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2010年12月5日(日)付

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ジョブカード―仕分けを機に再生の道へ

事業仕分けで否定的な指摘を受けても、そこでの批判をもとに改善に取り組む努力があっていい。一部が「廃止」とされたジョブカード制度も、そうした事例と考えたい。自分の仕事歴を[記事全文]

無償化先送り―砲撃は理由にならない

北朝鮮が、平和を脅かす行動に出ている。韓国領の島への砲撃の後も、自分勝手な主張を繰り返している。砲撃事件を受けて、朝鮮高級学校生の授業料無償化に向けた手続きを停止するよ[記事全文]

ジョブカード―仕分けを機に再生の道へ

 事業仕分けで否定的な指摘を受けても、そこでの批判をもとに改善に取り組む努力があっていい。一部が「廃止」とされたジョブカード制度も、そうした事例と考えたい。

 自分の仕事歴を客観的に評価してもらい、履歴書に蓄積していって再就職に役立てる。企業で働くことで能力を高め、正社員への道を開く。そんな狙いで、雇用保険を財源に運営されているのがジョブカードだ。

 正式スタートは2008年4月。フリーターの若者らを念頭に雇用対策の一環として制度設計された。

 モデルになったのはイギリスで定着している「NVQ」という能力評価制度だ。日本の雇用システムでは企業内教育が主流なので、正社員にならないと働く能力を向上させる機会が得にくく、評価基準もばらばらだ。

 このためジョブカードでは、雇用保険の支援を受けて企業で一定期間の研修を重ね、成果をその企業やコンサルタントが評価し、履歴カードに蓄積する。能力を「見える化」することで、求人企業側とのミスマッチを避け、正社員採用へとつなぐ仕組みだ。

 これまでに、ハローワークや民間の事業者を通じて約33万人がカードを取得。うち10万人強が訓練を受け、7割以上が再就職にこぎ着けた。

 政府の成長戦略でも、今後10年間で300万人にカードを普及させる目標だ。編成中の11年度予算には118億円が要求されている。

 だが、仕分けでは「予算が効率的に執行されていない」「協力企業への助成が多すぎる」などの点が問題視された。その結果、求職者の訓練を引き受ける企業への助成金と、カードの普及促進事業の二つが「廃止」とされ、類似事業を整理統合して別の枠組みにすることが求められた。

 仕分けの手法や理由付けには疑問も残るが、既存の制度が成長分野での雇用創出や、転職しやすい労働市場の環境づくりという大きな課題に十分に対応していたとはいえなかった。

 菅直人首相や蓮舫行政刷新相も国会で、制度の趣旨は重視すると答弁している。雇用の改善は直面する課題だ。ここは原点に立ち返り、改革に挑む機会とすべきだ。日本の雇用構造を変えていく制度へと進化させる方向で検討を進めてはどうだろう。

 たとえば、雇用保険の失業給付を受ける際にジョブカード取得を義務づけてはどうか。介護や観光など、今後の成長分野とされる職種で普及を進めるのもいい。業種ごとの評価基準を確立し、能力の向上が昇格や給与に反映するように促すことも重要だ。

 企業はつぶれても、働き手の能力は失われず、新たな仕事に転じられる。ジョブカードで、そうした労働市場への改革を促したい。

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無償化先送り―砲撃は理由にならない

 北朝鮮が、平和を脅かす行動に出ている。韓国領の島への砲撃の後も、自分勝手な主張を繰り返している。

 砲撃事件を受けて、朝鮮高級学校生の授業料無償化に向けた手続きを停止するよう、菅直人首相が指示した。10校から出されている申請の審査が、先送りされている。

 民主党政権は、子どもの学びの支援に外交、政治上の問題はからめないと確かめたはずだ。「平和という前提が崩れた」との理由でその考えを変えるのは、筋違いではないか。

 北朝鮮の行動は非難に値する。危険な挑発を繰り返し、拉致問題にも誠実に対応しない国家だ。だがどう考えても、朝鮮学校の生徒にはその責任はない。彼らは日本で生まれ育ち、ともに社会を支えてゆく人たちである。支援の対象は学校ではなく、生徒一人一人だということも忘れてはならない。

 朝鮮学校出身の若者はこんなことを言っていた。「オレには朝鮮は親のようなもの。親が悪いことしたからって縁が切れるわけじゃない。嫌いだからって捨てられない」。彼らとて「親」のふるまいをどうにもできず、悶々(もんもん)としているのにちがいない。

 朝鮮学校については、教室の肖像画や教科書の記述が批判されている。問題はそれにどう対処するかだ。

 文部科学省は無償化適用に際し、財務の透明化などを基準に審査することを決めている。個々の教育内容については判断材料とせず、「自主的改善」を促すことにとどめた。

 政治や行政が教育内容へ直接介入することを避ける原則は、大切にしなければならない。すでに決めた基準にしたがって、審査を進めるべきだ。

 そのうえで朝鮮学校にも求めたい。無償化を機に日本社会の疑念の声を受け止め、自分たちで教育のあり方を議論し、正すべきは正してほしい。

 在日の先達には、差別に囲まれながら、祖国をよりどころに生きてきた思いはあろう。だが3世、4世ともなれば、祖国とのかかわり方はおのずと変わる。世界で全く通用しない北朝鮮の主張や価値観、指導者への個人崇拝をそのまま持ち込むようなやり方が、若い世代にとって有益だろうか。

 日本と朝鮮半島の懸け橋になりうる国際人として、必要な視点や知識は何か。朝鮮学校で使う教科書の改訂時期だという。そんな視点も加えつつ、改訂での議論をしてほしい。

 砲撃以来、各地の朝鮮学校には嫌がらせの電話がかかっているという。同時多発テロの後には、世界各地でイスラム教徒への監視や加害が強まった。紛争の際、矛先が真っ先に向けられるのは少数派の移民たちだ。

 政府がすべきことは、北朝鮮を変えるための国際的な連携を組みつつ、在日の子どもも同時に守ることだ。

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