バカなサイト

December
05
2010

 凄く真面目そう、もっともらしい内容、しかし、よく見るとサイト運営に関する情報は皆無・・・。一昔前までは下らない記事で人目を引いたフィッシング紛いのサイトが多かったが、いまは姿・形を変えて実に巧妙になって、しかも堂々とAds by Googleなんて名乗ってたりする。いわゆる広告料稼ぎのバカサイトなのだが・・・。自作業界には実に多くの、この程のバカサイトが存在する。しかし、Ads by Googleの表示があったりすると、このサイトは信頼できるんじゃないか?なんて印象を与えてしまって情報錯誤を引き起こす。ネット広告というものは、時として邪魔くさくて厄介なものだが、見方を変えるとややもすれば「サイト自体の信頼性の裏付け」的な印象も与えるもんだ、と思ってしまう。

 

 そんなサイトの一つを覗いていたら、「アルミ製のとスチール製のPCケースの違いは?」というタイトルで、恐ろしくもっともらしい記事が掲載されていました。しかしこのサイト、いたるところにAds by Googleのロゴが・・・。典型的なバカサイトの一つでしょうけど。

 

 運用情報も何もない。誰が著作権を主張しているのかも分からないのでこの際、原文をそのまま引用します。

 

「数年前まで、アルミ製PCケース=高性能モデル、スチール(鉄)製PCケース=普及モデルという図式が成り立っていた。メーカーのうたい文句として は、アルミは熱伝導率が高く、そのため放熱効果が高い。つまり、アルミのほうが、排熱対策に苦労するPCケースには向いているというものだった。

しかし、実際に同じような構成のアルミ製PCケースとスチール製PCケースを比較すると、ケース内温度やCPU温度などに大差はない。結局、PCケース内 の冷却に最も大事なのはエアフローであり、PCケースの材質にこだわるよりも、風量の多いファンで効率よくケース内の熱気を排出したほうが効果的なのだ。 もちろん、アルミのほうが熱伝導率が高く、放熱にも優れるというのは、CPUクーラーにアルミが使われているのを見れば分かるとおり真実である。ただ、 PCケースではそれが重要なファクターにならないだけのことである。」(原文引用)

 

 静音PCが流行った時、叩かれたのはアルミケース。専門誌などもアルミとスチールでは冷却性能に大差はないから、静音化しやすいスチールのほうがいい・・・、という論調で様々な記事を書いてました。面白いのは自作専門誌におけるライターさんの立場で、方やCPUに関する非常に高度な記事や、HDD、GPUに関する同様の極めて専門的な記事掲載が行われているのに、ケースの話になると途端にローテク、感覚論になっちゃう。この落差・・・・(笑)。ケース内部にセンサーを設置してケース内部温度を計測する。アルミもスチールも同じじゃないか!というわけです。下手をすればスチールのほうが内部の温度が低いぞと。あまりの低レベル記事に閉口したというか・・・。記事レベルではまさに、上記のバカサイトと同じ。というか上記のバカサイトは、そういった論調の記事を参考に書いているのだろうと思いますが。

 

 空気のというものは極めて熱伝導率の低い物質なんです。その空気が流体として、すなわち流れとして存在していてその空気の温度をセンサーで計測して、明確な温度差が出ると考える幼稚さ。いいかえるとあまり計測差がでないから同じと考える幼稚さには呆れます。「メーカーのうたい文句・・・」というメーカーとは、うちを指すのかな?(笑)アルミの熱伝導率は236(W/m・k)で乾燥空気は0.0241(W/m・k)。空気がいかに熱伝導率が低いか分かりますよね。スチールの場合は84(W/m・k)です。さて、問題は、これを計測できない僅かな差、とみるか高度な電子パーツに対する影響を少しでも軽減するために重要な差とみるかの違いだということです。実測して測れないから重要じゃないという議論はナンセンス以外の何物でもないと思いますね。

 

 ある程度研究が進んで、かなりきわどいレベルにまで来るとアルミであろうとスチールであろうと、確かに差は「僅か」なのかも知れませんが、物事決定的な差というのはそういうものだろうと思いますよ。5度も10度も差が出るはずがないんです。しかし、相手が高度な電子パーツであるとすれば、微妙な差は大きな差になる。いい製品というのは、そうした性能のディテールをどれだけ積み重ねることができるか、ということです。そうしているとその差は決して無視できないくらいの差になる。そういうレベルの議論を積み重ねて欲しいんです。しかし、このことは上記の記述には一切触れられていません。「熱伝導率が高い=放熱効果が高い」というのはとんでもないことで、もちろん弊社もそんな主張はしているつもりもない。放熱効果ということはつまり、ケース内部空気にどれだけ熱を伝えられるか、ということであり、それはケース内部の空気の温度が高ければ高いほど放熱効果が高いということになる。ケース内部の空気の温度が上昇すれば、冷却のポテンシャルは低下するので、CPUクーラー、電源、グラボなどに対する冷却性能が低下するということを意味します。面白いのは、こういうことが一緒くたにされて、ケース内部空気の温度計測で議論されるんですよ。ほんとうにたまりませんね。

 

 「重要なのはPCケースの内部エアフローであり、ケースの材質の拘るよりも風量の大きなファンで冷やした方が効果的」という結論には恐れ入りました。まさにその通りでございます。しかしそういう議論なら「空調の利いた室内でご利用ください」ということと同義。室温を25度から15度にすれば、なんと10度も効果が出る!別に風量の大きなファンを使用するまでもないんです。もちろんアルミでもスチールでも材質に関係ないんです。そういう議論をしているわけではなく、そういう前提に立ってより冷却性の高い製品を研究して、競っているんですね。で、最後にメチャクチャな結論を書いている。つまり、CPUクーラーに用いられていることでアルミの優位性を認めながら、ケースには関係ないと断言している。もうまったく意味不明な記述なのですが、こういうのを鵜呑みにする人だって決して少なくはないはずです。まぁ、広告料目当てのバカサイトなんてそんなものでしょうけれど。

 

 あのCPUを冷却するヒートシンクがアルミなのは、すなわちアルミが熱伝導効率が高く、熱移動が非常に容易だということ。ここが重要で放熱量、すなわち空気に対する熱伝達量は、放熱面積にほぼ比例すると考えて、あのようなフィン形状で放熱面積を確保する。しかし現実には熱だまりが発生し比例しないので、強制的に熱だまりを排除するために冷却用のファンを搭載する。その結果、空気の流れの影響で放熱フィンの熱境界が薄くなり、空気に対する熱伝達量が増える・・・。ちなみに空気に対する熱伝達量は、温度差があればある程熱境界が薄くなって増加する、というのが理由でしょう。ここで重要なのは、熱源の熱を素早く移動することです。だから最近ではヒートパイプなどを多用するわけで、そうしないと熱は熱源周辺に蓄積される一方となってしまう。少なくともケースでも同じことが熱源たる電子パーツで起こっているんです。アルミ素材は熱伝導率が高く熱移動が非常に容易です。熱移動が容易ならば、放熱効果も高くなる。これに着目するのは非常に合理的な技術だと思いますし、ケース内部エアフローが極端に少ないノートPCなどは、当たり前の技術でしょう?それを否定する理由など何処にもないわけです。幸いタワーケースなどは、大きなファンが付けられてさほどケアしなくてもいいような感覚に陥りますが、同じような電子パーツを使っているノートPCでは、もうメーカーが必死にこの問題に取り組んでるんですよ。より高度なパーツが使われるタワーPCで無視していいはずがないんです。ケース内部の空気の温度を計測して、違いがあまりないから・・・そんなラフなものじゃないわけです。

 

 そういうことを、もっとお客様にお伝えする努力をしないといけないと思いますね。サーモグラフィなんかも2℃~5℃は誤差範囲何ですが、細かく計測するとWiNDyのコンセプトが非常に正しい事が分かります。また、エアフローに関して非常にウエイトを置いているので、現在のラインナップはどのケースカテゴリでも最高水準の効率であることは間違いないんです。アルミ素材であるから、ケース内部温度は上昇すればするほどいい。だから、エアフロー効率が非常に重要で、これをいかに効率よく排出するかが課題なのです。ALCYON DX2000/1000は、あまりにもケース内部の温度に影響されやすい電源の性能に着目し、AIR-MOUNTで外部化した製品です。CPUクーラーの間近に位置していれば、当然熱い空気を吸入するわけですから。こういうディテールの積み重ねによって「良いケース」は生まれるんですよ。そういう部分をもっともっと、お客様にご案内してゆきたいと思っています。

 

 アルミケース・・・良いですよ。もっともっと見直してほしいですね。 

 

 

 

 

 

 

Posted by hoshino | この記事のURL |