ファッショ石原慎太郎都知事が画策する 東京都議会マンガ規制条例可決?の愚
週刊朝日 12月7日(火)15時13分配信
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| 条例案成立に鼻息の荒い石原都知事 |
これが老醜というものなのか──。石原慎太郎東京都知事(78)が『太陽の季節』で鮮烈な文壇デビューを果たしたのは1955年のことだった。旧世代に挑発的なこの作品は若者たちを熱狂させた。しかし、半世紀を経た今、石原知事は漫画などの性的描写を「不健全」として取り締まる条例の制定に乗り出している。
作家としてデビューしたばかりの頃、石原知事は雑誌の鼎談でこんなことを話していた。
「おとなにとって罪にも見えるし、不倫にもみえるんだろうけれども、ぼくなんかの年代はおとながおぞましいと思うようなものに対して気がとがめないということはやっぱり大きな差だと思うんです」(「小説公園」1956年6月号)
当時の大人が眉をひそめるような挑戦的な言説で、一世を風靡した石原知事が11月30日から始まった定例会で提出したのが、都青少年健全育成条例改正案だった。その中身は、「刑罰法規に触れる、または婚姻を禁止されている近親者間における性交」を描く漫画等に自主規制を求め、「著しく社会規範に反する性交または性交類似行為」を「不当に賛美し、誇張するように描写した表現物」を「不健全図書」として指定できるというものだ。
少々わかりづらいが、つまりは、漫画やアニメの登場人物であっても、東京都の淫行条例違反や社会規範に反する性交または性交類似行為をしている作品は規制の対象になるという。
石原知事がこの条例案を提出するのは今回が初めてではない。今年2月の定例会に初めて提出した際は、里中満智子氏、竹宮恵子氏など著名な漫画家らが会見を開いて反対を表明したり、メディアも「表現の自由を脅かすおそれがある」と注目したりしたため、民主党などの反対多数で、6月の定例会で否決された。
しかし、石原知事は否決直後の記者会見で、
「芸術家と言えるかどうか知らないが、(条例改正で)描き手が無言の制約を受け、圧力を感じて描きたいことも描けなくなるということなのだろう。その連中が、そんなことぐらいで描けなくなるなら、そんなものは作家じゃないよ、ほんとに言わせりゃ。ある意味で卑しい仕事をしているんだから、彼らは」
と話すなど、この条例改正への執着を見せていた。
そしてこの度、2度目の提出となった。さらに、前回と異なるのが、一部緩められた部分もあるが、前案では「18歳未満に見える人物」の性行為のみを規制対象としていたものを、新案では、大人も対象とするなど、規制の幅を広げたこと。そして、前回は反対多数で否決に追い込んだ民主党が条例案成立に前向きな姿勢を見せていることだ。
ある都議会民主党幹部は言う。
「前回、民主党が反対した、児童ポルノの単純所持を規制の対象から外すなど、修正が加えられた内容で、その点は評価できる」
別の都議もこう話す。
「会派としては正式な方針決定はしていないが、ほとんど民主党の要求が通ってしまったから反対する理由が難しい。おそらく今回は賛成でいくのではないか」
その背景にあるのが、この条例案をまとめた都青少年・治安対策本部の周到な根回しだ。都は6月の否決後、地域の警察署などを会場として、72回もの地域住民への説明会を行ってきた。
ある都議によれば、職員が過激な性行為が描かれている漫画を持ち、
「こんな漫画が子どもたちの手に届くところにあるのは民主党が反対したからだ」
と否決された条例案の必要性を説明して回ったのだという。説明会後に、地域の支持者から「なんであの条例案に反対したんだ」と責められた民主党都議もいるという。
しかし、都議会の議決結果について、都の職員がこきおろすのは、明らかに行政権の逸脱で越権行為だ。
当初からこの問題に取り組んできた民主党の松下玲子都議(40)は言う。
「新案は、魚が泳いでいる池に爆弾を落とすようなものです。池には駆除したい魚だけでなく、良い魚もたくさん泳いでいるにもかかわらず一網打尽にすることになる。つまり、行政が規制をすることで、表現活動全体が萎縮してしまうおそれがある。ましてや、東京は大手出版社を多く抱える発信地。その影響は全国的に波及する」
さらに、
「この条例案には、なぜこれが必要なのかという『立法事実』もない。私が委員会で質問したところ、過激な性表現の漫画について都に寄せられた苦情は月平均でたったの2・5件だというのです。被害実態もないのに、なぜこのような条例案を出してくるのかまったくわかりません」(松下都議)
『風と木の詩』で知られる漫画家の竹宮恵子氏(60)も、条例案を見て、13歳から16歳までの主人公が純愛だけでなく、性的な堕落も、虐待も登場する自らの作品が丸ごとあてはまると感じた。
「都は漫画が『青少年の健全な育成を阻害する』と言っていますが、過激な性行為が描かれた漫画が犯罪を助長しているという証拠はありません。さらに、条例案の文面を読むと、いくらでも恣意的に規制の範囲を広げることができる」
新案は、漫画・アニメなどで、「刑罰法規に触れる性交もしくは性交類似行為、または近親者間の性交もしくは性交類似行為を不当に賛美し、または誇張するように表現すること」を規制の対象としている。
「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」共同代表の山口貴士弁護士は言う。
「『不当に賛美、誇張する』ということがどういうことなのか、あいまいです。さらに、『刑罰法規に触れる』というのも、どの時点での法規なのか不明です」
たしかに「刑罰法規」は時代や国によって大きく異なる。
「例えば、江戸時代は売春は合法でした。江戸時代を舞台にした漫画でも、現在の法規に従うのでしょうか」(山口弁護士)
『マンガはなぜ規制されるのか』(平凡社新書)の著書があるジャーナリストの長岡義幸氏(47)もこう問題点を指摘する。
「現行の条例では『何を描いてもいいけど、子どもには売らせませんよ』という規制でした。ところが、今回は『こういうものは描いてはいけません』という枠組みで描く側、出版する側を問題にしようとしています」
さらに、この条例案の陣頭指揮をとる、都青少年・治安対策本部についても、
「出版物の規制を、警察庁の出向者が加わった部署が担うのはおかしい。かつて、青少年条例は生活文化局の所管でした。少なくとも、治安組織から条例の所管を外し、別の部局に配置換えすべきです」(長岡氏)
ちなみに、現在、都青少年・治安対策本部長を務める倉田潤氏は、06年に公職選挙法違反の架空調書をデッチあげた志布志事件(03年)が発覚した際に、鹿児島県警本部長を務め「自白の強要はなかった」と県議会で答弁していた人物だ。
戦前、治安維持法下による言論規制は、漫画本などの「エログロ・ナンセンス」の取り締まりから始まった。
新条例は、12月13日の都議会総務委員会、15日の本会議で可決・成立が狙われている。もちろん、民主党の賛成が前提だが、出版・映像の是非を「お上」が判断する条例がつくり出す影響ははかり知れない。
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最終更新:12月7日(火)15時13分