【泣いて笑って踏ん張って　役者・芸人貧乏物語】松村邦洋（タレント）

●一時はホームシックで友人や実家に長電話して電話代５万円

　福岡・九州産業大学の学生だった松村邦洋さん（４３）がお笑い芸人を目指して上京したのは８８年だ。その年の「発表！日本ものまね大賞」（フジテレビ）で敢闘賞を受賞し、片岡鶴太郎に誘われて太田プロ入り。ビートたけしや高田文夫、武田鉄矢などタレントから政治家、スポーツ選手など多彩なレパートリーで知られる。「ものまね王座決定戦」（同）のレギュラーになり、営業がボチボチ入るまでの約２年間は食えない日々が続いた。

「東京に出てきて最初に住んだのは事務所の近くにある寮でした。約６畳のワンルームのコーポで水道光熱費と電話代は自分持ちだけど、寮費はタダ。田舎モノで不安だらけのボクには、本当にありがたかったですね」

　食費は当然、自分で稼ぐしかない。下積み時代の定期収入はもっぱらアルバイト。最初は時給６００円のカラオケ店のチラシ配り、次いで「食事付きが魅力だった」時給８００円のショーパブのスタッフだった。

　だが、事務所でのネタ見せやテレビのオーディション、ライブの合間だから収入はせいぜい月６、７万円。しかも、頼れる友人も少なかった。

「それで寂しさを紛らすため、九州の友達や山口県の実家に毎日、長電話してたんです。すると電話代が１カ月５万円前後も。光熱費は月５０００円くらいだけど、電話代と移動の交通費を払うとメシ代が残らない。おまけにＮＴＴの請求書は事務所に行くので、“なぜこんなに電話代がかかるのか？　自分で営業かけてるか、松村プロとか事務所でもやってるのかなぁ”と社長に言われた。実はホームシックだったのに……」

　この時は風俗通いにハマっていて、ギャラやバイト代が入った日はついつい歌舞伎町のヘルスへ。ますます金がない。

　当然、生活レベルは超低空飛行。オフの日は１個数十円の特売カップラーメンをすする日々だ。

　そんなある日、学生時代に所属していたプロレス研究部の顧問で九州産業大学職員の徳永さんが即席堅焼きそばを送ってくれた。

「“頑張れよ”って手紙と１箱２０袋入りがなんと３箱。２カ月分です。さすがに１カ月間食べ続けたら飽きたけど、どうにか飢えをしのぐことはできました」

　熱狂的な阪神タイガースファンで知られる松村さん。虎党居酒屋の「あぶさん」（新宿）にも足を向けて寝られない。

「ご主人や常連さんには、“出世払いでいいよ”って言われて、行けば必ず食事を腹いっぱい食べさせてもらった」

　片岡鶴太郎、ダチョウ倶楽部、はたけんじら先輩芸人にもかわいがられた。食事に誘われて帰りの電車代がない時は小遣いももらった。

「振り返ると浮き沈みもあり心肺停止になったこともあったけど、周囲の人たちに支えられたからこそ今があるとつくづく思います」

●大の歴史好きで「武将のボヤキ」出版

　今の一番のウリはＮＨＫ大河ドラマ「龍馬伝」の福山雅治で大河ドラマ、歴史のトーク。そんな歴女ならぬ“歴男”ぶりをいかんなく発揮した著書「武将のボヤキ」（武田ランダムハウスジャパン）が２５日に発売された。同著は平安時代から明治までの歴史を彩った偉人、異人ら３９人になりかわってイタコのように語ったものをまとめたものだ。

（日刊ゲンダイ2010年11月26日掲載）