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リアルな切腹 生命の重み 時代劇映画、死の量産に一石

2010年12月4日11時50分

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 日本映画に時代劇ブームが続いている。今秋から冬にかけては、「本格」と形容しうる重量級の作品が並んだ。アクション活劇から繊細な人間ドラマまで内容は多彩だが、その中で目立っているのが、リアルすぎるほどリアルな切腹場面だ。

 ベネチア国際映画祭でも話題を集めた「十三人の刺客」はいきなり切腹から始まる。三池崇史監督はこの場面のためだけに主役クラスの内野聖陽を起用。内野は破裂しそうなほど血管を浮き上がらせる熱演を見せた。

 1963年製作の同名映画のリメーク。63年版も切腹から始まるが、すでに果てた後の映像しか映さない。腹を裂く音も大きい三池監督の演出は、客席を緊張させる効果が抜群だ。

 佐藤純弥監督の「桜田門外ノ変」は、井伊直弼を暗殺した水戸藩浪士らが次々と血まみれになって自決していく。徳川の殿様と山で育った女性の恋愛劇「雷桜」でも、広木隆一監督は家臣の切腹をきちんと見せる。18日公開の杉田成道監督の「最後の忠臣蔵」も、重要な局面で約10分の切腹場面がある。いずれも、正視するには覚悟が要るほどのリアリズムに徹している。

 杉田監督は切腹をどのように撮るか、撮影当日まで悩み抜いたという。「女性の観客にどう見られるかが気になった。でも、妖気を感じるほど集中している俳優の顔を見て、これは真正面から行くしかないと腹を決めた」

 時代劇は様式美を重んじるため、チャンバラは舞踊のように描かれることが多い。血が出ないこともふつうだ。切腹も同じ。観客に不快感を与えないよう配慮して、つくられてきた。

 切腹をリアルに描写した作品もないわけではない。小林正樹監督の「切腹」(62年)は、竹光で腹を切らされる侍の苦痛に満ちた表情が印象的だった。作家の三島由紀夫が自らの原作を脚色・監督した「憂国」(65年)は、三島自身が切腹する将校を演じ、ピクピクけいれんしてみせた。

 ただ、この2本はいずれもモノクロ。今年の作品は鮮血の赤が目に焼き付く。特に「桜田門外ノ変」では、白い雪が赤く染まる。佐藤監督は「浪士らの行為はテロ。彼らを美化することだけはしたくなかった」。

 茶店で休んでいて敵に囲まれた浪士の一人は、切腹しかけたところで「店が汚れます」と町人に追い払われ、刀を腹に突き立てたまま街を歩き回る。悲惨な死にざまだ。

 切腹描写にリアリズムを持ち込むことで、生命を失うことのグロテスクな側面をえぐり出す。生命のはかなさを感覚的に知ることで、グロテスクを甘んじて受ける切腹者の覚悟が逆説的に気高く見えてくる。

 戦中派の佐藤監督は言う。「『なぜ人を殺してはいけないの』と問う子供がいることに危機を覚える。いかに死が軽んじられているか」

 リアルな切腹描写の増加は、痛みの伴わない死を量産してきた映画界の一種のケジメなのだろうか。(石飛徳樹)

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