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天声人語

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2010年11月30日(火)付

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 支持率を右に左に振り落として、菅政権の迷走が続く。多事多難を抱えた法務大臣は放言で去り、朝鮮半島の有事にも頼れる言辞は聞かれない。落ち葉を踏みしめ、言の葉の重さを思う11月の言葉から▼裁判員裁判で初の死刑判決が出た。会見に一人応じた50代の男性裁判員は「本当に悩みました。今も思い出すと涙を流してしまう。それで察してほしい」。「言葉少な」は時に雄弁だ▼死刑囚から初の再審無罪を勝ち得た免田栄さん(85)。獄中の34年間に約70人を見送った。看守の足音が他の独房前で止まった時の心境を「こぎゃん縮まってた体がスーッと伸びていくような感じ。背中には冷たい汗がコロコロ落ちよるですたい。普通は流れ落ちるのに、あれが丸くなって転げ落ちる」と▼「テレビやネット、政治家まで、短くて強い言葉があふれている。じっくり伝え合うのではなく、ワンフレーズで振り向かせる風潮が教師にも影響していると思う」。元教師の歌人俵万智さんが、止まらぬトンデモ授業に一言▼在ベオグラードの詩人山崎佳代子さんが東京外大で講演した。「声は人の魂を結びつける。声を出す時はみんなに届くように出し、声を聴く時は心を込めて聴く。この二つが欠けると社会はほころびる」▼小惑星イトカワの砂粒をしっかり持ち帰っていた探査機はやぶさ。「帰ってきただけでも夢のようなのに、夢を超えたものはどう表現していいのか」と、計画を指揮した川口淳一郎教授の笑顔がはじけた。言葉を失うほどのうれしさ、生涯に何度味わえるだろう。

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