きょうの社説 2010年12月5日

◎東北新幹線全線開業 直近の先行事例として参考に
 長年にわたって北陸新幹線と並行して整備が進められてきた東北新幹線が、新青森まで 全線開業した。新幹線がどれだけの経済効果をもたらすのか。懸念されるストロー現象はどこまで顕在化するのか。青森県や同県内の自治体、民間事業者らがこの日を見据えて推進してきた施策のうち、どれが奏功するのか。石川、富山県としても大いに気になるところである。

 東北新幹線に続き、来年3月には九州新幹線・鹿児島ルートの全線開業も予定されてい る。次は北陸新幹線の番であり、石川、富山県にとっては、いずれも貴重な直近の先行事例と言える。きちんと情報を収集し、参考になることがあれば速やかに取り入れて、開業への備えを急いでほしい。

 東北新幹線の全線開業で、青森県を訪れる観光客が増えるのは間違いないが、問題は「 持続力」である。同県などが展開してきた誘客活動の効果や、観光客らの足となる二次交通がうまく機能しているかどうかをチェックすることが必要だろう。路線が長大化する第三セクターの青い森鉄道、羽田便が就航している青森、三沢空港からも目が離せない。

 まちづくりでも見るべきところは多い。たとえば、終着駅の新青森駅は、従来の都市の 玄関口と別に設けられた分離駅で、「中心市街地と競合しないように」との配慮から、新青森駅周辺への大規模商業施設の立地は規制されている。青森市のそうした試みは、同じく分離駅となる高岡市には注目に値しよう。終着駅ではなくなった八戸駅がある八戸市の変化も、いずれ同様の経験をするかもしれない金沢市とすれば見逃せない。

 北陸新幹線の場合、開業後だけではなく、その手前にも不安材料が残っていることも忘 れてはならない。先ごろ成立した国補正予算に盛り込まれた新幹線建設事業費の新潟県への配分がゼロだったことは、地方負担をめぐる泉田裕彦同県知事と国土交通省の溝がまだ埋まっていないという現実を、あらためて浮き彫りにした。この点にも目配りしなければ、東北新幹線のようなスムーズな開業はおぼつかないだろう。

◎原発の運転延長 人材の高齢化も課題
 福井県に立地する関西電力美浜原発1号機が11月末、日本原電敦賀原発1号機に続い て、運転開始から40年を超えた。国内の原発は現在稼働している54基のうち、すでに18基が30年以上を経過している。進行する原発の高齢化(高経年化)に応じて検査・保守体制の強化が一段と重要になる一方で、原子力産業を支える人材の高齢化も課題になっており、二重の意味で高齢化対応が求められている。

 原発の運転期間は当初30年〜40年と想定されたが、設備の更新と新たな保守管理方 針(保安規定)によって、10年以上の運転延長が認められることになった。

 また、長期連続運転で原発の稼働率を上げるため、これまで13カ月以内とされてきた 定期検査の間隔を、最長24カ月(当面18カ月)まで延長できる新検査制度も導入された。原発の運転期間延長も、定期検査の間隔延長も当然、安全確保が大前提であり、検査・保守業務に完璧を期す必要性がますます高まっている。

 その半面、近年は原発の新増設が予定通りに進まず、技術者らが実際の設計、建設業務 に携わる機会が減少している。昭和40年代以降から多くの原発建設を手がけてきた技術者らは退職時期を迎えており、その熟練の技術・技能、貴重な経験を次の世代にうまく引き継ぐことが、かねて課題になっているのである。

 国内では今後、建設中の2基を含め14基の原発が計画されている。稼働中の原発では 遺憾ながら検査ミスやトラブルが依然後を絶たず、優秀な技術者や運転員の確保、能力の向上は待ったなしである。新興国への原発輸出を増やすため、国際的な活動ができる技術者の育成も急がれる。

 むろん、原発メーカーや電力会社は、それぞれ体系的な人材育成プログラムを設け、熟 練者のノウハウをマニュアル化したり、トラブルを教訓に安全文化・倫理教育を徹底するなどして人材育成に努めている。政府や自治体もそれを後押ししているが、原子力関係の公的機関も含めて人材教育をさらに強化する必要がある。