静音ケースって何だろう?

December
07
2010

 「バカなサイト」(12月5日掲載)という、ちょっといただけないタイトルを付けちゃったものだから、早速いろいろメールをいただいてしまいまして・・・。まぁ、私の掲載文についての反論ということみたいですが、反論をされても困るかな(苦笑)。実際、あのサイトの掲載文はあまりにお粗末なので、持論をこのブログで展開したということなんですね。しかも、どう考えても私の記述は変じゃないと思ってます。要は、(引用した記事のような)そういう記述の在り方の問題も多く指摘しているわけで、あまりに幼稚で有ることに異論の余地はないでしょう。けれど、それが「正論だ」と言われて、読んだ人がどう受け取るかの問題です。

 

 そういう議論になりましたからここで、もうひとつ、数年前から非常に大きなブームになっていた(いまは下火なのかな!?)「静音ケース」についても少し意見を言いたいと思います。ここ数年、私が物を言うと、負け犬の遠吠えだなんて言われかねなかったので、控えめでしたが、もうそろそろという気持ちもありますので(苦笑)。

 

 自作業界は、5年間くらい「静音ケース」の大ブームでしたね。もう本当に猫も杓子も「静音」!?(笑)。「世界で一番静かなケース」などという摩訶不思議なキャッチコピーも出ちゃったりね、凄いトレンドでした。そんな中で、アルミケース=WiNDyは完全に負け組扱いだったかな。経営でもすったもんだしてた影響もあってか、それが製品にまで波及してしまった。これは本当に残念というか、悔しい経験でした。

 

 静音ケースブーム。まず、登場したのが、「アルミは軽いから遮音できない」という理屈。こんな理屈が表立って歩き始めちゃったかもうたまりません。そりゃ確かに、鉄のほうが単位体積当たりの質量はアルミの約3倍弱。質量が大きいほど共振する壁(ケースのシャシーやカバー、マスクなど)の(振動の)加速度が小さくなるから、遮音性に優れているというのが、論法なのだけれど。この一見非常に説得力のある!?論法は、実測での差異をあまり論じないんです。つまり、それはPCケースにおいては極めて小さくて一般的な計測ではほとんど誤差の範囲といっても良い位なもの。なのに、どうやって「明らかにスティールケースの方が静音だ」と言い切れるのか全く分かりませんね。それよりも、ケースのクリアランスであるとか、開口部をなくすこと(漏音対策)のほうが、はるかに効果的であることは明らかです。もちろん人間の聴覚というのは結構優れていて、直接的な音と反射音の違いは分かる。高音域、中音域、低音域の違いも分かる。ケースのような製品を作る際に、どうすればどんな形で、どんな方向で、ケース内部のノイズが漏れてくるか考えますし、共振音ができるだけ吸収できる機構にしたいとも思うのですが、おそらくアルミ素材とスティール素材の違いを聞き分けるのは(条件が同じであれば)かなり難しいレベルだと思います。それよりも、ファンやHDD等の回転する機構の防音や制音(制振)を考慮した方が断然効果的なわけです。なのに、ケースの性能が静音化の第一歩と論じられたのは、全く合点がゆかないんですね。反論の意味で、(皮肉も込めて)スティールでALCADIAやVRを作りましたけどね。実際、アルミと同じ板厚で作って重量も相当に重くなって、あのくらいやって始めて効果が聞き分けられるというレベルなんですね。あのあたりは、デッドに約3倍の重量がありますから。でも一般的なスティール製の自作ケースは、板厚が薄いからせいぜい2倍あるかないかでしょう?(WiNDyケースと)同じくらいのものもやたらとある。先日の放熱効果の議論よりも、はるかに微妙な問題なのです。

 

 本当に静音にするならWiNDyはこうする、という答えがフルフローティング方式の現在のインシュレータシリーズであり、マスクまですべてアルミ素材を用いたフルアルミ構造なのです。質量が大きければ壁の加速度は小さくなり、遮音効果が増すんでしょう?また、パイル植毛の吸音材を標準搭載したことも、吸音の見地からは非常に正しい選択だと思います。インシュレータはオーディオを齧った方ならばすぐにご理解いただけると思いますが、振動伝達を最小にするには「点」で支えることなのです。しかしその前に、振動を大きく吸収する機構も重要。だから、フルフローティングにしてある。硬質ラバーを振動吸収材として用いることで非常に効果があるわけです。そしてさらに高度なS-LIMITEDまで用意した。正規の計測設備のある部屋で、振動伝達によるノイズを考慮した形で計測を行えば、たとえどんなケースであろうと、WiNDyのインシュレータ装着モデルには、かなわないと思いますよ。

 

 次に、「静音のために出来る限りパーツノイズを削る」という試み。メディア各社も特集記事を組んだりして、自作業界は「静音ブーム」へ。このプロセスでもWiNDyとしては、「性能や耐久性を犠牲にする方法は断固拒否」の姿勢で行こうと思ってました。まず、「静音ファン」でないと売れないので、軒並み回転数を落して、風量が減少してしまった。これは非常に厄介な問題だと思います。ケース内部の冷却はケースファンによるエアフローに依存するので、これが減れば冷却性能は非常に悪化するんです。かといって、高レベルのノイズを発生する2-ボールベアリングファンなどは見向きもされなくなった。静音にするにはスリーブベアリングで・・・という流れ。しかし、これもまたファンの品質に大きな影響があったんですよ。まず設計と加工に問題が出た。ボールベアリング装着を前提としてある程度回転数が高かったファンを、今度はスリーブにして回転数を落とせという。スリーブ部分は油分によるフルフローティングなのでノイズが出ない。理論的には正しいですが、加工は一段と高度になった。つまりかなり高精度な軸受機構を作らないとスリーブの場合は、油切れや焼きつき、接触が生じて却って煩くなったり、耐久性が著しく損なわれる・・・。一時期のケースファンはそういう影響で非常に品質の悪いものが出回りましたね。弊社でも耐久試験を行っていたサーバーの不具合の8割以上がケースファンによるものです。そうして、痛い目に会うんですよね。

 

 INTELなんかも、CPUクーラーのファンノイズで苦労して、可変回転なんか導入しちゃったものだから、ますます静音化の議論はややこしくなった。普段は、低回転で、CPUに負荷がかかると回転数を上げて冷却する。これは、「使うときには煩い」ということですよね?もっともINTELは静音PCのことを考えてそうしたわけではなくあくまで、CPUの冷却対策だったと思います。INTELのCPUクーラー。以前は、マッチングをオフィシャルに認定していたりして、そのデータシートには結構厳しい条件があった。INTEL自身、CPUの耐久性の確保や性能の維持には、かなりの条件が揃わないとダメだと。でも、いつも高回転でまわしていると、本当に煩いし、それよりもファンがすぐに壊れちゃって非常にヤバイことになる。だから、可変回転にしてできるだけファンに負荷をかけたくなかったというのが実際のところでしょう?けれど、それが静音PCには大いに仇となったわけです。

 

 さらに、エスカレートしたのは、ファンレスPC。こんなもの、ヤバいに決まってるのに・・・。電源もファンレス、CPUもファンレス。「静かですよ~~~」といううたい文句。もうやばすぎて議論の余地もないです。電源なども静音をうたい文句に続々登場!廉価なものなどは酷いパーツばかりを使っているのに、ろくに冷却もしないなんて言語道断じゃないでしょうか。もう最近では、電源は品質で語る時代になってます。みんな酷い目に会った。よく考えればコンデンサなんか熱くちゃどうにもならないパーツだから、しっかり冷却しなきゃいけないということが盛んに言われるようになった。廉価電源なんか、「開けてびっくり玉手箱」でしたもんね(苦笑)。そんなものは、もうゴーゴーに冷やすんですよ。(まぁ、冷やしてもやばいだろうけれど。)

 

 いまは、INTELも反省して、かつてのPentium Dのような完全に電熱器のようなCPUは作らないから大丈夫!なんて思ってたら今度はGPU問題が大きく浮上してますね。はじめから分かってたことだとは思いますが、もう今となってはこれは手に負えない問題になりつつあります。WiNDyはここ2~3年は大きく空冷強化に舵を切っています。その理由が今の状況です。水冷の議論も大いに結構なんですが、PCケースの基本というのは、あくまでも空冷にあると考えています。ユーティリティのためにHDDを囲ったりするのは、これまた絶対に良くないし、ワンタッチ機構も良いですが、パーツの健康状態(動作環境や耐久性)を考えると、出来るだけエアフローに晒すべき。そしてケース内部のエアフローをしっかりと作って確保して。それが正解だと思います。それでもWiNDyは決して煩くはないですよ(笑)。

 

 

Posted by hoshino | この記事のURL |