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webほんのしるべ編集部+瀬名秀明「文系人間のための〈科学本棚〉」

2007年04月17日

研究者の作法

今日、大学に行ったら、「研究者の作法 ー科学への愛と誇りをもってー」というパンフレットが届いていた。全教員に配られたものらしい(学内なら大学のサイトでポスターのPDFが見られる)。

・独創性の尊重 アイデアは研究の命です。
・研究への誠実さ 自分を欺かない。
・論文はまごころをこめて

と、3項目が掲げられている。「東北大学研究推進審議会 平成19年4月」の発行。
しかしこれを眺めて思うのは、文芸の世界ではこれらの作法は全く通用しないばかりか、むしろこの作法を破らないと生き延びることができない、という現実だ。理系の大学を出た人間なら、この3つのことはだいたい身についていると思うけれど、この作法で小説を書こうとすると凄まじいジレンマに出会う。

まず読者の多くは、作者のアイデアの独創性など重視しない。多くの人は、面白ければいい、という人間らしい気持ちに忠実である。いや、アイデアの独創性を重視する読者もいるはずだが、重視しない読者の声に掻き消されて、出版社には無視されてしまう。
自分をうまく欺ける人の方が成功する。茂木健一郎さんをここで引き合いに出すのはいいかどうかわからないが、「クオリア」「アハ体験」「1回性の人生」などは、別に茂木さんがつくった言葉ではないし、茂木さんが初めて言い出したことでもない。でもあたかもそれらを自分で考えたかのように語ることで、茂木さんはポピュラリティを獲得した。読者は作家が自分の言葉で語っていると思い込みたいものなのだ。誰かの引用など読みたくないわけである。茂木さん自身はこのことについて何のコメントもしていない。だから少なくとも科学者としてウソはついていない。さて、茂木さんは自分を欺いているかどうか? それはわからないが、茂木さんはペルソナを使い分けていると思う。そして少なくとも一部の読者を誤解させているとは思う。
私はある時期から小説の巻末に参考文献一覧をつけるのをやめたが、これは読者や評論家から強い批判があったためだ。「文献一覧を載せなければ裁判で負けるほど、この本は他の著書からぱくっているに違いない」と邪推されるのである。研究において誠実であることを示す行為は、他の社会にとっては悪事を覆い隠す兆候とみなされる。
そして、まごころをこめない本のほうが売れてしまう現実がある。自分で原稿を書くのではなく、適当に編集者の前でしゃべり、それを文章に起こしてもらう。そういうタイプの本のほうが売れる。科学者も、このようなつくりの本を受け容れてしまう。

最近思うのだが、科学者もアウトリーチ活動が大切、といわれるようになってきたけれど、たぶんまだ多くの科学者は論文を書くときとマスメディアで語るときで「研究者の作法」を変えていて、そのことに全く疑問を感じていないんだと思う。論文は大切だけれど、まあテレビの取材は適当に学生に任せておけばいいよね、忙しいし、という感じになってしまっている。それが「不作法」であることを、科学者はいまどのくらい自覚しているだろう。
しかし自覚したとしても、「作法」を守っていたら確実にメディア業界では飢えて死ぬのである。
もちろん、こういうパンフレットで基本を周知させることも大切だろうけれど、捏造の問題は科学業界の中だけに閉じたルールの問題ではなくて、外部と接触するときのルールのあり方であると思うのだ。『あるある大辞典』だって、取材された研究者個々人がきちんと自衛していれば防げた部分がいっぱいある。

このパンフレットを文芸編集者の前に差し出して、鼻で笑われることのない社会をつくってゆくには、どうしたらいいんだろうか。
私にはまだ解答がない。
posted by 瀬名秀明 at 20:38 | TrackBack(1) | 読んで書く、書いて読む | 更新情報をチェックする

2007年04月11日

『虹の天象儀』続映中

タイムドーム明石で、プラネタリウム番組『虹の天象儀』が続映中のようです。3月で終わると聞いていたんですが、さらに続いたんですね。ロングランになって、嬉しいことです。
そういえば、この番組ができるきっかけとなった仙台市こども宇宙館は、今年の12月27日で閉館とのこと。
実はこの宇宙館、『ハル』に収載されている中篇「夏のロボット」の舞台のモデルでもあります。
posted by 瀬名秀明 at 02:21 | TrackBack(1) | ちょっとしたお知らせ | 更新情報をチェックする

2007年04月09日

記事・書評

【記事】山田正紀、恩田陸『読書会』/徳間書店/2007.1.31/ISBN978-4-19-862279-4/本体1500円/司会・構成=三村美衣「U.K.ル=グィン 《ゲド戦記》」pp.79-101
【記事】サイゾー/2006.7/山形浩生「今月の喝! おまぬけなグーグル翼賛論」(ページ不明、雑誌未確認)
【書評】日本経済新聞/2007.2.11/(無記名)「パラサイト・イヴ」p.19
【書評】朝日新聞/2007.3.4/読書/巽孝之「常識より違和感を武器に」p.13
【書評】遊歩人/2007.3/遊書館/森下一仁「私のおすすめ本」p.76-77
【記事】Robot Watch/2007.3.8/森山和道「「けいはんな社会的知能発生学研究会公開シンポジウム」レポート 社会で育つ知能と心 II これがロボット学と脳科学の最前線!
【書評】日経サイエンス/2007.5/BOOK REVIEW「フレッシュマンのための読書ガイド」/大隅典子「心の扉を開ける」pp.130-131
【記事】仙台文学館ニュース/第十一号(2007.3.31発行)/「学芸室日記」p.8
【書評】松岡正剛の千夜千冊・遊蕩篇/2007.3.14/「1177夜 瀬名秀明・太田成男『ミトコンドリアと生きる』
【記事】SFマガジン/2007.5/大森望「大森望のSF観光局 第五回 日本SFと文学賞」pp.94-97
posted by 瀬名秀明 at 15:50 | TrackBack(0) | 記事・書評 | 更新情報をチェックする

2007年04月08日

月刊たくさんのふしぎ ぼくたちのロボット



【新刊】瀬名秀明=文、影山徹=絵『月刊たくさんのふしぎ ぼくたちのロボット』/2007年4月号(第265号)/福音館書店/2007.4.1/雑誌15923-04/本体667円 amazon】【bk1】【広告

*3月初旬に発売されました。現在は次の5月号が出たので、すでにウェブ書店でも入手困難であるようです。(2007.4.8)

*Amazon.co.jpで予約開始。書店では入手しにくいので、ぜひ定期購読かウェブ書店をご利用下さい。(2007.2.20)

*福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」で絵本を書きました。
世界初のヒト型ロボット〈WABOT-1〉をつくった早稲田大学の故・加藤一郎教授の生涯を軸に、ロボットと一緒に暮らすぼくたちの未来を考える『ぼくたちのロボット』。イラストは『八月の博物館』やプラネタリウム番組『虹の天象儀』でもお世話になった影山徹さん。ときに精密、ときにファンタスティック、全篇を通してリズム感溢れる色彩・構図で、本当に素晴らしいです。
上記リンクから「2007年度の予定」をクリックしてください。この機会にぜひ定期購読を!(2007.2.1)
posted by 瀬名秀明 at 00:48 | TrackBack(0) | 新刊 | 更新情報をチェックする

2007年04月03日

ミンダトロン♪

東京駅の東北新幹線改札口の近くに、ちょっと小綺麗なエスニック料理店がある。時間が余ったとき、そこで飯を食べることがあるのだが、いつも店員たちが「なんちゃらかんちゃらミンダトロン」と声を上げているのである。「なんちゃらかんちゃら」の部分はいろいろ違っていて、とても憶えられない。いったい何語? とずっと前から疑問に思っていたので、本日ついに意を決し、レジ精算のときに女の子に訊いてみた。
みんながさえずっているのはインドネシア語で、「ミンダトロン」は「お願いします」の意味らしい。
東京駅を利用するインドネシア人に、「おお、俺たちの言葉がトーキョーで使われている!」と話しかけられてしまうことはないのか? そんなとき店員たちはどうするのだ? ひょっとして彼らはインドネシア語がぺらぺらなのか? 
謎は深まるのである。
posted by 瀬名秀明 at 20:16 | TrackBack(0) | 読んで書く、書いて読む | 更新情報をチェックする