『ショッカー』
それは世界征服を企む悪の秘密結社。詳しい構成人数も、組織を束ねる首領と名乗る存在も解らない。全てが暗闇に包まれた闇の組織。
解っているのは、彼らは人智を超えた力を持っている事と、人間などよりも遥かに優れた身体能力を持つ怪人と呼ばれる異形達を駆使して破壊活動を行う事だけ。
その力の底は計り知れず、彼らの作戦が何もかも上手くいけば、今頃世界を自らの手中に治められたはずだった。その筈だった。あの忌まわしき存在が現れるまでは。
アンチショッカー同盟などと言う五月蠅い者達も居たが、それ以上に忌まわしき存在が彼らの前に立ちはだかったのだ。
『仮面ライダー』
本来はショッカーの手駒となる戦闘用改造人間だった。だが、その被験者『本郷 猛』は洗脳手術を施す前にショッカーのアジトから脱出。
たかが改造人間一人。幾ら我らの技術を用いたらと言って、さほど脅威にはならない筈だった。
だが、予想に反し仮面ライダーは次々とショッカーが送り込む怪人達を倒し、世界征服の障害となった。
その後に造られた、新たなる仮面ライダー『一文字 隼人』も洗脳手術を施す前に、本郷猛によって救い出されてしまった。
こうして彼らは、仮面ライダー1号、仮面ライダー2号としてショッカー最大の障害となったのだ。
たった二人とはいえ、その力は強大で既に何人のも怪人達が倒されてきた。何故、此処までの力を身につけたか知らないが、ならば此方も同じ力で対抗すればいい。
『ショッカーライダー』
仮面ライダーの設計図をもとに造り上げた同型の改造人間。仮面ライダーと同能力を持った改造人間をショッカーは六体も造り上げた。
これならアンチショッカー同盟などと言う五月蠅い存在も壊滅でき、仮面ライダーも倒せるはずだ。誰もがそう考えていた。
だが、結果は仮面ライダーを倒すどころか、逆に此方の六体のショッカーライダーが倒されてしまった。
何故だ!
同じ能力の宿した同型の改造人間。単純に100の力に同型の100の力をぶつければ、最低でも相討ちになるはずだ!
それが六体もいて、何故たった二人の仮面ライダーに勝てない!
何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?
――ああ、そうか……
一つだけ違う物があった。ならばそれも同じにすればいい。
勝てないのなら、全てを同じようにすればいいのだ。
その技もその力もその姿形も能力全てを……その心すらも同じにすればいいのだ。
そこは奇妙な場所だった。円形状のドームの形になって、周りには何に使うのか解らない機械が陳列している。
何かの実験室にも見えるし、遊技場にも見える。
太陽の光が一切届かない、人工的な光に照らされた暗く不気味な場所。
「あぁっか……くぅか」
そんな奇妙場所に倒れ込む人型の影。人型と言っても、その姿を現すならこの言葉が似合う。
“異形”
人間とは違う、異形なる者。異形は体から赤い人の血とは違う、不気味な緑色の血を流していた。
呼吸も正常とは言えず、虫の息状態と言っても過言ではないほど弱っている。
「……………」
その異形の前に佇む、もう一つの影。体は深緑の様な色をし、何処となく昆虫を思わせる形。世間で仮面ライダーと呼ばれる存在が佇んでいた。
だが、これが本当に正義の味方、仮面ライダーなのかだろうか。
冷たく不気味な赤い目。体に放たれる冷たいオーラ。とてもではないが、『正義の味方』とはかけ離れた存在が異形を見下ろしていた。
「た、頼む……た、たた、助けて……くれ……」
異形は酷く掠れた声で命乞いをする。体は人間とは違うとはいえ、普通の思考を持つ人なら思わず手を差し伸ばすたくなる弱弱しい声。
だが、目の前に佇む『それ』がとった行動は救いなどではなかった。
「トォッ!」
『それ』は高く飛びあがる。高く高く飛びあがり、宙で体を回転させた後、異形目掛けて襲いかかった。
「ライダーァァキィックゥーーー!」
それは本来、正義の技。悪を滅し、弱き者たちを助けるための必殺技。しかし、『それ』が放つのはただの凶器。命を狩りとる破壊の技だった。
「ッ!!うぎゃああぁぁ~~~!!」
『それ』無慈悲に一切の容赦なく、異形の命を奪い去った。
『あっぱれな戦いぶり、とくと見せて貰った』
鷹を用いた様なレリーフ。その中央にランプが光り人の様な声が発せられる。周りに居る者達は、特に驚く事無くその声に耳を傾けていた。
「……………」
俯き無言のまま、レリーフの前に佇む一人の青年。かなり若く、大学生ぐらいの青年だが、何処となく虚無感を漂わせている。
『お前こそが、我らショッカーが誇る怪人と呼ぶに相応しい。その力、これからも我らがために存分に役立て「おい」……うん?』
低く力強さが無い声が青年から発せられ会話を遮った。そこで初めて青年が顔を上げて、レリーフを見つめた。
黒い髪に黒い目。体の特徴から察するに日本人のようだが、目に光は宿って無く何処となく存在が薄い印象を受ける。
「俺は……一体に何のためにに此処に居る?」
まるで、自分が何故存在してるのか解らないかのような質問。目や声にも力が宿らず、本当に虚無と言う言葉が似合う。
『ふっふっふっふっ……』
会話を遮り謝罪の一つもない無礼千万の青年の行動に、鷹のレリーフから発せられる声は咎める所か、嬉しそうに笑いだした。
『ふっふっふっ……お前が此処に存在する理由……それは我らショッカーのため、そして忌まわしき仮面ライダーを倒すためだ』
「仮面ライダーを……倒す」
青年は僅かに力が籠った声で呟いた。
『そうだ。もともと奴らは我らショッカーが造りだした改造人間だった。“ライダー”と言う名は、その改造人間の怪人名として与えられる筈だった名だ。
だが、奴らは我らショッカーを裏切っただけでなく、我らに楯突き幾度に渡って妨害をしてきた。お前は、その仮面ライダーを倒すために存在するのだ』
レリーフから発せられる声は、不思議と青年の耳に良く響き渡った。耳から脳へと侵入し、その存在に意味を与える。
『……この世に我らに牙を向くライダーはいらぬ。お前こそ我らショッカーが誇る真のライダー……“ネオ・ショッカーライダー”だッ!』
「……俺が……真のライダー」
自分に言い聞かせるように呟く。先程と違い、その声に僅かに力が宿っていた。
「イィー!」
そこに全身を黒い服に身を包んだ不気味な人影――ショッカーの戦闘員が何かを持って青年に近付いてきた。
金属の様な物質で、腕の形にピッタリと当てはまる形をしている。甲冑のようだが、何処となく違った。
それの先、ちょうど手の甲と重なる部分に穴があいている。何かを取り付けると言うより、拳銃などの銃口に近い。
『それは、お前専用の武器、ショットアーム。受け取るがよい』
「……………」
青年は無言のまま戦闘員からショットアームを受けとり、自分の右腕へとはめた。
感触を確かめるように、何度も手を開いたり閉じたりする。
『気にってくれたか?それとお前の持つ能力が合わされば、想像を絶する破壊力を生み出すはずだ』
鷹のレリーフから発せられる声は、今まより力強い声である命令を下す。
『行けッ!ネオ・ショッカーライダーよッ!その破壊力持って、宿敵仮面ライダーを抹殺するのだァッ!』
声に反応するかのように、青年は再び面を上げてレリーフを見つめる。その目には先程のような虚無感はただよって無く、力強い狂気が宿っていた。
青年は両足を揃え、右手を斜めに高らかに上げてその言葉を放った。
「イイィーーーッ!!」
あとがき
嘘はついてないよ。ちゃんと仮面ライダーのオリ主だったでしょ。
急に思いついたんで書いてみました。