昔々あるところに、群れに溶け込めずにいた一羽の鳩がいました。
名を鳩一郎といい、北の土地から逸れてきたところでこの地にとどまるようになったのです。
他の鳩は余所から流れてきた鳩一郎を受け入れようとはせず、元来捻くれ鳥の鳩一郎自身も自ら溶け込もうとする努力をしませんでした。
気付けば餌を獲るにも空を飛ぶにも一羽ぼっち。
しかしそんな鳩一郎に声をかける鳩がいたのです。
名は鳩次。
鳩次は生来鳥懐っこい性格で、あまり飛ぶのが上手ではないにもかかわらず、群れの中で愛されている鳩でした。
そんな鳩次は鳩一郎が気になって、
「なぜそんなに長く飛べるの?」
「前に棲んでいた森はどんなところだったの?」
などと毎日のように話しかけるようになりました。
鳩一郎は始めこそ鬱陶しげに相手をしませんでしたが、それが何日も続くうちに徐々に言葉を交わすようになったのです。
そんな時、鳩の世界では大きな問題が持ち上がっていました。
人間たちが石を使って鳩を狩りはじめたのです。
「鳩一郎さん、この辺りにも人間が近付いてきたんだ。僕たちと一緒に森の奥まで逃げよう?」
鳩次は鳩一郎にそう言ったのですが、鳩一郎は一向に取り合いません。
他の鳩たちが逃げ出しても、鳩一郎は決してその場を離れようとはしませんでした。
鳩次は必死に説得を続けます。
鳩次が心配して言ってくれているのはわかっていた鳩一郎ですが、言われれば言われるほどに頑なになってしまうのでした。
そうしているうちに、人間たちは二羽のすぐ傍までやってきていました。
それに気付いた二羽は慌てて飛び立ちます。
鳩一郎は自慢の羽を広げて力強く飛び立ちましたが、飛ぶのが苦手な鳩次は思ったように高くは飛び上がれませんでした。
それを見た鳩一郎は、鳩次を勇気付けるために舞い戻ります。
人間たちは動きの鈍い二羽を見逃しません。
鳩一郎が気付いたときには、すでに避けることができない軌道で石が迫ってきていました。
「危ないっ!」
鳩一郎の目に映ったのは、羽を広げて自分を守ろうとする鳩次の姿でした。
石にぶつかった鳩次は、体勢を崩してまっさかさまに落ちてゆきます。
鳩一郎は鳩次を助けようとその体に飛びつきました。
「鳩一郎さんだけでも逃げてください!」
鳩次は己が助からないであろうことを悟り、一羽だけでも逃げるように訴えます。
それでも鳩一郎は落ちてゆく鳩次の体を支えようと必死に羽をはばたかせました。
しかしその努力も空しく、二羽は縺れるように大地に叩きつけられました。
鳩次は再び訴えかけます。
「ぼくはもうだめです! どうして逃げてくれないんですか!」
鳩一郎は答えません。
そして、人間がそこにやってきても、鳩一郎は鳩次の傍を離れることはありませんでした。
☆後書き☆
こんな話需要あるだろうか。
もしかしたら他のネタも書くかもしれない。