「何人かいた同業者はみんな亡くなり、ボク一人になっちゃいました」

●マンガ太郎さん

　寄席に出向けば、テレビでは見られない芸をじっくり見ることができる。巧みな話術と即興漫画を掛け合わせて笑いを巻き起こす漫画漫談もそのひとつだろう。この漫画漫談で人気だったマンガ太郎さん。ひと頃は旅番組のリポーターや、ＮＨＫの趣味の番組で似顔絵の講師などを務めていた。しかし、最近は見ない。今どうしているのか。

　マンガさんと会ったのは「麻布十番寄席」。

「ボクを取材って、どういう風の吹き回しかな。いえ、怒ってるんじゃないですよ。もちろん、異存はありません。さあ、何でも聞いてくださいな」

　出番を終えて近くの喫茶店で話を聞くと、こういって苦笑した。

　マンガさんの芸のスタイルは舞台中央にキャンバスを立て、“口三味線”でリズムをとりながら漫画を描いていくというもの。その漫画は変幻自在。例えば老人を描けば、そこにちょっと朱筆を入れてキャンバスを回転させれば老婆の似顔絵になっているといった具合。お色気、風刺漫画はお手の物だ。しかも描き上げるのにわずか数秒の早業だ。

「それに“おかず”としてお客さんを舞台に上げ、似顔絵を描いてさしあげる。これがけっこう喜ばれるんです。ただ、ボクの芸は（綾小路）きみまろと同じでフロアショーはめっぽう強いが、テレビにはからっきし弱い。そんなことで寄席や企業のイベントなんかでもっぱら活動してます」

　さて、「高校時代から漫画で人を笑わせていた」と話すマンガさんは昭和３７年、漫画漫談の草分け的存在だった春田美樹に弟子入り。

「入門わずか１カ月で破門される不肖の弟子だったけど、春田先生の肝いりでどうにかプロとしてスタートできました。最初はキャバレー回り。キャバレー全盛時代で、まだ世に出る前のちあきなおみや亡くなった青江三奈などが歌ってましたよ。そもそもお客さんは酒を飲み、ホステスと遊ぶためにキャバレーにやって来る。だから、少しでもボクの芸が面白くないと、容赦ないヤジや罵詈（ばり）雑言が飛んできた。いや、キャバレーは最高の修業の場でしたね」

　芸人としては珍しく海外でも仕事をしている。

「デビュー２年ほどして香港のエージェントから声がかかり、ギャラが良かったので、二つ返事で引き受けました。香港以外にも戦時下のベトナムにもアメリカ軍の慰問で行きましたよ。前線部隊でワンステージ３００ドル。当時のレートで１０万円ちょっとですか。最前線は５００ドルでしたが、戦闘は日に日に激しさを増し、さすがにそこまで行く度胸はなかったですね」

　夫人と長女（４０）、長男（３８）の４人家族。渋谷区内に夫人と２人暮らしだ。ちなみに現在、漫画漫談をやっているのはマンガさんのみ。

「何人かいた同業者はみんな亡くなり、ボク一人になっちゃいました。弟子？　漫画家志望の若者はたくさんいても、漫画芸で身を立てようなんて酔狂な若者はいませんよ。来ても諄々（じゅんじゅん）と諭して、お引き取りを願うばかり。かくして演芸界の絶滅危惧種になってます、ハハハ」

（日刊ゲンダイ2010年11月29日掲載）