- 06月10日
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「時の記念日」。時間を尊重、厳守することを目的として定められた。‐1920年(大正9年)‐
この年、5月から7月にかけて、東京教育博物館(国立科学博物館の前身)で「時博覧会」が催された。入場者は22万人に達した。
「本邦人の時に対する思想を一変し、時間尊重・定時励行の美風を養成する」のが開催の趣旨だったと、当時の記録にある。これをさらに強力に国民に伝える方法として、その年から「時の記念日」が始まる。
「日本書紀」をひもとくと、天智天皇時代の671年4月25日に、漏刻(水時計)で初めて時報を知らせたとあり、その日が新暦で6月10日にあたった。それでこの日を「時の記念日」と定めたという。
今から見ると「本邦人の時に対する思想を一変」するための博覧会開催に、記念日の制定とは、ずいぶんと大仰である。おせっかいなようでもある。
おかげさまで、「人が時間を管理する」のではなく、「時間に人が管理される」時代に私たちは今、暮らしている。
「一秒の言葉」という詩がある。
〈「はじめまして」/この一秒ほどの短い言葉に、/一生のときめきを感じることがある。/「ありがとう」/この一秒ほどの短い言葉に、/人のやさしさを知ることがある。……〉
詩の作者は、本紙夕刊で「ドッポたち」を連載している漫画家の小泉吉宏さん。
「がんばって」「おめでとう」「ごめんなさい」「さようなら」。詩は「一秒ほどの短い言葉」を連ねていく。言葉に託した思いを重ねながら。
昨年の「時の記念日」にテレビやラジオのCMで、この詩が流れた。時計会社のセイコーが1984年に制作、主にラジオで放送した。評判が口コミで広がり、小学校の道徳の副読本にも載った。そのリメークである。
時は変わって江戸時代。貧乏長屋住まいが当たり前、時計なんて誰も持ち歩いていない時代(当たり前だ)。
ある夜、屋台でそばをたぐった客が勘定をする。
「十六文だったな? ひー、ふうー、みー、よー、いつ、むー、なな、やー、何刻(なんどき)だい?」
「エー、ここのつ(九刻)で」
「とお、十一、十二、十三、十四、十五、十六……じゃ、あばよー」
ご存じ、落語の「時そば」の一場面だ。口達者な男が、そばの代金を一文ちょろまかす。「何刻だい」も「一秒の言葉」か?
「時そば」から「時博覧会」「時の記念日」……。たどると、その時代、時代に、人が切望したものが浮かんでくるようで。
CMの動画は特設サイト(http://www.1byou-no-kotoba.jp/)で視聴できる。今年の「時の記念日」、つまり、きょう10日には、この特設サイトをリニューアルし、CMの画像に詩を載せた壁紙カレンダーのダウンロードもできるようにするそうだ。(慶)