親や養育者から受けた暴力によって、乳幼児の尊い命が奪われていく。今年上半期に刑事事件として立件された児童虐待の数は、181件にものぼるという。
10月には広島で、母親が4歳と1歳の姉弟の首を絞めて殺してしまった。報道によると、「子育てに自信がなくなり、疲れた」と、母親が供述しているという。
虐待する親を、もっと厳しく追及しろとの声が高まっている。厳罰化を進めることで、虐待を抑止しようと考える人たちも少なくない。子どもを傷つけるなんて許せない。人間のする行為ではないとの声も耳にする。
確かにその通り。子どもの命を奪うことは絶対に許せない。けれど、もう一方で、虐待をしてしまう親たちの置かれた環境にも思いを巡らせたい。子育て中の親たちと話をしていると、ひとごととは思えないという。
「自信がない」「疲れた」は、自分の思いと重なり、いつ、自分がわが子に手をかけてしまうか、ふと不安にかられるそうだ。たまたま周りに「つらいね」「大変だね」と声をかけてくれる人がいたかいないか。弱さを吐き出せる仲間を見つけられたかどうか。「虐待」を生み出す背景には、社会的な環境要因も大きいと思う。
11月は児童虐待防止推進月間でもある。全国各地でさまざまな事業が催される。川崎市では私たち市民と行政職員がともに実行委員会をつくり、「ハッピーバースデー」のチャリティー朗読劇を今月27日、多摩市民館で開催する。
母親から精神的虐待を受けて、声をなくした少女の成長を描いたこの作品は、150万部を超えるベストセラーにもなり、たくさんの人の共感を得ている。母親が放つ「あんたなんか、産まなきゃよかった」のひとことは、観(み)ているわたしたちのこころにも痛く突き刺さる。同時にドキリともする。どこかで、子どもに同じような言葉を突き刺してはいないだろうかと。
完(かん)璧(ぺき)を目指す子育ての苦しさ。子どものころに受けた癒やされない傷。誰の助けも得られず孤立した子育て。母親たちの抱える重さを、少しでも分かち合いたい。そして、子どものつらさを受け止めたいとも思う。そのためにもひとりでも多くの人にこの作品を観て、聞いてほしい。そして、いっしょに考えてほしい。虐待は自分とは無縁の遠い世界の話ではない。いままさに私たちの身の回りの話であり、自分自身の問題なのだと思う。(NPO法人フリースペースたまりば理事長)=次回は12月5日
毎日新聞 2010年11月21日 東京朝刊
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