(cache) 【蒋介石日記】第2部(1)西安事件(上)周恩来、合意履行に深謀
【蒋介石日記】第2部(1)西安事件(上)周恩来、合意履行に深謀


 中国西北の古都、西安(陝西省)で、2週間の監禁を経た蒋介石は、1936年12月25日午後5時半、冬の日が沈む洛陽(河南省)郊外の飛行場に降り立った。「安全に到着、神の加護に感謝する」と、蒋介石がその日の日記に記した通り、中国を揺るがした西安事件は、蒋介石が危機を脱したことで、解決をみた。

 これより前の25日朝の時点では、蒋介石解放をめぐり事件実行グループの意見が割れ、緊迫した空気が続いていた。

 夫人の宋美齢だけを先に南京へ送り返す非常策も浮上する中で、緊張がピークに達したのを狙いすましたかのように、中国共産党代表の周恩来が監禁先に姿をみせた。

 《10時過ぎに周がまた来訪、妻が子文(宋美齢の兄、宋子文)に応対してもらうと、「共産党は蒋先生に何も要求はしない。ただ、蒋先生に会って、共産党に対する掃討作戦は以後行わないと直接、言ってもらえればそれだけでよい」とのことだった》(25日の日記)

 24日夜の初回に続く蒋介石と周恩来の2度目の会談は、宋美齢らが隣室でまず話を聞いたうえで行われた。25日の日記に残されたやりとりは、以下のようなものだった。

 蒋「君は私の普段の性格がどうだか知っているのかね」

 周「私は、蒋先生の革命的人格を存じておりますので、何も無理をお願いしてはおりません」

 蒋「君は私がどういう人物かを知ったうえで、今日は共産党の掃討をもうしないと言明するよう求めているではないか」

 蒋介石は「このとき、私は(周恩来が求める言質を)与えないことに決めた」と内心を明かしたうえで、引き続き、会談内容を記録している。

 蒋「私が普段から求めているのは、国家の統一と全国の軍隊の指揮だけだ。(4字程度汚損)私の革命の障害なのだ。もし、君たちが今後は統一を破壊せず、中央の命令に従って私の統一的な指揮を完全に受け入れるというのなら、さらなる掃討を控えて(共産党軍を)他の部隊と同等に扱うことはできる」

 周「紅軍(共産党軍)は必ず蒋先生の指揮を受け、中央の統一を擁護して決して破壊しません」

 ここで蒋介石は、前夜と同じく「その他のことは漢卿(張学良)と詳しく話してほしい」と述べて、会談は終わった。

 この蒋−周会談については、「中共雑記」(エドガー・スノー著)や、延安時代に共産党を脱党した張国★の回顧録などに、第三者証言の形で登場するものの、肝心の当事者が沈黙していたことで、実相は不明だった。

 ただ、周恩来が相手のメンツや政治的な影響を計算して、会談では少なくとも形の上で蒋介石を終始、立てたとするこれまでの見方は、日記の記述でも裏付けられる。

 周恩来が黄埔軍官学校時代の慣例通り、蒋介石に「校長」と呼びかけたという有名な逸話は、あったとすれば、24日夜の初回会談でのことだろう。24日の日記には、周恩来との握手に続いて、「情を生じることを免れなかった」とある。第一次国共合作時代、蒋は国民革命の将校を養成する同校の校長を、周は政治部主任を務めていた。

 いずれにせよ、共産党としては、ここで合意文書への署名や厳密な言質にこだわれば、蒋介石を追い詰めて、肝心の合意が後に反故となる恐れがあった。かといって、中央軍の西安包囲網が狭まる中で、これ以上、事件の収拾をダラダラと延ばせば、国民政府に武力による事態解決を決断させる口実を与えたであろうことは、すでに史家が指摘している通りである。

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 新たに公開された蒋介石日記(1932〜45年)から、日中戦争やカイロ会談、終戦後の新たな対立など、興味深い記述について紹介する。

(米カリフォルニア州パロアルト 山本秀也)産経新聞                    ◇

【蒋介石年表】

1887年 浙江省奉化県渓口鎮で出生

1907年 軍人を志望して日本留学

  11年 辛亥革命に呼応して帰国。革命軍人となる

  24年 黄埔軍官学校(広州)校長に就任

  26年 国民革命軍総司令となり、北伐を開始

  27年 宋美齢と結婚

  28年 北伐終了。国民政府主席に就任

  36年 西安事件 37年 日中戦争の開始。重慶遷都

  43年 カイロ会談

  45年 日中戦争終結を受け、重慶で「以徳報怨」演説。毛沢東と国共首脳会談

  46年 国共内戦。南京の国民大会で憲法制定

  47年 台湾で2・28事件発生

  48年 総統に就任

  49年 中華人民共和国成立。国民政府は台北に移転

  58年 ダレス米国務長官と会談、「大陸反攻」を実質放棄

  71年 国連脱退を声明

  72年 健康不安が強まり、蒋経国の後継準備進む

  75年 台北で死去★=壽にれっか