きょうの社説 2010年12月7日

◎共通番号制度 与野党協議で成立を急げ
 個人の所得や税などを一元的に把握するための「共通番号制度」について、政府の検討 会が出した中間報告案は、共通番号を税と社会保障の分野に導入し、将来的には幅広い行政サービスでの活用を目指すとしている。税の徴収に加えて、年金給付や高額医療費の還付などにも使えるようになれば、税の不公平感の解消だけでなく、社会保障政策の幅が広がり、国民の側にも大きなメリットがあるだろう。

 共通番号制度は、基本的に自民党や公明党なども導入に賛成している。政府・与党で制 度設計のたたき台をつくった後、与野党協議でのとりまとめを優先していけば、合意形成はそれほど難しくないはずである。早期成立を目指し、与野党双方が「政争の具」にしない配慮を求めたい。

 共通番号制度は、これまでも「国民背番号」などの名で何度も提言されながら、導入が 見送られてきた。所得状況などを国に知られることへの懸念や個人のプライバシーの問題がことさら強調されたためだが、個人データが流出するリスクは共通番号制度の導入によって増すわけではなく、むしろ導入を機に厳格に管理する仕組みを整えた方が国民の利益になる。

 例えば、基礎年金番号はずさんに管理され、「消えた年金」問題を引き起こした。年金 給付を共通番号で一元化し、情報保護のルールを整備しておけば、そうしたトラブルを防ぐこともできたはずだ。

 個人のプライバシーが国家に把握され、管理されるかのような印象を振りまき、国民の 不安をいたずらにあおる反対論は現実を反映していない。番号制度はほとんどの先進国で導入されており、実績を残している。行政機関がばらばらに管理している個人の所得や年金、医療、介護情報を一つの番号で一元管理できる利点は大きい。

 所得がほぼ完全に把握できるため、捕捉率がサラリーマンの場合で9割、自営業者は6 割、農業などは4割にとどまるとされる「クロヨン問題」は解消され、税の不公平感はなくなるだろう。また、それぞれの所得に応じて減税や給付を行うサービスが可能になる点も特筆されよう。

◎認知症予防 定着させたい「脳活コーチ」
 七尾市のNPO「日本認知症予防研究所」が同市と連携し、「脳活コーチ」育成の取り 組みをスタートさせた。認知症対策に関しては、患者やその家族を見守る認知症サポーター養成が各地で進んでいるが、「脳活コーチ」は住民が主体的に予防にかかわっていく試みである。

 これまでの研究で、運動、栄養などで認知症を食い止めたり、軽度の症状では認知機能 が改善する可能性も示されている。遊びやゲームで脳を活性化する研究も進んでいる。そうした成果を地域全体で共有し、予防の指導的役割を市民が担うのは全国でも例がないが、高齢化の進展で認知症患者の増加が見込まれるだけに、介護予防の柱として地域挙げて取り組む意義は大きい。

 ごく軽度の認知症は介護保険や医療保険が適用されず、予防対策は必ずしも十分でない 。「サポーター」とともに、「脳活コーチ」のような予防分野の人材を地域で大事に育てていきたい。

 「脳活コーチ」事業は厚生労働科学研究費補助金事業として実施される。日本認知症予 防研究所は昨年6月からメンバーの大学関係者、医師らで平易な市民向け教育プログラム策定を進めてきた。

 講座は、脳の構造・機能などを学ぶ「脳みそ探検」など、所定の講座を受講した市民が 「脳活コーチ」に認定される。初級は教室運営支援、中級は教室運営、上級は教室評価ができるレベルとし、今年度はまず初級の人材を育成する。七尾市で今月5日に育成講座がスタートし、その後、新潟県三条市、茨城県守谷市でも開催され、研究所はプログラムの全国的な展開を視野に入れている。

 厚労省は2008年に「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」をまとめ 、診断技術向上や治療法開発など認知症になっても安心して生活できる社会をめざしている。発症予防の本格的な取り組みはこれからである。

 長寿社会を支える専門的な人材を、地域で育てていくシステムは今後ますます重要にな ろう。七尾市で始まった「脳活コーチ」はその試金石でもある。