3日に閉会した臨時国会は、政権交代した民主党が初めて迎えた「ねじれ国会」だった。参院で少数派の与党が、多数派・野党を相手に論議を尽くす「熟議の国会」への期待もあったが、肝心の政策論争は深まらぬまま64日間の会期を終えた。今国会で明らかになった課題は何か、ねじれ国会の打開策はあるのか。「国会改革」を共同提言している民主党の細野豪志前幹事長代理、自民党の河野太郎前幹事長代理、みんなの党の水野賢一幹事長代理の3氏に語ってもらった。【司会は小菅洋人・政治部長】
--充実した議論がなかなかできなかった国会だった。振り返っての評価は。
細野氏 政府・与党も反省が必要だが、そろそろ国会のあり方そのものについても考え直さなければならない。外交問題を国会で審議をすることは必要だが、北朝鮮問題など、緊急事態が発生した時は、外交では与野党の攻防はある程度水際まで、という分別があってもいいのではないか。
水野氏 今国会は10年度補正予算を成立させるだけの国会だったという印象だ。「熟議の国会」にすべきだと言われながら、今国会で参院は本会議で趣旨説明をした法案が一本もない。この国会で、いかに重要法案が一本も審議されなかったかの象徴だ。
与野党のどちらに責任があるかは、お互いに責任があるのかもしれないが、国会審議を見ていると、激しい言葉でののしればののしるほど厳しく追及しているという風潮はよくない。政府の論理の矛盾などをしっかり問いただすことにしていかないといけない。政府側の答弁も、参院で問責決議が可決された仙谷由人官房長官をはじめ、かなり粗雑な、ごまかし、はぐらかしのような答弁も多かった。
細野氏 結果として予算案も含め、強行採決も一回もなく、与党の姿勢としては悪くはなかった。しかし、熟議の国会と言えるかというと、本当は異論があるものこそ、しっかり議論して、場合によっては修正して納得ずくで採決するというのが熟議のあり方だ。そこまでは遠く及ばなかった。与党も野党も双方、重要な問題については議論にすら入れないというのは異常な事態であるということに気がつかなければいけない。
我々与党も強行採決しないので、法案の中身で野党に異論があれば意見をもらって、そこで修正できるというところまで次のステップはぜひ行きたい。
もう一つは、与党も野党も激しい言葉を浴びせて、そのワンフレーズが15秒ぐらいテレビに映るということを意識しすぎている。自民党の石破茂政調会長の衆院本会議での演説は極めて辛辣(しんらつ)だったが、思わず聴き入った。我々の立場からしたら認めがたいが、急所を突いている。そういう演説は議員は聞く。もう少しそういうことに重きを置く文化を持たなければいけない。
河野氏 国会での演説が粗雑になっている。確実に、昔のほうが演説がうまかった。
NHKが中継するのだから、質問するほうも、答えるほうも、社会保障どうする、防衛予算どうするなど、国民に聞いてもらって考えてもらうようにしたほうがいい。尖閣諸島のビデオ流出や、民主党の小沢一郎元代表の「政治とカネ」は確かに問題だが、もっと年金や医療なども訴えたほうが良い。
野党も、もう少しどこを攻めるのか考えなければいけないのはその通りだ。しかし与党も仙谷氏のように時間を稼ぐだけの答弁は考えてもらわなければいけない。
水野氏 政府・与党は確かに熟議の国会という言い方をして、低姿勢で臨んでいこうというスタンスはあった。そのわりにはどの法案を重視しているのか、優先順位が見えにくかった。
河野氏 熟議をするなら、法案は必ず修正されるという前提で与野党が動かないとダメだ。そしてどこまで修正するということを世論の前で、ちゃんと議論することが大事だ。しかし、法案が修正されるメカニズムはまだ十分できていない。
細野氏 政府・与党でも現実を踏まえて、覚悟するところまではいっていない。やはり内閣からすると閣議決定は重い。できれば原案の通り成立させたいという建前をいまだに言っている。しかし、国会で堂々と修正すれば、国会という最高意思決定機関の判断なんだから、と政府は受け入れればよいだけの話だ。しかし、そこまでまだこなれていないのが現実だ。しかし、政府に入ってない国会サイドにいる人間は現実が分かっているから、そういう人がかなり出てきて、あと一歩のところまできている。
水野氏 国会の中で議論をして修正するのはオープンでいい。国会に出す前に与野党が変な形で調整するよりは正々堂々と国会で修正するのが筋だ。
--与党側は熟議の国会といいながら、野党側に呼びかける熱意が補正予算案でも欠けていたのではないか。
細野氏 補正に関しては呼びかけた。しかし予算も場合によっては修正しなければ前向きな議論にならないということであれば、踏み込む余地もあった。しかし、法案と同じように予算も話し合って修正するとまで腹は決まっていなかったかもしれない。
河野氏 今国会は来年の11年度予算案審議の予行演習だったはず。予算関連法案を含めてきちっと議論をして、通すことが今回できれば、来年も予算や関連法案の議論をして、必要な修正をして成立させることはできるはずだ。
来年の通常国会は、政治が責任を持って、国のことを考えているのかどうかが問われる。(年度末という)期限が決まっている中で、こういう枠組みでやろうという議論をどれだけちゃんとできるかが問われる。
細野氏 09年衆院選のマニフェストを続けて次の選挙まで政権運営をしていくのか、それともあるところで整理して、ここからはなかなかやり難いと国民に率直に説明したうえで与野党に協力を呼びかけるのか。それを考えなければならない時期に来ている。
河野氏 財源がないから国債を増発するのでは、日本も困る。民主党は、自民党の財政健全化責任法案を利用して降りてくる、という方が来年の予算の議論に入る時にお互いやりやすい。
細野氏 国が少しでも前に進んでいくためには野党の力を借りなければいけない。
--来年5月ぐらいまで、どう展望するか。
細野氏 個人的な意見を言えば、国会としては予算の修正はありうべしだ。政治を少しでも前に進めるためには、修正は完全に否定すべきではないと思う。そこを含めてしっかり議論できるような環境を整えて、さまざまな意見にも耳を傾ける姿勢を民主党としては持つべきだ。
河野氏 予算は修正するもんだっていう癖をつけなきゃいけない。予算修正を最初からフリーハンドで政策の議論をしてしまうとなかなか難しい。少なくともこの枠に収めるためにどこを削ってどこを入れるんだっていう議論から入ると、たぶんこうやれば数字がぴったり合うという議論になる。お互いそこからならやりやすい。
だから、財政健全化責任法案を通す代わりに、予算も最大限協力しますということが必要だ。本当はそれをやるのがこの臨時国会だったができなかった。来年の通常国会はいきなりリハーサルなしのオリンピックで本番みたいになってしまう。
--国会がうまくいかないなら物事を進めるために、民主、自民の大連立はあるか。
細野氏 いきなり大連立はなかなか理解されない。国会の機能という観点からも、みんな与党で政府を後押しする姿はベストだとは思わない。対立する部分があるのは自然なことだ。論争なき国会はあまり望ましいものではない。修正できて歩み寄れる部分が、一定数出てくることが理想だ。
河野氏 下手に大連立をやるよりは、もう少し政策の議論をやって、実現するためには政党の組み替えが必要とならないとだめだと思う。自民党も変わらなきゃいけない。いまみたいな状況で大連立になると、政権に対する信頼が極度に失われる。
水野氏 民主、自民の2大政党が一緒になれば国会運営は政権の思うとおりに進むが、国会での議席を8、9割持てば世論の支持が8、9割になる、などということはない。その時には、みんなの党が大連立政権に対する批判の受け皿になりうる。
--与党が政府をチェックする緊張関係はあるか。
細野氏 チェック機能は果たしているが、最後に了承する仕組みがなく、自民党時代と若干違っている。逆に言うと、国会でチェックをするという機能を与党も持ちうる。そういうチェックをする中で、野党とも合意をできるのであれば、それは変えるという議論もしやすくなっている。
そういう意味では、与野党の協力がやりやすい環境だと思う。
水野氏 しかし、自民党時代に、与党が政府と緊張関係があった時は、郵政民営化の時に、亀井静香氏らが総務会を根城にして執行部批判をしたのが典型。ただ民主党の新人議員らは、単なる国会での採決要員になってしまっていないか。
細野氏 マニフェストで、何をやるか、何をやれないかの議論は政府ではなかなかできないので、党の側で相当議論しなければいけないが、できていない。大局的な議論を忘れていないかということには懸念を感じている。
本当は、若手の議員の訓練の場所は国会だ。いまの民主党の閣僚もみんな国会を通じて存在感を出してきた。それを考えれば、もっと与党議員にも国会での発言の機会はあるべきだ。そういうところで力をつけていくということはあっていいと思う。逆に自民党の新人議員は国会発言の機会が与党時代よりはるかに多くなっていて、鍛えられているのではないか。
水野氏 問責決議案の位置づけをもう一回精査すべきだ。今は問責決議が可決されるとそのまま野党は審議を拒否する。はたしてそれがいいのか悪いのか。このままでは与野党がお互い通常国会冒頭から我慢比べのチキンレースになってしまう。これは与野党にとっては意味あることでも国民生活には意味がない。ここは冷静に考えていく必要がある。
細野氏 衆院参院問わず、三つくらい緊急に変えた方がいいことがある。一つは、法案の会期不継続の原則をやめ、会期に関係なく審議して採決できるようにする。これができれば相当変わる。
もう一つは、党議拘束をかけない自由投票を増やす。議員個人個人がそれぞれの判断ができるようにすれば、議論の中身によって法案の良い悪いが決まってくる。
もう一つは、法案、予算の審査と、行政監視を分ける。この三つについて、まずは参院からねじれ国会を乗り越える議論をしてもらえると、ここから変わると思う。
河野氏 ルールの変更は、いま野党にいると野党に厳しいとか、いま与党にとってそれは厳しいというのはあるかもしれないが、政権交代したらお互いの立場が変わるわけだから。与党になったらちゃんと統治できるし、野党になったらちゃんとチェックできるということを担保してルールを作らないとならない。
--特に予算委のあり方は考えなければならない。
細野氏 野党時代については反省しきりだ。我々も国対と連携して日程闘争に膨大なエネルギーを使っていた。国会を変えるということになれば、過去我々がやってきたことも反省をすることが大前提だ。いまの野党がわがままだとかいうつもりもない。国会が動かないことが与野党にとって政治の劣化でもあり、国民からみたときに「こんなことやっていていいのか」という声がある。変えるとしたら今だ。
水野氏 確かに合意を得るには今がチャンスだ。お互いみんな与党も野党も経験している。昔は与党に有利なことは自民党に有利と同じだったが、いまは、与党に有利といってもお互い与党になる可能性がある。一時的にはどちらかに有利、不利はあっても、長期的にみれば一方的に有利、不利にはならない。
--法案を修正する仕組みを制度的に考えられないか。
河野氏 手続きの問題ではなく、実質の問題だと思う。しかし予算などはやはり、与党側にもその気がないし、野党は単に否決すればいいみたいな話になっている。予算は特に、参院で否決しても成立するからだ。
--国会改革はなかなか進まない。
細野氏 波がある。与野党の役割が固定しているときは、野党も政策を実現したいから、例えば有事法制の議論などでもかなり積極的に与野党の協議をやっていた。ところが、いよいよ選挙になると、戦って勝ち取るぞといったら、だめになる。しかし、今はまた、新たな段階になっているので、お互いに変わる可能性がある。
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◆ねじれ国会の経緯◆
<ねじれ>
1989年 7月 参院選で自民党が大敗し、過半数割れ
8月 宇野内閣総辞職、海部内閣発足
12月 参院で野党の消費税廃止関連法案可決、衆院で廃案
90年 6月 自民党と野党3党が「税制問題両院合同協議会」設置
10月 海部内閣が国連平和協力法案提出、11月に廃案
91年 4月 両院協議会が消費税見直しで合意、5月に関連法成立
11月 政治改革法案廃案を受け海部内閣総辞職、宮沢内閣発足
92年 5月 PKO協力法案で自民・公明・民社3党が修正合意、6月に成立
93年 6月 宮沢首相が政治改革法案成立を断念。内閣不信任決議が自民党からの造反で可決、衆院解散
<ねじれ解消>
8月 衆院選(7月)での自民単独過半数割れを受け、非自民8党・会派の細川内閣発足
94年 4月 細川内閣総辞職、羽田内閣発足
6月 羽田内閣総辞職、自民・社会・さきがけ3党連立の村山内閣発足
96年 1月 村山首相退陣、橋本内閣発足
9月 旧民主党結党
11月 自民党単独政権の第2次橋本内閣発足、社さ両党は閣外協力
98年 4月 民主党結党
5月 社民党が連立解消
6月 さきがけが連立解消
<ねじれ>
7月 参院選で自民党惨敗。橋本内閣総辞職、小渕内閣発足
10月 金融再生関連法が民主党案の丸のみで成立、金融機能早期健全化法は自由党の協力で成立
同月 額賀福志郎防衛庁長官の問責決議可決、11月辞任
99年 1月 自民、自由両党の連立政権発足
10月 自民、自由、公明3党の連立政権発足
<ねじれ解消>
2000年 4月 小沢・自由党党首が連立離脱表明。連立維持派が離党し保守党を結成、自公保連立に
同月 小渕首相急病に伴う総辞職で森内閣発足
01年 4月 小泉内閣発足
03年 9月 民主、自由両党が合併
05年 9月 衆院選で自民党圧勝。自公両党で衆院3分の2議席を確保
06年 9月 自公両党による安倍内閣発足
<ねじれ>
07年 7月 参院選で自民党大敗、民主党が参院第1党
9月 安倍内閣総辞職、福田内閣発足
11月 福田首相が小沢・民主党代表に大連立打診
08年 1月 新テロ特措法が衆院再可決で成立
3月 日銀総裁人事が参院で不同意。戦後初めて空席に
同月 揮発油税などの暫定税率が失効
4月 道路特定財源と暫定税率維持法を衆院で再可決
6月 福田首相の問責決議可決
9月 福田内閣総辞職、麻生内閣発足
09年 8月 衆院選で民主党圧勝
<ねじれ解消>
9月 民主、社民、国民新3党の鳩山内閣発足
10年 5月 米軍普天間飛行場移設問題で社民党が連立離脱
6月 鳩山内閣総辞職、菅内閣発足
<ねじれ>
7月 参院選で民主党大敗
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■人物略歴
66年生まれ。早大卒。議員秘書を経て99年に繰り上げで自民党から衆院初当選。4期務めたが09年衆院選で落選。今年7月参院選でみんなの党から初当選。党幹事長代理。
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■人物略歴
63年生まれ。米ジョージタウン大卒。会社員を経て96年、神奈川15区から衆院議員に初当選。5期目。総務政務官、副法相などを歴任。自民党前幹事長代理。
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■人物略歴
71年生まれ。京都大卒。三和総研(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)研究員を経て00年の総選挙で初当選し、4期目。民主党前幹事長代理。
毎日新聞 2010年12月6日 東京朝刊