議会を開かず専決処分を乱発し、司法判断にも従おうとしなかった市長に有権者が突きつけたのは解職だった。5日投開票された鹿児島県阿久根市の住民投票。竹原信一市長(51)は即日失職したが、年明けに予想される出直し選へ出馬の意向。「竹原流」を巡る混乱は今後も続きそうだ。
市政正常化を訴えた阿久根市長リコール委員会。同市鶴見町の事務所に失職の報が届くと、メンバーは握手を交わして喜び合った。同委は20~40代の約50人が中心。今年1月ごろから竹原市政について意見交換を重ね、8月から運動に着手した。ミニ集会も精力的に開き、市長解職を訴え続けた。
川原慎一委員長(42)らは「市民の皆さんの勝利だ。明るい阿久根の将来を取り戻そうという強い願いが一つになって、独裁者を倒した」。出直し市長選には、委員会監事の西平良将氏(37)が出馬する。「必ず勝利して、阿久根を変える」。支援者たちは正月休みを返上して出直し選の準備を進める予定だ。
リコールの動きに「市民が市政に関心を持つのは良いこと」と平静を装っていた竹原氏はこの日、市役所でテレビ各社のインタビューを受け、午後8時ごろ同市脇本の事務所へ。支持者と歓談してリラックスした様子だった。松元薫久市議は「出口調査の情報で厳しそうだと感じていた。ただ出直し選はもっと投票率が上がるし、そこで勝てば問題ない」と話した。
同市では市長リコールに加え、市長派による議会の解散請求も進行中。混迷が続きそうな現状に、市民の反応もさまざまだ。
市長リコールの署名集めをした別枝由井さん(68)は「一生懸命署名を集めたかいがあった。地域は市長派と反市長派に分かれ、疑心暗鬼の状態。早く元の阿久根に戻したい」。一方、竹原氏支持の主婦(61)は「竹原さん以外では市役所や議会に取り込まれてしまう」と話した。漁業の梶尾豊志さん(59)は「市長も議員も入れ替えてほしい」と市長、議会双方への不信を示した。【村尾哲、河津啓介、川島紘一】
竹原市長の失職は、議会の不信任決議による09年4月に続き2回目。08年8月の初当選からわずか2年3カ月で2度の失職というのは極めて異例で、市政改革への期待よりも、強引な手法に対する批判が上回った結果といえる。
竹原氏は市職員の待遇を公表して疲弊する地方都市での官民格差をあぶり出し、議会と激しく対立して従来のなれ合いからの脱却をアピール。民意を2度つかんだ。だが、法に基づいて行政を執行する立場にもかかわらず法を度々無視。「命令に従わなければ処分」と職員に威圧的態度を取り「議場にマスコミがいる」との不可解な理由で議会出席を拒むなど、特異な言動が目立った。
専決処分の連発に見られる強引さの一方、反対勢力を説得し調整する手腕とは無縁。首長に求められる問題解決能力には疑問符をつけざるを得ず、やがて「阿久根のイメージダウン」「争いばかりで市の将来像が見えない」などの不満が市民の中で高まっていた。
竹原氏は8月、専決処分で仙波敏郎氏(61)を副市長に迎えた。その後、懲戒免職にした係長を復職させ、臨時議会を招集するなど、強硬姿勢をやや軟化させたかに見えたが、市民の評価を一変するには至らなかった。
解職を請求したリコール団体は、反竹原派市議とは距離を置いて運動を展開。「改革は必要だが、議会や市民と話し合うのが民主主義」と正攻法で訴え、支持を広げた。【馬場茂、福岡静哉】
毎日新聞 2010年12月5日 23時37分