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[24415] 【習作】何故こうなる(ネギま!転生クロスTOL)
Name: セネセネ◆268e9fc6 ID:cf151792
Date: 2010/12/05 17:03
 最初は乗り気だった。望みの力を一つだけ与えられると言うから、思ったがままに言ってみたのだ。
 これで無双出来る。美少女助けてハーレムを作る。そんな阿呆丸出しな煩悩を引っ提げて、いざ転生。
 残念な事に、転生先は与えられた力が無用な一般的な世界。魔物も悪の組織も、宇宙からの侵略者も存在しない平和な世界だった。
 赤子からやり直しの転生生活は、出来ない事だらけで鬱憤は溜まるし、前世での生活と遜色無いので詰まらない。何より、目的が変わり始めている。
 もしかしなくても、前よりは平穏な生活を送っているのではないだろうか。そう思い始めてからは、与えられた力を無駄な所で発揮してまで厄介事から逃げた。
 見るからに柄が悪い連中が集っていれば、気付かれないように気配を消して迅速にパッシングスルー。通り抜けると同時に全力で逃走を開始。
 力の使い方が、当初の目的とは全く真逆に。しかし本人は、それにすら気付いていないかったりする。
 そして、小学校の中学年へとなった頃。商店街で彼は、それまでの生活を覆す出来事に巻き込まれた。

「止めてぇなっ!!放して下さい!!」

 彼が転生した先は大阪に住む一般家庭だったので、そう関西弁は珍しい物でもなかった。しかし、それが悲鳴だったから彼は思わず顔を向けてしまう。
 向けた視線の先、そこでは彼と同い年程の少女が柄の悪い男に腕を掴まれており。その少女に、運悪くも彼は見覚えが有った。
 同い年程も何も、彼のクラスメイト、しかも席が隣同士の少女だったのである。これは、見過ごしたら外道になるのではないだろうか。
 厄介事は御免被る。しかし、外道にはなりたくない。では如何したら良いものやらと、野次馬に紛れて彼は考え込んだ。
 相手は小学生、柄が悪いとは言っても男は無茶をしないだろう。そう思っていたのが悪かったのかもしれない。次の瞬間、男が見せた行動に彼は反応し遅れてしまった。
 少女が抵抗するのに逆上した男は側に転がっていたガラス瓶を拾い上げ、身を捩り逃げ出そうとする少女の背中へと降り下ろす。
 男の降り下ろしたガラス瓶が完全な物だったら、まだ良かったのだが。しかしガラス瓶は底が割れており、鋭利な凶器へと成り変わっていた。それは少女の衣服を切り裂き、下に隠されていた白い肌をも裂いた。
 彼の脈が、大きく跳ねる。

―悲鳴も上げられない程の苦痛に満ちた少女の顔―
 自分は、何を見ている。
―何故、少女の顔は苦痛に満ちている―
 背中を切り裂かれたから。
―少女が背中を切り裂かれたのは何故―
 自分が何もしなかったから。

 出来るのに、彼は男を止めなかった。それを実行出来るだけの力を持っていたのに。平穏を求めていたくせに、自ら平穏を見捨ててしまったのだ。
 彼の平穏には当然、学校での生活も含まれている。今彼の視線の先で地面に力無く倒れている少女との会話も、毎日の様に交わしていた。
 故に、彼の目の前で、彼の平穏の一部が壊れたも同然。少女と言う一部を欠いた平穏は、果たして平穏と言って遜色無いのだろうか。
 いいや、大違いである。
 その時は正常な判断なんて出来ていなかったに違いない。もう一度少女へとガラス瓶を降り下ろそうとする男と、男が為そうとする事に気付いて目を固く瞑る少女との間に身を滑り込ませていた。
 次の瞬間、少女の背中が裂かれた時と同様に血が宙を舞った。

「――ッ!!」

「…………えっ?」

 痛みと同時に食い縛った奥歯が軋りを上げ、熱が背中を駆け抜ける。その際に彼が漏らした僅かな悲鳴を耳にし、未だ痛みが訪れない事を不思議に思った少女は、ゆっくりと固く瞑っていた目を開いた。
 何故か辺り一帯が静寂に包まれたが、逸早く我に返った青年達が男を取り押さえ、誰かが通報して漸く着いた警官に男は敢えなく逮捕された。
 良くやった、と周りの大人達が彼を褒める。しかし、その肝心の彼は沈みきった表情を変えない。むしろ、より酷いものへと変わっていっている様な気もする。
 結局、彼は少女へと降り下ろされた二度目のガラス瓶を防いだに過ぎない。少女の背には一度目の、彼が何もしなかった証である傷が残っているのだ。
 そうだとは知らずに褒める大人達の言葉は、先に受けたガラス瓶よりも鋭い刃となって彼を襲う。

「君、ちょっと良いかな?」

 男を連行した警官とは別の警官が彼に話し掛け、病院へ行こうと促した。彼の血が舞ったのを見た瞬間に気を失っていたのだろう、既に少女は病院へと搬送されているらしい。

(……平穏て何だよ。俺が安全地帯にいる事か?)

 前世でだって乗った事の無いパトカーの中、普段の彼だったのならはしゃいでいたただろうが、生憎と今の彼は考え事に没頭していた。
 彼の背中の傷は決して浅くはない。それなのに涙すら浮かばせない彼を見ていて、布を使って彼の傷を押さえている警官は、その状況を見て気味悪い子供だと思う。
 それから数分とせずに彼は少女が搬送された近くの病院に連れていかれ、傷の縫合を受けた。診断結果は、成長すれば傷痕も薄くはなるだろうが、消える事は一生無いらしい。様無い事だ。
 聞けば、少女の傷痕も同じ診断結果らしく。彼を余計に責め立てた。
 廊下の長椅子に身を任せた彼が呆けていると、警官が来て彼を少女の元へと案内をする。目が覚めて事情を聞いた少女が、彼にお礼を言いたいそうだ。
 部屋に着くと警官は立ち止まり、彼の背中を押して一人で中に入らせた。気を利かせたつもりなのだろう、爽やかな笑顔を浮かべている。
 気まずい表情で彼が部屋に入ると、ベッドの上で横になっていた少女が此方を向き、表情を輝かせて笑った。眩しいくらいに、それはもう無邪気な笑顔を浮かべて。

「ありがとなぁ、助けてくれて」

「…………助けれてないだろ。最初、俺は動けなかった…………だから――」

「そんな事無いで!ウチ、恐かった!殺されるんやないかって、――凄い恐かったんよ?」

 お前の背中には傷が有る。そう続けようとして、少女に言葉を遮られた。

「けど…」

「――けども何も聞かん!どういたしまして以外は聞こえへん!!」

 そう言って少女は耳を塞ぎ、目も固く瞑ってしまった。これは、如何やら少女が折れる事は無いだろう。
 溜息を吐いた彼は無理矢理に少女の手を退かし、その言葉を苦々しげな表情で口にする。
 気分的には、自分で自分の傷を抉っている様な感覚だ。

「…………どういたしまして」

「――うん!ありがとなっ!」

 これが彼、繰時 瀬音流〈くりじ せねる〉と。少女、和泉 亜子が、より深く付き合う事になった切欠だったと言えよう。

 そして数年が経ち、二人は小学校を卒業した。
 件の事件以来に瀬音流以外の男性が苦手となってしまった亜子は、親の意向も有って日本最大の学園都市〔麻帆良学園〕の女子中等部へと入学する事が決定し。何故か瀬音流も一緒に麻帆良学園に行く事が決定されていた。
 可笑しい。確か、瀬音流の進路は近くの市立校に上がる事が決まっていた筈なのだが。
 親の事が解らなくなってきた今日、この頃である。

「あ、あんな?向こうに着いたら、一緒に、ごごご、ごはっ、ごは――!!」

「落ち着いて喋れ。舌噛んじまうぞ」

「――ぁいたッ!!ほんまに噛んでもぅた…」

「ほれ見ろ。見せてみろよ………あぁーあ、ちょっと腫れてら。少し黙っとけ」

 ちょっと仲の良い二人だったりする。



[24415] 第一話 中武研
Name: セネセネ◆268e9fc6 ID:9b1f4cb6
Date: 2010/12/03 20:33
 2001年、春。桜舞う季節に彼等は、その真新しい制服へと袖を通した。

「……って、俺が麻帆良に来た意味、有るのか?」

 実際問題、全くもって意味は無い。
 瀬音流が麻帆良に来たのも、亜子を心配した彼女の両親に相談されて、彼の両親が是非も無く話を進めてしまったからに過ぎない。まあ、意味も無ければ、何かしら問題が有る訳でもないから被害らしい被害も無いのだが。
 で、結局の所、今回の彼の呟きが何を意味しての事かと言うとだ。亜子が通うのは麻帆良本校女子中等部で、瀬音流は麻帆良本校男子中等部なのである。一緒に来た意味、本当に有るのだろうか。
 はっきり言ってしまおう、意味は無い。
 亜子が通う麻帆良本校女子中等部に男は居ない。居たとしても、それは教師なのだから恐れる必要はないのだ。
 さて、そうなるとだ。

「……あれっ?マジで俺、何の為にこんな所まで来たのさ?」

 本当に、何の為に来たのだろうか。それを知る日は、多分来ない。


―第一話 中武研―


 自分が麻帆良学園に居る事に、瀬音流が疑問を覚えてから凡そ三ヶ月。七月も後半へと差し掛かって、学生は夏休みを迎えようとしていた。
 教室では友人同士が、何処に行こうなどと話し合って笑っている。そんな中、瀬音流だけは誰と話す事も無く教室を後にした。
 なんと彼を除いた全員は初等部から一緒らしく、そんな中に放り込まれた瀬音流は居た堪れないでいたのだ。
 そこそこに話はするまでも、それも連絡事項程度。友人は皆無。麻帆良学園に居る事が既に、彼にとっては苦痛にすらなり始めている。
 それでも音を上げないのは偏に、亜子が居るからと言うだけの事に過ぎない。むしろ、それだけで意味すらも必要は無い。
 件の事件以来から仲が狭まった亜子を、今更放って置く事も出来なかったし。此方に来てからは、そこまで仲が良い友人が居ないのも加わり、週末に一度だけ亜子と会うのが楽しみにすらなってきている。
 だからか、最近では大阪に帰りたいと思うのも少なくなってきている。少なくなっているだけで、たまには帰りたいと思う訳だが。それくらいは良いと思う。

「――っと。たまには顔出さないと、退部にされちまうな」

 入部以来は殆ど顔を出していないが、これでも瀬音流は〔中国武術研究会〕、通称〔中武研〕に所属をしている。昨日、その中武研の先輩に呼び出され、今日は顔出さなければ退部させると勧告を受けてしまったのだ。
 これだから体育会系は、と思う事常々。しかし、部活くらいはせなあかんと亜子から言われているので、やむを得ず今日は顔を出すつもりである。

 まあ、これが本当に運命の選択肢だったのかもしれないが。

 中武研が集まる広場に行ってみれば、死屍累々と積み重なる男達。
 如何やら来る場所を間違えたらしい。瀬音流は即座に踵を返し、来た道を戻ろうと一歩を踏み出そうとした。
 しかし、踏み出そうとした方の足を掴まれてしまい、一歩を踏み出す事が出来い。ゆっくりと首だけで振り返り見下ろしてみれば、中武研部長が頭から血を垂れ流しながら彼の足首を頑として放すまいとしている。
 迷惑だ、早く医者に行け。

「顔は出したんだから、帰っても良いっすよね?いえ、答えは聞いてないんで、その手を放せこら早くしろッ!!」

 こんな光景を生み出す人物を瀬音流は一人しか知らないし、その人物に見付かれば無論、彼も死屍累々の山頂に並べられ兼ねない。怪我も何も無視して、瀬音流は中武研部長の手を蹴り付けて脱出を試みる。
 が、しかし時は既に遅し。死屍累々と積み重なる男達の山の向こうから、ひょっこりと一人の少女が顔を出し、ぱっと表情を眩しいくらいに輝かせた。
 その時の中武研部長の顔はと言ったらもう、してやったりと言わんばかりににこやかだったとだけ伝えておこう。

「アイヤーっ!まだ居たアルか?掛かって来るヨロシッ!」

「三十六計逃げるが勝ち――って、このおっさん手を放さねぇッ!?」

「来ないアルか?ならばッ、此方から行くネッ!」

 茶褐色の肌にチャイナ服を纏った少女が地を蹴り、瀬音流との間に有った間合いを一瞬にして詰め、肘鉄の鋭い一撃を踏み込むと同時に放つ。
 本能的危機回避能力とでも言うべきだろうか、背筋に寒気が走るなり瀬音流は力任せに足を振り上げた。中武研部長が掴んで手を離さない方の足を、である。
 如何なったか。簡単である。
 瀬音流が足を振り上げる勢いで引っ張り上げられ浮かび上がった中武研部長の脇腹に少女の放った肘鉄が突き刺さり、足を振り上げつつ背中から倒れて受け身を取った瀬音流の上を飛び越え、中武研部長は車に撥ねられたが如く吹き飛んで行く。
 彼に幸あれ。むしろ頑張って生き延びろ。

「……あっぶねー。死ぬ所だったわ」

「やるアルネ。避けた上に、足枷まで無くすとは。益々手合わせしたいアルヨ」

 御免被る願いである。
 吹き飛んで行く中武研部長を見送った瀬音流は後転倒立の延び上がる勢いで跳ね退き、身体をウズウズとさせて今にも飛び掛かって来そうな少女と相対する。
 先にも言った様に、茶褐色の肌にチャイナ服を纒っており、小麦色なセミロングの髪を頭の両側だけゴムを使って纏めている。その容姿は類い稀なる程に整っており、文字通りに美少女だ。
 残念と言えば、四肢を含めた“全て”がスマートである事くらいであろう。

「――むッ。何か失礼な事を考えてないアルか?」

「頭ん中まで嗅ぎ取るんじゃねぇよっ。獣か、テメェはッ」

「武人は皆獣。爪を持ち、牙を持ち、常に研ぎ澄ませているヨ。なれば、――それで獲物を狩るのも道理ッ!!」

 再び間合いを詰めて拳を突き出す少女。しかし、半身になって踏み込む瀬音流は胸元に掠らせつつも少女が突き出す拳を紙一重で躱し、少女が拳を突き出した側から背後へと回り込む。
 拳を突き出す場合、突き出した側の視界は狭まり、そちらを抜かれると見失い易い。その為、常に継ぎの手が存在している。
 拳を突き出す身体の捻りが生み出す回転は逆の腕で強烈な肘鉄へと流れを繋ぎ、少女の背後へと回り込んだ瀬音流の脇腹を襲う。しかし、瀬音流は半身になった勢いと、少女の脇を抜く為に踏み込んだ勢いを乗せ、腰元で溜めていた拳に寄って少女の肘鉄を迎え撃つ。

「――ッ!!」

 少女の顔に貼り付くのは驚愕の色、そして歓喜の色。
 悉くが一撃で沈められていた中武研の中で唯一人、二撃目すらも防ぐ相手との出会いである。武に生き、強者との闘争を求む彼女にとって、今程に嬉しい事は無い。
 これから繰り広げられるであろう闘争を思い、口元を吊り上げても可笑しくはないのだ。だが、それは少女だけに言える事。
 よって。

「――三十六計逃げるが勝ちッ!!」

 瀬音流には当て填まらない事である。彼は脱兎の如く逃げ出し、呆気に取られている少女は、その背中が見えなくなるまで見送ってしまった。
 何故、如何して。これから始まるのは、血肉沸き躍る熱い闘争なのに。何故に、敵に背を向けて逃げ出す。
 少女の頭の中は疑問に満ち溢れ、気付いた時には、側に臥していた部員の襟首を掴んで引き摺り起こして聞いていた。
 血肉沸き躍る筈だった闘争から逃げ出し、自身に背を見送らせた少年が誰なのかを。

「――まっ、まほ……ら、ほんこう…………だん……しちゅ…………うとう……ぶ………………いちねん」

「――麻帆良本校男子中等部一年……」

 同い年。そう思うだけで少女の闘争本能は勢いを増し、部員を掴み上げていた手に力が籠る。

「――ぐぁ……ッ!?」


「――名は……ッ!名は、何と言うネッ!?答えるヨロシ!!」

「がッ――ぐぁぎ……ッ!!くっ、くりじッ――」

 少女の手に襟首を締め上げられ、部員は今にも白眼を剥きそうになりながらも言い切った。

「――せねる……ッ!!――――げほッごほッ、ぅおええええぇぇッ……!!」

 部員が言い切ると同時に少女は襟首を掴んでいたを開いて解放し、部員が息咳蒸せるのもお構い無く、小さく口の中で反芻する。
 未だ高まり止まぬ闘争本能を叩き付ける為に。忘れぬ為に、その相手の名を自身の記憶に刻む為に。

「――クリジ、セネル……!!」

 本当に、運命の選択肢だったらしい。

「ワタシがッ、この古 菲が――お前を倒すネ!」



[24415] 第二話 終わりは近い
Name: セネセネ◆b5becff5 ID:b9a8cd2c
Date: 2010/12/03 20:31
「クーフェ?うん、ウチと同じクラスやで」

「最近な、ちょくちょく喧嘩売られるんだわ。買わないで棚に戻してるけど」

 七月も中旬、週に一度の瀬音流が亜子と会う日。二人は学園内でも知られた甘味処、つまりはスイーツを食べに来ていた。勿論、財布の口を開くのは瀬音流の方である。

「手ぇ出したら駄目やで?」

「勝てる訳がない。第一、あの細っこい身体で、何で大の男を次々と吹き飛ばす力が有るんだ?」

 話の内容はそう、先日に瀬音流が出会った少女、古 菲についての事である。なんと彼女、亜子のクラスメイトなのだ。
 麻帆良本校女子中等部という事は知っていたが、まさか、こんな近くに繋がりが有ったとは。瀬音流も露と知らずにいたので、亜子から情報が彼方に流れないかと冷汗ものである。

「あっ、もうこないな時間なってもうたんかぁ。ウチ、帰って夕飯の支度せな」

「送ってくか?」

「平気、平気。ウチかて、何時までもか弱い女の子やないんよ?」

「おぉ、怖っ。何か有ったら電話しろよ、直ぐに行くから」

「ありがとな。ほな、ウチ行くわ」

 席を立って入り口の方へと行く亜子に手を振り、彼女の姿が見えなくなった瀬音流は窓の外を眺めながら氷が融けて無くなった水を飲み干した。


―第二話 終わりは近い―


 キッチンに立って包丁を握っていた亜子は先程まで瀬音流と交わしてた会話を思い出し、リビングでテレビを見ている友人には聞こえない様に小さく笑った。
 昔から彼は何かしらに巻き込まれていた。初めは何だっただろうか。そう、あの事件が始まりだったと思う。商店街で知らない男に絡まれ、ガラス瓶で背中を殴り付けられた事件だ。
 あの事件で瀬音流に庇われて以来、他の男性に近付く事が恐くなった亜子は彼の側に居る事が多くなった。
 何と言うか、他の男性と違って彼は側に居ると安心出来るのだ。庇われたのが一番の要因だとは思うが、亜子は別の理由も考えている。

「好き……とはちゃうもんな。セネルと居っても、全然上がったりせぇへんし」

 小学校の頃は、自分が瀬音流の事が好きなんだと思ってた。しかし、何か違うと思い始めたのは麻帆良に来てから。

「きっと、放っておけへんのやろな」

 放っておけばコンビニ弁当ばかり食べるし、部屋は散らかしたままで片付けたりしない。まるで、手間の掛かる大きな弟の様だ。
 だからきっと、放っておけないのだろう。
 そんな事を亜子が思っている一方で、彼女が思っている側から、帰り道にコンビニへと立ち寄った瀬音流は、新発売とシールの貼られたコンビニ弁当へと手を伸ばしていた。

「塩タン弁当……ねぇ。気になるな」

「ああ、それは食べる直前に熱々に温めるのがベストだよ」

「あ?ああ、ども、今晩はッス。教授も今日は?」

 新発売のコンビニ弁当を買うべきか如何か考えていた所、そんな瀬音流に後ろから聞き慣れた声が掛けられた。
 振り向いた先に居たのは、瀬音流が麻帆良に来てからというもののコンビニ弁当を買う際に良く顔を合わせる、眼鏡を掛けた優男風の男性。邪魔にならない程度に短く切り揃えられた髪に、黙視出来る程度に伸びた無精髭、これで教師だと言うのだから驚きである。
 何故か名前を教えてくれないので瀬音流は仕方無く明石教授と呼んでいるが、きっと恥ずかしい名前なのに違いない。でなければ教えてくれる筈である。

「いやぁ、僕は卵と豆腐を買いにね。娘が鍋をやるなんて言い始めたものだから……今日は、コンビニ弁当は残念ながら諦めるよ」

「そっすか。大変すね、教授も。俺も鍋食いたいけど、一人で食うには手間が掛かり過ぎなんすよねぇ……」

 亜子に作ってもらうのも御門違いな気もするし、作ってもらっても一緒に食べたりせずに彼女は帰ってしまうので、一人で鍋を突っつくのは何やら虚しい物が有る。

「そうだ!良かったら君も一緒に如何だい?」

 今思い付いたとばかりに誘う明石教授の言葉に、思わず頷きかけて瀬音流は思い止まる。聞いた話では、奥さんを事故で亡くして以来、明石教授の家庭は娘と二人きりの父子家庭だった筈なのだ。そんな親子水入らずの所に、彼が邪魔をしても良いのだろうか。
 不思議に思った事が瀬音流の顔に表れていたのか、苦笑混じりに明石教授は尚も誘う。

「僕から誘ってるんだ、君が気にする必要なんて無いよ」

 ここまで言わせておいて断るとなると、むしろそちらの方が失礼な気もする。なので、瀬音流は余計な言葉を口にせず邪魔させてもらう事とした。
 それが結果として良かったのかは分からない。しかし、そのお陰で彼が美味しい鍋を箸で突っつけているのは確かな事だ。
 亜子に負けず劣らず明石教授の娘は料理が上手で、鍋の中身は目に見えて減っていった。最終的には煮汁すら無くなり、その味は男二人の満足げな表情が物語っている。

「どうだい、家の娘の手料理は?何時、嫁に出しても恥ずかしくはないよ」

「――ゴチになりましたっ。ここ一月はコンビニ弁当だったんで、胃が驚いてるッス」

「それはうら――」

「お父さん……?」

「――やましい事だ。僕もコンビニ弁当は好きだからね」

 背後で娘が怒りを露にしているにも拘わらず言い切る明石教授に、瀬音流は口元を引き攣らせて苦笑いするしかない。その直後に響いた鈍い音は、明石教授の頭に娘の手で盆が振り下ろされた結果だ。
 それでいて頭から血を流しつつも表情を崩さないのだから、親馬鹿の烙印は既に押されているに違いないだろう。
 仲が良い親子だ事で。そんな風に瀬音流が思った所で、明石教授の携帯が着信音を鳴り響かせる。

「僕は用事が出来て出掛けるから、何時も通り鍵を掛けたら郵便受けに入れといてくれ。セネル君、悪いんだけど裕奈を寮まで送ってくれないかな?」

 着信表示を見ただけで出掛けると言うことは、それなりに前から決まっていた事なのだろう。それじゃあ、とだけ言って明石教授は部屋を出て行ってしまった。
 残されたのは瀬音流と、明石教授の娘、明石 裕奈の二人切り。会ったばかりの二人を残すとは、これ如何に。

「洗い物に時間掛かるし、帰っちゃっても良いよっ?」

「ぃんや、待つよ。あんだけ美味いモン食わせてもらったんだ、でなけりゃ教授に悪い」

「そう?ほにゃらば、ちょこっとだけ待っててね〜っ」

 裕奈と言う少女は元気だ。瀬音流と同じくらいに食べていた筈なのに、今は後片付けを手早く進めている。
 そんな彼女は間違いなく美少女で、料理も美味く、教授の身内贔屓が入っても中々に勉強が出来る。亜子以外にも完璧少女が居たんだなどと思わせる程だ。
 セミロングの黒髪はサイドで纏められ、裕奈が鼻唄混じりに身体を揺する度に尻尾の如く跳ね回っており。夏に合わせてなのか、やや露出が多い服は余りに似合い過ぎていて。見てくれは、同年代の少女とは思えない。
 決して、老けていると言っている訳ではないので悪しからず。

「あれっ?お父さんてばッ、洗剤の買い置き頼んでおいたのにぃー」

「……一人言が、まんま主婦じゃねぇかよ。っつぅか、他人事とは思えねえ」

 裕奈が溢したのと全く同じ事を亜子に言われた例が有る瀬音流としては、何か買い忘れが無いか不安になって思い出す切っ掛けとなって暇潰しになった。
 後日、娘に怒られちゃったよ、と教授に聞かされたが笑えなかった。
 洗い終わった食器は、しっかりと水気を拭き取られてから食器棚に収められ。帰り支度を終えた裕奈は薄手の上着を羽織って玄関へと向かう。
 そこに待っているのは靴を履き終えた瀬音流で、その手には玄関を締める為の鍵が握られていた。

「待たせてごめんねっ」

「そんなに待ってねえしっ、美味い飯食わせた礼だと思えよ」

「ぅんにゃ、それでも待たせちゃったのには変わらないっしょ?」

 玄関先で腰を下ろし、裕奈は手早くシューズに足を突っ込んで紐を縛り始めて立ち上がり。履いた靴の爪先で床を叩いて、しっかりと奥まで靴が履けたのを確かめた裕奈は顔を上げて笑った。
 頬を掻いて応えた瀬音流は裕奈に鍵を手渡し、そのまま外へと出てしまう。頬が赤いのは、きっと掻いたからだ。他に理由は無い、筈である。
 瀬音流の後を追って外へと出た裕奈は慣れた手付きで鍵を締め、それを郵便受けへと入れた。

「ボディーガード、よろしくっ!」

「……そんなに強くねえけどなぁ」

「――送り狼にはならないようにね?」

「――んなッ!?なるわけねぇだろうがッ!!」

「きゃーっ!」

 からかいだと分かっていても怒鳴った瀬音流から逃げ出し、裕奈は軽快な足取りで寮へと向かう。その背中を追って、僅かに遅れながら瀬音流が駆け出す。
 この時、まだ瀬音流は分かっていなかった。平穏無事に暮らしたいと思っていながら、それからは既に遠く離れた日常に片足を突っ込みかけている事に。


「して、彼の様子は如何かね?」

「全く覚えてはいないようです。……それにしても、まだ信じられませんよ。あの日、本当に彼が侵入者達を?」

「刀子君、桜咲君、両名が目の当たりにしておる。見間違いでは済まされまい」

 とある一室で交わされる会話。一方の人物は、この麻帆良学園の最高責任者たる長、近衛 近右衛門。後頭部が異様に長く、その頭髪の無い頭部とは違って眉毛や顎髭が異様に長い。
 その近右衛門と話しているのは、用事が出来たと言って出掛けた筈の明石教授だった。
 二人が醸し出す雰囲気は重く、それだけ会話の内容が重大な事であると理解させられる。

「両親は一般人、こちら側に接触した経歴も無し。――頭が痛くなるわい……」

「ですが、彼は本当に一般人でしかありません。この三ヶ月間、偶然を装って彼に近付き話を聞いていましたが、逆に葛葉先生や桜咲君を疑うような事しか聞き出せませんでしたから」

「しかしのぅ……。仕方有るまい、試して見るか」

「…………僕としては彼を放っておいてあげたいですが――」

「既にガンドルフィーニ君達を抑えられなくなっている。……時間が残されておらんのだよ」

 近右衛門は心苦しそうに言い切った後、自らの手に持った、万を越える麻帆良学園の全生徒名簿から抜き出されてきた一枚に目を落とした。
 学歴、籍、両親、そして能力。そのどれを取っても極々平凡な若者としか言い様がない。
 しかし、不安要素でしかないなら、解決はしなくてはならないだろう。既に動き出している者達を納得させる為にも、それも火急に。

 部屋の窓から月を見上げながら近右衛門が机に置いた、写真が貼り付けられた詳細。そこに書かれていたのは、繰時 瀬音流。
 平穏無事を好む、麻帆良本校男子中等部一年生の名前だった。

 平穏無事の終わりは、もう直ぐそこだ。



[24415] 第三話 俺は平穏無事に暮ら――えっ、無理?
Name: セネセネ◆268e9fc6 ID:1a5b8d70
Date: 2010/12/04 20:48
「――ハァッ、ハァッ……クッ!!」

 さて、如何して、こんな意味不明な目に遭わなくてはならないのだろうか。彼は、ただ単に友人である少女を寮まで送っただけに過ぎないのに。
 天罰を受けるような事をしでかした覚えはない。なら、これは運が無かったから、何時もの如く巻き込まれただけなのだろうか。
 多分、いや、確実にそうだろう。
 大阪に居た頃も、何時も訳が分からない内に巻き込まれて、そして何時の間にか騒動の中心になってしまっていたのだ。今更、自分が巻き込まれて易い事を彼は否定したりしない。
 けど、しかし、でも、だけど、それでも、これは無い。何を如何したら。

「――待ちぃやッ、ゴラァッ!!」

「――逃がさぬッ!!」

「――女から逃げるなんて、初やねぇ」

 何やら重たそうな棍棒を振り回す鬼やら、ただ鉄を押し潰して鍛えただけそうな剣で足払いしてくる烏人間やら、狐の面を着けて逃げ道へと苦無を的確に投げてくるくの一なんぞに追われなくてはならないのだろうか。
 最早、これ程に運が無かったのか。いや、それは問題にはならない。既に慣れてしまっている事なのだから、今更悩んでも意味は感じられないだろう。
 そんな事よりも、問題は。今、瀬音流の後を追いかけ回すアレは、本物なのだろうか。と言うか、もしアレが本物だと言うなら、今、行われているのは本当の命懸けな鬼ごっこ。捕まったら即人生が終わりだ。
 逃げに逃げて、更に逃げて、それでも後ろのアレは撒く事が出来ない。覚悟を決めて、立ち向かうしかないのだろうか。
 いや、しかし関係は持ちたくない。今戦えば、何だか後で又会ってしまいそうな気がしてならないのだ。狐の面をしたくの一は兎も角、他とは金輪際会いたくなんてない。
 なら、瀬音流が取れる行動なんて決まっているではないか。

「逃げると見せかけて……幻竜――ッ!!」

「おっ!ヤル気になったんか!?」

 土煙を上げて滑る程の急制動で止まり、追い掛けてくる鬼達へと幻影を残して迫った瀬音流は。

「――パッシングスルーッ!!んな訳有るか、呆けぇッ!!」

「…………何いいいいぃぃぃッ!?」

 まるで鬼の巨体を通過したかの如く擦り抜け、瀬音流がヤル気になったと勘違いを起こして構え余りに余りな言動に呆けた鬼達を置き去りに、彼は来た道をなぞるように逃走を再開する。
 憤慨する鬼達。彼らは再び瀬音流を追い掛け、その速度は先程よりも数段速い。しかし、瀬音流との差は一向に狭まらないし広がらない。
 雨が降った後、空に架かる虹を追い掛けている様な気分だ。


―第三話 俺は平穏無事に暮ら――えっ、無理?―


 頭が痛くなる。目頭を押さえたのは、はて何度目だろうか。
 その出来事を遠目に確認していた女性、否、少女は狙撃用ライフルを下ろして両の目頭を摘まんでいた。
 闇夜に溶け込む様な浅黒い肌に、揉み上げを紐で結った長い髪、そして年の割には高過ぎる身長。どれを取っても、醸し出す雰囲気を加えて誰もが彼女を女性と扱うが、彼女は歴とした少女、麻帆良本校女子中等部一年生、ピチピチの十三歳。
 決して、銃口を向けられて脅されているから言っている訳ではない。彼女は何処から如何に見ても十三歳なのだから。
 何度も言うが、十三歳の彼女が今、この時間帯に入るのは普通ではない。では何故、こうして彼女は狙撃用ライフルなんて持ち出して居るのか。
 実は十三歳な彼女、裏と呼ばれる社会では知れたスナイパーなのだ。いや、十三歳な彼女、実は裏と呼ばれる社会では知れたスナイパーなのだ。

「……帰って良いだろうか?」

「何を言っている、駄目に決まっているだろ?」

「いや、しかしだな……」

 アレを見ていたらと少女は、隣で腰元に携えた野太刀の柄に手を添えながら同じ光景を目にしているだろう少女に言った。
 確かに、如何して、あの様な情けない光景を監視しなくてはならないのか。傍らで再び両の目頭を押さえている情報の言葉に同意しながら、セミロングの黒髪をサイドで纏め上げた、雪の様に色白な肌の少女は嘆息する。
 見た限り、鬼に追い掛けられる、彼女達とは同年代だと思われる少年の動きは素人その物であり。時偶、彼女達を以てしても驚愕させられる動きも見せるが、到底は驚異とも思えない。
 本当に、何故に自分達が、と二人の考えが同調した時。鬼達から逃げ回っていた少年の動きが、逃げから踏み込みへと変化を見せた。

「――なッ!?」

「へぇ……、中々に面白いな」

 目視では追えない速度で鬼の懐に踏み込んだと思えば、まるで鬼の身体を無視した様に少年の身体は通り抜け、そのまま彼は走り去ってしまった。
 その後を遅れて追い掛け出す鬼達を見て、何のコントをやっているのやらと苦笑いを漏らしてしまう。

「さて、私達は監視だけが仕事なのか?」

「……行こう。そろそろ可哀想だ」

「…………だな」

 再び狙撃用ライフルのスコープを通して見た少年の顔は、情けなかった。
 二人の少女が遠目にリアル鬼ごっこを傍観していた頃、瀬音流は如何に逃げるかを何度もシミュレートし、半ば自棄糞になって市街地へと向けて駆けていた。
 やってられない。完全に身を隠している筈なのに、何処に隠れようと、彼方から見えているのではないかと疑う程に、あっさりと簡単に見付けられてしまう。
 人目の有る所まで行ければと思って行動してきた瀬音流だが、はたと思い出した様に頭を振って思い直す。あんな奴等が街中に現れたら、一体どれだけのパニックに陥るやら。
 麻帆良ならば簡単に受け入れてしまいそうだが、被害が出た場合を考えると、奴等を市街地へ入れるのは非常に不味い。だが、撒かないままでは帰る事も許されない。色々な意味で覚悟を決めないと、そろそろ精神的に追い詰められてしまいそうだ。
 瀬音流は拳を握り締め、隠れていた藪から飛び出し鬼達へと向かって駆け。胸が地面と水平になるほど低姿勢に、今までとは見違える程の速度で迫る。

「又逃げる気ぃやな?そうは――」

「鬼に追い掛けられりゃッ、逃げるに決まってんだ――ろうが!!――迫撃掌ッ!」

 また瀬音流が逃げ出すと思って油断していた鬼を右の拳で殴り付け、そのまま強引に拳の軌道を横から縦へと変換。鬼の巨体を地面と叩き付けた。
 拳を振り抜いた勢いのままに、横から斬り掛かってくる烏人間の剣の腹を殴り付けて弾き、その剣を持つ手に逆の拳でアッパーカット気味な一撃をお見舞いして剣を奪ったら、鬼に与えたのと同じ一撃で地面に這い蹲らせる。

「――クッ!!近距離戦がお得意なよ――」

「――魔神拳・双牙ッ!!」

 狐の面をしたくの一は瀬音流の動きを制限する為に距離を取ろうとするが、それは意味をなさなかった。それぞれ左右の拳を振り抜いて、彼は二つの拳圧を飛ばして対応して見せたのだ。

「――なッ!?くはぁッ!!」

 まさかの行動に、狐の面を着けたくの一は咄嗟に腕を交差して受け止め、そのまま吹き飛ばされる。

「――こなくそぉッ!!」

「――疾ッ!!」

 放ったらかしにされていた鬼と烏人間が左右から挟み込む様に、それぞれ棍棒と剣を上下段に振るう。
 完全に反応し遅れた瀬音流は地面を蹴って跳び上がり、棍棒を受け止め自ら吹き飛ばされて間合いから離れ。並木に背中から叩き付けられて、その勢いを失う。

「――ッ!?」

 着地と同時に迫り来る無数の苦無を瀬音流は横へ転がって躱し、勢いのままに立ち上がって駆け出した。作戦なんて無い。ただ、彼がすべきは目の前に立ち塞がる敵を全て殴り飛ばして退けるだけ。
 躱し切れなかっのだろう苦無で斬れたらしい頬からは血が、頬を撫でる風に攫われ、大小様々な滴となって宙を舞う。
 深く踏み込むと同時に振るわれた剣と数合だけ拳を合わせ、その悉くを打ち払い。地面を打ち砕く程の一撃である棍棒を頭上から降り下ろされれば、宙舞う木葉の如く身軽に飛び退いて躱し。好き有らばと投げられる苦無は全て打ち落とし、偶に拾っては武器として拝借する。
 が、しかし所詮は一般人でしかない瀬音流。彼の身体は次第に傷を増やしていく。
 打ち払い切れない一閃が首筋を走り、打ち砕かれた地面は天然の弾丸となって襲い掛かり、打ち落とし損ねた苦無が腕や足に突き刺さる。
 血に塗れた制服は、その元の色を既に失い、破れて一部は無くなっている。
 呼吸が乱れ、腕は上がらなくなり始め、脚も震えて身体を支えられなくなりつつある。このままいけば、殺されてしまうだろう。
 平穏無事を願って生きてきたのに、こんな理不尽で訳も分からない事に巻き込まれ、誰に看取られる事も無く。

(死ぬ?――誰が?俺が。何で?――どんな理由で?知るか)

 奥歯を噛み締める。
 そう、何時だって、そうだったではないか。訳も分からない事に巻き込まれ、死にそうになった事だって幾度も有った。
 だから、今回も。

「――死 ん で……たまるかああああぁぁぁッ!!」

 白い野獣が、咆哮した。




あと…………がき?

 色々な人に指摘されながらも頑張ろうと思った。
 しかし、ヒロインが誰になるのか自分でも分からない。


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