社説
臨時国会閉幕 政治の劣化が目に余る(12月4日)
これで政治は大丈夫なのか。言論の府の機能不全ばかりが目についた与野党の論戦だった。
きのう閉幕した臨時国会は参院で野党が多数を占める「ねじれ」の下で、初めての本格論議の場だった。
与野党には新たな政治情勢を受けて国会を活性化させる知恵と工夫が問われた。菅直人首相にとっては国政のリーダーとして指導力と政権の大方針を示す絶好の機会だった。だがいずれも期待外れに終わった。
今国会では出口の見えないデフレ不況に加え、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐる対中外交や、北朝鮮の韓国砲撃など日本外交の足もとを揺さぶる出来事が相次いだ。
国会に課せられたのは、東アジアの危機回避と平和構築のために、日本が果たすべき役割について意見を戦わせ方向を見いだすことだった。
しかしそうした「大きな論議」は皆無に等しく、枝葉末節にこだわる質疑や揚げ足取りが目立った。
北朝鮮の砲撃をめぐる集中審議では菅首相の官邸入りが遅かったと野党は責め立てたが、首相は同じ敷地内の公邸で情報収集に当たっていた。形式的な「対応遅れ」を批判するよりも実のある論議をすべきだ。
北朝鮮の暴発から国民を守り、米国や韓国、中国と連携して東アジアの安定にどう道筋をつけるか。日本が率先して担うべき責任はなにか。
そんな前向きの論議こそ聞きたかった。野党第1党の自民党には建設的な提言が求められたが、閣僚の問責決議を連発し、政権を追い詰めることにきゅうきゅうとするだけでは国民の幅広い支持は得られない。
国会に臨む菅首相の姿勢にも首をかしげる。論戦全体を通じて気迫が伝わらず、首相自身が一体なにをやりたいのか最後まで見えなかった。
官房長官や国交相に対する問責決議には疑問があるにせよ、野党の追及を許した背景に政権の緩みがあったことも見逃すわけにいかない。
その責任は内閣を束ねる首相にある。中国漁船衝突事件での船長釈放や海保のビデオ公開問題で自らの政治責任を回避した首相の対応は、看板の「政治主導」からほど遠い。
政府が提出した重要法案は軒並み審議が見送られた。事実上唯一の成果が補正予算の成立だけというのではあまりに寂しいではないか。与野党は厳しく反省してもらいたい。
菅首相にとって年末は正念場である。最大の課題は、来年度予算編成で財源を捻出しながら民主党の公約をどう実施できるかだ。年内に方向を示す社会保障改革や近く決定する防衛大綱の中身も問われる。
逃げ腰では何も進まない。首相は課題に正面から取り組んでほしい。