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山岡・民主副代表:陣営買収疑惑 運動員の主張崩した領収書

 ◇運動員「ボランティア」「給料なんて出ません」

 「ボランティアです」。そう言い張る運動員の主張を崩したのは、選挙運動費用収支報告書に添付された領収書だった。昨年8月の衆院選を巡る山岡賢次・民主党副代表陣営の買収疑惑。当初報酬の授受を否定していた運動員たちは、領収書を前にため息をつきながら受領を認めた。政権交代を実現させた歴史的な国政選挙の裏で、陣営幹部は法の枠を超えてしまったのか。【小林直、太田誠一、渡辺暢】

 陣営が昨年12月1日に提出した第3回報告書。人件費の欄に11人の名前が記載されていた。報酬の受領時に11人が署名、押印したとみられる領収書のコピーも添付されており、これらを手がかりに取材班は、運動員の自宅を訪ねた。

 8月19日、栃木県の民家。女性(Aさん)はけげんそうな表情で、選挙運動への関与を認める一方、報酬の存在を否定した。記者が領収書を差し出すと10秒ほどの沈黙が。そして「言っていいんだか悪いんだか……。(領収書が)出ているんだからそう(報酬)なんでしょうね」と苦笑した。「(仕事は)事務所で電話して……」と続けた。

 翌日、別の民家を訪ねた。女性(Bさん)は「仕事は電話作戦ですか」との質問にうなずいたが「お給料なんて出ません」。「ではこれは誰が書いたんでしょうか」。領収書を示すと動きが止まり、やがて「ああ」とため息を漏らして受領を認めた。

 Aさんは9月の再取材を拒否。しかし10月21日「1日200軒くらいかけた。朝早くから午後8時まで。そりゃー疲れたわ」と初めて電話作戦の概要を明らかにした。栃木県真岡市の選挙事務所の2階に電話約20台があり、約10人が電話作戦をしていたという。

 Bさんは9月15日、再取材に応じた。電話作戦の場所はAさんと同じだが、電話の台数は「10台はあった」。事務所側が作った後援会名簿を使って電話をかけ「山岡先生をお願いします」と繰り返したという。「最初は報酬の約束はなくボランティアのつもりだった。(3カ月後に報酬を受領した際は)最後に出たから『まあうれしいわ』と思った」という。

 2人は報酬を提供した人物の名前について「言えない」と繰り返した。しかし11月4日、Bさん宅を再訪すると、ついに実名を挙げ「秘書。真岡の事務所で受け取った。領収書は秘書に『書いてくれ』と言われた」と明かした。

 山岡氏は小選挙区制が導入された96年以降、4回連続で自民党の佐藤勉氏に敗れ苦杯をなめた(うち3回は比例で復活当選)。国対委員長として臨んだ昨年の衆院選で、佐藤氏を約3万票上回り、初めて栃木4区を制した。

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 ■解説

 ◇3カ月後の授受、摘発逃れ狙う?

 疑惑の核心は、山岡氏の陣営が運動員に報酬を支払ったのが、選挙から3カ月もたった時期だったという点にある。警察が選挙違反事件の内偵や捜査を終える時期とほぼ一致しており、「摘発逃れの工作ではないか」との指摘も出ている。

 選挙の対価として金品を授受する買収罪は「選挙に関する贈収賄罪」とも呼ばれ、公選法上最も悪質な実質犯と位置付けられる。電話作戦従事者への報酬の支払いが違法であることは選挙関係者にとっては「イロハのイ」。

 名古屋高裁は73年9月の判決で、1日平均約250人に電話をかけた主婦4人について「多数の有権者に特定の候補者名を告げ直接投票を勧誘するのは選挙運動」と認定し、対価として金品を支払った被告を有罪とした。しかし、法を逸脱した激しい選挙戦が各地で展開され、摘発も相次いでいる。

 衆院選は昨年8月30日に投開票されたが、山岡氏側が運動員に報酬を支払ったのは11月28、29日。他の党主要幹部では、例えば仙谷由人官房長官が公選法上認められる報酬について8月31日、菅直人首相は9月28日までに払っており、山岡氏側はかなり遅い。

 選挙から3カ月が経過すると、各都道府県警は「選挙違反取締本部」の看板を下ろし検挙状況をまとめ警察庁などに報告する。元検察首脳は「それ以降は特別な事情がないと選挙違反は捜査しない。摘発逃れの疑いがあるのではないか」と指摘する。捜査態勢の変化と奇妙に符合する3カ月という支払い遅れについて山岡氏側は説明していない。

 支払われた24万円も少額ではない。最高裁は84年11月、運動員から靴下2足(計2000円相当)を受け取った女性について翌日夫が返したにもかかわらず有罪と判断、罰金刑が確定した。警視庁は今夏の参院選に絡み女性に7万円を渡した疑いで民主党前議員の運動員を逮捕している。

 山岡氏は当時、民主党国対委員長という要職にあり、現在も党副代表を務める。「クリーンな政治」を掲げる菅政権は新たな火種を抱えた形だ。【小林直、太田誠一】

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 ■ことば

 ◇選挙運動費用収支報告書

 選挙運動にかかった事務所費、人件費、通信費などの支出、選挙資金として受領した個人、団体、政党からの寄付などの収入を記載した文書。支出を裏付ける領収書のコピーなどを添えて、選挙管理委員会に提出する。有権者側が法定限度額以下で選挙運動を行ったかどうかなどを事後チェックするための制度だが、情報公開請求しなければ閲覧もコピー入手もできない。虚偽記載には禁錮3年以下または罰金50万円以下の罰則がある。投票日から15日以内に1回目の報告書を出し、追加すべき点があれば、2、3回目……と順次報告書を提出する。

毎日新聞 2010年12月4日 東京朝刊

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