構想八策 - 増税なき財政再建､所得倍増､食糧自給､首都機能移転
講演が終わり、何人かの方から労いのメールを頂戴した。この場をお借りして感謝のお礼を申し上げたい。今回の記事も、ＰＡＲＣでの講義の続きを簡単にご紹介することにする。これも、やはり従来からブログで主張してきた内容が中心だが、それなら、日本の基本政策をどういう方向に転換させ、現在の危機を克服するかという提言である。どのようなアイディアとイマジネーションで構想を描くかという政策設計のコンセプトを８本の柱に纏めた。(1)消費税増税なき財政再建、(2)規制強化と再分配による内需拡大、(3)所得倍増と高度成長、(4)食糧自給力と工業競争力、(5)二人っ子政策、(6)首都機能移転、(7)東アジア共同体・日米安保破棄、(8)倫理・教育、というマニフェストのカタログになる。私はこの八策を選択し断行するしか国を救う道はなく、日本人が生き延びる方途はないと思うが、現時点でこうした構想が簡単に国民のコンセンサスになるとは思わない。多くの国民の意識は、かくの如きラディカルな改造案とは遠い現状にある。夢想や幻想に映るだろう。だが、一つ言えることは、現時点の菅政権やマスコミが「正論」とする政策路線と私の構想との中間に鳩山マニフェストがあり、小沢一郎の「国民の生活が第一」の政策路線があるという点だろうか。現在の常識からすれば、これは大胆な跳躍であり、現実離れした挑戦である。しかし、いずれ危機が窮まり、かかるラディカルな方向性がリアルな選択肢となる局面が必ず到来するに違いない。
(1) 消費税増税なき財政再建。どのような政策設計を発案し提起するにしても、まず最初に財政再建について言わなくてはならない。この問題の解決こそ最大の課題であり、すべての政策構想の前提になるべき議論だ。どうやって財政再建するか、900兆円の国の借金を返済するか、プライマリーバランスをゼロにして健全財政を回復するか。その具体案を提示しなくてはならない。現在、それは消費税の増税で実現せよという議論が支配的になっている。しかし、私は、それでは個人消費が圧迫され、内需がさらに萎縮し、結果的に税収全体が伸びず、必要な社会保障の財源の確保には繋がらない事態になるだろうと予想する。講演では、�‥譽轡奮ぅ�ス田開発、��外為準備金の政府保有米国債、�Ｂ膓箙圓悗旅餾塚�払い延期、の３点で対策する財務計画を述べた。�，砲弔い董�不思議なことに誰もそれを財政再建の妙案として言う者がいない。ガス田の埋蔵量は、出回っている情報では、原油換算で最も少ない推測値が20臆バレル、最も多い推測値が1000億バレルとなっている。仮に1000億バレルの埋蔵量があった場合、１バレル80ドルの現在のレートで800兆円の資産価値となる。中国と等分して400兆円だ。なぜ、すぐに正確な埋蔵量の調査を始めないのか。以前は、埋蔵量は多いという風説が多かったが、最近は実は少ないという情報が垂れ流されている。
東シナ海ガス田の埋蔵量を少なく見積もる情報の流布には、きっと裏に深謀があるはずで、私は米国の謀略ではないかと疑っている。国民をガス田への関心から引き離し、中国との関係改善を阻害するための情報工作だ。本当にガス田の埋蔵量が些少なら、あれほど中国が頑迷に固守し、日本を排除して領有を企む理由がないのではないかと思えてならない。いずれにせよ、ガス田問題を財政再建の一案として考える国民的論議が必要で、誰かが一石を投じなければならないだろう。仮に1000億バレルの埋蔵量が確認されれば、ガス田公社の会計に400兆円の国債の債務を移転し、ガスの売上で償還費と利払いを充当すればいい。ガス資産を担保に債券を発行する形でもいいだろう。国庫（国債整理基金特会）から400兆円の負債が消える。�△砲弔い董∪�府保有の米国債は、外為特会に100兆円の外貨準備金として積まれている。これは、なぜか2003年から急激に金額が急増して、50兆円規模が２倍の100兆円になった。２年前の世界金融危機のとき、麻生太郎がＩＭＦに提供した10兆円はここから拠出したものだ。このうちの50兆円を財政再建のために取り崩そう。米国債の売却だと問題が生じるので、やはりこの原資を担保に債券を発行し、市場から資金を集めればいい。集めた資金を国債の償還費と利払いに充てる。�，鉢△�450兆円。これで国の借金の半分が消え、年度の一般会計歳出における国債費は、現在の20兆円から10兆円に減る。すなわち消費税５％分だ。
(3) 所得倍増と高度成長。湯浅誠批判の議論でも述べたが、現在の日本の社会保障を含めた歳出は、基本的に60兆円の税収があって予算が組めるもので、40兆円しか税収がない現状が異常なのである。そして、そうした低い税収は、470兆円という異常に小さなＧＤＰの国民経済が結果させている。経済規模が小さすぎる。その認識を基点に置かなくてはならない。名目ＧＤＰ値で、日本経済は1997年に515兆円の規模で回っていた。今は13年前よりも経済が縮小していて、だからこそ、一人当たりのＧＤＰが世界第５位から第17位に激落しているのである。こんな国は他の先進国にない。他国は、どこも平均して13年間に1.3倍の経済規模に拡大していて、それは年平均の成長率に換算して、わずか2.3％の低成長である。日本も他国並みに年平均2.3％成長を続けていれば、1997年の515兆円のＧＤＰは、2009年に671兆円になっていたのだ。671兆円こそが日本に相応しいＧＤＰ値であり、日本の社会保障を「中福祉」の水準で維持できる経済規模なのである。つまり、現状の477兆円のＧＤＰとは200兆円のギャップがある。われわれは、本来、国民全体が働いて生産できる経済の70％の規模しか実現できていない。この数字は、中小企業の売上とか工場の稼働時間と実質的にリンクするだろう。これが諸悪の根源なのだ。われわれは、もっと生産と消費をしなくてはいけない。もっと多くの注文と売上がなければならない。こんなに失業者が多いのはおかしい。そして、少子高齢化を経済縮小の理由にするのもおかしい。
少子高齢化は先進国の一般傾向であって、日本だけの特殊なマイナス要因ではない。日本経済がこれほど落ち込んだのは、一つは90年代後半、不良債権処理のために銀行が貸し渋りと貸し剥がしをやり、中小企業の経営を潰して行ったからだ。二つ目は2000年代の構造改革が始まり、中産層のサラリーマンがリストラで没落し、国民の購買力が大きく失われたことがある。三位一体改革により、地方経済が極度に疲弊させられたことがある。「負け組」となった多数の国民の負担が増えたことがある。そして、大企業の製造業が系列を切って生産拠点を閉鎖・移転したために、中小企業まで生き残りのため海外に出ざるを得なくなったことがある。日本は、この15年間、ずっと内需を悪化させ、消費と生産を衰退させ、技術を損失させる政策ばかりを続けていた。それを「改革」と称し、「グローバル化への対応」の言語で正当化し、正しい経済政策の道を進んでいると観念してきた。錯覚してきた。これを止揚し、中産層と日本的経営を再建し、内需を脹らませることをしなくてはいけない。中小企業の売上と利益を増やし、国民の所得を増やし、税収を60兆円（1990年）に戻し、そしてさらに80兆円に高める必要がある。671兆円のＧＤＰは、年７％の成長で５年後の2015年に達成できる。この程度の経済成長を目標とすべきで、現在406万円のサラリーマンの年収は、年５％の伸びで15年後には800万円となる。現在の政策と制度を固定し、消費税を上げて企業を海外に出す方向を促進すれば、日本のＧＤＰはすぐに400兆円を下回り、サラリーマンの年収も300万円に落ちるだろう。
(4) 食料自給力と工業競争力。 これもブログでの持論だが、八策の一つの産業政策として並べた。今年に入り、政変で新自由主義側が権力を握り直し、食糧自給率を高める政策は誰も何も言わなくなり、逆にＴＰＰで自由化する方向に流れとなり、自民党時代の専業農家による大規模（輸出型）農家の方向に政策がシフトした。逆流した。これが無意味であることは、前からの経験と議論で確定しているはずで、農協も地方選出議員もそう言い、金子勝もそう言っている。日本農業の再建は、中山間地域の小規模農家の経営を持ち支える仕組みを作り、高齢化が進む現在の農家が後継者を育成できる生産と所得を保障することである。すなわち、270万haの休耕田のうち100万haを飼料米生産に転用し、米産トウモロコシの輸入を停止し、牛肉と豚肉を国内で自給できるようにすることだ。そして、米の消費を政策的に倍増させ、小麦ではなく米粉のパウダーでパンや麺や菓子を生産することだ。これはＮＨＫの特集番組で紹介されたとおり。飼料米と米粉で食料自給率は上がる。いずれ、遠からず、３年前の世界食糧危機が再現されるだろう。そのとき、ＴＰＰに加盟していたら日本は終わりだ。マスコミと政治の議論は矛盾していて、農業については高付加価値の産品を中国の富裕層に売れと言いながら、工業については新興国中産層向けに安価で低機能の製品を売れと言い、韓国や中国の製造業者が競争相手だと言っている。なぜ、工業製品についても、高付加価値品を差別化して売れと言わないのか。韓国や中国の企業にはマネのできない技術を開発しろと言わないのか。
（6) 首都機能移転。現在は「地域主権」という言葉が流行っている。中身は何もなく、どうやら道州制を目指す新自由主義側の政策方向を別の言葉で言っている。道州制が施行されれば、各道州は医療や福祉や教育などの予算の財源を自前で確保しなければならなくなる。また、教育基本法や労働基本法の適用も全国均一の保障効力を持たなくなり、恐るべき地域格差がこの国に生まれることになる。各道州政府は企業本社誘致のために法人税引き下げ競争を演じ、そのため法人税の税収総額は極端に少なくなることが予想される。住民が少なく産業基盤の弱い四国や北海道は、現在の教育や医療の水準維持が困難になるだろう。20年前は、東京一極集中を排除するため「首都機能移転」が言われ、12年前には審議会が候補地まで選出していた。われわれは何事も忘れやすい。石原慎太郎が知事になり、さらに小泉政権が誕生し、首都機能移転論議はすっかり下火になった。資本法制が規制緩和され、株式持ち合いが解消され、金融ビッグバンでハゲタカが日本の損保や生保を買収し、日本企業の株が外資に買われ、東証が米資に支配されたのと期を一にしている。私の首都機能移転論は、東京と地方の富のバランスを平準化し、地方経済を再生させる狙いもあるが、もう一つ、重要な目的として官僚支配の排除がある。官僚の権力を粉砕する妙手は、省庁を東京から隔絶した遠方に移し、霞ヶ関を物理的に潰すところにある。東京から遷都を断行することで、行政機構をゼロから再設計して官僚から権力を奪取することができる。これは、桓武天皇が貴族や寺社の利害や権益を政治から一掃すべく、平城京を捨てて山城国の盆地に遷都したのと同じだ。遷都（首都機能移転）と同時に、現行の国家公務員試験制度も廃止する。そこまでやらなければ、官僚による予算編成権を奪い取ることはできず、官僚の支配に終止符を打つことはできない。この提案はラディカルだが、15年前を思い出せば、正論として一般に論議されていた。遷都先をどこにするかは、講演では具体的に都市名を理由と共に説明したが、記事では紙幅が足りなくなった。
