[米中ロ首脳会談]明確でない外交の方向

2010年11月15日 08時57分この記事をつぶやくこのエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録

 横浜市で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、菅直人首相にとって、失敗の許されない会議だった。

 尖閣諸島、北方四島の領土問題で中国、ロシアとの関係が悪化し、同盟国アメリカとも米軍普天間飛行場の返還問題でぎくしゃく。菅政権は、内政外交ともに八方ふさがりの、かつてない閉塞(へいそく)感に陥っている。APEC首脳会議は、政権浮揚をかけ、背水の陣で臨んだ会議だった。

 菅首相は議長国として会議を取り仕切る一方、その合間を縫って米国のオバマ大統領、中国の胡錦涛国家主席、ロシアのメドベージェフ大統領ら各国首脳と相次いで会談した。

 関係悪化に歯止めをかけたという意味では成果かもしれないが、政権浮揚につながるほどの成果とは言い難い。ほころびがこれ以上広がらないよう、応急手当てを施したようなものだ。

 APEC首脳会議と、一連の首脳会談を通して浮かび上がったのは、日本を取り巻く潮流の変化である。

 米国の力が低下し、逆に中国が猛烈な勢いで経済力、軍事力を高めていることから、この地域に米中関係を軸にした流動化が起きている。

 領土問題をめぐる中ロの対日攻勢は、この地域に生じている流動化の一つの現れである。

 「東アジア共同体」や「対等な日米関係」を主張して政権交代を実現した民主党政権は、この流動化にどう対処していくつもりなのか。外交の方向性は依然、明確でない。

 胡錦涛国家主席とメドベージェフ大統領は9月下旬、第2次大戦終結65周年を記念する共同声明を発表した。

 「主権や領土保全にかかわる核心的利益をお互いに支持し合うことは戦略的協力関係の重要な部分」であることを確認したという。

 領土問題で中ロの「挟撃」(韓国・聯合ニュース)にあっている日本は、日米同盟を強化することによって、この動きに対抗していくつもりなのだろうか。

 菅首相はオバマ大統領との会談で「日米安保、米軍の存在について多くの国民がその重要性について感じた」と述べた。

 「学べば学ぶほど…」と急に抑止力の話を持ち出した鳩山前首相を思い出させる発言である。

 その上で、普天間問題について「知事選が終わった段階で、5月の日米合意をベースに、最大の努力をしていきたい」とも語っている。

 菅首相の発言は、中ロの日本包囲網形成に対抗するために日米同盟を強化する、という考えのように受け取れる。同盟強化の議論は、沖縄の基地強化に直結する場合が多いだけに、警戒が必要だ。

 APEC首脳会議は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想の推進を柱とする首脳宣言をまとめ閉幕した。

 経済主導による新たな地域秩序づくりがすでに始まっているのである。

 「冷戦の再来」ではなく、相互依存の深まりを安全保障につなげていくような協調的取り組みが必要だ。

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