検索単語:フェイト
検索結果①:【Fate】運命、宿命。行く末。破滅、最後、死。
検索結果②:【Fate】古代のPCゲーム。
検索結果③:【フェイト】ナイトエンプレス社のホワイトピジョンへの寄付に……
検索結果④:【フェイト】ギルバート・アカイネン監督作品『フェイト』の試写会が…
検索結果⑤……
マリエッタはパネルを叩き、検索結果③の詳細を表示させる。マリアが見つけた、新聞記事の切り抜きが拡大された。
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【寄付総額は30億フォル】
銀河時間の昨夜12:00。業界最大手、エステブランド『ナイトエンプレス社』は、戦災孤児支援基金『ホワイトピジョン』に、総額60億フォルの寄付を行う事を正式に発表した。同社の代表であるミリアム・エロース社長はインタビューに対し、「スキャラモ女史の熱意にうたれた。今後も継続的に寄付をしていきたい」と語っている。
『ホワイトピジョン』代表のジナーナ・スキャラモ女史は、「今回の寄付は、乾田に降った雨のように有り難い。銀河連邦とアールディオン帝国間の戦争による戦災孤児は、未だに増え続けている。一人一人がたった10フォルの寄付をしただけでも、何千何万の小さな命を救える。人々の優しさを信じたい」と呼び掛ける一方、暗に銀河連邦の強硬姿勢を批判した。
女史は三ヶ月前、活動中にスパイ容疑を掛けられ、銀河連邦に拘束されかけており、基金メンバーの連邦への反感は根強い。誤認拘束について、連邦側から正式な謝罪は無く、双方の溝は深まる一方だ。
今回の寄付について、女史は社長との橋渡し役を担ったフェイト氏にも感謝状を贈る考えだが、氏は辞退する意向を示している。氏は二人の私的な友人とされており、「今回の件は、困っていた友人を、助けになる友人と引き合わせただけの事。一人でも多くの孤児が救われる事を祈っている」と、社長と女史の関係強化に期待した。
基金は今回の寄付により、更に活動区域を拡大する見通しだ。
白い平和の鳩が夜空に飛び立てるかは、我々一人一人にかかっているのかも知れない。
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「………」
マリエッタは顎に形のいい指を添え、暫し考え込む。
これを見れば、そのフェイトという青年は、慈善活動家である。齢の頃は20歳前後。
ミリアム・エロースとジナーナ・スキャラモは、いずれも20代半ばから30程であろう。
この二人の友人…にしては、年齢が離れているし、若すぎるようにも思えた。勿論、間違いなくただの一般人などではない。
何処かの組織に所属しているか、そうでなければよほど地位の高い人物と関係しているに違いない…そう考えられた。
タタタタ……
パネルを叩き、ミラージュから送られてきたデータと、写真のデータを統合する。
写真は立体となって浮き上がり、ミラージュのデータにより肉付け、補完がなされ、やがてモニターには、青髪の青年の上半身が現れ、ゆっくりと回転を始めた。
その立体を基にして、更に検索をかける。
必ず、どこかの映像や画像に存在する筈だ…。
【エルファネラル・ラフテリア博士、紋章エネルギーの新法則を発見。紋章生命学、新しい次元へ】
【戦災孤児支援基金『ホワイトピジョン』、CSD財団の傘下へ】
【史上最年少。第43回銀河数学技能一級検定合格、ゲムジル・ハクラ】
マリエッタの指が、止まった。
「一体……何者なの…!?」
雄叫びと共に、再びフェイトに向かって、『テンペスト』が襲い掛かっていった。
フェイトはルムの背に腰掛けたまま、左の拳を向ける。
『ロケットパンチ』
ドンッ
「!?」
煙と共に左手が飛び出し、向かってきた『テンペスト』の鼻を潰す。遠目には、腕が伸びたように見えただろう。
「面妖な…!」
痛みで暴れ回るドラゴンの背からヴォックスが飛び降りると同時に、左手を回収したフェイトも悠々とルムから下りた。
「ッハァ!」
「よっと…」
突き出された槍を、フェイトは右手だけで長剣を振り回して弾き、逸らす。
「ぬぅんああっ!」
ヴォックスは一度背を向けると、素早く身体を翻し、槍を横薙ぎに払う。ギリギリまでしゃがんで避けたフェイトは、そのまま長剣を振り上げるが、ヴォックスは更に素早く身体を回転させると、長剣に無理矢理に槍を叩きつけた。
ギャンッ
「ふはっ…はっ……ははははははァ!」
「……ふっ…」
「あーあ……“使わねぇ”な、こりゃ」
シーハーツ軍。
遠目で一騎打ちを眺めていたアレックスが、ポツリとそう漏らした。
「使わないって……何をですか?」
「えーっと……必殺技って言ったらいいんかな。誰だって、強くなっていく内に自然と、得意な斬り方とか、特殊な術とか出来て来るだろ? それ使えばあっという間なのに、アイツは剣術だけで勝つつもりらしいな」
隣のレナスは、更に首を傾げた。
「え、でも…あっという間に決着が付くんなら、何で使わず…?」
「そりゃ…“あっという間に決着が付く”からだろ」
答えになっていないと、自分自身でもそう思ったらしく、アレックスは言葉を続ける。
「要するに……シーハーツにとって重要な勝利は、戦争の勝利って言うよりも、ケンカの勝利って事だ」
「ケンカの?」
「戦争は、多く殺した方の勝ちだ。ぶった斬り、ぶった斬られ、撃ち殺し、撃ち殺され……戦争を続けられなくなったら、それで決着だ。けど、ケンカは違う。よく“ぶっ殺してやる!”とか、そんな啖呵を切るだろ? けど、本当に殺したら…勝ち負けなんかねぇ。それで終わりだ。ケンカの勝敗は、互いが勝ち負けを納得して決まるんだよ。……負けを認めない限りは、どんな腕っ節の弱いヤツだって、敗者にゃならん」
ヴォックスの槍を、フェイトは舞うような動きでかわしていく。
「出来るだけ長引かせて、掠り傷も負わず、純粋に剣術だけで敵を敗る。勿論、フェイトはあのオッサンを殺さねぇし……ひょっとしたら、オッサンにも掠り傷一つ負わせねぇつもりかもな。とにかく、圧倒的って所を見せつける。……向こうの士気、大暴落だろうな…」
やがて……誰もが、その状況を理解する。
ヴォックスは、あしらわれているのだと。
最初こそ互角に思えた一騎打ちであるが、特に攻撃もせず、ただヴォックスに好きに打ち込ませているフェイトの力量を、ひしひしと感じ始めていた。
一騎打ちなどではなかった。
これはただの、お遊びだ。
現にフェイトは……さっきから、残った右眼を閉じている。
「……まだ、ちょっと足りないかな?」
そしてついに、その場に座り込んでしまった。
「おっと」
そんな体勢にも関わらず、ヴォックスの槍を長剣を回して弾く。
「!!」
「……もうちょっと、ハンデ付けようか?」
「ッッ…!」
回り込もうとするヴォックスだったが、フェイトは左腕を回すと、掌を背中に向けた。
『ロケットアーム』
「なっ…!?」
煙と共に飛び出した左手が、ヴォックスの右足首を掴む。続いてコードが巻き戻され、ヴォックスは地面に倒れ込むと、フェイトの前まで引きずられた。
スッ……
振り向きもせずに長剣を背後へ向け、切っ先を起き上がろうとしたヴォックスの顎に擬す。
「そろそろ…認めたら? どれ程自分が弱っちいのか…」
「………!!」
「エネルギー充填率100%」
「砲撃準備完了」
「……撃て」
空が、割れた
シーハーツ軍の一兵士は、そんな表現を使用した。
突然天から光の柱が降り、二人を包む。
次の瞬間、地面はサンダーアローの時とは比べ者にならない程の威力で爆ぜ、舞い上がった土煙は、そのまま雲になってしまいそうな気さえした。
「……………え?」
レナスも
クリフも
ネルもクレアも
ファリンもタイネーブも
ヘルベルトも
ウォルターも
ソルムも
シュワイマーもデメトリオも
両軍の兵士達も
目の前で、たった今起こった事が理解出来ず、頭の中が真っ白になる。
「……フェイ…ト…さん…?」
一面真っ青の空には、雲の代わりに、真っ赤な塊が浮かんでいる。
再び二つの光が降り、今度は兵士達が吹き飛ばされた。
直後、シーハーツ軍とアーリグリフ軍はほぼ同時に撤退を開始する。より正しく言えば、皆が皆、阿鼻叫喚と共に一斉に逃げ出した。
「……バンデーンの…艦?」
空を覆うそれは、間違いなくバンデーンの戦闘艦だった。
「チィッ…アイツ等……もうレナスの事嗅ぎ付けて…!」
「………え?」
口を閉じるクリフだったが、既に遅かった。彼はもう、喋りすぎてしまっていた。
「……クリフ…?」
「……!」
ギリギリと微かに歯を鳴らし、悔やむ。しかし、全ては遅かった。
「……あれって…ハイダを攻撃したのと、同じ…だよ…ね?」
「………」
「つまり…さ……バンデーン…は……」
顔を歪めて逃げる兵士が背中にぶつかり、レナスは蹌踉ける。
「ハイダにいた、他の誰かでも……お父さんでも…なくて……」
「違う! 落ち着けっ、レナス!!」
「本当の目的は…私……」
「いいからっ、んな事は後だ! さっさと逃げ…!」
焼けこげた、中身が詰まったままの、誰かの鎧。
戦闘艦の攻撃は、あらゆるものを破壊する。
直撃を受ければ、高層ビルとて一瞬で塵となるのだ。
そう……直撃を受ければ………
「……フェイトさ…」
ドグッ……
自分の中で、何かが動く。
これは……いつだったっけ。覚えがある。確かに一度、あった。
そう……カルサア修練場。ネルさん達が処刑されようとしている時…。
目の前から、全ての色が消えて……輪郭だけになって。
あの時は、フェイトさんが助けに……
………フェイトさん………
結局、最後まで…自分の事、ほとんど教えてはくれませんでしたよね。
私……うまい棒が好きって事くらいしか、頭に浮かびません。
一目惚れ、だったんです。
ハイダのファイトシミュレーターで。文字通り、一目見ただけで。
古いでしょうけど……痛い位、頭と背筋がビリビリ痺れたんです。
……色々と、助けてくれましたよね。
私は、赤の他人なのに。
あんなに…親切に……。
わたしの目を見る者は誰も、滅びる定め
わたしの目は炎、わたしの腕は魔法の杖
目はやさしく猛く、頬は赤く白く、言葉は静かで柔らか
それがわたしの魔力
視界から、全ての色が消えていく。
「レナス…!?」
少女の身体が、青白い光に包まれた。
Da wo der Mondschein blitzet(月光が差し照らす)
Ums höchste Felsgestein,(高い岩山に)
Das Zauberfräulein sitzet,(魔力もつ乙女が座り)
Und schauet auf den Rhein.(ラインを見下ろしている)
レナスの淡い桜色の唇から紡ぎ出されたのは、歌声。
(覚醒…するってのか!?)
Es schauet herüber, hinuber,(あちらを見たり、こちらを見たり)
Es schauet hinab, hinauf,(川下を見たり、川上を見たり)
Die Schifflein ziehn vorüber,(そこへ小舟が通りかかる)
Lieb Knabe, sieh nicht auf.(船頭よ、目を上げるな)
静かに目を閉じ、歌い続ける少女の身体が、ふわりと浮き上がった。
So blickt sie wohl nach allen(乙女は瞳の輝きで)
Mit ihrer Äuglein Glanz,(物みな射抜いてしまうから)
Läbt her die Locken wallen(真珠の飾りに飾られた)
Unter dem Perlenkranz.(捲毛も波打ちおまえを誘う)
Sie singt dir hold zu Ohre,(おまえにやさしく歌いかけ)
Sie blickt dich töricht an,(おまえをひたと見つめている)
Sie ist die schöne Lore,(あれが美しいローレ)
Sie hat dirs angetan.(おまえははやくも心奪われる)
天使、だった。
まるで影のように彼女の背後に浮かび上がったのは、風に髪を靡かせる、蒼白の女。
……キュィィィィィィ………
その女が手を広げると、レナスは力無く両腕を垂れ下げ、身体は空中で傾く。再び青白い光が走り、彼女の額から漏れた青白い雫が、紋章を形作った。
Sie schaut wohl nach dem Rheine,(おまえの方を見つめているが)
Als schaute sie nach dir,(あれはラインを眺めているだけ)
Glaub nicht, dab sie dich meine,(おまえを想ってのことではない)
Sieh nicht, horch nicht nach ihr.(見るのをやめよ 耳傾けるのも)
Doch wogt in ihrem Blicke(乙女の瞳に映っているのは)
Nur blauer Wellen Spiel,(逆巻く青い波の戯ればかり)
Drum scheu die Wassertücke,(水のしかける罠を恐れよ)
Denn Flut bleibt falsch und kühl.(河は不実で冷たいもの故)
恩返しなど、何一つ出来なかった。満足な礼さえも言えてはいない。
彼のお陰で自分がどれ程助けられたのか、彼自身はちゃんと、認識してくれていただろうか。
何度助けられ、何度支えられただろうか。何度慰められただろうか。
全て、消え去るがいいのです
あのひとが、わたしのもとに居ないのだから
レナスの額から、一筋の光が空へと走る。
全てを塵へと還す、破壊の槍が。
それはバンデーンの戦闘艦の表面に接触すると、波紋となって艦体を走り、次の瞬間、無数の粒子となって弾けた。
不気味な赤い金属によって遮られていた空が解放され、青が広がる。
「………お休み、レナス…」
もういないはずの青年の、優しい声、そして温もりを最後にして、レナスの意識は途切れた。