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詳細な解説

平成22年4月/拉致問題対策本部

 平成14年9月17日、平壌で行われた日朝首脳会談で、北朝鮮側は長年否定していた日本人の拉致を初めて認め、謝罪し、再発の防止を約束した。現在、日本政府は17名の日本人を北朝鮮による拉致被害者として認定しており(別添参照(PDF:216KB)pdf)、そのうち5名については、平成14年10月15日に24年ぶりの帰国が実現した(御家族については、平成16年5月及び7月にそれぞれ帰国・来日)。残りの安否不明の方々については、平成16年5月22日の第2回日朝首脳会談において、北朝鮮側より、直ちに真相究明のための徹底した調査を再開する旨の明言があったにもかかわらず、長い間、北朝鮮より納得のいく説明がなされないままだった。しかし、平成20年6月の日朝実務者協議において、北朝鮮側より拉致問題の再調査を行う旨の表明があり、同年8月の協議において調査目的及び具体的態様につき合意された。これにより、今後、北朝鮮側が拉致問題の解決に向けた具体的行動をとるため、すなわち生存者を発見し帰国させるための拉致被害者に関する全面的な調査を行うこととなった。

 日本政府は、従来より、「拉致問題は我が国の国家主権及び国民の生命と安全に関わる重大な問題であり、その解決なくしては北朝鮮との国交正常化はあり得ない」との方針の下、北朝鮮側より納得のいく説明や証拠の提示がない以上、安否不明の拉致被害者がすべて生存しているとの前提に立ち、北朝鮮側に対し、すべての被害者の安全確保及び即時帰国、真相究明並びに拉致実行犯の引渡しを強く要求してきた。政府としては、今後も拉致問題の解決に向け、北朝鮮による全面的な調査が早期に開始され、生存者の帰国につながるような成果が早期に得られるよう北朝鮮側と折衝していく考えである。

 なお、北朝鮮側は、これまで累次にわたり、「日本は拉致問題に固執しつつ過去の清算を回避している」旨主張しているが、日本政府としては、これまで繰り返し明らかにしてきたとおり、不幸な過去の清算については日朝平壌宣言に従って誠実に取り組んでいくとの立場であり、こうした北朝鮮側の主張を受け入れることはできない。引き続き、北朝鮮側に対し、拉致問題の解決に向けた決断を早急に下すよう強く求めていく。また、政府としては、認定した17名の拉致被害者以外にも北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があるとの認識の下、所要の捜査・調査を進めており、新たに拉致と認定される事案があれば、北朝鮮側に対し然るべく取り上げていく考えである。

1.背景

 1970年代から1980年代にかけ、多くの日本人が不自然な形で行方不明となったが、日本の当局による捜査や、亡命北朝鮮工作員の証言により、これらの事件の多くは北朝鮮による拉致の疑いが濃厚であることが明らかになった。平成3年以来、政府は、機会あるごとに北朝鮮に対して拉致問題を提起したが、北朝鮮側は頑なに否定しつづけ、平成14年9月の日朝首脳会談においてようやく初めて拉致を認めるに至った。

 北朝鮮が拉致という未曾有の国家的犯罪行為を行った背景には、工作員による日本人への身分の偽装、工作員を日本人にしたてるための教育係としての利用、北朝鮮に匿われている「よど号」グループ(注)による人材獲得、といった理由があったとみられる。日本政府はこれまでに17名を北朝鮮当局による拉致被害者として認定しているが、このほかにも拉致の可能性を排除できない事案があるとの認識の下、所要の捜査・調査を進めている。こうした捜査・調査の結果、これまで、日本国内における日本人以外(朝鮮籍)の拉致容疑事案や海外における拉致容疑事案も明らかになっている(下記3(1)(ハ)及び4(1)(イ)参照)。

 なお、日本国内では、平成9年に拉致被害者の御家族により「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」が結成される等、被害者の救出を求める運動が活発に展開され、これまで765万人を超える署名が総理大臣に提出されている。

(注)昭和45年3月31日、日本航空351便(通称「よど号」)をハイジャックした犯人とその家族等の総称。

2.拉致問題をめぐる日朝間のやりとり

(1)第1回日朝首脳会談(平成14年9月)

  • (イ)平成14年9月17日の日朝首脳会談において、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長は、長年否定していた日本人の拉致を初めて認めて謝罪し、その時点で日本政府として調査を求めていた拉致被害者13名のうち4名は生存、8名は死亡、1名は北朝鮮入国が確認できない旨伝えた。また、調査依頼をしていなかった1名について拉致を認め、その生存を確認した(他方、その後の調査で北朝鮮側は、同時に行方不明となった同人の母親については、入国の事実はない旨主張した。)。その上で、関係者は処罰されたとしつつ、再発防止を約束すると同時に、家族の面会および帰国への便宜を保証すると約束した。

     これに対し、小泉純一郎総理(当時)は、金正日国防委員長に対し強く抗議し、継続調査、生存者の帰国、再発防止を要求した。

  • (ロ)北朝鮮外務省のスポークスマンは、同日、拉致事件に関する談話を発表し、北朝鮮側として被害者の帰国のための必要な措置をとる用意があることを明らかにした。

(2)事実調査チームの派遣(平成14年9月〜10月)

 平成14年9月28日から10月1日にかけて、政府派遣による事実調査チームが生存者と面会し、安否未確認の方についての情報収集に努めた。しかし、北朝鮮提供の情報はそもそも限られている上、内容的にも一貫性に欠け、疑わしい点が多々含まれていた。特に、松木薫さんのものと思われるとして提供を受けた「遺骨」については、法医学的鑑定の結果、別人のものであることが確認された。同年10月29日〜30日にクアラルンプールで開催された第12回日朝国交正常化交渉においても、政府は150項目にわたる疑問点の指摘と同時にさらなる情報提供を要求したが、北朝鮮側からのまとまった回答はなかった。

(3)5人の被害者の帰国(平成14年10月)

  • (イ)日本政府からの要求に応じて、平成14年10月15日、拉致被害者5人(地村保志さん・富貴惠さん、蓮池薫さん・祐木子さん、曽我ひとみさん)が帰国し、家族との再会を果たした。

  • (ロ)日本政府は、これら拉致被害者が、北朝鮮に残してきた家族も含めて自由な意思決定を行い得る環境の設定が必要であるとの判断の下、同年10月24日、5人の拉致被害者が日本に引き続き残ること、また、北朝鮮に対して、北朝鮮に残っている家族の安全確保および帰国日程の早急な確定を強く求める方針を発表した。

     その後、特にこれら家族の帰国及び安否不明の拉致被害者に関する真相究明が日朝間の重大な懸案となり、協議されてきた。

(4)第2回日朝首脳会談(平成16年5月)

 平成16年5月22日、第1回日朝首脳会談において合意された日朝平壌宣言を履行していく考えを改めて確認し、日朝間の信頼関係の回復を図るため、小泉総理(当時)が再度訪朝し、拉致問題をはじめとする日朝間の問題や核、ミサイルといった北東アジア地域の平和と安定にかかわる安全保障上の問題等につき議論が行われた。拉致問題に関連しては、この会談を通じ、以下の諸点が両首脳間で申し合わされた。

  • 北朝鮮側は、地村保志さん・富貴惠さんの御家族、蓮池薫さん・祐木子さんの御家族、計5名が、同日、日本に帰国することに同意する。(曽我ひとみさんの御家族3名については、総理から直接1時間にわたり、来日を強く働きかけたものの、同日の来日は実現しなかったが、その後7月18日に帰国・来日が実現した。)
  • 安否不明の拉致被害者の方々について、北朝鮮側が、直ちに真相究明のための調査を白紙の状態から再開する。

(5)日朝実務者協議(平成16年8月、9月、11月)

  • (イ)平成16年8月11日〜12日(第1回)及び9月25日〜26日(第2回)、北京において日朝実務者協議が開催され、北朝鮮側より、安否不明者に関する再調査の途中経過が提供されたが、情報の裏付けとなる具体的な証拠や資料の提供がなく不十分なものであった。

  • (ロ)上記のやりとりを踏まえ、第3回日朝実務者協議が平成16年11月9日より14日まで平壌にて開催された。同協議は50時間余りに及び、「調査委員会」との質疑応答の他、合計16名の「証人」からの直接の聴取、さらには拉致に関係する施設等に対する現地視察も行われた。

     また、第3回協議では、日本政府として拉致被害者とは認定していないが北朝鮮に拉致された疑いが排除されない失踪者(いわゆる「特定失踪者」等)の問題について、北朝鮮側に対し5名の氏名を示して関連情報の提供を求めるとともに、日本側からの指摘の有無にかかわらず、日本人拉致問題に関し更なる情報がある場合には速やかに提供するよう重ねて申し入れたが、北朝鮮側からは、当該5名について入境は確認できなかったと回答があった。

  • (ハ)日本政府は直ちに、第3回協議において北朝鮮側より提示のあった情報及び物的証拠に対する精査を実施し、その結果を12月24日に対外公表した。また、翌25日、北朝鮮側に対し、以下の内容を口頭及び書面で申し入れた。併せて、精査結果概要及び横田めぐみさんの「遺骨」とされたものの鑑定結果要旨を手交した。

    • 第3回日朝実務者協議を通じて得た情報・物証につき、「8名は死亡、2名は入境確認せず」との北朝鮮側説明を裏付けるものはなかった。この説明は受け入れられるものではなく、誠意を欠く対応に強く抗議する。
    • これまでに提供された情報・物証では、安否不明の拉致被害者に関する真相を究明するためには全く不十分と言わざるを得ず、「白紙」に戻しての徹底した調査と呼べるものではない。多くの疑問点があり、また、横田めぐみさんの「遺骨」とされた骨の一部からは、同人のものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結果を得た。
    • 安否不明の拉致被害者に関する真相究明を一刻も早く行うとともに、生存者は直ちに帰国させるよう強く要求する。迅速かつ誠意ある対応がない場合には、我が方として厳しい対応をとる方針である。
  • (ニ)平成17年1月26日、北朝鮮側より、横田めぐみさんの「遺骨」とされた骨片に関する日本側鑑定結果に関する考え方を含む北朝鮮の1月24日付「備忘録」が我が方に伝達されるとともに、本件骨片の返還要求があった。これに対し、我が方よりは、2月10日、北朝鮮側「備忘録」に対する反論を伝達し、改めて生存する拉致被害者の即時帰国と真相究明を強く要求した。その後も、2月24日、4月13日に北朝鮮側より同様の内容が伝達されたことから、我が方より、改めて鑑定結果の客観性、科学性に言及しつつ反論した。

(6)日朝包括並行協議(平成18年2月)

 平成18年2月4日〜8日、北京において、拉致問題、核・ミサイル問題、国交正常化の問題を包括的に話し合う日朝包括並行協議が開催された。拉致問題に関する協議は合計約11時間にわたり、我が方より改めて、生存者の帰国、真相究明を目指した再調査の約束、拉致実行犯の引渡しを強く要求した。

 これに対し、北朝鮮側は、「生存者は既にすべて帰国した」旨のこれまで同様の説明を繰り返した。真相究明については、これまで誠意を持って努力した、調査した事実をそのまま回答している旨主張し、安否不明者の再調査継続すら約束しなかった。また、拉致実行犯の引渡しについては、政治的問題である等の主張を行い、引渡しを拒否した。

 このように、北朝鮮側からは、拉致問題の解決に向けた具体的進展は何ら示されなかった。加えて、脱北者支援活動を行う邦人等7名について、北朝鮮国内法に違反する旨の主張を行い、その引渡し等を要求してきた。

(7)北朝鮮による弾道ミサイルの発射及び核実験実施の発表(平成18年7月、10月)

  • (イ)平成18年7月5日、北朝鮮により7発の弾道ミサイルが発射された。これに対し日本政府は、万景峰92号の入港禁止を含む9項目の対北朝鮮措置を即日実施し、併せて、北朝鮮側に対し、同措置の内容等を伝達しつつ厳重な抗議を行った。

     更に北朝鮮は、同年10月9日、国際社会の再三の警告にもかかわらず、核実験を実施した旨の発表を行った。これに対し日本政府は、厳重なる抗議及び断固たる非難の意を表明した上で、同月11日、すべての北朝鮮籍船の入港禁止やすべての品目の輸入禁止を含む4項目の対北朝鮮措置を発表した。

  • (ロ)これら一連の対北朝鮮措置は、我が国を取り巻く国際情勢に鑑み、諸般の事情を総合的に勘案して決定したものであるが、北朝鮮側が拉致問題の解決に向けて誠意ある対応をとってこなかったことも、同措置を決定する判断材料の一つとなっている。これらの措置のうち、北朝鮮船舶の入港禁止措置と北朝鮮からのすべての品目の輸入禁止措置について、日本政府は、拉致問題で具体的な進展が得られていないこと等を総合的に勘案し、平成19年4月10日、同年10月9日、平成20年4月11日及び同年10月10日の4度にわたり半年間の継続を繰り返してきたが、平成21年4月5日、北朝鮮がミサイルを再度発射し、かつ依然として拉致問題について具体的な行動をとっていないことから、同月10日、措置の延長期間を1年間とするとともに、北朝鮮向け資金の流れの実態をよりきめ細かく把握するための2措置を新たに加えた。(なお、同年6月16日には、前月の北朝鮮による地下核実験の発表を受け、すべての品目の輸出禁止等の2措置を更に追加した)。(下記(10)参照)

(8)日朝国交正常化のための作業部会(平成19年3月、9月)

 平成19年2月の六者会合において設置に合意された「日朝国交正常化のための作業部会」の第1回会合が、同年3月7日〜8日ハノイにおいて開催された。同会合において、我が方より、改めて、すべての拉致被害者及びその家族の安全確保と速やかな帰国、真相究明、拉致実行犯の引渡しを要求したが、北朝鮮側は、「拉致問題は解決済み」との従来の立場を繰り返すのみならず、我が国の北朝鮮に対する「経済制裁」の解除を求めるなど、拉致問題の解決に向けた誠意ある対応は示されなかった。9月5日〜6日にはウランバートルにて第2回会合が開催され、日朝平壌宣言に則り、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決して国交正常化を早期に実現するため、日朝双方が誠実に努力すること、このための具体的な行動につき協議し、精力的な協議を通じ具体的行動を実施していくことに合意したものの、拉致問題については何ら進展は得られなかった。

 なお、両会合の間にあたる7月20日、北朝鮮側が拉致問題における我が方の対応を非難しつつ「拉致問題は終結した」とする「外務省備忘録」を発表したことから、我が方は、同月25日、外務省報道発表を通じ、同備忘録を受け入れることは全くできない旨反論した。

(9)日朝実務者協議(平成20年6月、8月)

 平成20年6月11日〜12日、北京において「日朝実務者協議」が開催された。同協議では、拉致問題や不幸な過去の清算等の問題につきお互いの立場を改めて主張し、特に、拉致問題については、両団長間で真剣かつ突っ込んだ折衝が行われた。

 その結果、北朝鮮側は、「拉致問題は解決済み」との従来の立場を変更して拉致問題の再調査を実施するとともに、「よど号」関係者の問題の解決のために協力する用意がある旨表明した。これを受け、日本側は、従来からとっている対北朝鮮措置のうち、人的往来の規制解除及び航空チャーター便の規制解除、並びに人道支援物資輸送目的に限定した北朝鮮船舶の入港許可を実施する旨表明した。

 同年8月に行われた協議では、調査の目的や具体的態様につき合意がなされ、今後、こうした合意に従って、北朝鮮側が拉致問題の解決に向けた具体的行動をとるため、すなわち生存者を発見し帰国させるための、拉致被害者に関する全面的な調査を行うこととなった。また、日本側も、北朝鮮による調査の開始と同時に、人的往来の規制解除及び航空チャーター便の規制解除を実施する用意がある旨表明した。

 しかし、同年9月、北朝鮮側より、突然日本で政権交代(注:福田総理(当時)の辞任)が行われるようになった事情にかんがみて、新政権が実務者協議の合意事項の履行についてどういう考え方なのかを見極めるまで調査委員会の立ち上げを差し控える旨通報があり、その後も上記合意事項を実施しない状況が続いている。日本側としては、上記合意事項を履行する意思に何ら変わりはなく、今後も引き続き、北朝鮮側に対しこうした立場を示しつつ拉致被害者に関する全面的な調査を早期に開始するよう強く求めていく考えである。

(10)北朝鮮によるミサイルの発射及び核実験実施の発表(平成21年4月、5月)

 (イ)平成21年4月5日、北朝鮮によりミサイルが再度発射された。これを受け日本政府は、同月10日、平成18年の弾道ミサイル発射及び核実験実施以来継続してきた対北朝鮮措置を更に1年間継続する旨決定するとともに、北朝鮮向け資金の流れの実態をよりきめ細かく把握するための2措置を新たに加えた。    更に北朝鮮は、同年5月25日、地下核実験を実施した旨発表した。これを受け日本政府は6月16日、上記措置に加え、北朝鮮に向けたすべての品目の輸出禁止等の2措置を新たに追加実施する旨決定した。

 (ロ)平成22年4月9日、日本政府は、北朝鮮籍船舶の入港禁止等の3つの措置について、期限が4月13日に到来することから、これらを一年間継続する旨決定した。

 (ハ)これら一連の対北朝鮮措置の追加及び継続は、核・ミサイル問題に加え、六者会合への復帰に未だ応じていないといった北朝鮮をめぐる諸般の事情を勘案して決定したものであるが、北朝鮮が拉致問題について平成20年8月に合意した全面的な調査(上記(9))に着手していないなど具体的な行動をとっていないことも判断材料の一つとなっている。

3.国際社会における動き

(1)拉致問題に対する国際的関心の高まり

  • (イ)北朝鮮による日本人の拉致は、人間の尊厳、人権及び基本的自由の重大かつ明白な侵害である。国連人権委員会において平成15年より3年連続で採択された北朝鮮人権状況決議においても外国人の拉致に関する未解決の問題の緊急な解決を求めている。また、同決議に基づき任命されたムンタボーン国連北朝鮮人権状況特別報告者は、平成17年以降、毎年、数次にわたる我が国への訪問結果も踏まえ、国連人権委員会(平成18年からは国連人権理事会)及び国連総会第3委員会に報告を行っており、平成21年の報告では、北朝鮮が拉致問題の解決に向けた効果的な協力を早急に行うべきであると勧告している。

  • (ロ)上記人権委員会決議に加え、平成17年12月には初めて国連総会本会議で北朝鮮人権状況決議が採択され、以後、5年連続で賛成多数により採択されている。国連総会決議は、我が国とEUが共同で提出しているもので、外国人の拉致問題を含め北朝鮮の人権状況に深刻な懸念を表明し、北朝鮮当局に対し、拉致被害者の即時帰国を含め、問題を早急に解決することを強く要求している。(平成21年の同決議の共同提案国は53カ国で、韓国は平成20年より共同提案国に加わっている。)これらの一連の決議案の採決に当たっては、本件決議案に賛成票は投じなくても拉致問題に対する北朝鮮の対応についての懸念を表明する国も多数あった(インド、ネパール、ベトナム、インドネシア、コロンビア等)。さらに、昨年12月、人権理事会の普遍的・定期的レビュー(UPR)作業部会において、北朝鮮の人権状況に関する審査が行われ、拉致問題を含めた北朝鮮の人権状況についての我が国ほか各国からの懸念や勧告を記載した報告書が採択された。

    • (ハ)なお、日本へ帰国した拉致被害者などの証言で、タイ、ルーマニア、レバノン等の日本以外の国でも北朝鮮に拉致された可能性のある者が存在することにも内外の関心が集まっている。平成18年5月には、横田めぐみさんの夫が韓国人拉致被害者である可能性が高いことが判明したことを契機として、日韓の拉致被害者の家族が相互に韓国及び日本を訪問し、両国家族間の連携を改めて確認した。

    (2)我が国の外交上の取組

    • (イ)日本政府は、前記の国連総会や人権理事会の他にも、サミット等の各種国際会議、首脳会談等あらゆる外交上の機会を捉え拉致問題を提起し、諸外国からの理解と支持を得てきている。例えば、平成21年7月のラクイラサミットにおいては、我が国より拉致問題について取り上げたのに対し他の参加国から支持の表明があり、その結果、首脳宣言に、北朝鮮が拉致問題を含む人道上の問題に対する国際社会の懸念に直ちに取り組むことを要請するとの文言が明記された(G8の首脳宣言において拉致問題が明示的に言及されたのは前年の北海道洞爺湖サミットに引き続き2度目。なお、G8では、平成15年のエビアンサミット以来継続して、議長総括などの文書で拉致問題を取り上げている。)。

       また、二国間首脳会談では、例えば米国からは、従来より、拉致問題における日本の立場に対し理解と協力の姿勢が示されている。特に、オバマ大統領は、平成21年4月東京での演説において「北朝鮮と近隣諸国との完全な国交正常化は、日本人の被害者家族が拉致被害者に関する十分な説明を受けることが前提となる」旨述べており、また、クリントン国務長官からも、同年2月の拉致被害者御家族との面会の際、「拉致問題は米国としても優先すべき問題と理解している」との言及があった。韓国については、李明博大統領より、累次にわたり、拉致問題について可能な限りの協力と支持が表明されている。特に平成21年1月の日韓首脳会談では、李大統領より「韓国にも多くの拉致被害者がいる。北朝鮮はこの問題の解決に協力すべきであり、日本と同じ考え方を持っている」との発言があった。このほか、中国の胡錦濤国家主席やロシアのメドヴェージェフ大統領からも拉致問題に対する理解が示されている。なお、ブッシュ大統領(当時)は、平成18年4月、拉致被害者横田めぐみさんの母である横田早紀江さんらと面会し、「北朝鮮は人権と人間の尊厳を尊重すべきであり、めぐみさんのお母さんがもう一度娘を抱きしめられるようにすべきである」と述べている。

    • (ロ)また、平成17年9月に採択された六者会合の共同声明にも、拉致問題を含めた懸案事項が解決されない限り北朝鮮との国交正常化はないという我が国の基本的立場を踏まえ、不幸な過去を清算し、拉致問題を含めた懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための措置をとることが、同会合の目標の一つとして位置づけられた。これを受け、平成19年2月の六者会合においては、非核化等と並んで、日朝国交正常化のための作業部会も設立された。更に、同年9月の六者会合においては、日朝関係について、日朝双方が具体的行動を実施していくことも合意され、10月3日に発表された成果文書に明記された。

       なお、六者会合においては、北朝鮮が非核化措置を実施することとあわせ、北朝鮮に対して経済・エネルギー支援が実施されることとなっているが、我が国は、拉致問題に進展が見られない限り、六者会合における北朝鮮へのエネルギー供与には参加しないとの立場をとっている。

    • (ハ)上記のとおり、拉致問題解決の重要性とそのための日本政府の取組みは、国際社会の明確な理解と支持を得ている。拉致問題の解決に向けた北朝鮮側の決断を促していくためには、国際社会の理解と協力が不可欠であるとの観点から、日本政府は、今後とも、拉致問題における国際社会との連携を積極的に推進していく考えである。

    4.国内における取組状況

    (1)日本政府による捜査・調査

     日本政府は、平成14年9月の日朝首脳会談以降も、北朝鮮による日本人拉致事案及び拉致の可能性を排除できない事案につき、帰国した拉致被害者からも累次にわたり協力を得つつ、引き続き所要の捜査・調査を進めてきた。こうした捜査・調査の結果、これまで以下のとおり、新たな拉致被害者の追加認定や拉致容疑事案の実行犯の特定等がなされた。日本政府としては、今後も引き続き、所要の捜査・調査を進めていき、新たに拉致と認定される事案があれば、北朝鮮側に対し然るべく取り上げていくとともに、実行犯の特定も含め、拉致の真相究明を全力で進めていく考えである。

    • (イ)拉致被害者の追加認定

       捜査当局による捜査・調査の結果、昭和52年10月鳥取県において女性が失踪した事案(被害者:松本京子さん)及び昭和53年6月に兵庫県において男性が失踪した事案(被害者:田中実さん)に関し、北朝鮮による日本人拉致容疑事案と判断するに足る新たな証拠等が得られたことなどから、日本政府は、平成17年4月27日に田中実さん、平成18年11月20日に松本京子さんを拉致被害者として認定した。これにより、日本政府が認定した北朝鮮による拉致事案は、12件17名となった。

       なお、日本国内で北朝鮮当局によって拉致されたことが明らかになった日本人以外の拉致被害者1件2名(朝鮮籍姉弟)については、拉致は国籍に拘らず重大な人権侵害であり、同時に、我が国の主権侵害にあたることから、北朝鮮側に対し、原状回復として被害者を我が国に戻すことを求めるとともに、同事案に関する真相究明を求めている。

    • (ロ)拉致容疑事案の実行犯等の特定

       捜査当局は、平成18年2月23日、地村夫妻拉致の実行犯として北朝鮮工作員・辛光洙(シン・グァンス)、蓮池夫妻拉致の実行犯として北朝鮮工作員・自称小住健蔵こと通称チェ・スンチョル、同年11月2日、曽我母娘拉致の実行犯として北朝鮮工作員・通称キム・ミョンスク、平成19年2月22日、蓮池夫妻拉致の共犯者として当時朝鮮労働党対外情報調査部対日課指導員・自称韓明一(ハン・ミョンイル)こと通称ハン・クムニョン及び通称キム・ナムジン、平成19年6月13日、石岡亨さん及び松木薫さん拉致の実行犯として「よど号」犯人の妻・森順子及び若林(旧姓:黒田)佐喜子をそれぞれ特定し、逮捕状の発付を得て国際手配を行うとともに、政府として北朝鮮側に身柄引渡しを要求した。

       北朝鮮による日本人拉致容疑事案については、これまでにも、平成14年8月以降、原敕晁さん拉致(辛光洙事件)の実行犯である北朝鮮工作員・辛光洙、有本恵子さん拉致の実行犯である「よど号」犯人・魚本(旧姓・安部)公博、久米裕さん拉致(宇出津事件)の主犯格である北朝鮮工作員・金世鎬(キム・セホ)について逮捕状が発付されており、国際手配を行うとともに、日本政府として北朝鮮に対し身柄引渡しを要求している。また、原敕晁さん拉致の共犯者である金吉旭(キム・キルウク) についても逮捕状が発付されており、国際手配を行うなどの所要の措置を講じている。

       なお、捜査当局は、日本人以外の拉致容疑事案(朝鮮籍姉弟)についても、平成19年4月26日、主犯である洪寿恵(ホン・スヘ)こと木下陽子について逮捕状の発付を得て、国際手配を行っている。

    • (ハ)横田めぐみさんの夫に関するDNA検査(平成18年4月)

       平成18年4月、日本政府の実施したDNA検査により、日本人拉致被害者横田めぐみさんの夫が、昭和53年に韓国より拉致された当時高校生の韓国人拉致被害者金英男(キム・ヨンナム)氏である可能性が高いことが判明した。これを受け、我が方より北朝鮮側に対し、同検査結果を伝えつつ拉致問題解決に向けた誠意ある対応を改めて求めた。なお、韓国政府も独自に同様の検査を実施し、同年5月に同様の結果を得ている。

    • (ニ)飯塚家と金賢姫氏との面会(平成21年3月)

       平成21年3月11日、韓国釜山において、田口八重子さんについての重要な証言者である金賢姫氏(大韓航空機爆破事件実行犯)と田口さんの御家族である飯塚家が面会した。これは飯塚家のかねてからの御要望を踏まえ、日本政府が韓国政府の協力を得つつ主催したものである。同面会を通じ、金氏より田口さんに関する重要な参考情報(注)が新たに得られたことから、現在、政府として確認作業を進めている。   (注)金氏の発言:「87年1月にマカオから帰ってきて、2月か3月頃、運転手から田口さんがどこか知らないところに連れて行かれたと聞いた。86年に一人暮らしの被害者を結婚させたと聞いたので、田口さんもどこかに行って結婚したのだと思った。」

    (2)「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」の施行(平成18年6月)

     この法律は、拉致問題をはじめとする北朝鮮当局による人権侵害問題(「拉致問題等」)に関する国民の認識を深めるとともに、国際社会と連携しつつ拉致問題等の実態を解明し、その抑止を図ることを目的として、平成18年6月23日に公布・施行された。

     同法では、拉致問題等の解決に向けた国の責務の他、拉致問題等の啓発を図る国及び地方公共団体の責務、北朝鮮人権侵害問題啓発週間(12月10日〜16日)の創設及び同週間における国・地方公共団体の啓発事業の実施等が定められている。また、平成19年7月6日には、政府が施策を行うに際しては拉致問題の解決等に資するよう十分留意しなければならないとの新たな条項が追加された。

     なお、毎年12月には、同法が定める「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」が実施され、政府として、各種広報、講演会やシンポジウム、「拉致問題を考えるみんなの集い」等の行事を行うとともに、民間団体等が主催する国際会議への支援を行っている。

    (3)新たな「拉致問題対策本部」の設置(平成21年10月)

     (イ)平成18年9月、日本政府は、拉致問題に関する総合的な対策を推進することを目的として、総理大臣を本部長とする「拉致問題対策本部」を設置した。同対策本部は全閣僚から構成されており、拉致問題の解決に向け、同対策本部を中心に政府一体となって取り組んでいく体制が初めて整備された。

     (ロ)平成21年10月、日本政府は、従来の拉致問題対策本部を廃止するとともに、拉致問題に関する対応を協議し、生存者の即時帰国に向けた施策、安否不明の拉致被害者に関する真相究明及び同問題への戦略的取組等総合的な対策を機動的に推進するため、総理大臣を本部長とする新たな「拉致問題対策本部」を設置した。同対策本部は、本部長である総理大臣を始め、副本部長である拉致問題担当大臣、内閣官房長官及び外務大臣から構成されており、拉致問題の解決に向け、同対策本部を中心に機動的に取り組んでいく体制が整備された。    
      同対策本部は、同年10月に第1回会合を開催し、拉致問題対策本部事務局の体制について、特に情報関係の体制強化を図ること、そして、早急にすべての拉致被害者の生還を実現すべく、政府一体となった取組を推進していくこと等を確認した。

    (4)広報啓発活動等

     拉致問題の解決にあたっては同問題に関する国内外の関心を喚起することも重要であるとの観点から、政府は、上記「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」での行事や地方での啓発行事、DVD・パンフレットの作成及び配布、上映会や講演会開催の慫慂及び講師派遣等、拉致問題に関する様々な広報啓発活動を実施している。

     また、政府は、北朝鮮に残されている日本人拉致被害者の方々に対し御家族のメッセージや拉致問題をはじめ国内外情勢に関する情報をお届けするため、平成19年7月より北朝鮮向け短波ラジオ放送(「ふるさとの風(日本語)」及び「イルボネパラム(朝鮮語)」)を実施している。(注:放送はホームページ上でも提供