2010年12月3日
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「盗まれた機密情報だ。返してほしい」。10月下旬、米国防総省。ラパン副報道官は記者会見で、米政府の機密情報を相次ぎ暴露する告発サイト、ウィキリークスに矛先を向けた。だが「中身を報じたメディアも当てはまるのか」「ニューヨーク・タイムズ(NYT)と何が違うのか」と質問されると、「当てはまらない」「(NYTとは)まったく違う」とかわした。
豪州出身の元ハッカー、ジュリアン・アサンジュさんが2006年に創設した。自らネタ探しはせず、持ち込まれた情報を精査し、暗号技術で情報源を守りつつ、サイトなどに載せる。今年4月には、イラクで米軍ヘリがロイター記者らを射殺した事件の動画を入手して公表。アフガニスタンやイラクの戦争をめぐる機密情報に続き、11月28日には米外交文書約25万件の一部を暴露。ギブズ米大統領報道官は「外交官や諜報(ちょうほう)員、協力者を危険にさらす」と非難した。
7月以降は、情報をNYTなど既存メディアに持ち込んで検証し、一斉に公表する手法を強めている。「世界の大手メディアから注目を集める巧みな戦略」と、米コロンビア大ジャーナリズム大学院のニコラス・レマン学長は話す。
一方で、「米政府はジャーナリズムと切り離し、国家の安全の問題にしたがっている」と国境なき記者団のル・コズさんは指摘する。言論の自由は米建国の精神だ。暴露もその一環だという議論になれば米政府は否定しづらい。政府がNYTなどを批判に巻き込みたくない背景にはそんな懸念がある。保守系メディアにも同調する動きが目立ち、あるコラムニストは「ウィキリークスは報道機関でなく犯罪事業。閉鎖すべきだ」と米ワシントン・ポスト紙に書いた。
一時は、支持派の国境なき記者団などからも批判された。アフガン戦争に関する7月の暴露の際、民間の情報提供者の名前まで出し、報復の危険にさらしたというのが理由だった。アメリカン大のチャールズ・ルイス教授は「編集上の判断が必要で、ジャーナリズムのより大きな経験や手助けが要る」と指摘する。批判を受けて、10月のイラク戦争関連の公表では多くの個人名を削除した、とウィキリークスはいう。
特定の事務所を構えず、サーバーはスウェーデン、記者会見はロンドンが中心だ。「多国籍の基盤を持つためどの国も制御できない」(ルイス氏)という見方がある一方で、「米市民でないアサンジュ氏に米政府は幅広い手段をとれる」と強権発動を示唆する米メディアもある。
サーバーが攻撃され、一部金融口座も閉鎖されたと主張するウィキリークス。さらなる暴露を阻みたい当局との攻防が続く。(藤えりか)
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