社説

2010年11月16日

混乱なかったのは幸いだが

 厳戒態勢の横浜市で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、21カ国・地域の経済統合へ向けた道筋を盛り込んだ「横浜ビジョン」を採択して閉幕した。

 国際テロ関連の情報収集文書や、中国漁船衝突の映像が流出するなど、政府内の情報管理が不安視される中で、大きな混乱がなかったのは、幸いである。

■議長国・日本の責任■

 菅直人首相と中国の胡錦濤国家主席が短時間ながら会談し、冷えきった両国関係を改善する糸口もできた。

 最大の焦点であった域内の経済統合を達成する道筋は、環太平洋連携協定(TPP)や、東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸とする枠組みを並列的に整理しただけで、「世界経済の成長センター」(菅首相)で主導権を握ろうとする、米国や中国の思惑を調整できなかった。

 その最大の責任は、議長国の日本にある。

 責任の第一は、貿易や投資の自由化について国内世論を調整できないまま会議に臨んだことだ。菅首相は「平成の開国だ」と強調するが、宮崎日日新聞社が加盟する共同通信社の世論調査では、TPP参加の賛成派は46・6%、反対派は38・6%と大きく意見が割れ、特に農林漁業従事者の反対派は88・1%に達している。

 国会では、参院で与党が過半数を割る「ねじれ」状況であり、さらに与党の民主党内にもTPPに対する慎重論や反対が根強い。首脳会議の会場に近い桜木町では、「貧困と格差を生み出すAPECに反対」と訴える大規模なデモもあった。

■国内世論の調整課題■

 責任の第二は、沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国、北方領土をめぐるロシアとの稚拙な外交だ。リーマン・ショック以降、世界経済が不安定さを増す中で、本来は経済問題を議題とするAPECには大きな期待が寄せられていた。

 日本が当事国となるような政治問題が影を落とし、必要以上に経済対話の機運を後退させた責任は、失態と呼んでもよいくらい重い。

 首脳会議では、域内の先進国が2010年までに貿易・投資の自由化達成を目指すとした「ボゴール目標」の評価についても議論した。国別の評価は公表されなかったが、日本の立場が苦しいことは間違いない。

 これは必ずしも菅政権だけの責任ではないが、いわば自由化について悩んでいる「生徒」が学級委員長になって、自由化推進会議の司会をするという違和感が最後までぬぐえなかった。

 日本の通商政策が不透明なままでは、交渉相手国は踏み込んだ協議に入れず、対応しようにも、戸惑うばかりだ。

 今の日本にとって、通商政策について国内世論を調整することが緊急の課題だ。


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