1000の論客、1000の主張 日本最大の論争データベース『日本の論点PLUS』ついに誕生!!
日本の論点PLUSとは? 本サイトの読み方
日本の論点PLUS
執筆者検索 重要語検索
フリーワード検索  
検索の使い方
HOME 政治 外交・安全保障 経済・景気 行政・地方自治 科学・環境 医療・福祉 法律・人権 教育 社会・スポーツ
今週の必読・必勝 日本を読み解く定番論争 議論に勝つ常識一覧
この人の重大発言

写真 「100点満点とは言わないが、冷静に対処したということで、歴史に堪える対応を現在もしていると思っている」 (読売新聞電子版11月10日付)
菅直人首相

11月10日、衆院予算委員会で、尖閣海域での中国漁船による衝突事件をめぐる対中外交姿勢や、事件を収録したビデオ映像が流出したことについて質問されて。

 9月7日に尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件の現場を生々しく収録したビデオ映像が、動画共有サイト「ユーチューブ」に投稿された事件は、神戸の第5管区海上保安本部に所属する巡視船乗組員が神戸市内のインターネットカフェから送信したものであることが、本人の申し出により判明した。中国漁船の悪質な公務執行妨害が明確に撮影された証拠映像であるにもかかわらず、菅政権が中国政府に配慮して公開しないことに、同乗組員が義憤を感じてネット上に流したのではないかという声が多い。

 11月4日に「ユーチューブ」にアップされた流出映像は、2分半から11分半の長さのものが6パターンあり、合計で約44分。投稿者名はsengoku38となっていた。9月7日の衝突事件現場を巡視船が収録した映像素材は全部で10時間に及ぶ。流出映像はこれを石垣海上保安部が内部研修用に編集したものをコピーしたと見られている。

 中国漁船衝突現場のビデオ映像が存在することは、早い段階から前原外相が明らかにしていた。しかし、政府は、この映像を公開して日本の巡視船が体当たりしてくる中国漁船を制御した措置の妥当性、合法性を内外にアピールし、国際世論を味方につけるという方策はとらなかった。「法律に則って粛々と処理する」と明言しつつ、結局は逮捕した中国人船長を立件せず、処分保留のまま釈放してしまった。いうなれば、対中外交に有力なカードを自ら封印してしまったことになる。いうまでもなく、中国政府に“ある種”の配慮をしたためだ。

 映像流出が発覚した翌日の11月5日、石原慎太郎東京都知事は記者会見で「『冗談じゃない。実態を見てもらいたい』という内部告発だろうが、結構なことじゃないか。尖閣の領有権を中国が主張する法的、歴史的根拠は何なのかを、公式に中国に質問したらいい。国民もそれを望んでいる」(毎日新聞11月6日付)と述べた。また鳩山由紀夫前首相は、佐賀市でおこなった講演で「情報流出によるクーデーターのようなことを政府内の人間が行うのは、政権にとって大変厳しい話だ」(毎日新聞11月6日付)と述べて、菅政権の対中外交に対して不満をもつ人間が行政側にいること自体、政権のもろさだと批判した。

 さらに、政府が尖閣映像をそもそも非公開にしたことを批判して、作家の吉岡忍氏は「今の外交は市民が判断できる材料を広く開示し、国民の合意形成をきちんとしなければ行き詰まります。(ネットへの投稿は)日中両政府への批評精神が込められているのではないか」(朝日新聞11月9日付)と語っている。

 しかし、11月8日の衆院予算委委員会では、情報公開を第一義に掲げてきたはずの民主党の、しかも政権中枢である仙谷由人官房長官が、「国家公務員法の守秘義務違反の罰則が相当軽い」(朝日新聞11月9日付)と述べ、情報公開どころか、守秘義務違反の罰則強化を検討する考えを打ち出した。この発言に対しては、中国漁船衝突事件における外交的対応の拙劣さを、もっぱら国家公務員の情報漏洩問題にすり替えようという姿勢に終始している、との批判が出はじめた。

 菅首相も、流出映像事件の責任について、「内閣の責任者は私であり、管理責任が不十分だったことの最終的な責任は、私自身にもある。また、映像を流出させた当事者が国家公務員ならば、監督する立場にある私やそれぞれの部局にそれなりの責任がある」(NHKニュース11月10日放送)と語った。

 APECにおける中国・ロシア首脳の来日を前に、この事件をできるだけ穏便にすませておこうという意図が透けてみえるが、今回の一件で胡錦濤国家主席やメドベージェフ大統領の頭の中に、「外交、とりわけ領土問題では、強く出れば日本は必ず引く」という“方程式”を植えつけたのは想像に難くない。菅首相は、今週末におこなわれる予定のAPEC首脳会議では、尖閣諸島と北方領土はが日本固有の領土であることを明言すると述べているが、これまでの経緯を踏まえると、はたしてそうした姿勢で対峙できるのかどうか、疑問視されている。



関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2010年)長期的展望に立った戦略的思考が東アジア共同体の実現を可能にする
田中 均(日本国際交流センターシニア・フェロー)
(2010年)価値観の異なる国、 中国との共同体の構築――その展望は極めて暗い
櫻井よしこ(ジャーナリスト)
(2010年)民主主義という共通の価値観を欠くG2=米中ニ極論は幻想である
古森義久(産経新聞ワシントン駐在編集特別委員)
(2009年)いまに続く中国共産党の陰惨な異民族弾圧――その最終目標は消滅だ
櫻井よしこ(ジャーナリスト)
(2009年)五輪で進んだ中国の民主化――二〇一五年以降、直接選挙の可能性もある
朱 建栄(東洋学園大学教授)
(2009年)増額したとて効果も支持も得られないODA供与。基本法の制定を急げ
古森義久(産経新聞ワシントン駐在編集特別委員)
(2008年)政治のことばを排した民間レベルでの対話こそが日中の未来を拓く
田島英一(慶應義塾大学教授)
(2008年)二〇二五年までに、共産党中国が必ず終焉を迎える四つの確かな理由
水木 楊(作家)
(2008年)まだまだ伸びる中国経済――リスク過敏になってチャンスを見逃すな
丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授・総長補佐)
(2007年)ソフトパワーを回復せよ――中国に対する協調的政策が米国の利益になる
リチャード・ブッシュ(ブルッキングス研究所北東アジア研究センター所長)
(2007年)もし中国が民主化とは別の道を歩むなら日米は新たな脅威に備える
ダン・ブルメンソール(AEI特別研究員)
(2007年)中国経済は高成長が続く。格差の縮小が新たな成長へのカギ
葉 千栄(東海大学教授)
(2007年)中国は爆発寸前。大国家プロジェクトで国威発揚するしか手のない理由
中嶋嶺雄(国際教養大学学長)
(2007年)遠くない将来、日本はアジア第二位の大国に。中国を正面から見据えよ
莫 邦富(ジャーナリスト)
(2007年)対日宥和は見せかけだ。中国の領土拡大の歴史を知ればそれがわかる
櫻井よしこ(ジャーナリスト)
(2007年)中国人の思考法を理解せずして外交やビジネスを語るなかれ
加藤 徹(明治大学助教授)
(2006年)「膨張する中国」の脅威――日米同盟の重要性はかつてなく高まっている
中西輝政(京都大学大学院教授)

議論に勝つ常識
(2010年)[中国の軍拡についての基礎知識]
[基礎知識]東アジアにおける中国の軍拡の脅威とは?
(2010年)[米中G2論に関する基礎知識]
[基礎知識]「米中接近」をめぐってどんな議論があるのか?
(2009年)[中国の今後についての基礎知識]
[基礎知識]中国の民族問題と経済成長のゆくえとは?
(2008年)[中国経済の現状についての基礎知識]
[基礎知識]中国経済の成長はいつまで続くのか?
(2008年)[中国人の考え方についての基礎知識]
[基礎知識]歴史感覚の違う中国人との溝は埋められるか?
(2007年)[米中関係についての基礎知識]
[基礎知識]米国が中国を「ステークホルダー」と呼ぶ意味とは?
(2007年)[中国経済の現状についての基礎知識]
[基礎知識]中国は急成長による歪みを乗り切れるか?
(2007年)[対中外交についての基礎知識]
[基礎知識]いままでとは違う日中友好の時代は来るのか?
(2007年)[中国的思考法についての基礎知識]
[基礎知識]中国人の考え方は日本人とどう違うのか?
(2006年)[日本外交の軸についての基礎知識]
[基礎知識]中・印の台頭に日本はどう対応するのか?
(2006年)[東アジア共同体についての基礎知識]
[基礎知識]東アジア共同体構想を妨げる要因とは?
(2005年)[個人情報流出についての基礎知識]
情報の持ち出し行為にどう歯止めをかけるか?



バックナンバー


▲上へ

Copyright Bungeishunju Ltd.