裏切っても構わないくらいにはあなたの事を愛してるんですよ?

とかまぁ私も割と下らないことを考えている。
最近では賊の討伐も特になく、軍が出動するような事態も無い。
怖いくらいに平和だ。

あらためて廬植先生の講義に意識を向ける。
初めの頃は本当に基礎の基礎から学び始めた私達だったが、現在ではかなりの水準にまで達しようとしている。
下級の文官の仕事なら今からでもできるくらいにはなっていた。
何進様は私の上を行き、領地経営や軍の維持等にもかなり詳しくなっていた。太守に任命されても問題ないんじゃないだろうか?

そして太守といえば私の友人の普通の子も頑張っていた。
陰口では普通と言われる彼女だが、実際にはかなり高い水準で全ての技能を維持している。
だが逆にその全てを無難にこなすが故に突破力に欠けるという難儀な才能の持ち主だ。本当に残念です。

そんな彼女だがそろそろ国に帰る時期が近づいてきている。
洛陽に上洛する際に実家で決めた期限が迫り、さらに廬植先生も公孫瓚が太守としてやっていけるだろうと判断したためだ。
彼女の帰郷に合わせて劉備さんも帰るとか。

しかし彼女も太守となるわけですか。
公孫瓚とは私塾で知り合った仲なので私にしては珍しく、というか初めての純粋な意味での友人だった。
何家や裏の仕事、地位や情報のためといった制約が一切ない、友人としての付き合い。とても新鮮で本当に楽しいものだった。
よく飲みにいっては愚痴を聞いてもらっていたような気がする。意外と聞き上手なんですよね。

だが彼女ともお別れですか。
寂しくないと言えばそれは確実に嘘ですが、実家を継ぎ民を治めるならば頑張って欲しいものです。



先生の講義が終わった後、彼女の送別会をすることになった。

「ぃっく。聞いてますか?公孫瓚?」

「あぁ、はいはい聞いてるよ。ていうか今回は私の送別会じゃないのか?私はまた酔っぱらいに絡まれてるんだけど?」

「あなたに絡んでるのは酔っぱらいじゃなくてただの美女ですよ。ねぇー主♬」

「……すまないな公孫瓚。朱儁てこんなに酒弱かったんだな。」

「別にいいよ。今に始まったことじゃないしね。それよりも何進も頑張りなよ?私も頑張って太守やるからさ!」

「主。私は無視されるのが嫌いです。返答を所望します。でないと色々と口が滑りそうです。」

「何?!色々ってなんだよ!?お前が言うとマジで怖いから!…えーっと、お前は美女だよ。世界で最高のな!!」

「あるじぃっ!主も最高にカッコいいですよ!」

「………あのさぁ。やるなとは言わないけどさ、せめて家に帰ってからにしないか?」



side 公孫瓚

洛陽での勉強が終わった。私はいよいよ家を継ぐべく国に帰る。
朱儁主催?の送別会を終えてからしばらくたったある晴れた日。私は洛陽の最外部の城門にいた。
私の見送りには多くの人が来てくれている。その中でも三人の人に目がいった。

廬植先生。私に君主としての心得を一から教えてくれた恩人。あなたの教えは忘れません。民が笑って生活できるような国にしてみせます。

朱儁。私の初めての親友。私は生まれが複雑だったために故郷では友人なんてできなかった。洛陽では桃香って友達はできた。でも彼女は私には眩しすぎた。
桃香を見てると、どうしても自分に足りない何かを意識せずにはいられなかった。そんな時に出会ったのが朱儁。彼女は日陰に生きていた。どこか似てるって思ったんだ。
特にこれといった出来事はなかったけれど気づけば仲良くなっていた。

そして何進。
初めて恋をしたんだ。切っ掛けは何だったかな?まぁそれはともかく、初恋は実らないって本当なんだなって思ったよ。
この洛陽で上手く出来たことがあったとしたら、それは彼への気持ちを隠し通せたことかな。本人はもちろん朱儁にもバレてない自信がある。
寂しいけどさ。私はやっぱり隠し通せてよかったと思う。後悔はしてないよ。だからさ、朱儁を幸せにしてやってくれよ?

みんな。また会おう。

「今までありがとう!幽州にくることがあったらいつでも連絡をくれ!歓迎するよ!じゃあ、またな!」











(あとがき)

第十二話・上→張郃  登場
第十二話・中→司馬懿 登場
第十二話・下→公孫瓚 退場

………………w




「……なぁ、本当にこの作品は私がヒロインになれるのか?」


2010年12月7日投稿。


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