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From:リスボン 平和の配当、東西に時差

 冷戦終結から21年、新たな歴史が刻まれた。ポルトガルの首都リスボンで19~20日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議。欧米同盟はかつての仮想敵ロシアと「共通の脅威」を分析し、ミサイル防衛(MD)分野の協力を検討することで合意した。

 「史上初めてNATO加盟国とロシアが防衛のために協力することになる」。ラスムセンNATO事務総長が合意の意義を強調し、メドベージェフ露大統領も「パートナー関係を築く土台となる」と声をそろえた。

 MD協力は「欧州安全保障の枠組み見直し」を提唱するメドベージェフ大統領へのNATOからの返答にあたる。MDによって「カナダ西部バンクーバーからロシア極東ウラジオストクまでを覆う安全保障の屋根を作ろう」(ラスムセン事務総長)との呼びかけだ。

 「アメリカ人を引っ張り込み、ロシア人を締め出して、ドイツ人を抑え込むこと」。初代事務総長のイスメイ卿がNATO創設の目的をそう説明していたことを思えば、61歳を迎えた欧米同盟はソ連・ロシアとの「敵対」から「協力」へと大きくかじを切った。

 冷戦終結直後には「消滅論」も取りざたされていたNATOはロシアと手を携えて「世界の警察官」になるのか。「そんな野心はない」とラスムセン事務総長は否定するが、NATOを中核として有志国が連携する国際安全保障のネットワークが構築されつつある。

 会議で目についたのは各国首脳のくつろいだ雰囲気だ。オバマ米大統領は記者発表でポルトガル原産種の愛犬ボーが取り持つ縁に触れ、メドベージェフ大統領は「ロシアのNATO加盟は?」との問いに笑みを浮かべ、「NATOが変われば議論の対象」と応じた。

 1週間前に横浜で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議との最大の違いは、各国指導者の緊張感の差だろう。米軍基地、尖閣諸島、北方領土を巡る問題を抱え、米中露首脳との会談に臨んだ菅直人首相の表情は硬かった。

 米ソ対立の冷戦時代が遠い過去の記憶となり、対露融和に傾斜する欧米と、「冷戦の名残」である緊張の火種がくすぶるアジア。二つの首脳会議は東(アジア)と、西(欧米)の安全保障環境の相違を反映している。

 西ではNATOが欧米間のきずなを強め、欧州連合(EU)が仏独和解を促し、欧州内に残る戦争の傷跡を癒やした。若者にとって「冷戦は(紀元前5世紀の)ペロポネソス戦争のようなもの」(ラスムセン事務総長)だ。

 英国の詩人・小説家のキプリングは「東は東、西は西、両者の出会ふことあらず」と詠んだ。西の享受する「平和の配当」に、東が近づくことはできないのか。NATOが対露協力の新時代を開いたリスボンで、もどかしい思いにかられた。【福島良典】

毎日新聞 2010年11月22日 東京朝刊

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