現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年12月6日(月)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

法人税減税―小幅でもやむをえない

来年度の税制改正の焦点のひとつである法人税率の引き下げが難航している。減税に必要な1.5兆円の財源のめどが立たない限り、小幅な下げもやむをえないだろう。法人に対する税率[記事全文]

民生委員改選―情報の共有で地域を守る

今月から約23万人の民生委員が一斉に改選され、新しい3年間の任期を歩み始めている。その活躍に期待を込め、声援を送りたい。都道府県知事の推薦を経て、非常勤の公務員として国[記事全文]

法人税減税―小幅でもやむをえない

 来年度の税制改正の焦点のひとつである法人税率の引き下げが難航している。減税に必要な1.5兆円の財源のめどが立たない限り、小幅な下げもやむをえないだろう。

 法人に対する税率は、国税と地方税をあわせて40%強。国税である法人税は30%で、経済界はこれを5%幅で引き下げるよう求めている。

 菅直人首相はすでに政府税制調査会に法人減税の検討を指示している。減税で雇用拡大や景気回復を促そうという狙いだ。

 朝日新聞の全国主要100社アンケートでは、菅政権に期待する経済政策として79社が「法人税減税」をあげた。世界ではここ10年、法人税引き下げ競争が激しい。日本の電機産業などが競合する韓国や中国の税率は今や20%台なかば、ドイツや英国も30%を切る水準だ。日本は割高である。

 日本には研究開発減税のような制度もあるが、それを考慮しても実質負担率は、やはり他の主要国より高い。日本と同じ高税率だった米国も、議会には減税論が浮上してきたという。日本も早急に世界水準との税率差を埋めていく必要がある。

 法人税を下げても雇用拡大の効果はそれほどない、との見方もある。円高や国内需要の減少で企業が生産拠点を海外に移す流れは構造的なものだ。しかし、国内に雇用を残したり、設備投資を維持したりするうえで不利な材料は、少しでも減らしたい。

 財源について、政府の税制調査会は原則として企業の税負担の付け替えでまかなう方針だ。赤字を翌年度以降の黒字と相殺できる「繰り越し欠損金」制度や、資産の目減り分を損金算入できる「減価償却」制度などを見直し、課税対象となる企業を広げる。こうすることで税収を増やし、財源を確保する案が有力になっている。

 それでは計1兆円足らずにしかならず、5%減税は無理だ。とはいえ一時検討された研究開発減税の縮小、石油化学製品の原材料となるナフサ免税措置の縮小などに踏み込めば、逆に雇用を減らす圧力を企業に加えかねない。

 消費増税などの大型増税は封印されているうえ、歳出を削って財源を確保するにも限度はある。いきおい、赤字国債を増発して一時的にしのぐという手法に傾きかねないところだ。

 だが、将来の税収増で穴埋めすればよい、という安易なやり方は採るべきではない。それでは財政そのものに対する信頼を著しく損なってしまう。その結果、避けて通れないはずの消費増税を柱とする税制改革はますます先送りされ、社会保障も財政再建も展望を失いかねない。

 こうした状況を踏まえれば、財源が許す範囲で減税幅を決め、早期に実施するのが現実的ではないか。

検索フォーム

民生委員改選―情報の共有で地域を守る

 今月から約23万人の民生委員が一斉に改選され、新しい3年間の任期を歩み始めている。その活躍に期待を込め、声援を送りたい。

 都道府県知事の推薦を経て、非常勤の公務員として国から委嘱される。ものものしく聞こえるが、ごく普通の市民が無給で、行政と地域のパイプ役を担っている。

 今夏、高齢者の所在不明問題が社会を揺るがせた。東京都足立区で戸籍上111歳の男性の白骨遺体が見つかった事件が端緒になったが、「生きている」という家族の弁明の壁を崩したのは、民生委員の粘り強い働きだった。

 プライバシー意識が高まる一方で、引きこもりの高齢者の孤独死、家族による虐待が後を絶たない。

 そうした状況で民生委員の役割はますます貴重だが、活動は以前より難しくなっている。家族構成、障害の有無、公的サービスの利用状況など、住民の個人情報が活用しづらくなっていることも一因である。

 自治体の姿勢にも問題がある。今秋、厚生労働省がサンプル調査を実施したところ、15%の市町が民生委員に個人情報を全く提供していなかった。個人情報保護への過剰反応のせいなら、改めるべきだ。

 都市部の民生委員は、1人で数百世帯を担当するが、高齢者の急増でこまめな訪問は難しくなっている。

 そこで近所の人に、虐待の気配や悪徳業者の出入りがないかなど、見守りの協力をお願いすることがある。

 しかし、守秘義務がある民生委員から原則として個人情報は教えられない。本人の同意があればそれが可能になるが、支援が必要な人ほど引きこもりがちで、助けを求めたがらないという問題もある。

 こうした状況に向き合い、個人情報の「保護と活用のバランス」を各地域で考え直してみる時ではないか。

 東京都中野区では、支え合い活動に参加する町会などに、支援が必要な人の情報を提供できるようにする条例を検討中だ。不正利用には罰金を科す規定もあり、住民の理解を深めるための対話を重ねている。

 情報をうまく共有するには、支援する側とされる側の双方が意識を高め、信頼を深める必要がある。

 民生委員の方にも、活動の質にばらつきがあるといわれる。支え合いへの参加をさらに広げるために、研修などでますますレベルアップを図り、住民が安心して情報を委ねられるようにしていきたい。

 私たちは、いつ助けられる側に回るか分からない。自らの情報をある程度オープンにしないと、「助けて」と言い合えるつながりはできない。情報共有できる信頼関係こそが、安心を支える最強の基盤になる。

検索フォーム

PR情報