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[24668] リトルヒーローズ(多重クロスオーバー・参戦作品については参照されたし)
Name: swoin◆b526f14f ID:a394d714
Date: 2010/12/01 23:25
 ども。別掲示板にてこの作品を投稿していましたが、より多くの方々に見てもらうためにこちらにも投稿させていただきました。投稿についてはまだまだ素人なので、よろしくお願いします。


 この作品は自分の好きなアニメ作品をスパロボ見たくお祭り作品に仕上げてみようと執筆しました。物語としてはオリキャラを中心に話が進んでいきますが、参戦する版権作品のシナリオも融合させつつ、独特の世界観がかもし出せるように頑張ろうと思います。
 ただ、作者は現実方面で非常に多忙な身ですので、更新スピードについては遅いということをご了承ください。

参戦作品
・ゲンジ通信あげだま
・流星のロックマン
・デジモンテイマーズ
・冒険遊記プラスターワールド
・魔法少女リリカルなのは
・リトルヒーローズオリジナル

上記の作品の中にお気に召すものがありましたら、是非とも読んでみてください。



[24668] プロローグ
Name: swoin◆b526f14f ID:a394d714
Date: 2010/12/01 23:26
「それ」はとある山奥の森の中に住んでいた。自分がいつ生まれたかも忘れた存在であり、何故存在しているかすらも分かっていない。ただ、長い時を呆然と過ごしてきただけだった。今だってそうである。人気もなく、聞こえてくるのは風邪で揺れる木々の音や虫の鳴き声だけであり、彼の隣りや付近にはだれもいない。今までだってそうだったし、これからだってそうなるものだと思っていた。このすぐ後までは・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・んごぁっ!?」
 突然背後から飛んできた固い物体によって、彼は止まっていた木の枝からたたき落とされた。普段の彼なら難なくよけられる一撃であったが、人気の無さと呆然と時を過ごしていたための油断からか、避けそこなってしまったのだ。
「よし!命中だっ!!」
「『命中だっ!!』じゃねぇ!!テメーの仕業かぁーーーーーっ!!?」
 物体が飛んできた方向から幼い声が聞こえてきた。彼がすぐに怒り心頭の頭で振り返ると、そこにいたのはこげ茶色の髪の毛を生やした幼い少年がガッツポーズをとっていた。が、彼が突然自分に向かって話しかけた途端に目を丸くし、唖然と彼を凝視していた。それもそのはずだ。なぜなら、彼は「人間ではない」のだから。
「!?『鳥』が喋った!!」
「ぁあっ?俺が喋っちゃいけないってのか、この糞ガキ」
 そうやって睨みを利かせる彼。今まで自分に害意を向けるものはそうやって追い払ってきた。化け物と呼んで恐れ退く者は放っておき、退治しようと向かってくるものは返り討ちにしてきた。たまに『神様』の類のような扱いを受けて優遇された時期もあったりしたのは今となっては懐かしい思い出である。
 今度の相手は人間の子供、自分を化け物と思い込んでさっさとどっかに去ってもらえれば越したことはない。彼に弱い者いじめの趣味はない。自分は肉食だが、ここ最近の人間の肉は固くて不味くて喰う気になれない。自分につぶてをぶつけてきたことには少々頭に来るが、かといって自分より格下の相手をする気は毛頭ない。だから、さっさと怯えさせて帰らせるのが最も手っ取り早いと考えていたからだ。
 しかし、この後の少年の反応は彼の予想の正反対の結果となってしまう。
「スッゲー!?カッケーーーー!!」
「か、カッコいい・・・・・・?」
 少年の目には彼はとても魅力的に映ったようで、あっという間に懐かれてしまったのである。彼は少年の反応に唖然としつつも褒められたという事実にちょっとだけ、機嫌が良くなっていた。
「僕、『ジュンイチ』!鳥さん、君の名前は!?」
「・・・・・・俺か、俺は『・・・・・・』だ」
 そして、この日を境に『彼』と『少年』との間に奇妙な関係が出来上がっていったのだった・・・・・・。






 そして、20年以上の歳月が流れた。






 舞台は、青い星『地球』。人類は宇宙への進出を目指して進化し、その技術は急速なまでの成長を続けていた。電波管理用人工衛星『ペガサス』・『レオ』・『ドラゴン』の完成による電波技術の発達、電波を利用した無線機器普及によるデジタルネットワークの拡大、急激ともいえる技術進歩も人々にとっては当たり前の様に受け入れられていた。日本の宇宙開発公団・通称『NAXA(ナクサ)』は地球外知的生命体とのコンタクトを目指し、宇宙ステーション『きずな』を打ち上げた。地球人類の夢で逢った地球外生命との交流・・・・・・。
 しかし、人類の夢を乗せた『きずな』は原因不明の事故に遭遇。消息不明に陥ってしまう。必死の捜索にもかかわらず、その行方は分からないままに終わった・・・・・・。
 それから三年・・・・・・。
 日本国内において、正体不明の怪物が出るという噂が立ち始める。だが、それもうわさの域を出ないまま語り継がれ、決して事実として広まることは“まだ”なかった。
 何より、人類はそんなものよりも別に大きな問題を抱えていた。電波技術の発展は、謎の電波公害『電波ウィルス』による混乱が出始め、電波技術を用いた人間の生活圏を侵食し始めた。
 人類も黙っているつもりなどなかった。電波ウィルスに対抗するための警察機構、『サテラポリス』を結成。電波ウィルスに対する対抗技術を開発し、事態の収拾に乗り出していった。

 そんな社会情勢の中でも子供達は学び、遊び、ときには悩みながら成長している。
 ある子供は自分に出来ることを模索しながら勉学に励み、ある子供は友達とカードゲームで対戦したり、ある子供は心の中の虚無感に浸りながらやりたいことや居場所を見つけられずにいた。

 こんな子供たちだからこそ、運命の悪戯が起こったのかもしれない。

 宇宙のかなたから地球に向かってやってくる『来訪者』。

 次元や空間の境を越えてやってくる『干渉者』。

 高度に技術が発展したことで生まれた新たな『生命体』。

 その中で星の様に数多に輝く小さな『友情と愛情』。

 これは、混乱の歯車の中で生まれた小さな『英雄』達が、大人ですら手に負えなかった『事件』を乗り越える、壮大な一年間を描いた物語である。









[24668] 第一話『都に舞う荒鷲、その名はウィングル!』
Name: swoin◆b526f14f ID:a394d714
Date: 2010/12/02 00:39
第一話
  『都に舞う荒鷲、その名はウィングル!』




「・・・・・・そっちの方はしっかり結んだ?」
「大丈夫、大丈夫!刃物でも持ってこなきゃ外れないようにしといた」
 青色の長い髪をたらした少女の指示に従って、茶髪頭の少年が住宅街の一角に立つ電柱に市販のロープを結び付けていた。作業をしている少年の顔には余裕があるのか、はたまた何か楽しいのか笑みに染まっていた。実際、作業の手際は鮮やかなもので、分厚いハーフフィンガーグローブをはめた手にもかかわらず、素手で作業をするかのようなスムーズな手さばきである。
 そんな少年を傍目に見ている少女のスカートのポケットから軽快なメロディが流れ出す。少女はすぐにポケットから携帯端末『ウェーブスキャナー』を取り出して、モニター通話モードへと切り替える。
「もしも~し?」
『・・・・・・俺だ』
 端末の画面には黒髪の頭部分が白く染まった男性の姿が映る。一見老人に見えたが、よく見てみると顔つきや声色は若々しく、歳もこの場にいる少年少女と大差ないようである。
『怪しい原付に後をつけられてる。おそらくターゲットで間違いない』
「どんな顔かわかる?」
『駄目だな、フルフェイスヘルメットで完全に隠れてる。丁寧にゴーグルはマジックミラー仕様だ』
「そう・・・・・・それじゃ、プランBのシナリオ通りに行くわよ。予定のルートに進むように誘導して」
『わかった』
 そう言って通信は切られ、少女の付近で作業をしていた少年は別の角にある電柱に先ほどと同じように別のロープを結んでいた。
「よっし!こっちも準備完了!!」
「それじゃ、あたし達はあいつを信じて待ちましょうか」
 少年と少女はお互いにうなずき合うと先ほど少年が結んだ二本のロープの端をそれぞれ持ち、それぞれに結んだ電柱の反対側の角へと隠れる。ついでに少年がロープを目立たせないように地面のアスファルトと同系色の砂でカモフラージュするという徹底ぶりを添えて。
 それからしばらくして再び少女のウェーブスキャナーに通信が入った。
『ターゲットが仕掛けてきた!俺からバッグを奪ってそっちに向ったぞ!!』
「・・・・・・来るわよ!!」
「おうっ!!」
 次第に近づいてくる原付のエンジン音。それはどんどん大きくなり、もうすぐ彼らが隠れている四つ角を通り過ぎようとしていた。
「・・・・・・・・・・・・今だっ!!」
「そぉれぇ!!」
 二人は思いっきりロープを引っ張り、四つ角の入り口で大人の腰ぐらいの高さのロープが二本張られる。二人はロープが張った状態ですぐに隠れていた電柱にロープを絡めた状態で思いっきりしがみつく。
「うわぁああああぁぁぁぁぁっ!?」
 原付に乗っていた人物はとっさの出来事に判断が間に合わず、二本の張られたロープに体を取られ、乗っていた原付から引き離される形で転倒した。
「確保ぉおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
「ラジャー!!」
 原付に乗っていた人物が転倒の苦痛で悶絶している隙に、二人はすぐにロープの端をもってその人物のところへと走り寄り、動きを封じるようにその人物の体に巻きつけていく。
「腕の動きを封じた!!」
「こっちは足を縛り終えたわ!」
「な!?このガキ、何しやがる!!」
 その人物が動けるようになったころには、既に手足が二本のロープでぐるぐる巻きにされていた。文句を吐き捨てるその人物を少女が見下ろしつつ、その人物が持っていたバッグを拾い上げる。
「それはこっちの台詞よ、このひったくり魔!この町に住むいたいけな老人から物をブン盗って何様のつもりよ!」
「けど、今日が年貢の納め時みたいだねぇ。お兄さん♪」
 釣り上った眉毛で少女が怒りを込めながら睨みつけ、少年の方は満面の笑顔で、原付に乗っていた人物ことひったくり魔の男に語りかけた。
 実はここ最近、この町でひったくり魔による被害が連続しており、犯人は原付を乗りまわして、足腰の弱そうな老人ばかりを狙って犯行に及んでいたのである。二日で被害は6件にも上り、警察もすぐに動きだそうと構えていたところだった。
 ところが、それより先にこの事件に対し行動を起こした連中がいた。それが先ほどやり取りを交わしていた少年少女達である。
「グ・・・・・・!」
「さてと、後はこいつを警察に引き渡すだけね」
「乗ってた原付も警察が捜索してる奴と照合できるだろうから、まず言い逃れはできないだろうし」
「もうそろそろ囮役も合流するだろうから、さっさとお巡りさんを呼んで引き取ってもらいましょう」
 二人はそう言いながら犯人を引き渡すための準備を始めていた。そのため、二人は気付くことができなかった。ひったくり魔がポケットから取り出した物の存在に。
「・・・・・・!?ショウキ、後ろっ!!」
「ん?」
 少女がそれに気づき、少年が背後を振り向いた時にはひったくり魔はロープの束縛から解放されており、手にはそのロープを切るのに使われたであろう折り畳み式のポケットナイフが刃を光らせた状態で握られていた。
「うらぁっ!!」
 少年に向かってひったくり魔のナイフが振り下ろされる。少年は間一髪のところで横へと避け、ひったくり魔と距離をとる。
「あ、あっぶなぁ・・・・・・」
 もう少し反応が遅れてしまっていた時のことを考え、少年は冷や汗を流す。そんな少年を尻目に、ひったくり魔は今度は少年ではなく少女の方へと視線を向ける。
「あ、あたし・・・・・・!?」
「このガキ!大人を怒らせたらどうなるか教えてやる!!」
 ひったくり魔は少女に向かって向かっていく。少女は逃げることもできず、持っていたバッグを盾に取るように立ち竦んでいた。
「ルミちゃん!!」
 少年が急いで少女のもとへと向かおうとするが、大人と子供とでは歩幅の違いから走る速度に差がありすぎる。どうやっても少年より先にひったくり魔の方が少女のもとへ先にたどりついてしまう。このままでは少女の身が危ない。
 あと少しでひったくり魔の凶器が少女のもとへと辿り着く時だった。突然、ひったくり魔にごつごつした大きな石が飛んできて、彼の被っていたヘルメットのゴーグルに直撃、ひったくり魔はよろめき、ゴーグルには大きな傷がついた。
 その隙を逃さず、少年はひったくり魔の胴へ向かって飛び蹴りを見舞い、少女から引き離した。
「・・・・・・待たせた!!」
「ノボル!!」
 石が飛んできた方向からやってきたのは先ほど少女が通信していた相手であり、黒髪の一部が白く染められている目つきの鋭い少年だった。
「だらしがないぞ、ショウキ。いつもへらへら笑って油断してるからだ」
「ひっどいなぁ。でも、ナイスタイミングだったよ」
 実は彼がこのひったくり魔をおびき寄せた囮役であり、髪の一部が白く染められているのも老人と思わせるための変装だったりする。獲物が罠にかかった後から駆け付けることになっていたので、駆け付けてみるとひったくり魔がナイフを持って二人に襲いかかっていたのを目撃し、近くに落ちていた石を拾い上げて思いっきり投げつけたのである。
 少女はすぐに黒髪の少年へ、罠のロープと一緒に用意していた木刀を拾い上げて投げ渡す。
「たたみ掛けるぞ、ショウキ!!」
「よしきた!!」
「糞ガキどもが!!ぶち殺してやる!!」
 向かってくる二人の少年に対し、ひったくり魔はナイフを構えて迎え撃つ。体格からいえば大人であるひったくり魔の方が圧倒的に有利に見える。何より彼の手には凶器が握られている。自分より非力な子供がたかだが二人、勝負になるはずがない。彼はそう思っていた。だが、それは二人が本当に『非力な子供』だったらの話だった。
「はぁっ!!」
「ぐぁっ!?」
 黒髪の少年は持っていた木刀を巧みに使い、ひったくり魔のナイフが握られている方の手を狙って小手打ちを喰らわす。グローブ越しといっても、流石に勢いよく振られた木刀による小手はひったくり魔に相当の苦痛を与え、彼は握っていたナイフを落としてしまう。
「・・・・・・獲ったぁ!!」
 その直後、黒髪の少年の背後から茶髪の少年が勢いよく前に現れ、ひったくり魔へ向かって右足を振り上げる。
「ウゴォッ!?」
 茶髪の少年の右足爪先はひったくり魔の股間を見事に直撃し、ひったくり魔は再び悶絶して股間を抑えながら姿勢が前かがみの状態になる。
「ノボル!!」
「トドメだ!!」
 茶髪の少年がひったくり魔の背後をとって後頭部へ向かって右かかとを振り下ろし、黒髪の少年が正面から木刀を胴へと向かって振る。
「ガハァッ!?」
 茶髪の少年のかかと落としがひったくり魔の被っているヘルメットでは隠しきれなかった首筋へ、黒髪の少年の木刀による一閃が胴へ決まり、ひったくり魔は完全に意識を刈り取られて無力化された。



 あの後、少女が呼んだ警察官達によってひったくり魔は逮捕され、犯人逮捕の立役者たる少年少女三人は事件の参考人として警察署についていくことになった。そして・・・・・・。
「バッッッッカモォオオオオオオオォォォォォォォンッ!!!」
 警察署の一室から建物を揺らしかねないほどの大声が響いてきた。声の主である年配の女性は鬼の形相をしており、少年少女三人は何とも言えない表情で直立不動のまま動けずにいた。特に少年たちの頭部には大きなタンコブが出来上がっていた。
「手前ぇらは毎度毎度何を考えてんだ!スーパーの万引き常習犯を見つけて通報してくれたことを機に、落書き魔、満員バスの痴漢ときて、今度は住宅街の連続ひったくり魔だと!?手前ぇら探偵ごっこでもしているつもりか、ぇえっ!?」
 年配の女性はそう言って少年少女三人に対して説教をしている。それもそうだろう。本来ならば、年端もいかない子供たちが凶器を持ったひったくり魔に対して向かって行ったり、ましてや捕まえようとするなど危険極まりない行為である。それを咎めるこの女性の行いは大人として極めて正しいと言える。
 さて、そろそろ登場人物をこの少年あの少女と表記することにも疲れたので、この少年少女、および彼らに説教をしている女性の簡単な紹介をさせていただこう。
 まず、茶髪の少年の名は『友枝(トモエダ) 翔己(ショウキ)』。安土桃山小学校の6年生で、茶髪以外の特徴としては分厚いハーフフィンガーグローブと赤色の袖なしジャケットを白いTシャツの上から着こんでることだろうか。あと、いつも何を考えているのか常に笑顔を絶やさず、かといってその笑顔にはさわやかさは微塵もなく、気が抜けるような楽天的な笑顔をしている。
 続いて、青髪のロングストレートの少女は『橋渡(ハシワタリ) 留美(ルミ)』。同じく安土桃山小6年生、揉み上げから垂れ下っている部分の髪の毛は白い布で束ねている。大人しくしていれば『可愛い』の部類に入りそうな顔つきの娘だが、如何せん、それが帳消しになる程の気の強さと行動力を持っている。
 続いて、先ほど老人に化けていた黒髪の少年は『流川(ナガレカワ) 昇(ノボル)』。二人と同じ小学校の6年生、ボサボサした黒髪の首筋後ろ部分をヘアバンドで止めている。鋭い目つきをしており、口をへの字に曲げた無愛想な顔つきのために近寄りがたい雰囲気がある。
 最後に彼らに説教をしているこの年配の女性は・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・ぁあっ!?誰が年配だ!!」
 ・・・・・・・・・・・・失礼、この麗しい女性は『羽田(はねだ) 飛鳥(あすか)』。紫色のショートヘアーと左口もとのホクロが特徴的なまさに大人の女性だ。そして、警察署刑事課課長という割と偉い席に座っている人でもある。
 各自の紹介が済んだところで現在彼らの状況をまとめると、この少年少女たちことショウキ、ルミ、ノボルの三名は今回のようなお尋ね者を自分達だけで捕まえたのはこの限りではないらしく、過去にもスーパーの万引き犯、満員バスの痴漢をことごとく捕らえては警察に突き出していた。しかし、今回の相手は『相手はナイフを持ち歩いているような危険人物だったのに、警察こと大人たちに無断で事を起こして出しゃばったのはけしからん!!』と警察のお偉いさんであるアスカから直々にお説教を喰らっているわけだ。しかも取調室で。
「まったく、怪我がなかったからよかったようなものの、最悪の事態になったらどうする気だ!?」
「ま、まぁまぁアスカさん。『終わり良ければ全て良し』って言うじゃない?その最悪の事態にならなかったんだからそう怒らなくても・・・・・・」
 仕事のストレスでも溜まっているのか、頭をかきむしりながらイライラを募らせるアスカをなんとかなだめようとショウキが言葉を掛ける。
「・・・・・・っざけてんじゃねぞ、話を聞けば作戦を練ったのは手前ぇだそうじゃねぇか?友達、危険に巻き込んで楽しいか、コラッ」
「あれぇ、僕が主犯格扱い!?」
 そう言ってアスカはショウキの頭を鷲掴みにして睨みつける。
「アスカさん、違うの!今度のをやろうって言ったのはあたしなんです・・・・・・!」
 流石にショウキに矛先が集中するのが忍びなかったのか、ルミは自分が推して進めたことを正直に話す。
「誰が“言いだしっぺ”なんて知った事か!!特にショウキとノボル、手前ぇら何で殴られたかわかってんだろうな?」
 アスカにそう言われて二人は深く考え込んだ。ちなみに、ルミはまだ殴られていない。
「う~ん・・・・・・?」
「やっぱり、男だからか?」
「違うわっ!!手前ぇらが犯人ボコりすぎたせいで、今、奴は“牢屋”じゃなくて“病院”に送られてんだ!!」
 大の大人でも、強烈な金的や後頭部への一撃、有効な防護服のない部分への木刀の一撃、特に原付で走行中の人間を、ロープを張って無理やり取り押さえたのは拙かったようで、
 彼らにしょっ引かれたひったくり犯は全身打撲に加え、あばらの骨にはひび割れ骨折を負う羽目になっていた。お陰で後日、「ガキは怖い、ガキは悪魔だ」と呟くようになり、主治医からカウンセリングの必要性もあると指摘されるようになるのは別の話である。罠の発動に手を貸したのにはルミも含まれてるい筈だが、最終的にひったくり犯を無力化するために手を挙げたのはショウキとノボルなので、ゲンコツは二人にだけ落ちたわけだ。というか、二人の放ったトドメが病院送りの主な原因らしい。
「まぁ、相手がナイフを取り出してきたから身を守るために仕方なくとはいえだな、やり過ぎにも程があるってんだよ、程が!」
 流石に相手に大怪我をさせてしまったという事実を知って反省したのか、三人は言葉をなくしてうつむいていた。
「ようやく解ったか?・・・・・・とりあえず、後始末はこっちの方でやっておいてやるから、今日はさっさと帰って頭を冷やして来い」
「「「は~い・・・・・・」」」
 三人は暗い影を背中に落としながら、ゆっくりと取調室から退室し、警察署のエントランスの方へと向かって行った。
 そんな三人を見送るようにアスカも出てくると、自の部下である刑事の一人が歩み寄ってきた。
「いいんですか、アスカさん。説教だけで済ませてしまうなんて・・・・・・」
「いいんだよ、あの手のは下手に抑え込もうとすると何をしでかすかわからん。それに・・・・・・」
「それに?」
 アスカは帰っていく三人の後ろ姿を見つめながらため息を漏らす。
「“鷲の子はほっといても鷲に育つ”みたいだしね・・・・・・半ば諦めてるよ」
「・・・・・・“ジュンイチさん”の忘れ形見ですか」
 部下の刑事とともにアスカは休憩室に入ると、彼女はポケットから煙草の箱を取り出して蓋を開けた。
「本当、親子二代であたしを苦労させてくれるよ」
 そう言って今度はライターを取り出して加えた煙草に火を付けた。
「ジュンイチさんが殉職してから、もう7年経つんですよね」
「まったく・・・・・・あの馬鹿、勝手に死にやがって。カミさんとセガレの面倒を最後まで見てからにしろってんだ。あの二人の泣き顔は、見てるこっちまで悲しくなってきやがったからな」
「でも、ショウキ君はだいぶ元気を取り戻してくれたみたいですね」
「・・・・・・お陰で父親の悪い部分までそっくりに育っちまった。まだ、あいつが生きて厄介事を持ってきてるような気がするわ」
 アスカは煙草の煙を口から一気に吐き出して、ソファーの背もたれに崩れ込む。
「本当にジュンイチさんの仕業かもしれませんよ。アスカさんに背後霊みたく付きまとってるかも」
「それ最悪・・・・・・お祓いに行こうかな」
 アスカは再び煙草を口へと運んだ。






 アスカに怒鳴られ、犯人を病院送りにし、今回は流石にやりすぎた感が否めない気持ちの三人は重い足取りで夕焼けの帰り道を歩いていた。
「はぁ、怒られちゃったわね・・・・・・」
「やっぱり、爪先で金的は拙かったかなぁ?」
「怪我を負わせてしまうとは、俺もまだ未熟か・・・・・・」
 それぞれがそう言って同時にため息を吐いた。
「でもさ、警察がぼやぼやしてるからあたしたちが先に動いたんじゃないの。それに犯人は逮捕できたんだから少しくらい感謝してくれてもいいじゃない!」
「向こうからしたら自分達の仕事を横からかっさらわれたんだ。あれが普通の反応だと思うぞ」
 ルミのぼやきにノボルがすかさずツッ込みを入れる。
「口の悪さと裏腹に仕事には妥協を許さないアスカさんだもの、自分の仕事を子供のお手伝いみたくされたら怒るって」
 そう言ってショウキが気の抜ける笑顔でアスカへのフォローを入れる。この三人の中で一番アスカとの付き合いが長いのは彼だからかもしれない。
「何よ、二人してアスカさんの方ばかり持って」
「・・・・・・だいたい、俺は今回ばかりは反対だったんだ。現に、橋渡も一瞬ヤバかったんだからな」
 確かにあと少し、ノボルが駆け付けるのが遅れればルミの身は危なかったかもしれない。
「じゃあ何で手伝ったりなんかしたのよ」
「お前らだけじゃ危なっかしい」
 あくまで手伝ったのはお前達を護るためだとあえて言い張るノボル。
「およ、男のツンデレ?」
「三枚に下ろすぞ、この能天気馬鹿」
「ば、馬鹿は無いんじゃない・・・・・・?」
 ショウキのニヤケ面の茶化しをノボルはバッサリと斬り捨てた。
 そして一息置き、ルミが笑いだし、ショウキが笑い出し、ノボルも釣られて口元をほころばせた。何で笑い出したのかなんてよく分からない。ただ、この三人で集まって何かすること自体が楽しいのだ。楽天家だがよく頭のまわるショウキ、大人びていて度胸の据わっているノボル、そして二人を引っ張っていく形で行動力のあるルミ。三人は奇妙な縁で出会い、性格が異なるにもかかわらずウマが合い、そして今回のような馬鹿をやっては怒られるという日常を過ごすようになっていた。
 いつまでこんな日が続くかどうかなんてわからない。いや、いつ終わるかなんてわからないから今こうして楽しんでいるのかもしれなかった。
「それじゃ、あたしこっちだから」
「ああ、気をつけてな」
「ばいば~い、ルミちゃん」
 途中、それぞれの帰り道に進むために三人は分かれた。今日が終わっても、また明日には三人共学校で会うことになる。それが当たり前の日常なのだ。



 とある公団住宅の一部屋がショウキの家である。ショウキはあの後まっすぐ家に帰った。今日は馬鹿やって消費した分のエネルギーを補給するために胃袋が夕食を欲していたからだ。
「たっだいま~♪」
 軽快な足取りで玄関を開けるショウキ。だが、玄関の奥から聞こえてくるはずの声が聞こえない。ショウキは不審に思い、恐る恐る中へと入っていく。そして、リビングに入ったところでやっと人影があった。それも目元が釣り上った迫力ある形相で。
「あ・・・・・・た、ただいま~、母さん・・・・・・」
「ショウキ、ちょっとそこに座りなさい」
 そう言ってショウキの母『友枝(トモエダ) 遥(ハルカ)』は自分の眼前を指差す。
「は、はいぃ!!」
 ショウキは慌ててハルカの言われたとおりに言うことを聞く。母であるハルカはショウキにとって絶対に頭の上がらない人物の一人であり、決して逆らえない存在なのである。ショウキが座ると同時にハルカもすぐ目の前に座る。いわゆるお説教の体制である。
「・・・・・・さっき、アスカさんから連絡があって、今日、貴方がやらかしたことの一連を聞きました」
「ま、マジ・・・・・・?」
「大マジです」
 そう言ってハルカが自分のウェーブスキャナーを掲げたとたんに全身から大量の汗が流れ始めるショウキ。
「何度言ったらわかるの!まだ11歳の貴方に警察の真似事なんて早すぎる以前の問題よ!!もし怪我じゃ済まないことになったらどうするつもりなの!?だいたい貴方は・・・・・・!!」
「ひ~ん・・・・・・!」
 警察署だけでなく、家でもこってり絞られたショウキだった。



 あの後説教も一段落つき、とりあえず風呂に入って夕食をとったショウキはすっかり眠気に取りつかれて布団の中で眠っていた。
 ハルカはその寝顔を寝室の外から確認すると、ゆっくりと戸を閉めてリビングへと向かう。そして棚に添えてある仏壇の前に腰をおろした。仏壇には線香が添えられており、その奥には一人の青年の写真が飾られていた。
「まったく、今日はとことん心配をかけたくせに夜になると呑気に眠っちゃうんだから」
 そう言って仏壇にある写真を手に取る。
「本当に、貴方そっくりに育っちゃったわ」
 そこに映っているのはショウキの父にして今亡き彼女の最愛の夫が、生きていた時の写真だった。
「あの子、まだ貴方の背中を追っかけてるのかしら。刑事の妻をやって来て、いずれはこんなことになることぐらい覚悟してきたつもりだったけど・・・・・・貴方が逝ってから七年経ってもまだ振り切れてないのかもしれないわ」
 そう、七年だ。愛する夫が事件の捜査中に殉職し、自分達のもとを去ってからそれだけの月日が流れた。自分は悲しみに染まり、息子は敬愛する目標を失って自暴自棄になった。彼が死んだという事実を受け入れきれずに壊れていったのだ。
「でも、あれから少しはマシになったと思うの。ショウキったら、素敵な友達が二人もできたみたいでね、すっかり明るくなったの。私も、頑張ろうって気持ちになれた」
 いろいろあったが、今はもう大丈夫。遥はそう写真に語りかけると元の場所に戻し、腰を上げた。
「・・・・・・明日もパートの仕事があるから、私ももう寝るわね。お休みなさい、ジュンイチさん」
 ハルカはそう言ってリビングの電気を消し、自分の寝室へと入って行った。



 友枝家が親子で寝静まった頃、月明かりを背景に何かが空を舞い、やがてそれは友枝家の部屋のベランダにゆっくりと降り立った。翼をたたみ、カーテンの隙間からじっと中を覗いている。
 それは額に宝石のような輝きを持ち、狙った獲物をしっかりととらえるための鋭い瞳を持っている。その人と身をさらに細めて部屋の中で眠っているショウキを凝視していた。
「そろそろ、頃合いか・・・・・・あれだけ大きくなれば、まず折れることはないだろうしな」
 まるで品定めをするかのようにショウキのことを観察する。
「・・・・・・お前を死なせた野郎への復讐にお前の息子を利用することになるが、こいつは絶対に死なせない。許してくれとは言わない、けど、俺とこいつとでケリくらいはつけさせてくれよ」
 その瞳は怒りと決意に染まっていた。だから時を待った。彼の子が成長してある程度のたくましさを身につけるのを、自分の力に耐えうる“器”にふさわしくなるのを。
「後はきっかけがほしいところだが・・・・・・」
 彼は夜空を見上げ、ふいに口元を笑みでひきつらせた。
「な~んか、大きなことが起こりそうな気がしてならないんだよな」
 それは、自分の中にある野生の本能からくる胸騒ぎなのだろうか、近いうちに自分の身の周りに危険が降りかかるという危険信号が彼の背筋から発せられていた。
 それは逆にいえばチャンスでもあった。彼がこの少年と接触し“契約”する際のきっかけになり、この少年を彼が望むように大きく成長させることができるからだ。
「まぁ、何はともあれ時が迫ってきたってことだ。俺を失望させるなよ、トモエダ ショウキ・・・・・・!」
 その言葉を残すと、彼は再び夜の空へと羽ばたいていった。






 次の日、ショウキ達の通う安土桃山小学校の放課後。ショウキ、ルミ、ノボルの三人はそろって職員室に呼び出されていた。昨日の一件は学校の方にも伝わっていたみたいで、生徒指導という名の説教の呼び出しである。
 職員室で三人のクラス担任である女性教師『江ノ島(エノシマ) 桜子(サクラコ)』が例の三人に対して説教をしていた。
「いい?貴方達は小学生、まだまだ子供なのよ!こんな危険な真似をして何かあってからじゃ遅いのよ!!」
(う~・・・・・・長いなぁ、サクラコ先生のお説教)
 これはルミの心の中。
(怒ってばかりだから彼氏が出来ないんだろうねぇ)
 これはショウキ。
(仕事にしか若さを費やせない女はこうなるのか)
 これはノボル。
「こらあんた達!ちゃんと聴いてるの!?」
「「「は、はいっ!」」」
「度の過ぎた警察ごっこなんて以ての外!次にこんなことをしたら、注意程度じゃすみませんからね!!」
「「「は~い・・・・・・」」」
 長らく続いた説教もやっと終わり、三人はとぼとぼと職員室から出て行った。サクラコはそれを確認すると椅子の背もたれに身を預け、ため息をついた。
「・・・・・・またあの三人ですか、行動力があるというか、少々やんちゃすぎるというか」
 桜子の机とは向かい側の机に座っていた男性教師が苦笑いを浮かべながら語りかけてきた。どうやら学校の教師たちの間でもあの三人は悪い意味で有名なようだ。
「本当です、見てるこっちが冷や冷やしますわ」
「でもあの子達が犯人を捕まえたことを知ってか否か、例の地域の老人会の方々からうちの小学校あてに感謝状が届いたじゃないですか。結果はどうあれ、あの子達の善意の部分くらいは汲んであげては?」
「そんなことをしたらますます調子に乗ります。あの子達は今回の一件をとことん反省するべきなんです!」
「そうなんですか・・・・・・?」
「そうなんです!!それでまた同じことをやらかして、あの子達が大ケガでも負ったらどうするんですか!私は嫌ですよ、自分の受け持つクラスの子がそんなことになるなんて!!」
 彼らの担任を務めてその性格をよく理解しているのか、サクラコの口調はやけに強かった。



「も~~~~~~っ!!アスカさんと言い、お父さんと言い、サクラコ先生と言い!皆私達を怒ってばかり!!そりゃ、少しはやり過ぎたって思う節もあるけど、何から何まで否定することないじゃない!!」
「まぁまぁ、落ちつきなよルミちゃん。『短気は損気』、せっかくの美人が台無し台無し♪」
 流石に何から何までの説教尽くしに我慢の限界が来て吠えたルミを、ショウキは相変わらずの笑顔でなだめる。どうやらルミも家で父親から雷を貰ったようで、今朝からかなり機嫌が悪かった。
「何言ってんのよ、ショウキ!人の善意を真っ向から否定されてあんた悔しくないの!?」
「ん~・・・・・・まぁ、ちょっとは褒めてくれたっていいじゃないって思うことはあるけどさぁ・・・・・・」
「そうでしょそうでしょ!なのに周りは皆私達を悪者扱いよ、理不尽にも程があるわ!!」
「だが、相手にもそれなりの怪我を負わせてしまったのは事実だ。こっちは正当防衛だと言っても、無傷の人間の主張と重傷の人間の主張とじゃ耳を傾けてくる割合なんて後者の方が多いに決まっている」
「な!?ノボル、あんたどっちの味方よ!!」
「俺は自分の未熟さを反省しているんだ」
「お~お~、イイ子ちゃんだことで」
 頭に血が上っている留美に対しきわめて冷静に自重しようとするノボル。まったく正反対の状態の二人がいるせいでその場の空気が悪くなりかけたのを知り、ショウキは持ち前の能天気な笑顔で二人の間に割って入る。
「まぁまぁ、二人とも。それ以上僕らがそのことで言いあっても不毛な努力だよ。それに別に先生達に褒められなくったっていいじゃん♪」
「え?」
「は?」
 突然、予想外のことを口走るショウキに二人の眼は天になった。
「少なくとも、もうあの街にはもう例のひったくり魔は出なくなるんだし。あそこに住んでるおじいちゃんおばあちゃん達はきっと安心して暮らせるようになったよ。僕達のしたことは絶対に無駄じゃないんだからさ・・・・・・ね?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
 ショウキが言ったことに対して二人は少し考える。確かに、自分達はあそこに住む老人方を救うために今回の計画を実行したのだ。その目的が達成されたのなら、それで満足してもいいのではないか。周りの大人たちはその計画にともなった危険についてあれこれ言ってくるだけで、大本の目的にたいしては咎めてきていない。
 だが、逆に考えれば周りの大人たちが自分達のその功績をもみ消そうとしているとも思え、怒りがわいてきた。
「どうかしら、そこに住んでるご老人方も他の大人達と同様、私達のことを攻め立てることしかしないと思うな。あたし」
「同感だ。それに、“俺達が捕まえた”だなんてそうそう信じてくれるとは思えん」
「あ、あれぇ?」
 周りの大人が咎めてばかりいたので二人はショウキの言葉を受け入れることはできなかった。ショウキはますます機嫌の悪くなった二人に唖然としていた。自分、結構いいこと言ったはずだよね?世の中うまくいかないという現実を、少年はまた一つ味わった瞬間だった。
「ああ、もうヤダ!今日はもうさっさと帰って宿題してお風呂入ってご飯食べて寝る!!」
「俺もさっさと買い物済ませて帰るか」
 そう言ってルミとノボルはショウキを置いてその場を去っていく。
「え、ちょ・・・・・・待ってよ、二人とも!!」
 ショウキは慌てて二人の後を追った。



 気まずい空気の中、三人は下校し、夕焼けの帰り道を歩いていた。主にその空気の発生源はルミとノボルとの間にあり、ショウキは圧迫された空間の中に放り込まれた気がしていた。こんな空気の中にあっては、流石のショウキの気持ちも沈んでくる。
(はぁ・・・・・・ルミちゃんの言う通り、大人達はみんな僕達のやったことは全面的に悪いって感じてるのかなぁ)
 ショウキはそう思い、自分の行いに自信が持てなくなってきた。何より、今回の計画で犯人を捕らえるために使った作戦はショウキが考えたものだった。大人より力の劣る子供である自分達が、原付を乗り回す犯人を確実に捕まえるために練った二重構えの作戦だ。最初のロープの罠で縄縛りにできればそれでよし。それが失敗しても転倒して動きの鈍っているところをショウキと後から合流したノボルとで仕留める。
 結果として作戦はうまくいった。犯人もお縄につくこととなった。でも、周りの大人達は犯人逮捕の称賛は与えず、自分達の行いがすべて間違っていると言うように説教ばかりだ。しかも叩かれているのは自分の練った作戦のことも含まれている。自分は何のためにこの作戦を練ったのだろう、誰のためにこんな危険を冒したのだろう。自分達を責めてばかりの大人たちの姿に、ショウキの心の中に虚しさが広がっていった。
「・・・・・・じゃ、俺スーパーによるから」
「そう、じゃあね」
「また明日なぁ、ノボル」
 ショウキがそうやって笑顔で手を振るが、ノボルはそっけなく背を向けるとさっさとスーパーの方角へと歩いて行った。その態度にショウキの笑顔は乾いたものとなり、呆然としているショウキをよそにルミもとっくに自分の帰り道についていた。
「あ!待ってよ、ルミちゃん!」
 自分もルミと途中まで帰り道が同じなので急いで後を追う。



 一緒に歩いてはいるが、会話がなかった。ショウキにとってはこの空気は苦痛以外の何物でもなかったが、今のルミには何を言っても無駄だということを理解していた。とにもかくにも感情的な少女がルミだ。今回のひったくり魔捕獲のみならず、過去に捕まえてきた悪党を自分達で捕まえようと言いだしたのは彼女だった。最初は乗り気でなかったショウキやノボルも最終的にルミの熱意と行動力に負ける形となってそれに協力した。それなりに友人として付き合いが長ければその性格も大体理解できる。だが、今度ばかりは完璧に意固地になってしまっている。こうなってしまっては、彼女の気が収まるまで待つしかないのだ。
「・・・・・・?なんだろ、あれ?」
「・・・・・・どしたの、ルミちゃん?」
 不意にルミが何かを見つけて声をかけてきたので、ショウキは釣られてルミの視線を追う。
 そこは裕福そうな家庭の一軒家の塀から地味な作業着を着た二人組の男たちが出てくるところだった。何処かの業者にしては行動がそわそわしているし、塀の上で作業をしているわけでもないのに上るなんて不自然すぎる。そこから導き出される答えはただ一つだった。
「ど、泥棒っ!?」
 驚いたルミがつい大声で叫んでしまう。
「あ、兄貴!?見つかっちまった!」
「慌てんじゃねぇ、たかがガキだろう」
 だが、泥棒たちにとって不運が続いてしまう。彼らが塀から降りると同時に忍び込んでいた一軒家から突然警報が鳴りだしてしまった。
「ちぃ!おい、ちゃんと防犯装置は無力化しとけって言っといただろうが!!」
「全部なんて無理っすよ!!早くしないと警察がここに駆けつけてきちまいますぜ!?」
「クソッ・・・・・・こうなったら!」
 突然、男達はショウキ達の方を振り向いた。この男達が自分達に何かしようとしていると気付いたショウキはすぐさまルミの前に出て、自身を盾とするように立ちはだかった。
 そんなことなどお構いなしに男達は二人に向かって飛びかかり、取り押さえようとする。最初はショウキが必死に抵抗したが、流石にひったくり魔の時とは異なり、自分一人に対して大人二人相手では為すすべもなかった。
「きゃあ!?やめてよ!!」
「やめろ!ルミちゃんに手を出すな!!」
「ぐあっ!!」
 ショウキが最後の抵抗とばかりにルミを取り押さえようとする男の背中に蹴りを見舞う。
「このガキ!!」
「がっ・・・・・・は!?」
 もう片方の男がショウキの胸倉を掴むと顔面を拳で殴りつけてきた。頬が潰れ、焼けつくような痛みとともにショウキは地面を転げ回り、口内には血の味が広がった。
「何グズグズしてやがる!人質はそっちの小娘だけで十分だ、さっさとずらかるぞ!!」
「う、ウッスッ!!」
「やっ放して!助けて、ショウキ!!」
 男達は近くに用意していた逃走用の黒いワゴン車にルミを連れて乗り込むと、あっという間に車を走らせて去ってしまった。
「グ・・・・・・ルミちゃん・・・・・・!」
 ショウキは痛みをこらえながら立ち上がるが、車の姿はもうそこにはなかった。



 助けられなかった、手が届く所にいたのに。ショウキは自分の無力さを嘆いた。スーパーの万引き犯を捕まえたのが何だ、ひったくり魔を捕まえられたのが何だ。犯人を捕まえたことで僕らに救われた人はきっといる?馬鹿馬鹿しい、自分のすぐ隣にいる人も救えないでいるただの自惚れ屋じゃないか。
「クソッ!!」
 悔しさと自分のふがいなさをこめて拳を犯人がよじ登ってきた塀へと打ちつけた。けれど、こんなことをしたって状況が変わるわけでもない。ショウキはすぐに助けを呼ぶべく誰か大人がいないか見渡した。だが、今この場には人気は感じられない。急いで他の場所へと移動しようとした時だった。
「・・・・・・へぇ、親父に似て随分と厄介事に好かれてるじゃねぇか」
「・・・・・・・・・・・・え?」
 突然、誰かに声をかけられる。記憶にない声に、ショウキはあたりを見渡した。だが、誰もいない。しかし、声は確かに自分に向けられたものだった。
「何処見てんだ、こっちだよ」
 再びかけられた声は自分の“真上”の方角から届いていた。夕焼けの空をを背景に“何か”が自分に向かって飛来してきている。そのシルエットはまさに『鳥』だった。しかもただの鳥ではない。小鳥などもとより、普段、町の空を飛び交うカラスよりも大きな翼を広げた『鳥』だ。
 いや、それ以前に“それ”が近づいてくるにつれて、その鳥が“普通の鳥”ではなことが嫌というほどわかった。その姿にショウキは今の状況すら忘れ、見惚れていた。
 金色の羽が織り込まれた蒼い翼と尾、鎧をまとっているかのような光沢をもつ胸、風を切るかのようにする左右後方に鋭く延びた金色の米髪、そして、鋭く輝くエメラルド色の瞳と額の宝石。ショウキの下に舞い降りてきたのは、空の支配者としての威風漂う、『蒼い大鷲』だった。
 『蒼い大鷲』はショウキの目の前に降り立つとそのエメラルド色の瞳でショウキの顔をじっと見てきた。
「あ・・・・・・蒼い、鳥?」
「言っとくが、俺はお前に幸せを運んでやるつもりなんて毛頭ないぜ」
 『青い鳥』は幸せの象徴であると誰かが言っていた。だが、ショウキにも目の前の鳥はそれとは違うとはっきりと感じられた。相手を威圧せんばかりの鋭い瞳からくる戦慄は、目の前の存在が誰かを『狩る』ためのものであることを強調させる。彼は天使のような『祝福』ではない、死神の如き『脅威』であると。
 何より驚いたのは、『鳥』が喋っていることだ。インコやオウムが人語を真似ることはあってもそんなに流暢に話せるわけではない。だが、目の前の『蒼い大鷲』は人の言葉を使ってしっかりと人間であるショウキとコミュニケーションをとってきた。ショウキはまたしばらくの間、呆然としてしまった。
「お前がショウキだな。ジュンイチの息子の」
「!?父さんを知ってるの!?」
「まぁ、あいつがガキだったころからの付き合いだからな」
 驚くショウキを余所に『蒼い大鷲』は話を続けてくる。今度は彼の口から自分の父親の名前が出てきて、さらに幼いころからの知り合いだという。ショウキの頭はもはやパンク寸前だ。
「・・・・・・それよりいいのか?お前のダチ、攫われたまんまだけど」
「!!そうだった!!」
 彼に指摘されてルミの一大事出会ったことを思い出し、すぐに付近の大人に助けを求めようと駆け出そうとする。
「どうする気だ?」
「近くの大人を探してこのことを伝えるんだよ!」
 それを聞いた途端、彼はその鋭い瞳を呆れさせた。
「おいおい、随分と気の抜ける解決方法だな?」
「気が抜けるも何もないだろ、ルミちゃんを助けるためなんだ」
「それでその後、全てを大人に任せてお前はじっとしてんのか?」
 彼がそう言った途端、ショウキは悔しさで歯を食いしばった。それは、己の無力さを指摘されているのと同じだったからだ。
「だって仕方がないじゃないか!相手は車を使ってるんだ、子供の足で追いつけるわけじゃないし、何処に向かったのかも検討もつかない。仮にあいつらのところに追いつけたとしても、非力な子供の力じゃあいつらとぶつかっても勝てやしない。だったら、僕に出来ることなんてないじゃないか!!」
 ショウキは自分の悔しさを吐きだすように彼にぶつけた。ショウキだって悔しいのだ、自分だけでは何もできないことが。為す術も無い歯痒さが。
「俺が訊きたいのは『出来る、出来ない』の問題じゃねぇ。お前自身に、あいつを『助ける』意志があるのかってことだ」
 何故そんなわかりきったことを訊くのか、ショウキには理解できなかった。そんなもの、初めから決まっている。
「あるに決まってる!今すぐにでもルミちゃんを助けに行ける術があるなら、どんなリスクだって関係ない!その方法を迷わずに選択するよ!!」
 ショウキのその我武者羅混じりの決意の言葉に口元を笑みでひきつらせる『蒼い大鷲』。それは、まるでその言葉を望んでいたかのようだった。
「なら話は簡単だ、ここに『その術』がある」
「・・・・・・・・・・・・え?」
 ショウキは彼の言葉に頭に上っていた血が抜けていく感覚を覚えた。本当に、そんな方法があるというのか。
「ただし、それなりに『危険』と隣り合わせの世界に身を投じることになるぜ。場合によっちゃ死ぬかもしれない。一度入ったら絶対に抜け出せないぞ・・・・・・覚悟はあるんだろうな?」
 『危険』と隣り合わせの世界、ショウキは一瞬だけ身をこわばらせた。大きなことを彼の前で言ったが、ショウキだってまだ11歳の少年だ。恐怖心はある。だから、そこから先に踏み出すことに対して一瞬、ためらった。
 でも、一瞬だけだった。冷静になった頭で考えてみれば、今危険なのは誰か。自分ではない、さらわれたルミの方だ。自分にとってかけがえのない友達であり、決して失いたくない人。父親が自分の前からいなくなったときの悲しみが脳裏をよぎる。今度は、ルミがそうなるかもしれない。そんな恐怖からか、『蒼い大鷲』が口にした言葉への戸惑いを拭い去っていた。



 ならば、迷う必要などない。



「・・・・・・・・・・・・あるっ!!」
 それは力強く、ゆるぎない決意に満ちた一言だった。それを感じ取った『蒼い大鷲』は翼を大きく広げる。
「我が名は“大鷲”のアーマロイド、名を『ウィン』!人間、お前の名を名乗り、その身と共に我に預けよ!!」
「え・・・・・・・・・・・・」
「さっさと自分の名前を言え!!」
「!えっと・・・・・・僕はショウキ、友枝 翔己だ!」
「トモエダ ショウキ・・・・・・確かに名前を預かった!『契約』だ!!」
 『蒼い大鷲』こと『ウィン』がそう叫ぶと額の宝石が輝きだし、その光は一筋の閃光となってショウキの額を捕らえる。それは、まるで二人を繋げるための糸のようだった。いや、まさにその通りだった。この瞬間に二人の間に『契約』が結ばれ、運命共同体となる合図だった。



≪トランス・イークイップ!!≫



 ウィンの体がエメラルド色に輝きだし、やがて光となってショウキの体に向かっていく。光はやがてショウキの体をくまなく包み込み、より大きな物となっていく。両腕両足の光が膨張すると、やがて光が消え、そこにはウィンの体のメインカラーとなる『蒼』とサブカラーである『白』を基本とした装甲が現れる。胸も同様に膨張とともに消えた光の中から彼の胸元と同じ形状の鎧が現れる。背後には彼の持っていた両翼と尾羽が大型化された状態となって光の中から現れる。そして、首上の光の中からはウィンの頭部を模した兜を身に付けたショウキの頭が現れ、顔には銀色のフェイスガートが施される。最後に兜となったウィンの瞳とショウキの瞳が輝きとともに覗かせ、その巨大な翼を力強く広げた。

 輝きが消えた中から現れた先に、ショウキとウィンの姿はなかった。いや、二人とも消えたわけではない。『契約』を結び、“一つの存在”へと変化を遂げたのだ。
「!・・・・・・こ、これは!?」
 ショウキは言葉を失っていた。いつの間にか自分の格好が変化したことに。近くにあったカーブミラーで今の自分の姿を見ると、まるでおとぎ話に出てくるような『鳥人』の姿だった。
 変化はそれだけではない、自分姿を確認するために使っているカーブミラーは近くにあると言っても自分の有視界にあると言うだけで、それなりに離れた位置にあるので目視で鏡に映っているものについては人間の眼では確認できないはずだった。だが、それがはっきりと望遠鏡を使ったかのようによく見えてしまうのである。つまり、視力が格段に向上していたのだ。
「ボサッとすんな、友達を助けにいくんだろ?」
 何処からともなくウィンの声が響いてきた。
「う、ウィン!?一体、何処に!?」
「何言ってやがる、お前の頭の上だ」
「え?」
 そう言われてショウキが自分の頭をなでると彼の兜に変化していたウィンが「やめい」と怒鳴ってきた。
「たった今、俺とお前は『契約』を結び、『合体』して今より上位の存在へと変化したんだ」
「『契約』・・・・・・『合体』・・・・・・?」
「そう・・・・・・これが契約を結んだ俺達の力、『トランス・イークイップ』だ!!」
「『トランス・イークイップ』・・・・・・!」
 そう言われ、ショウキの身には力がふいに溢れてきた。自分の体に鎧や大きな翼があるにもかかわらず、まるでそれを身に着ける以前よりもはるかに体が軽い。これはまさにウィンの言う通り、“上位の存在への変化”である。
「そんじゃ、さっさとお前の友達を助けにいくか!!」
「よし!!」
 合体した二人はその大きな翼で大空へと飛びあがり、あっという間に街の彼方の方まで一望できるまでの高度へと達した。
 そこまでくれば後は簡単だ、向上した持ち前の超視力でルミをさらった黒いワゴン車が今どこにいるのかを探し当てるのだ。
 その車は裏道から国道に入ろうという位置で見つけた。窓から車内もはっきりと目視でき、後部座席でルミをさらった男達の片方がルミの手足を縛っているところだった。
「見つけた!!」
 そして目標に向かって一気に急降下した。



一方の黒いワゴン車は国道をまるで何事もなかったかのように流れに沿って走っている。
「・・・・・・ったく、手間取らせやがって」
「~~~~~~~~~~っ!!」
 留美は猿轡まではめられ、まさに身動きの取れない状態にされてしまった。
「兄貴ぃ、これからどうします?」
「とりあえず、出来るだけ遠くへ行くんだ。んで、適当なところでこのガキ捨てて、他所の町に隠れてほとぼりが冷めるのを待つ」
「遠くってどれくらいっすか?」
「遠くは遠くだ!おめぇは黙って運転してればいいんだよ!!」
「へ、へい!!」
 兄貴分の男はそう言って運転席のシートを後ろから蹴りつける。運転している子分の方は恐縮したように身をすくめた。
「・・・・・・くそ、今日は厄日だぜ」
 いや、ルミを攫った時点で今日は彼らにとって厄日を超えて命日に近かったかもしれない。彼女にさえ手を出さなければ、『狩人』に目をつけられることがなかったはずだからだ。
 そして、『狩人』は『獲物』の視覚外から唐突に襲いかかる。突然、車体は大きく揺らめき、車に乗っていた面々は大きく振られた。
「おい、ちゃんと運転しろ!!」
「ち、違います兄貴・・・・・・俺じゃありません!!」
 運転していた子分はいち早く異変に気付いていた。理由も分からず車体が浮き上がり、今やビル5階分の高さにまで上昇していた。
「な、何じゃこりゃ!?」
 兄貴分の男もそれに気付き、驚きを隠せなかった。中古で買ったワゴン車が空を飛ぶわけがない。では何故浮かんでいるのか。兄貴分の男は窓から射す謎の影に気付き、窓のから車体の上を見上げた。
 そこにあったのは翼を広げて飛ぶ『蒼い鳥人』の姿であり、彼が自分達の乗っている車を掴んで持ち上げていた。
「な、なんだぁ!?」
 驚いている男達を余所に『蒼い鳥人』はそのまま車を人気のない河川敷までもっていくと車体を押さえつけるようにその場に置いた。再び衝撃で揺られる車体に大きく体を振り回される中の人間達。その隙を逃さないようにか、車体を運んだ張本人は瞬く間に運転席のドアを乱暴に引き剥がすと運転手である子分の男を車から引っ張り出した。
「うわぁあああぁぁぁっ!!あ、兄貴!助けてくれぇ!!」
 そんな助けを呼ぶ声も虚しく、子分の男はそのまま河川敷に流れる川の方に向かって放り投げられてしまう。彼の体は宙高くを舞いあがり、川の真ん中へ向かって落ちていき、水しぶきをあげて川の中へと消えていった。
 兄貴分の男は自分の子分がまるでゴミの様に放り投げられたことに唖然とする中、『蒼い鳥人』の鋭い瞳が自分の方を向いたことに恐怖を覚える。このままでは今度は自分がやられる。男は急いで車のドアを開けて降りると縛り上げたルミを引きずり出し、彼女を盾にとって身の安全を図ろうとする。
「く、来るなよ・・・・・・こいつがどうなってもいいのか!?」
 普通ならば人質を取られて不利だと思うだろう。だが、男の方は既に恐怖で逃げ腰の状態である。ましてや、男は人質を縛っている縄を掴んでいるだけの状態であり腕は首に回していない。そして、人質を傷つける凶器の類も持っていない。よって、『蒼い鳥人』からして見れば、脅しにもなっていなかった。
 彼は足に力を入れ、大地を蹴りあげると目にもとまらぬ速さで男に向かって飛んで行く。男とルミが突風を感じてから直後、彼は既に男の背後を取っていた。
「な!?」
 気付いた時には遅く、男は襟元を掴まれ、子分同様に川へと投げ捨てられていた。



 ルミは突然の出来事に頭が付いていかなかった。二人組の泥棒に捕らえられ、彼らの車に乗せられて手足の自由を奪われたところまでは覚えている。そこから、何度も車体が揺れ、気付けば町はずれの川の河川敷に停車しており、『蒼い鳥人』が身の凍るような殺気を放ち、泥棒達を瞬く間に川へと投げ捨てていた。
 今度は自分の番なのだろうか、ルミは恐怖に震えていた。逃げようにも手足は縛られており、逃げることはできない。もしこの状態で泥棒達の様に川へと投げ捨てられれば、自分は泳ぐこともできずに助からないだろう。ルミは、身の最期を感じていた。
 しかし、結果は予想を裏切るものとなった。先ほどまで殺気に満ちていた『蒼い鳥人』から殺気がうそのように消え去り、代わりにこちらの身を案ずるような優しい視線で見つめていた。彼はゆっくりとルミに歩み寄ると、彼女の口を縛っていた猿轡を優しく外した。
「・・・・・・あんた、誰なの?」
「僕は・・・・・・え~っと・・・・・・」
 彼は自分の名を名乗ろうとして不意に口を止めた。『契約』の際に、“自分は命の危険が伴う危険な世界に身を置いてしまった”ということを思い出し、彼女を巻き込むまいと自分の正体を明かすことを理性が拒んだのだ。
「何で、あたしを助けてくれたの?」
 ルミは何故彼が自分を助けてくれたのかが知りたかった。何のために突然現れて泥棒達を沈黙させ、自分を救ってくれたのかが。それくらいならば、彼にも答えることができた。
「そんなの・・・・・・助けたかったから、助けただけだよ」
 そんな単純すぎる答えに、ルミは目を丸くした。だからか、ルミは不意に笑い出した。
「あんたって、すっごいお人好しね」
 ルミは笑ってはいたが、その目には涙が流れていた。本当は悪漢達に捕まってとても怖かったのだ。それも、もう助からないんじゃないかと思うほどに。しかし、そんな彼女を救ったのは奇妙な姿をした『蒼い鳥人』。そして、彼が自分の問いに対して普通では恥ずかしいセリフを面向かって口にしたものだから、気が抜けて、可笑しくなって笑ってしまったのだ。
 そうしている間に彼はルミの手足を縛る縄もほどくと、じっと彼女の方を見詰めた。
「な、何よ・・・・・・?」
 そして突然、彼はルミに抱きついてきた。
「!!ちょっ!?」
 ルミは引き剥がそうとしたが、彼の口走った言葉がそれをやめさせた。
「・・・・・・よかった、君が無事で」
 彼にしてみれば彼女が無事で心底安心していた。自分にとって大切な人が無事であったことが嬉しかった。だから、それまでの不安を吐きだすように彼女に抱きついてしまったのだ。
 それは、優しい抱擁だった。抱いているものを放すまいと強く、かといって壊さないように加減のある、抱かれているものが安心を感じるものだった。そんな心地よい抱擁の中で、ルミは不意に頬を朱に染めた。
 ルミは突然現れて、こんなに自分のことを想ってくれる人に記憶がなかった。背丈からして自分と代替同世代だろう。だからだろうか、彼のことをもっと知りたいと思ったのは。
「あんた、名前は?」
「僕は・・・・・・」
 彼は再び戸惑った。自分の名を教えて正体を明かすわけにはいかない。かといって雰囲気から名乗らないわけにもいかない。彼、ショウキは手ごろな偽名はないかと頭を回転させる。
(ウィン・・・・・・翼・・・・・・ウィング・・・・・・鷲・・・・・・イーグル・・・・・・ウィングイーグル・・・・・・)
 そうやって考えた末に、ショウキはとっさに考え付いた名前を口にした。
「僕は・・・・・・『ウィングル』!!」
「ウィン・・・・・・グル・・・・・・」
 ルミは呟くようにその名を言い、ショウキとウィンのトランス・イーックイップした姿、『ウィングル』は大きく頷いた。



 あの後、ウィングルは泥棒達を縄で河川敷の橋の柱に縛りつけると、ルミを抱えて安土桃山小学校の校門前へと降り立っていた。そのまま家に送り届けては、何故自分の家の場所を知っているのか不審がられる恐れがあったからだ。
「ここで、いいかな?」
「・・・・・・うん、ここでいい」
 うつむいて返事をするルミの姿に心臓の高鳴りを覚えるウィングルは、つい彼女との視線をそらしてしまう。
(お~お~、ガキが青春しやがって)
(茶化さないでよ)
 ウィンの冷やかしに対してひそひそと文句を返すショウキ。
「それじゃ、僕はこれで・・・・・・」
「あ・・・・・・待って!」
 飛び立とうとするウィングルをルミが引き止めた。
 ウィングルは何事かと思い、ルミの方を振り向く。
 そして、ルミは一呼吸置いた後、屈託のない笑顔で彼にこう言った。
「助けてくれて、ありがとう」
 ショウキは呆然としていた。今まで彼女からそれなりにお礼を言われたことは結構あった。だが、そのどれもが馴れ馴れしい友人関係からくる対等なものが精々だ。しかし、ここまで上目遣いの笑顔で言われたことは、ショウキにとって初めてのことだった。
「・・・・・・それじゃ」
 それは照れ隠しなのか、ウィングルは急いでいるかのように飛び去った。『蒼い鳥人』の姿はあっという間に夕空の彼方へと溶けていき、見えなくなっていく。そんな彼の姿を、ルミは見惚れるように見続けていた。
「・・・・・・蒼い鳥人、ウィングル・・・・・・」
 そんなとき、ルミは何かを忘れているような気がしていた。何かこう、さらわれる前に何かあったような。
 それを思い出させるように、自分のウェーブスキャナーのメロディが鳴りだす。発信者はショウキだった。
「あ・・・・・・忘れてた」
 ルミが通信を繋げると、慌てた顔のショウキがモニターに映った。
『ルミちゃん!大丈夫!?今、何処にいるの!?』
「ちょっと、今頃になって通話してきてんの?」
『えと・・・・・・だって、僕も慌ててたから・・・・・・』
 そうやって視線をそらすショウキに頼りなさを感じながらも、ルミはどこか憎めなかった。ルミは安心させるように笑みを返す。
「大丈夫よ、いろいろあって泥棒達から解放されたから。それよりあんたも大丈夫?思いっきり殴られてたみたいだけど」
『僕は大丈夫、鍛え方が違うから!』
 そうやって腕を振り回して見せるショウキの仕草に、不意に可笑しさが込み上げてきた。
「後、泥棒達は河川敷にいるの。そう言う訳だから、あんたの伝手でアスカさんに連絡して頂戴ね」
『うへ、昨日怒られたばっかなのに?』
「だから、あんたに任せるの。よろしくね~」
『ちょ・・・・・・ルミちゃぁんっ!!』
 そう言ってルミは通信を切ると、その場で夕方から夜へと変わりつつある街の空を見上げていた。






 ルミとの通信を終えたショウキは、街を一望できるほどの高いビルの屋上にいた。溜め息をついたのち、星の輝きだした空を見上げる。
「友達を欺くのも楽じゃないな」
「だから茶化さないでよ、ウィン」
 ショウキは真剣な顔つきで、隣で同じように星空を眺めるウィンの方へ視線を向ける。
「・・・・・・ウィン、僕はもう君の言う“危険の伴う世界”に足を踏み入れたんだよね」
「ああ・・・・・・どうした、今頃になって怖気づいたか?」
「ちょっぴり・・・・・・」
 苦笑いでそう返すが、実際には胸の中では不安でいっぱいだった。今まで人生の中で経験した中で、危険が伴うと言っても子供でも分かる常識の範囲だった。だが、ウィンという常識外れの存在が言う“危険の伴う世界”は自分の想像をはるかに超えるものであろうことは、ショウキの頭の回転の早さで予想の出来ることだった。
 ウィンと合体した時に発揮できたあの力、自分で使うからこそその大きさがよくわかり、まだまだ強い力を振るえることに戦慄を覚えた。あんな力を必要とする世界、自分はやっていけるのだろうか。ショウキの心に不安が広がった。
「でも、何とかなるでしょ♪」
 だが、すぐに開き直った。ウジウジ悩んでもしょうがない。気持ちを切り替えて、問題にぶつかったらその時に打開策を考えていけばいいのだ。ショウキは今までそうしてきたし、そんな生き方を変えるつもりもなかった。
「ところでさ、ウィンって父さんの古い知合いなんだよね?」
「ああ、それがどうした?」
「父さんって、どんな人だった?」
「・・・・・・いつもへらへら笑ってるクセに、決める時は決める奴だったよ」
 お前みたいにな、とウィンは内心思いつつもそれは言葉に出さなかった。
「そっか・・・・・・」
 ショウキは笑みをこぼしながら再び空を見上げた。そんなショウキに、今度はウィンが視線を向けた。
「まぁ、何だ。これからはよろしく頼むぜ、“相棒”」
「ん・・・・・・程々に頼むよ♪」
 ショウキは、何時もの気が抜けるような笑顔で答えた。



 その日の夜、ショウキは夜遅くに帰ってきたということで、またハルカの雷を貰ってしまうのは別の話である。ちなみに、窓の外からその様子をうかがっていたウィンの話によれば、ますます幼いころのジュンイチに瓜二つだったとか。



 同刻、別の場所では二つの“星”が地上に向かって落ちてきていた。
 一つは『盛蕎麦(もりそば)市』へ、もう一つは『コダマタウン』へと・・・・・・。





 次の日、ショウキとルミはいつもと変わらぬ朝を迎え、朝の通学路を歩いていた。
「・・・・・・よぉ」
「あ、ノボル。おっはよ~♪」
「あら、あんた目元にクマができてるわね。またシェディさんの悪酔いに振り回されたの?」
 シェディとはノボルが居候しているマンションの部屋の家主の女性である。何故、男子小学生が女性の部屋に居候しているのかについてはまたの機会に説明させてもらいたい。ここでは、このことは大して関係がないからだ。
「まったく、昨晩は最悪だった」
「まぁ、あたしも昨日は最悪だったんだけどね」
「?何かあったのか?」
「べっつにぃ。その後、いいこともあったし」
 ルミの言葉に怪訝な顔をするノボルに対し、ことの一から十まで知るショウキは相変わらずの笑顔だった。
「もし、あんた達が三丁目で大暴れしたって言う安土桃山小学校の子達かね?」
 突然、自分達にかけられた声に三人は振り向いた。そこにいたの腰を曲げて佇む白髪頭の老夫婦だった。
「おっしゃる通り、あたし達は安土桃山小の生徒ですけど。何かご用でしょうか?」
「まぁ、この前三丁目で馬鹿やったのは確かだが・・・・・・」
 三丁目といえば、この前ひったくり魔が出没し、ショウキ達が捕まえようとして罠を張った地域である。ルミとノボルが受け答えすると、お爺さんの方は「そうかそうか」と頷いてお婆さんの方を見る。お婆さんは笑顔でショウキ達のもとへ歩み寄ると、手に持っていた紙袋の中身を出してショウキ達に手渡した。
 それは、子供のお小遣いじゃ到底買うことが出来ないであろう高給菓子の箱だった。それもショウキ達の人数に合わせてか、三箱もあった。
「あの・・・・・・これは?」
 突然手渡されたお菓子の箱に、甘い物好きなショウキはよだれを流しつつも、何故こんなものを渡してくれるのか疑問に思った。
「いやぁね、私達はあの地域に住んでる者なんですけどね。ひったくり魔が出たせいで安心して暮らせなくて困ってたんですよ。そう言う私も被害にあった一人でねぇ」
「そんなときにあんた達がそいつを捕まえてくれたそうじゃないか、お陰であそこに住んでるわしら年寄りはまた安心して暮らせるようになったんだ。老人会を代表して改めて礼を言わせてくれ」
 三人は呆然とした。ひったくり魔の件については、大人は今まで自分達を咎めることしかしなかったからだ。しかし、この老夫婦は自分達のとった行動に心から感謝し、わざわざお礼の品まで用意してくれたのだ。
「でも、まだ貴方達は子供なんですから、あんまり無茶をしてはいけませんよ」
「そうだぞ、お前さん達が大怪我でもしたら元も子もないからな」
 ショウキ達はその老人たちの注意を心から訊く気になれた。自分達の善意の部分を尊重しつつ、ちゃんと自分達のことを想って言ってくれていることだと理解できたからだ。
「「「はいっ!!」」」
 三人は笑顔でうなずくと、そろってそのお菓子を受け取った。
「それじゃ、いこうか婆さんや。この子達の登校の邪魔をしちゃいかん」
「そうですね、爺さんや。三人とも、車にひかれないよう気をつけてね」
 そう言って去っていく老夫婦の背中を見詰めつつ、ショウキ達は貰った菓子箱に目をやる。
「・・・・・・あんたの言う通りだったわね、きっと感謝している人はいるって」
「でしょ?(本当に感謝してくれてる人がいたんだ、『瓢箪(ひょうたん)から駒』とはこのことだなぁ)」
 大人不信になりかけていたルミとノボルにとって、老夫婦の感謝の言葉と品物は彼らの心を洗い流すのには十分だった。そんな二人に、自分自身が半信半疑になりかけていたことが本当だったことに驚きつつ、ショウキは勝ち誇ったような笑顔を見せる。
「だが、俺はもうあんな危険なことはこれっきりにしたいな」
「・・・・・・それは僕も同感」
「ちょっと、それはまたあたしが同じことをしようと言いだすってこと?」
「うん」
 ショウキが頷く。
「違うのか?」
 ノボルが怪訝そうな顔をする。
「あんた達ねぇ・・・・・・!」
 怒ったルミが菓子箱を脇に抱え、肩に下げていたカバンを振り回してショウキとノボルに迫っていった。二人は慌てて逃げ出し、朝の登校風景はあっという間に鬼ごっこに転じていた。
「こらぁ!待ちなさ~い!!」
「そんなものを振り回されたら無理!!」
「とりあえず落ち着け、橋渡!!」
「問答無用ぅ~~~っ!!」



「やれやれ、朝っぱらから元気な連中だ」
 ウィンは、とあるビルの屋上の手すりにとまりながら、元気に走り回る三人の姿を見ていた。
 自分達の行いが本当に正しいことならば、それに感謝してくれる人は必ずいる。彼らは、それを学んだことだろう。
 そしてショウキは、自分の小ささを改めて感じ、そんな自分に力を貸してくれたウィンに心から感謝していた。
 そんな彼らの心境の彼らを見下ろしつつ、ウィンは何処からかビーフジャーキーの袋を取り出すと翼の羽を指のように器用に使ってそれを口に運んでいた。
「まぁ・・・・・・まずは第一段階完了だ。後は、死なないようにいかに鍛えるかだな」
 そう言ってウィンはまたビーフジャーキーにかじり付いた。






 そう、すべては始まったばかりであった・・・・・・。






 次回予告

ショウキ「おっどろいたな~、僕がまさか変身しちゃうなんてさ」
ウィン「驚くのはまだ早いぜ。これからお前はまだまだ強くなれるんだ。やろうと思えば、今回暴れた以上のことだっていくらでもできる」
ショウキ「マジで!?あれ以上のことが、僕に出来ちゃうの!?」
ウィン「そういうこった。まぁ、それができるようになるためにはしっかりと特訓をして・・・・・・」
ショウキ「え~、メンドイ」
ウィン「・・・・・・って、しょっぱなからサボタージュかよ!?」
ショウキ「次回、リトルヒーローズ・・・・・・」

第二話
『宇宙から来た光、気合の戦士あげだマン!』

ウィン「お前も少しは気合を出せ!」
ショウキ「あ、ビーフジャーキーあるけど?」
ウィン「特訓なんて後だ!肉ぅ~~~~~っ!!」






ショウキ、今日のことわざ

・『終わり良ければ全て良し』
 それまでの過程に問題があっても結果が良ければ問題ないこと

・『短気は損気』
 怒ってばかりではいいことなんてないこと

・『瓢箪から駒』
 思いがけないところから意外なものが出ること



今日のヒーロー!

『ウィングル』
登場作品:リトルヒーローズオリジナル
攻撃技:アームショット、フェザースラッシュ
必殺技:ストライクキック、オーバーブラスト
備考:
 ショウキとウィンが契約、トランス・イークイップした姿。『大鷲』の特徴である大空での力強さを受け継いでおり、飛行能力では空中で踏ん張る力が強い。そのため、自分よりも体格の大きいものを軽々と空へと運んだり、バランスを崩されても持ち直すのが容易だったりする。
 ウィンと合体することで得られる戦闘能力と、ショウキが元から持つ悪知恵を発揮するための頭の回転力で、いかなる敵にも対処できるヒーロー。



キャラクター紹介1

『友枝(トモエダ) 翔己(ショウキ)』
登場作品:リトルヒーローズオリジナル
性別:男
年齢:12
特技:テコンドー
イメージヴォイス:平田宏美(ゾイドジェネシス:ルージ・ファミロン, THE IDOLM@STER:菊地真)
備考:
 常に明るく、何事も笑って済ませる楽天家な少年。
 一見軽薄そうなお調子者に見られがちだが、あらゆる状況に柔軟に対応できる頭の回転力を持ち、時折、歳不相応な行動力と度胸、義理堅さを見せる。極度の甘党であり、甘菓子が差し出されれば子供らしく喜び、逆に辛口な食べ物が出ればとても駄々をこねる。


『ウィン』
登場作品:リトルヒーローズオリジナル
性別:♂
年齢:5000以降は数えていない
特技:毒見
イメージヴォイス:皆川純子(テニスの王子様:越前リョーマ, 魔法先生ネギま!:雪広さやか)
備考:
 友枝家に(秘密かつ勝手に)居候している『大鷲』のアーマロイド。
 肉類が大好物であり、差し出されれば有無を言わず噛り付く。鶏肉に至っても、共食いと言われれば『俺は猛禽類だから問題ない』とのこと。濃度100倍の青酸カリすら分解する不死身の胃袋の持ち主。
 昔、女絡みでトラウマがあるらしく、『女』という生き物を毛嫌いしている節がある。


『橋渡(ハシワタリ) 留美(ルミ)』
登場作品:リトルヒーローズオリジナル
性別:女
年齢:12
特技:裁縫
イメージヴォイス:宍戸留美(おジャ魔女どれみ:瀬川おんぷ, Xeanosaga THE ANIMATION:M.O.M.O.)
備考:
 翔己の幼馴染の少女。
 正義感が強く、誰かのために進んで行動できる性格の持ち主。ただし、自分一人ですべて出来る訳でない事をわきまえており、決まってショウキやノボルを巻き込む。
 主義主張をしっかりと持っており、気に食わないことがあれば大人相手でも突っかかる。
 気の強いところが目立つが、裁縫が得意だったりと女の子らしい一面を持つ。


 以上!




[24668] 第二話『宇宙から来た光、気合の戦士あげだマン!』
Name: swoin◆b526f14f ID:a394d714
Date: 2010/12/01 23:52
 盛蕎麦(もりそば)市、日本が世界に誇る大財閥の一角である、『九鬼(くき)家』がその屋敷を構える街である。九鬼家は主に株と土地の値上がりを見通した取引の売買で、現当主である『九鬼雷蔵(クキ ライゾウ)』が一代にしてアメリカのロックフェラーをも凌ぐ財を生した家である。
 しかし、その株価の見通しの方法が普通ではなかった。雷蔵は16世紀末に存在した自らの偉大な先祖である『ノットリダマス一世』が残した大預言書を頼りにその変動を見通したのである。普通では正気の沙汰とも思えない方法だが、株価変動を記した『成り上がりの章』の預言はぴたりと当たり、結果として今の九鬼家は財を生し、世界中に己のビルを持つまで成長したのである。
 そして、拠点である盛蕎麦市では九鬼家の屋敷は地元の観光名所となり、役所も警察も彼らの言いなり同然となっていた。何故なら・・・・・・。
「「ワシが金をばらまいておるからじゃ」・・・・・・お爺様、そんなに毎日毎日自慢ばかりを聞かされては耳に“イカ”が出来てしまいますわ」
 九鬼邸の食卓から“暗視スコープの様なメガネ”をつけた老人で九鬼家の当主である雷蔵に対し、彼と対面する位置に座る、緑の混じった青色髪の少女がつまらなそうに口にした。因みに、すぐに隣に控えていた三人の御付きの一人が「お嬢様、“イカ”ではなく“タコ”でございます」と指摘するが、「お黙り、佐藤!」と突っぱねられた。
 彼女の名は『九鬼麗(クキ レイ)』。雷蔵が溺愛する孫娘であり、大人しくしていればかなりの器量よしの美少女なのだが、幼いころから贅沢で好き放題な生活をさせすぎたのか非常に高飛車で我が儘な娘に育ってしまった。祖父の権力を好き勝手に使い、学校では祖父が理事を務めていることいいことに自分の我儘を通し放題な有り様だ。
「レイ、どうしてそんなにトンガっておるんじゃ?」
 孫娘が妙に不機嫌なことに怪訝そうな顔をする雷蔵。それを見越したように高台へ移動していた御付きの一人で肉付きの良い大柄な『田中』が彼女の立ち位置にスポットライトを当て、御付きの一人で中肉中背な『佐藤』が哀愁を漂わせる音楽を手に抱えたプレーヤーで流し始める。
「あぁ、お金持ちが何だって言うの!?パパはお仕事、ママは毎晩接待のパーティでもう二か月も一緒に夕食を食べていない!あぁ、私はなんて不幸な娘なのかしら!私はお金が無くったっていいの、家族四人が笑いながらその日の出来事を語り合える、そんな温かな家庭がほしいの・・・・・・!!」
 見ていて痛々しいほどの過剰な演技で迫るレイの姿に、雷蔵は笑顔で拍手を送りながら食卓の椅子に着いた。
「要するに誰にも構ってもらえずにいて退屈なんじゃな?」
「まあ、そういうことですわ」
 さっきの哀愁漂う演出は何だったのか、それを突っ込んだらこの先負けである。九鬼家における当主と孫娘のやり取りでは珍しいことではないからだ。
「ねぇ、お爺様。何か面白いことないの?」
「そう言うだろうと思って、とっておきのプレゼントを用意してある」
 雷蔵は自分の席に備え付けられたスイッチを押すと、近くに歩み寄ってきたレイ共々食卓の床の下の下へとリフトで運ばれる。
 そして、九鬼邸の地下室へと到着し、そこでレイは見たこともないものを目にした。
「何ですの、あのヘンテコな機械と服は?」
 そこにあったは巨大な容器のような形をした機械と、妙に水着の様な上半身にミニスカートという露出度の高い派手な衣装であった。
「『成り上がりの章』に続く『野望の章』の始まりにこうある・・・・・・」
 そう言って雷蔵は自分の目の前にある『ノットリダマス一世』の大予言書を開いた。
「“世界の大王と成るべき者、いくつかの種を合わせ悪の獣を創るべし。怨夜巫女(オンヨミコ)、その獣に乗り道を切り開かん”・・・・・・という詩があってな。ワシがそれを解読して作ったのが、『怪獣合成マシーン』と、お前の『バトルスーツ』だ」
「・・・・・・お前の、ということは?」
「そう、お前はこのワシ『ノットリダマス十一世』の野望である“世界征服”のためにこのバトルスーツで戦う女戦士『怨夜巫女』となるのじゃ!」
「面白そう・・・・・・気に入ったわ、お爺様!」
 雷蔵の話を聞き、自分が女戦士となって暴れられることへの期待にレイは心躍らせる。
「早速、この合成魔シーンを使って怪獣を作って世界征服をしましょうよ!」
 レイがそう言った途端、雷蔵は難しい顔をする。
「・・・・・・そうしたいのは山々なんじゃが、『野望の章』の中に気になる詩があるんじゃ」
 雷蔵は再び大予言書を捲り、レイもそこに書かれていることへ目を移す。
「“偉大な格闘家、丸いリングを降りる年の四の月。野望を持つものへ災いをもたらす気合の光と蒼き流星、落ちる。大空にてそれらをまとめんとする知恵と気高さを兼ね備える者もまた然り。野望は幾えもの野望にのまれ、数多の戦士達入り乱れる混沌を極めん。汝、世界の大王を目指すなら、気合の光と蒼き流星、それを追うように目覚める戦士達、大きくならぬ前に消すべし”・・・・・・意味は分からんが、何か嫌な予感のする詩じゃろ?」
 雷蔵はそう読み上げ、大預言書を閉じた。レイは雷蔵の読み上げた預言の内容について考えていた。
「解りましたわ、お爺様!」
 レイはそう言うと、雷蔵の腰元を掴み豪快に横投げにする。
「いきなり何をするんじゃ、レイ!?」
「預言の内容よ、“偉大な格闘家、丸いリングを降りる”っていうのは“相撲の力士、千代ノ富士”の引退のことを言っているんじゃないかしら?」
「なるほど!千代ノ富士が引退したのは今年、ということは今年の四月、つまり今月に“気合の光”が落ちるわけか。流石はノットリダマスの血を引くワシの孫娘、レイじゃ!」
 雷蔵とレイが興奮する中、三人の御付きの一人で小柄な『鈴木』は「ちょっと考えればわかることだよな」と小言を漏らした。
「しかし、災いをもたらす“気合の光”と“蒼き流星”とは何じゃろう?」
「さぁね・・・・・・“数多の戦士達”っていうのも気になりますわ」
 そう言って二人が食卓に戻り、ベランダに足を運んだ時だった。
「・・・・・・な、何じゃあれは!?」
「お爺様、どうかなさいましたの?」
 雷蔵がふいに驚いた表情で空に目をやったので、レイも釣られてそちらに視線を向ける。
 そこにあったのは、輝かしいばかりの光を放って落ちていく二つの星だった。こちらを圧倒せんとする迫力の星は盛蕎麦市の何処かへと落ち、もう一つはその街の彼方へと消えていった。
「お爺様、まさか今のが“気合の光”と“蒼き流星”!?」
 雷蔵はただ、突然の出来事に呆然としていた。



 これが、ショウキとウィンが契約を結んだ日の夜に起こった出来事の一片である。






第二話
   『宇宙から来た光、気合の戦士あげだマン!』







 ノットリダマス十一世こと、九鬼雷蔵は今日も世界征服のために先祖の残した大予言書の解読に勤しんでいた。気合の光が盛蕎麦市に落ちてからというもの、怪獣合成マシーンで作り上げた怪物『合成獣(ゴウセイジュウ)』を使い、手始めにこの盛蕎麦市で世界征服の足場を固めようとあの手この手を行ってきた。しかし、それらはすべてあの忌々しい『気合の光』の戦士によって全て阻止されてしまったのだ。雷蔵はそれでも諦めずに解読を続け、より強力な合成獣を生み出そうと試行錯誤を重ねていた。
 もっとも、彼の世界征服がちっとも進まないのは別の理由もある訳だが。
「むほほ!レイよ、この予言を見なさい!」
「何ですの、お爺様?」
「“恐ろしき怪獣、蟹座の方向より来たる。脚を失いし人々前に進むことままならず、地に伏して王の登場を祈る”」
「・・・・・・・・・・・・それで?」
「この予言はな、怪獣が町の人々の“脚”を奪い、前に歩けなくなるって意味じゃ!」
 断じて違うと思います。その場にいた佐藤、田中、鈴木はそろえてそう思った。しかし、雷蔵がこのような無茶苦茶な解釈をすることなど、別に珍しいことではなかった。実際、これまでに彼がつくった合成獣はそんな無茶な解釈をもとにしている。
 一方のレイは、今日ばかりは雷蔵の世界征服にあまり乗り気ではなかった。九鬼財閥の令嬢としての自分に嫌気がさしていたのだ。街の人間達が自分をちやほやするのも自分が九鬼家の人間であるからだし、自分の両親が仕事で家に帰ってこないのも正にそれだからだ。祖父の世界征服に協力しているのも、世界を征服すれば両親も仕事から解放されて一緒に暮らせると思ったからだ。しかし、世界征服は一向に進展せず、ついには自分達の邪魔をする“ヒーロー”が登場する始末。レイは、半ば飽き飽きしていた。
「佐藤、田中、鈴木、早速合成マシーンの準備じゃ!」
 孫娘のそんな心境も知らず、雷蔵はさっそく自分が解読した内容通りに合成獣を作ろうとしていた。






「・・・・・・やっぱいいねぇ、土曜休みってさ♪」
 ショウキは朝っぱらからソファーで横になって趣味の推理小説を読みふけっていた。今日は土曜日。ゆとり教育制度のお陰で毎週土曜日は日曜と同じく休日となり、学生達は週に二日ある休日の一日目を満喫していた。
「学校に行かなくていい日、その日はこうやって読書が進むってものだよ」
「十歳前半の小僧が何言ってやがる」
 そう言ってショウキから小説を取り上げるクチバシがあった。彼と契約を結んだ『大鷲』のアーマロイドのウィンだった。彼はクチバシで取り上げた本を放り投げる様に吐き捨てるとショウキをにらみつける。
「こういう休みの日に体を動かさんでどうする!俺と契約を結んだ以上、そんな堕らけた生活はさせてやるつもりはねぇ!!」
「別にいいじゃないか。せっかくの休日、どう過ごそうと僕の勝手だろ?」
 ウィンが力んで説教してくるのを疎ましく思いつつ、ショウキはウィンから小説をとり返す。
「こんな暇な日にこそ特訓するべきだろうが!俺言ったよな、“俺と契約を結ぶと危険な世界に身を置くことになる”って、その覚悟は何処に行った!?」
「覚悟も何も実感がまだわかないんだよ。そりゃ、考えたこともない様な力が使えるようになったことには驚いたけどさ、『危ない橋を渡る』にしても、どんな“危険”がやってくるかなんて想像もつかないよ。実感も掴めないままあれこれやったってしょうがないじゃん」
「何言ってやがる!“危険”と言ったら“命の危険”に決まってんだろうが!力を持つってことはな、力を持ってない奴やそれが自分の思い通りにならない奴から見れば脅威以外の何物にも映らねぇ。決まってお前はいろんな奴から目の敵にされた揚句に袋叩きにされるぞ!俺達アーマロイドとの“契約”は“俺とお前のどっちかが死ぬ”まで解除されないんだ。今更自分には辛すぎます、無理ですなんてきかねぇんだぞ!?」
「わかってるって。まぁ、その時その時でなる様になれだよ」
 そう言って再び小説に目を通し始めるショウキにウィンは頭を抱えた。
 ショウキとウィンが契約を結んでから五日が過ぎ、あれから暇さえ見つかれば、ショウキがウィングルの能力を使いこなすための特訓に、ウィンが毎晩彼を引っ張ろうとする。ショウキにはその間に自分と合体した姿『ウィングル』の能力についての簡単な説明はしたのだが、如何せん、その能力を十二分に引き出すための特訓についてはショウキ自身が乗り気になってくれないのだ。まぁ、もともとが楽天的でマイペースな性格なのでこうなること自体はウィンも予想はできてはいた。だが、ここまで折り紙付きの面倒くさがりだったことは予想外だったのだ。
(あ~・・・・・・こりゃ、ジュンイチ以上に手ごわい性格かもしれんぞ)
 ウィンは何とかこの楽天家をやる気にさせようといろいろと考えてみる。だが、もともと考えることが苦手な彼の頭では良い案など浮かびもしなかった。
 そんな時、ウィンはふとリビングに近づいてくる気配に気づき、開いていたベランダの引き戸から部屋の外へと消えていく。そして、リビングにショウキの母、遥が入ってきてショウキの前へと歩み寄ってきた。
「ショウキ、せっかくの休日をなにだらしなく過ごしてるの!部屋でごろごろしてる暇があるなら勉強するか手伝いするかしなさい!」
「え~・・・・・・」
 掃除機を片手に持って迫ってきたハルカに、ショウキは不満の声を上げる。
「文句を言わない!ほら、リビングを掃除するから、退いた退いた!」
 そう言ってハルカはソファーに寝転んでいたショウキを廊下へとつまみ出し、リビングの掃除を始めた。掃除機の音を背に、ショウキはため息をつきながら自分の部屋に行くことにした。
 そんな時、友枝家の玄関から呼び出しベルが鳴った。
「ショウキ、手が空いてるなら出て頂戴!」
「は~い」
 ハルカに言われ、行き先を玄関へと変えるショウキ。そして、訪問者を出迎えるために玄関の戸をあけた。
「どちら様ですかぁ・・・・・・って」
 扉の先にいたのは、王立ちしたルミだった。
「どしたの、ルミちゃん?」
「ショウキ、今日は暇?」
 ルミにそう言われ、ショウキは少しだけ時がとまった。だが、すぐに時が動きだし喜ぶように対応した。
「・・・・・・何、デートのお誘い?もちろん暇です、ご一緒いたします!」
「なら、さっさと出かける支度をしなさい」
「イエス、マム!」
 ショウキはすぐに自分の部屋へと走って行き、ものの一分も立たずして外出の準備を済ませて戻ってきた。
「母さ~ん、ルミちゃんと出掛けてきまぁす!」
「夕方までには帰るのよ~」
 奥で掃除をしているハルカからの返事を待たずしてショウキは玄関を出て、待たせているルミのもとへと駆け寄った。
「おまたせ、ルミちゃん!でも、急に僕をデートに誘ってくれるなんてどういう風の吹きまわし?」
「はぁ?あんた何言ってんの?」
 ルミは呆れた顔つきでショウキの言葉を否定した。
「え、でもノボルと一緒じゃないよ?」
「あいつは今日、部屋の大掃除をするとかで、誘いを断られたわ」
 そう言ってルミはやれやれと肩をすくめる。対照的にショウキは自分の考えの甘さに泣きたくなった。つまり、デートのお誘いではなかったのである。
「じゃあ、僕を誘った理由って・・・・・・」
 ルミは、口元を笑みで釣り上げてある方向を指さした。
「さぁ、盛蕎麦市に行くわよ!」



 デートでなかったにしろ、ショウキにはルミの誘いを断る理由が特になかったので、二人はそのままモノレールで盛蕎麦市に向かっていた。
「何でもね、今、盛蕎麦市では“横歩き”をする人が続出してるらしいの」
「“横歩き”・・・・・・そう言えば今朝の新聞に載ってたね。でも、何でまたそんなものが気になったの?」
「だって、不自然だと思わない?横歩きなんて人間がやっても普通に生活する分じゃ不自由なだけだし、流行にしては妙にダサすぎるわ。だから、何でそんなことをするのか調べて原因を突き止めるの」
 ショウキはルミがまた無茶を言いだしたことに対して汗を流す。
「・・・・・・ルミちゃん、また『危険な橋を渡る』つもり?」
「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』、面白いことは待っててもやってこない!」
 ショウキはがっくりと首を落とした。ルミは面白そうと感じたことに対してはとことん首を突っ込む性格の少女である。そして性質の悪いことに、自分一人では何もできないと理解しているからか決まってショウキやノボルを巻き込んでくるのだ。彼女ひとりにしても結局は一人で実行してしまうので、ショウキとノボルも半ば諦めているのか彼女の誘いには素直に従い、どちらか一人以上が彼女について露払いをするようにしている。今回は、ショウキがそれを担うことになったのだ。
「まぁ、“面白いことは待っててもやってこない”って言うのには同意できるから、僕もできる限り協力するよ」
「当然よ、協力させるために連れてきたんだから」
 何か、身も蓋もなかった。がっくりとうなだれるショウキを余所に、ルミは窓の外に流れる街の風景に目を向けた。もうそろそろ、目的地の盛蕎麦市に入るところである。
 実は、ルミには横歩き例の現象以外にも調べようとしていることがあった。話題となっている盛蕎麦市では謎の怪物が出没するという怪現象が続発しており、それと時を同じくして怪物達を撃退し、街の人々を護る『ヒーロー』が現れたというのだ。そのヒーローの背丈は子供くらいだったという。ルミは、もしかしたら自分を助けてくれた“彼”のことかもしれないと思い、それを確かめるべく盛蕎麦市へと向かうことにしたのだ。蒼い翼の戦士『ウィングル』、ルミは彼の正体は何なのか知りたくて仕方がなかった。
(また・・・・・・会えるかな?)
 その本人が隣に座っているとも知らずにウィングルとの再会を望むルミ。そして、その願いは意外と早く叶えられることとなる。



 彼らを追うように上空ではウィンがモノレールを追跡している。そんなウィンの心境は非常に愉快極まりなかった。
(へぇ・・・・・・女に対して調子がいい癖に振り回されやすいのもそっくりか。親子二代そろって馬鹿っぷりは相変わらずだな)
 人の不幸は蜜の味、という言葉もあながち嘘ではない。特にそれが散々と自分を苦しめたりイラつかせてくれた相手ならなおさら気持ちがいい。人としてそれはどうかということなかれ。だって彼は“人”じゃないから。






 その頃、盛蕎麦市の町内を機嫌良く歩く一人の少年がいた。頭は黒髪のぼさぼさ、半そで短パンと如何にもわんぱく感あふれるこの少年の名は『源氏(ゲンジ)あげだま』。盛蕎麦小学校の四年生で、この町で好き勝手やっているじゃじゃ馬娘こと九鬼麗のクラスメートである。また、学校でやりたい放題の彼女に真っ向から張り合える数少ない生徒の一人でもある。
「“じっちゃん”って気前いいよな、急に小遣いくれるんだもんなぁ♪」
「ご機嫌だな、あげだま」
 そんなあげだまに、彼が“背負っている”相棒が語りかけてくる。そんな彼らの横を変な歩き方をした男の人が通って行った。
「ひえ~~~~、どうなってんだよぉ!」
 その歩き方とはまさに“横歩き”であり、別名「カニ歩き」そのものだった。
「最近、あんな歩き方が流行ってんだってな?」
「あげだま・・・・・・もしかしたら」
「!ノットリダマスの仕業かも!?」
 そう言って険しい顔をするあげだま。彼がそんな顔をするのは、彼の“秘密”よりくる使命感からだった。
「あげだまく~ん!」
 そんな彼に、可愛らしい声で話しかけてくる人がいた。あげだまがそちらを振り向いて見ると、彼の良く知る少女の姿があった。
「!いぶきちゃん!!」
 彼女の名は『平家いぶき』。あげだまと同じくらいの背丈で、長い茶髪をポニーテールで束ねている顔立ちの整った美少女である。さらに明るくて清潔感あふれる真面目な性格で、まさに正統派ヒロインと言ったところだ。実際、あげだまは彼女に一目惚れし、同じ年ごろの他の女子が視界に入らないほどメロメロなのである。
「ワープ郎(ワープロウ)、ノットリダマスなんて後あと!休日にいぶきちゃんと出会えるなんてラッキー!いぶきちゃ~ん♪」
 そんな具合に軽い足取りであげだまはいぶきのもとへと駆け寄った。一方の息吹はあげだまの格好に違和感を覚え、首をかしげる。
「あげだま君、変なものでも食べた?休日なのにランドセルなんか背負って・・・・・・」
 いぶきの感じた違和感、それはあげだまが学校でもない日にランドセルを背負っていることだった。もっとも、彼の背負っているランドセルは普通のランドセルではない訳だが、それをいぶきに知られるわけにはいかなかった。
「え・・・・・・あ、いや・・・・・・ちょっと図書館で勉強でもしようかなと!教科書とか持ち運ぶわけだし!」
「あら、奇遇ね。私もちょうど図書館へ行こうと思ってたの!」
「え、マジ!?だったら、一緒に行かない?」
「うん、一緒に行きましょう」
 いぶきがそう言った直後、いぶきの視線があるものへと移った。あげだまが怪訝そうな顔でその視線を追うと、そこには飲食店の窓際に飾られたきれいな花があった。
「きれいな花・・・・・・」
「いぶきちゃん、花が好きなんだ」
 好きな女の子が欲しがっているものをプレゼントできなければ男が廃る。幸い、彼にはそのための軍資金もすでに用意されていた。
「よ~し、俺がいぶきちゃんのために花をプレゼントするよ!花屋さん、何処にあるか知ってる?」
「!うん、知ってる!ありがとう、あげだま君!!」
 こうして、二人は仲好く花屋へと向かうことになった。



 そんな二人を双眼鏡越しに見て快く思わない人物が一人いた。九鬼邸のベランダから街を眺めていたレイである。
「何よあの二人、デレデレしちゃって!」
 レイはあの二人のことが気に食わなかった。
 いぶきはいつも綺麗事ばかりを並べ、まるで自分と正反対であるかのごとき存在だ。学校で常に一番でなければならないはずの自分に追いすがってくるかの如き人気と成績を自然と身につけている。はっきり言って、存在そのものが疎ましかった。
 あげだまは最近突然この町に現れて自分の周りをひっかきまわし、九鬼家の令嬢である自分に対し、傍若無人の如く無礼な振る舞いを取ってくる。はっきり言ってレイにとっては疫病神も同然だった。
 そんな二人が仲良く歩いている姿を見るだけで、背筋が痒くて仕方がなかった。
「どうにかして、あの二人をぎゃふんと言わせられないかしら・・・・・・」
 そんなときにレイの頭に浮かんできた案があった。現在、祖父が町で暴れさせている合成獣を使ってあいつらの“脚”を奪ってしまえば、もはや、普通に生活することなどできなるなるのではないか。“横歩き”という馬鹿げた歩き方のお陰で世間の笑いものにされるのは確実ではないか。
「ふふふ・・・・・・これですわ!」
 レイはさっそく実行に移すために準備を始めることにした。






 いぶきに案内されて、あげだまは花屋のあるとおりに向かっていた。本来なら好意を寄せるいぶきと二人揃って歩くのだから、あげだまとしてはデート同然で楽しいはずなのだが、そんな道中にも“横歩き”しかしない住民たちを度々目撃し、はっきり言ってムードも減ったくれもなかった。
「最近あんな歩き方の人たちばっかりね、何が楽しいのかしら?」
「本当だよなぁ、歩きにくいだけだと思うんだけど」
 会話の内容だってこんなのばかりである。正直、二人もこの話題に飽き飽きしていたのだが、忘れようと思うたびに遭遇するのだから嫌でも忘れることができなかった。
「・・・・・・あ!ちょっとそこの御二人さん、ちょっといいかな?」
「ルミちゃん、待ってよぉ!」
 そんな時、あげだまたちの背後から急に声がかかった。
 二人が振り返ってみると、自分達より年上であろう少年少女の二人が歩み寄ってきていた。セミロングな茶髪の少年と蒼いロングヘアーをなびかせた少女、盛蕎麦市にやってきたばかりのショウキとルミである。
「あの、私達に何か御用ですか?」
「うん。貴方達、見たところ他の人たちと違って普通の歩き方をしてるみたいだからちょっとお話を訊こうと思ってね」
「俺達に訊きたいこと?」
「そそ。何でこの盛蕎麦市の人たちが“横歩き”なんて始めたのか、調べに来たんだよ。僕達」
 ルミとショウキが笑顔で話しかけてくるが、あげだまといぶきは呆れ半分の苦笑いを浮かべた。こんな事件を調べようとする物好きがまさか盛蕎麦市の外にいるなんて思ってもいなかったからだ。
「で、何か思い当ることとか知らない?」
「え~、突然そんなこと言われても・・・・・・分からないわよね、あげだま君」
「え・・・・・・あ、ああ。全然思い当たる節なんてないよ」
 あげだまは突然自分に振られて焦った。少なくとも、彼には思う節がある。自分が陰で敵対している連中の仕業ではないかと。それでもそのことは周りには秘密なので口ではそう取り繕った。
 だが、その一瞬の挙動不審をショウキは目を細めて見逃さなかった。
(この子、何か隠してるな・・・・・・)
 ショウキは普段は気の抜けるような笑いを顔に張り付けてはいるが、実は某“見た目は子供、頭脳は大人”な探偵並の頭の回転力と洞察力を持っている。もっともそれらは普段、ルミの無茶をフォローや下らないことへの悪知恵に使われているために周りの人の注目を然程集めていないのだが。
「(よし、少し揺さぶってみるか)ちょっと・・・・・・」
「ど、泥棒~~~~っ!!」
 ショウキがそう決めて口を開こうとしたその時だった。突然、道の向こうから女性の悲鳴が聞こえてくる。
 その場にいた四人が聞こえてきた方角へ目を向けると、地味なジャケットに身を包んだ男が女性物のバッグを抱えてこちらへ向かって走ってくるのが見えた。その後方には女性がその男を必死に追いかけている姿が目に入る。女性の方は巷で話題の“横歩き”状態のせいで思うように追いつけないでいるようだ。
「また“ひったくり”!?」
「何処も彼処もああいうのがいるんだね・・・・・・」
「感心してる場合ですか!?」
「おっしゃ、俺に任しとけ!!」
 驚くルミ、変なところで感心するショウキ、つっこむいぶき、向かってくるひったくり犯を迎え撃つつもりでいるあげだまといった具合に反応していた。
 こちらへ向かってくるひったくり犯に一人果敢に向かっていくあげだま。
「そこまでだ、この泥棒め!!」
 あげだまはひったくり犯に飛び蹴りをかまして大きくよろけさせる。しかし、子供と大の大人とでは体重差があり過ぎたせいか、転倒させるとまではいかなかった。
「うおっ!?邪魔だ、糞ガキ!!」
 ひったくり犯は肩腕を振り上げてあげだまに殴りかかるが、あげだまは余裕とばかりの体運びで素早くひったくり犯との距離をとった。
「へぇ、貴女の彼氏、結構やるわね」
「え!?べ、別にあげだま君とはそういう関係じゃ・・・・・・」
 あげだまの姿を見たルミがいぶきをそんな言葉で茶化していた。いぶきもいぶきで突然そんなことを言われて驚いたのか、顔を真っ赤にして狼狽している。そんな二人を余所にショウキはあげだまの動きを見て再び目を細めていた。
(・・・・・・何かある子だと思ってたけど、思った以上に“ただの子供”じゃないぞ、あれは。飛び蹴りを仕掛けたときの踏み込みのキレといい、反撃を避けた後の間合いの取り方といい、明らかに“実戦慣れ”してる。それも、スポーツ格闘とは違う戦い方だ)
 ショウキもそれなりに格闘術の心得があるので、あげだまの動きを見て冷静にそう分析していた。そして、一つの疑問が浮かんだ。何故、彼がそんな芸当ができるのか。一体、何処でそんな技術を身に付けたのか。あげだまを見るショウキの目はより険しくなっていく。
 そう考えている間にひったくり犯とあげだまとの間には硬直状態が続いており、お互いに睨み合っている最中だった。暫くしてひったくり犯の方が痺れを切らしたのか、舌打ちをしてすぐに一気に駆け出していく。
「おっと!」
 あまりに単調な突進は屁でもないといった具合にあげだまにかわされてしまう。だが、それこそがひったくり犯の狙いだった。
「!?しまった!!」
 ひったくり犯はあげだまを無視し、後ろに控えていたルミやいぶきの方へと向かっていったのだ。妙に戦いなれたあげだまを相手にするより、か弱そうな少女達の方を抑えた方がいいと判断したのだろう。
 もっともそれは、彼女達の傍に“彼”がいたことを忘れていた時点で愚策だった。
「はぁ、結局こうなるんだ・・・・・・」
 向かってくるひったくり犯に立ちふさがる様にショウキが前に立ちふさがり、両手の拳を握り前方に構える。
「この、退けやガキ!!」
 右拳を振り上げてくるひったくり犯に対し、ショウキの思考は至って冷静だった。鋭く細めた眼で相手を見据える。大振りな相手の動きは攻撃の軌道の先の先まで読みやすいものであり、格闘技の心得がある者にしてみれば別に脅威にもならない。
「・・・・・・・・・・・・フッ!!」
「ぐえっ!?」
 ショウキは一瞬にしてひったくり犯の拳の軌道を見切り、左手でその拳の側面を押し挙げて軌道をそらすと、流れるような動きで右足の回し蹴りを放つ。右拳で攻撃したがために姿勢は前屈み、かつ右脇腹をショウキの方へとさらしている状態だったので、ショウキの回し蹴りで放たれた踵はそこへと直撃した。さらに言えば、ひったくり犯は走って向かってきていたので、その勢いを足したカウンター効果で彼の受けた一撃は予想以上に強烈なものとなった。
 ひったくり犯は耐えきれずその場に倒れる。K-1で言うところのノックダウン状態だ。ショウキはゆっくりと近づいて相手が完全に無力化されたことを確認し、大きく呼吸をして格闘の構えを解いた。
「す、すっげぇっ!!」
(一撃で倒しちゃったぞ、ダブルビックリ)
 あげだまとその背中の相棒はショウキの鮮やか過ぎる格闘戦に驚いていた。
「・・・・・・本当、あんたって恐ろしい足技してるわね」
「六つのころから鍛えてるからね」
 あっという間の出来事に呆然としているいぶきを背にしていたルミが呆れた顔でショウキに話し掛ける。そんな彼女にショウキはひったくり犯をK.O.したときの鋭い瞳ではなく、何時もの気の抜けるような笑顔で返した。



 あの後、ひったくり犯は気を失っているところを付近の住民の110番通報で駆け付けた警察官に御用となった。ちなみに、その駆け付けた警察官も予想通りか横歩きしかできずにいたため、何とも締まらない登場だったのは今思い出すだけでも可笑しかった。
 そんなことがあってか、ショウキとルミ、あげだまといぶきの四人は気持ちを落ち着けることも兼ねて、公園のベンチで揃って一休みをしていた。
「はい、オレンジジュースでよかった?」
「あ!ありがとうございます」
 そう言っていぶきにジュースを手渡すショウキ。自分達が年上ということもあってかジュースは全てショウキの奢りとなった。ちなみにルミは『お出かけ時の代金は男持ち』と言い張って一銭も払っていない。そんなルミ場ふと思い出したように手をたたいた。
「そう言えば自己紹介してなかったわね、あたしは安土桃山小学校六年の橋渡留美。で、そっちはあたしの同級生のショウキよ」
「僕は友枝翔己。よろしくね、お二人さん♪」
 ルミの紹介に合わせてショウキはいつもの気の抜けるような笑顔を返す。
「私は盛蕎麦東小学校四年三組の平家いぶきです。こっちはクラスメートのあげだま君」
「源氏あげだまでーす!気合いと元気が取り柄の男の子でーす!」
 いぶきの紹介であげだまも笑顔を持って答えた。ショウキのそれとは違い、こっちは如何にも元気に溢れたやんちゃっ子という感じだ。そんな彼がショウキの方へ目を向ける。
「それよりも友枝さん・・・・・・」
「ショウキでいいよ。その代わり、僕も君のことは“あげだま君”って呼ぶから」
「あたしのこともルミでいいわ。貴女のことも“いぶきちゃん”って名前で呼んでいいかな?」
「私もそれでいいです、ルミさん」
 女の子の方はすっかり馴染んだようだ。
「それで、僕に何か用があるのかな、あげだま君?」
「あ!そうそう。俺、ショウキさんに訊きたいことがあったんだよ。さっきのひったくり犯を一撃で倒しちゃったあの強さのこと。ショウキさんって何か格闘技とかやってるのかな~って」
「うん。六つのころから爺ちゃんに“テコンドー”の稽古をつけてもらってる」
 テコンドーとは多彩な“蹴り技”が特徴的な格闘技である。他の霊長類に比べて人という種の特に進化した部位の一つであり、なおかつ非常に強い力を持つといわれる“脚”を最大限に生かすこの格闘技は非常に強力であり、条件がそろえばショウキの様な子供でも大の大人を倒せることもあるのだ。あげだま達が目撃したひったくり犯の事例はまさにその模範例だったといえる。
「ふぇ~、通りで強いはずだ」
 あげだまは理由を聞いて納得していた。
「まぁ、ね。でも、僕は・・・・・・」
 ショウキはそう言ってあげだまの首に腕をまわして自分の方へ引き寄せると、瞳を細めて彼の耳もとでこう囁いた。
「どうして小学生の君が、僕より年下のはずの君があんなに“戦い慣れていた”のかが気になるな・・・・・・?」
「!?」
 あげだまは驚いたように目を見開いた。ショウキの顔の方へ目を向けると先ほどまでの気の抜けるような笑顔はなく、こちらをしっかりと見据える鋭い眼差しを向けている。
(やっば・・・・・・滅茶苦茶怪しまれてる?)
(後先考えないからこうなるんだ、テンテン)
 背中に背負った相棒に呆れられながら、あげだまは何とか誤魔化そうと無理やりつくった笑顔を浮かべる。
「い、いや・・・・・・俺もちょっと父ちゃんにそういったことを叩き込まれれてさ!それが意外なところで役に立ったってだけで、別に気にするほどのことじゃ!!」
「へぇ、あげだま君もお父さんに何か格闘技を教えてもらってるの?」
 今度はいぶきが興味あり気にこちらを見てきた。
「あ、いやぁ、そうなんだよこれが!父ちゃんたら教えるからには容赦がなくって」
「どんな格闘技?」
「へ?」
 今度はルミからの唐突な質問が飛んできた。
「教わってる格闘技の名前。翔己みたいにテコンドーとか、他にも空手とかキックボクシングとか酔拳とかあるでしょう?」
(いや、小学生に酔拳はどうかと思うけど・・・・・・)
 酒の飲めない小学生に酒で酔って強くなる酔拳はないのではと密かに思うショウキ。まぁ、この際それはどうでもいいか。ショウキもあげだまの戦闘スタイルについては非常に興味があった。先ほどあげだまが見せた戦闘スタイルは自分が知る格闘技の全てに当てはまらないものだったからだ。一体、どんな流派なのか知りたくて仕方がなかった。
(うへ~・・・・・・どうしよう?)
 一方のあげだまはどうやってこの場を切り抜けたらいいかで頭がいっぱいだった。もっとも、別に頭が働く方ではない性分のために特に方法が思いつかなかった。



 そんな時だった、“奴”が現れたのは。
「カニカニ~!!」
 突然、その場で不気味な声でそんな言葉が聞こえ、ショウキ達は何事かと周囲を見渡す。
「こっちだカニ~!!」
「うわぁ!?」
「何なの!?」
 声の主は彼らの背後の茂みから飛び出すように現れた。
 四人は、突然の声の主の登場に驚いたが、それ以上にその姿かたちに驚かされた。その姿ははっきり言って『蟹』だった。それもただの蟹ではない。人の数倍近くありそうな巨大な体を持ち、ハサミのある二の腕と地面に接している二本脚の膝部分は蟹にはあるまじき『木』で構成されていた化物だった。
「きゃあっ!?」
「な、何あれ!?」
「一応、蟹・・・・・・だよね?」
「・・・・・・何だ、蟹か」
 驚くルミといぶきに対し、妙な姿の蟹の登場に呆れるショウキとあげだま。
「何だじゃないよ、『カニある木』だよ!馬鹿にしやがって!こうなったらお前らも“横歩き”にしてやる!!ちょっと待っててね・・・・・・カニカニ~!」
 そう言って現れた怪物こと合成獣『カニある木』は口の部分で泡を作り、それを彼らに向かって吐きだしてきた。
「!?ルミちゃん!!」
「危ない、いぶきちゃん!」
 ショウキとあげだまは咄嗟にルミといぶきの前に立って盾になり、カニある木の吐きだしてきた泡をその身で受け止めた。
「ショウキ!!」
「あげだま君!!」
 自分達の身代わりとなって泡を被った二人に慌てて声をかける少女達。一方の少年二人は泡を拭い去るとカニ歩きに対して目を向ける。
「このぉ・・・・・・!」
「よくもやったな!!」
 反撃に移ろうとショウキとあげだまは駆け出そうとする。ところが・・・・・・。
「あ、あら!?」
「あれ・・・・・・あれれ!?」
 どうしたことか、二人とも思った様に前進することが出来ない。進もうにも横方向にしか移動することが出来ないのだ。
「ハハハッ!!いい様だカニ!」
「この・・・・・・馬鹿にしやがって!!」
 あげだまがカニ歩きに掴みかかろうとするが、やはり横歩きしかできないせいで思うように移動できず、しまいにはショウキの方へと突っ込んで行ってしまった。
「うおっ!?あげだま君、こっちは違う!!」
「うわわ!?ショウキさん、そこ退いて!!」
「いや、僕も思うように動けない・・・・・・うぉおおおおぉぉぉぉっ!?」
 あげだまの特攻失敗はショウキを巻き込む形となり、二人揃って公園の茂みの中へと消えていった。
「あげだま君!?」
「だぁああああぁぁぁぁっ!!二人揃って何やってんのよ!?」
 男共のあまりに不甲斐ない姿にルミは頭を掻き毟りながら叫んだ。
「カニカニ~、次はお前達を“横歩き”にしてやるカニ~!!」
 カニある木はそう言って今度はルミといぶきに狙いを定めていた。



 一方の無様な退場をしてしまった男共の片方、ショウキは茂みの中でうつ伏せ状態になっていた。
「イツツ・・・・・・まったく、あげだま君ってば後先考えないんだから」
 そう呟きつつショウキは何とか立ち上がると周りを見渡す。
「あれ・・・・・・そのあげだま君の姿が見えないな・・・・・・」
 もっと奥の茂みの方へと転がって行ったのだろうか。とりあえず、慣れない横歩きで何とか奥の茂みの方へと進んでみることにした。
「あげだまく~ん、大丈夫か~い・・・・・・?」
 そんな気の抜ける口調で茂みをかき分けた先にあげだまを見つけた。ただ、同時にとんでもないものを目撃することになったが。



「あげだま、変換スタンバイ」
 あげだまの背中にいた相棒こと『ワープ郎』がボールに足と耳のようなものが生えた状態になり、彼がそう叫んで背後の装甲を展開。中からモニターとキーボードを露出させる。
「あげだま!変換~~~っ!!」
 そのキーボードに向かってあげだまがそう叫びながら勢い良くキーを叩く。直後、ワープ郎から眩い光が放たれ、あげだまの体を包み込んでいく。やがて光は形を成していき、光が消えると同時に赤いボディスーツと白い装甲に覆われた手足が現れる。そして、頭部もワープ郎を模したと思われるバイザーが装着された状態で現れ、バイザーが開くとあげだまの顔が現れ、バク転からの決めポーズをとる。
「あげだマ~ンっ!!」
「変換完了、マル」
 最後にバイザーにワープ郎の瞳が現れた。
 そう、彼こそが盛蕎麦市をノットリダマスの魔の手から守り続ける正義のヒーロー、宇宙から舞い降りた“気合の光”、その名は『あげだマン』である。
「よし!待ってろよ、合成獣め・・・・・・」
 そう言って振りむいた先に、何とも気まずそうに佇むショウキがいた。
「・・・・・・・・・・・・やぁ、あげだま君。いや、あげだマンって呼んだ方がいい?」
「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「バレちゃったよぉおおおぉぉぉぉぉっ、ダブルビックリハテナ」
 頭を抱えて叫ぶあげだマンとワープ郎。
「あぁ・・・・・・やっぱ、秘め事だった?」
「どうしよう、どうしようったらどうしよう!?こんな間抜けな正体のバレ方をしたなんて父ちゃんに知れたら殺される!!?」
「僕にもどんなペナルティーが回ってくるか解ったもんじゃないよ、ダブルビックリ」
 こんなあっさり正体がばれてしまうなんてヒーローとしてどうか、それ以前にこのことが母星であるヒーロー星にいる父親に知れたらどうなるか。そうやって取り乱している彼らをなんとか落ち着けようと肩をたたいた。
「とりあえず、落ち着こう。あげだマン」
「ショウキさん!お願いだからこのことは誰にも言わないで!!本当にお願いしますから!!」
「僕からもお願いします、テンテン。このことは胸の内にしまっておいて、ダブルビックリ」
「わかったわかった!誰にも言わないって約束するからとにかく落ち着いてっ!!」
 そんなこんなであげだマンとワープ郎を落ち着かせた後、ショウキはあげだマンの姿をまじまじと見た。
「・・・・・・で、君が盛蕎麦市で話題になってるヒーローこと『あげだマン』だったわけか」
「はい、そうなんです」
 落ち込むあげだマンに対し、ショウキは平然を装ってはいたが、内心とても驚いていた。まさかこんな所で盛蕎麦市を騒がせている怪物だけでなく、それと戦うヒーローと出会い、その正体をも掴んでしまったのだから。逆に刺激が強すぎて怖いくらいだった。まぁ、自分もつい先日、その『ヒーロー』みたいな存在になってしまったわけだが。
「はぁ、またもや『瓢箪から駒』ってわけか」
 ショウキはどうしていいかも分からず頭をかいた。
「きゃぁあああああぁぁぁぁぁっ!!」
「いや、こっちに来ないでよ!!」
「カニカニ~ッ!!」
 茂みの外からルミといぶきの悲鳴が聞こえたことで、ショウキ達の思考は一気に鋭くなった。外では合成獣が二人に襲いかかっていることを思い出したのだ。
「・・・・・・ぼうっとしてる場合じゃないか!」
「そうだった、早く合成獣を止めないと!!」
 あげだマンがそう言って駆け出そうとしたが・・・・・・。
「あらっ・・・・・・げふ!?」
 見事に横歩きしかできないことを忘れており、そのまま自分の側面に位置する樹木へとぶつかっていった。そんなあげだマンの姿にショウキは呆れ果てていた。
「くっそ~・・・・・・思ったように動けない」
「まぁ、横にしか歩けない訳だから」
「じゃあ、“歩かなきゃ”いいだろ?」
 今度は彼らの頭上から声が響いた。ショウキとあげだマンが声のした方を見上げると、蒼い翼を広げて舞い降りてくる大鷲の姿があった。
「・・・・・・やっぱりついてきてたんだ、ウィン?」
「へっ・・・・・・オメェの振り回されてる姿はなかなか面白身があったぜ」
 あげだマンとワープ郎は突然現れたウィンの姿に呆然としていた。
「ショウキさん・・・・・・それ、何?」
「僕のデータベースにも存在しない鳥だ、テンテン」
 そんな二人を尻目にショウキとウィンは強気な微笑みを浮かべた。
「・・・・・・こいつはウィン。僕の“相棒”さ」



 茂みの中でそんなやり取りが行われている間、ルミといぶきはカニある木の執拗な追跡を受け、公園の中を逃げ回っていた。
「いやぁ!こっちに来ないで!!」
「そんなこと言わないでよ、横歩きにしてあげるから~カニ~!!」
「冗談じゃないわ!そんな歩き方で町中をうろついたら乙女の恥よ!!」
 二人は必死に逃げ続ける。別に殺されるわけではないが、生きているのも辛くなるような辱めを受けると知れば誰だって必死に逃げるだろう。
「待ってよ~、カニカニカニカニ~!」
「ヤダ!助けてぇっ!!」
「・・・・・・・・・・・・はっ!?」
 そんな彼女らの前についに逃げ道が無くなった。
「池だわ!!」
「カニカニカニ~!」
 逃げ道を池に立たれ、後ろを見ればカニある木が口に泡を溜めていた。いつでも発射可能な状態にあることが二人の恐怖を更に倍増させた。
「や、やめて・・・・・・」
「お願い・・・・・・誰か、助けてっ・・・・・・!」
 そんな彼女らたちに無慈悲に泡を浴びせようとするカニある木。絶体絶命のピンチとはまさにこのことだった。



 だが、そんなことを許さない者たちがその場に駆けつけた。



「ちょ~~っと待ったぁ!!」
「カニッ!?」
 突然、その場にかけられる声とともに翼を広げて横切る一瞬の影。カニある木が空を見上げると、空を飛ぶ“影”があった。逆光に照らされ、地上からはその姿を確認するのが困難な中、“影”はそんなことお構いなしにこちらに向かってきていた。
「手を離すぞ、あげだマン!!」
「おうっ!!」
 翼の主に手を放され、飛行時の勢いと落下速度で加速し、そのままカニある木に向かっていく赤い人影。
「あげだマァン・・・・・・キィイイイィィィィッックゥッ!!」
「ガニィイイイイィィィィィッ!!?」
 赤い人影ことあげだマンのとてつもない勢いで突っ込んできた蹴りに技にカニある木は大きく吹き飛ばされた。蹴りを放ったあげだマンはそのまま空中で姿勢を整えて少女達の前に降り立つ。そして、あげだマンは天に指を掲げた。
「大宇宙に光在り!この光、愛の光、気合の光!今、この世の悪をなくすため気合の光、降り来たり!」
「カニ!?お前は・・・・・・!?」
「見参!気合の戦士・あげだマン!!」
「あげだマン!!」
 あげだマンは登場と同時に決め台詞を口にした。
「女の子の嫌がることをするのはどうかと思うな、僕は」
「!!」
 あげだマンの口上の後、蒼い鳥人がそう言ってあげだマンの隣りにゆっくりと降り立ち、翼をたたむ。それは、ルミがあいたいと思っていた存在、ウィングルだった。
「ウィングル・・・・・・!」
「やぁ、お待たせ」
 ルミの感きわまった声を背中に、ウィングルは親指を立てたスリーピースで返した。
「二人とも、早く逃げるんだ!」
「はい!さぁ、ルミさんも早く・・・・・・!」
「待って」
 あげだマンに言われてすぐにその場を離れようとするいぶきに対し、ルミはウィングルの方を見て離れない。
「ウィングル、私は・・・・・・!」
「あげだマンの言う通り、ここは逃げてくれない?誰かを守りながら戦うより、目の前の敵に集中できる方がいいから」
「・・・・・・・・・・・・っ!」
 ルミはウィングルに尋ねたいことが山ほどあった。でも、状況を冷静に見れば自分達がこの場にいるのは彼らの邪魔をしているようなものである。ルミは誰かの足を引っ張るようなことをするのは嫌いな性分だ。ここは大人しく、避難するしかないと感じた。
「後で、話があるから!」
「・・・・・・・・・・・・」
 ウィングルはルミのその言葉に対して返事をせず、ルミといぶきが避難していくのを横目で見ながら確認していた。
「さて・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
 ウィングルとあげだマンは鋭い瞳でカニある木を睨みつけた。
「カニカニ~、よくもやってくれたなぁ!!」
「そっちこそ、誰に喧嘩売ったのか教えてあげるよ」
「いくぞ!カニある木っ!!」
 そうしてカニある木に向かっていこうとしていたその時、ウィングルとあげだマンの前に一人の人物が立ちはだかった。
「お、お前は!?」
「ははははっ!!やっと現れたな、あげだマン!!」
 突然現れた派手なスーツの少女にさらに瞳を鋭くするあげだマンに、ウィングルは彼の方を見やった。
「あげだマン、あの娘と知り合い?」
「あいつは『怨夜巫女』。ノットリダマスっていう連中の戦士だ」
「あの蟹の化け物もそのノットリダマスとか言うのの手先ってわけ?」
「オ~ホッホッホッホ!!そういうことだっ!!」
 なるほど、なかなか高飛車な娘だというのがウィングルの第一印象だった。
「やっぱり、お前達の仕業だったのか!」
「フン!さぁ、カニある木!あげだマンと・・・・・・お前は誰だ?」
「・・・・・・って、今頃かよ!?」
 ウィンが大声で突っ込んだ。
「・・・・・・生憎、人様に迷惑を振りまく悪い子に名乗る名前はなくってね」
 ウィングルのその言い様に怨夜巫女は眉間にシワを寄せた。
「成る程、お前もあげだマン同様、私の大嫌いなタイプだ!」
「悪党に好かれるつもりもないけどね」
 その言葉を最後にその場にいた一同は戦闘態勢をとった。
「くらえぇっ!!」
 先手必勝とばかりにあげだ漫画的に向かって駆け出そうとした。しかし・・・・・・。
「・・・・・・あらぁっ!?」
 自分は今横歩きしかできないことをまた忘れていたようで、前方の相手に足が進むことなく、その場で情けない横移動をさらしてしまった。
「・・・・・・いい加減、学習しようよ・・・・・・あげだマン」
「このド阿保」
 そんな彼の姿にウィングルは肩を落として呆れ果て、ウィンに至ってはそんな台詞を吐く始末だった。
 怨夜巫女は彼らのあまりに情けない姿を見て笑いだし、これでもかと馬鹿にしていた。
「ハッハッハッハッハッ!!あげだマン、どうしたどうした?そっちが来ないのならこっちから仕掛けさせてもらうぞ!カニある木、やっておしまい!!」
「カニカニ~ッ!!」
 カニある木はその巨大なハサミで上手く動けないあげだマンを捕まえようとしてきた。
「!!なんのっ!!」
 あげだマンだって負けてはいない。横歩きしかできないとはいえ、動きは俊敏だ。相手の動きを見切り、迫ってくるハサミを避け続ける。
 だが、いつまでも慣れない横歩きで避け続けるには限界があった。
「うわっと!?」
 つい足を滑らせてしまったあげだマンに大きな隙が生じる。カニある木はその隙を見逃すことなく、あげだマンを己のハサミで捕まえた。
「しまったっ!?」
「ハッハッハ!いいぞカニある木!そのまま、あげだマンを締め付けてしまえ!!」
「カニカニ~ッ!!」
 カニある木はあげだマンを挟んだ挟みに力を込め、あげだマンを締め付ける。
「ぐぁあああああぁぁぁぁぁぁっ!!?」



 遠くの茂みからその様子を見ていたいぶきは小さく悲鳴を上げた。平家いぶきという少女はとても心優しい性格である。誰かが気づつくさまを見て平然でいられない。しかもそれが自分の憧れのヒーローなのだ、無理もない。
「あげだマン・・・・・・!」
 いてもたってもいられず飛び出しそうになった彼女の肩を押さえる手があった。彼女とともに避難していたルミの手だった。
「大丈夫、貴女のヒーローは大丈夫よ」
「でも・・・・・・」
 ルミは目の前で繰り広げられる戦いを見据えつつ、目をそらさずに続けた。
「だって彼には、心強い味方がるもの」



「カニ~ッ!?」
 カニある木の背後から強烈な衝撃が響いた。カニある木はたまらず前ぞりによろめき、ハサミに掴んでいたあげだマンを放してしまった。
「何!?・・・・・・そうか、今日はあげだマンだけではなかったな」
 怨夜巫女がカニある木の背後に視線を向けると、そこには右足を上げて蹴り技の態勢で構えるウィングルの姿があった。そして、ウィングルはそのままカニある木を見据えるように仁王立ちする。
「油断大敵だよ、カニさん?」
「ウィングル、助かった!」
「いいっていいって♪」
「おのれっ・・・・・・カニある木、あいつも“横歩き”にしておやり!!」
 怨夜巫女の指示を受け、カニある木は口に泡を溜め始める。それを見るウィングルは肩をすくめるだけで、特に何もしようとしない。
「カニ~ッ!!」
 カニある木の泡がウィングルに向かって放たれ、ウィングルは避けようともせずにそれを諸に浴びてしまう。そんなウィングルを見て怨夜巫女は大笑いした。
「ハッハッハ!避けようともしないとは何と愚かな。これでお前も“横歩き”しかできない!!」
「・・・・・・ま、そうなんだけどね」
 ウィングルは特に慌てることなく、カニある木に向かっていった。歩くことなく、“飛んで“いくことで。
「なっ!?」
「ハァッ!!」
「ガニ~ッ!?」
 驚く怨夜巫女を余所に、ウィングルの右足で放たれた回し蹴りがカニある木の腹に突き刺さり、カニある木は大きく後方へと吹き飛ばされた。
 彼らが変身した後で駆け付けてきたときのことを思い出してもらいたい。既にカニある木の泡によってまっすぐ歩くことができなくなった二人が迅速に彼女達のもとへ急行するにはどうするか。簡単なことだ、まともに“歩けない”のなら目的地まで真直ぐ“飛んでいけばいい“のだ。
 もともと大鷲の力を受け継いでいるウィングルの足は地面を蹴って走ることには不向きな形状である。大鷲の脚は主に上空から獲物に向かって飛びかかる際の“武器”として特化したものであり、馬やチーターの様に走ることには向いていない。よって必然的に彼の移動手段は空中を飛行することになる。もともとあまり歩かない彼に“横歩き”を強要させるだけの泡は意味などなかったのである。
「クッ・・・・・・まさか、カニある木の泡攻撃がこんな形で攻略されるとは・・・・・・!!」
「ま、改めて思えばかなりショーもない攻撃だったけどな」
 ここでまたウィンの毒舌が回った。それを聞いた怨夜巫女の頭に血が上り、その場で地団太を踏む。
 そうやって怨夜巫女たちの意識がウィングルに向いている間に、あげだマンは既に態勢を立て直していた。
「うひょ~・・・・・・ショウキさん、スゲェ」
「感心してる場合じゃないぞ、あげだマン。こっちもデータが揃った、ビックリマーク」
 ワープ郎のその言葉を聞き、あげだマンは指を鳴らして喜ぶ。
「!!待ってました!何時までも美味しい所を持ってかれる訳にはいかないもんな!!」
「そういうこと・・・・・・気合を入れろ、あげだマン!!」
「おっしゃぁ!!気合い!気合いぃっ!!」
 説明しよう。気合の戦士あげだマンはワープ郎の分析データをもとに、自ら気合を入れることで発する気合エネルギーから一発逆転の強力な切り札『気合カード』を出すことができるのだ。
 あげだマンのヘッドギア側面から一枚のカードが出てくる。そのカードにはある絵柄が絵描かれていた。
「今日は・・・・・・『“カニ缶”カード』か・・・・・・!」
「・・・・・・え!?カニ缶コワい!!」
 再び説明しよう。あげだマンの切り札である気合カードは相手を確実に倒すために相手の最も弱点となる攻撃をあげだマンの特殊能力として付加できるものなのだ。過去にも、冷気を扱う敵に対して炎の力を付加する『ファイヤーカード』、モグラの様に地面を突き進む敵に対してお約束とも言うべき『モグラ叩きカード』といった具合に何とも都合がいい・・・・・・もとい、あらゆる敵に柔軟に対応可能な技なのである。
 そして、今回は相手がカニであるが故か出てきたカードは“カニ缶”という、もはやつっこみどころ満載の展開であった。カニある木に至っては完全に怯えている。そんなことも構わず、あげだマンは気合カードを胸下にあるスロットに挿入する。
「いっくぜぇっ!!」
 あげだマンは公園の池に捨ててあったドラム缶を拾い上げると、それを担いでカニある木に向かって跳躍した。
「いかん!?何をやっているカニある木!いったん下がって態勢を立て直すぞ!!」
「カ、カニカニ~ッ!!」
 怨夜巫女に言われてその場から逃げようとするカニある木。しかし、そんなカニある木の足元を一陣の風が走り、逃げ足をすくっていった。
「ガニニ~ッ!?」
「ゴメンね。僕、カニ缶って結構好きなんだ」
「庶民にとっちゃ、カニは御馳走だからな」
 ウィングルは地面を滑りながら着地し、跳躍してきたあげだマンと視線を交差させる。
「・・・・・・頼むよ!!」
「・・・・・・おうっ!!」
 あげだマンの担いだドラム缶がカニある木に近づくにつれて巨大化していき、カニある木を覆い隠すには十分すぎる大きさの『缶詰の“缶”』に変化していた。
「でりゃぁああああぁぁぁぁっ!!」
 あげだマンは足をすくわれて動けないカニある木に向かって“缶”を振り下ろし、怨夜巫女共々閉じ込める。さらに缶の周りを高速回転し、気付けば缶に絵柄が描き下ろされ、公園の敷地に見事に巨大な“カニ缶”が出来上がっていた。
 それを見たウィングルは口笛を鳴らし、顎に手をあてて呟いた。
「あれで何人分のカニ缶になるのかな?」
「少なくとも、お前の小遣いじゃ絶対に買えない量だってことは確かだな」
「・・・・・・それ以前に食べきれないよ」
「俺なら余裕だがな」
「・・・・・・・・・・・・マジ?」
 そんな会話が途切れたところでカニ缶が爆発した。
「イヤァアアアアアァァァァァッ!!?」
「アァアアアアアァァァァァッ!!」
 その爆発で怨夜巫女とカニある木の素材として使われた人間『佐藤』がボロ雑巾のような姿で空の彼方へと飛ばされていった。
「・・・・・・っと!やったぜぇ!!」
 あげだマンは地面に着地すると、ウィングルの方へと振り向いた。ウィングルはそんな彼に拳を突き出し、あげだマンは笑顔でそれに自分のそれをぶつけた。
「あげだマーン!!」
「お?」
 声が四方を振り向いて見ると、いぶきとルミがこちらに向かって走ってくる。
「また助けてくれて本当にありがとう、あげだマン!」
「いやぁ、当然のことをしたまでです」
 いぶきに素顔を見られないようにするため、あげだマンはヘッドギアのゴーグル部分を下して対面する。その後、いぶきはウィングルの方へと顔を向ける。
「それとウィングルさん、でしたよね?」
「そうだけど?」
「あげだマンを助けてくれてありがとう!貴方はルミさんの言った通り、とっても良い人なんですね」
「気にしないで、そういう性分だから」
 ウィングルは笑顔で答える。もっとも、フェイスガードで隠れているため、笑っていることが判るのは目元だけだったが。
「ウィングル」
「・・・・・・・・・・・・ん?」
 いぶきと一緒にやってきたルミに声を掛けられ、ウィングルは視線をそちらに向ける。
「・・・・・・まずは、お礼を言わなきゃね。今度も、助けてくれてありがとう」
「いいさ、君が無事なら」
「・・・・・・それで、貴方は何者なの?」
 突然、ルミが真剣な顔でそう尋ねてきたためにウィングルから笑みが消えた。
「お願い、答えて。貴方は、本当に誰なの?」
 突然の重い空気に、ウィングルだけでなくあげだマン、そしていぶきまでもが口を閉ざした。
 ルミにそう尋ねられても、ウィングルにはショウキには答えることなどできなかった。自分の正体を教えるということは、その人をウィンの言う危険な世界に引きずり込むということだ。自分にはまだそれがどれほど危険なものなのかは理解できない。だが、好き好んで誰かをそんな世界に巻き込むことはできない。
 それが自分にとって大切な人ならなおさらである。
「・・・・・・悪いけど、答える義務はないよ」
「でも・・・・・・!」
 ルミが納得できずに食いついてくるのを、あげだマンが割って入って止めた。
「まぁまぁ!それより二人とも、はぐれたお友達がいたんじゃないの?」
「「・・・・・・・・・・・・あ」」
 そう言われて二人は自分達のはぐれた友人のことを思い出した。
「そうだった!あげだま君達のことをすっかり忘れてた!?」
「あぁん、もう!肝心な時に役に立たない馬鹿がいたんだったわ!!」
「プッ!馬鹿だってよ?」
「・・・・・・ば、馬鹿は無いんじゃない?」
 ルミのさりげなく酷い一言にウィングルことショウキは肩をがっくり落とし、頭の上のウィングルは必死に笑いを堪えていた。そんなウィングルにあげだマンは小声で彼に話し掛ける。
「・・・・・・さぁ、今のうちに退散しよう、ショウキさん」
「・・・・・・恩にきるよ、あげだま君」
 少女二人が慌てている間に、ヒーロー達はそっとその場を去って行った。






「まったく、肝心な時に役に立たないわ、散々人に探し回らせるわ、迷惑掛けまくってんじゃないわよ、あんた達!!」
「ハハハ・・・・・・やっと合流できて、かけてくる言葉がそれ?」
「うへぇ、母ちゃんの説教みたい」
 あの後、カニある木を倒したこともあってか町中の横歩き現象は消えてなくなり、付近の物陰で変身を解いたショウキとあげだまはまっすぐルミといぶきのもとへと走って行った。そして、彼らを待っていたのはカニある木に遭遇した際に醜態をさらしたことに対するルミからの説教であった。
「まぁまぁ、ルミさん・・・・・・もうそれくらいで許してあげた方が・・・・・・」
 流石に彼らのことが可哀想に思ったのか、いぶきがルミを宥めた。ルミはため息をついて二人を睨みつける。
 だが、彼女もこれ以上は必要ないと感じたのか背中を向けた。
「・・・・・・そうね、これ異常こんなことに時間を費やす必要もないし。ほら、さっさと行くわよ、あんた達」
「ごめん、それ無理」
「何でよ?」
「あ、足が痺れちゃって・・・・・・」
 ルミといぶきは呆けた顔になり、その場にカラスの鳴き声が木霊した。
 説教の最中、二人はご丁寧に地べたに正座させられ、かれこれ三十分はこの状態が続いていた。正直、二人の足の痺れはかなり酷い状態だった。
 まったく、今日の二人は横歩きといい説教に正座といい、『脚』に関して最悪の休日となった。



 何とか二人の足が歩ける様になる回復した後、ショウキとルミは帰路に着くために駅に向かい、あげだまといぶきはその見送りとしてついてきていた。
「わざわざ見送りに来なくてもいいのに・・・・・・」
「そんなこと言わないでください、私達が好きでやってるんだから。ね、あげだま君?」
「そうそう、『裾こすれ合うも何かの縁』って言うし」
「あげだま君、それを言うなら『袖振り合うも多生の縁』だよ」
「あれ、そうだったけ?」
「もう、あげだま君ったら」
 あげだまのマジボケに一同は大笑いする。そんなとき、いぶきはルミの方を向いた。
「それにしても、あの時のルミさんカッコ良かったです!」
「え、あたしがカッコいい?」
「ハイ!あげだマンがピンチの時も怯えたりせず、堂々として私を落ち着かせようとしてくれて・・・・・・同じ女として憧れちゃいます!!」
 ルミは照れ臭そうに頬をかいた。
「もう・・・・・・大袈裟よ、いぶきちゃん」
「そんなことないです!ルミさん、私とお友達になってくれませんか?」
「あら、あたしは最初からいぶきちゃんとはお友達のつもりだったけど?」
「だったら、お互いのメールアドレスを交換しません?」
「いいわねぇ、メル友が増えるのは大歓迎よ!ほら、あんた達もそうしなさいよ」
 女同士で話が盛り上がり、いつの間にかメールアドレスの交換へと話題が流れていく。
「まぁ、お互いに連絡が取り合えることには問題ないよね」
「俺も賛成!俺もショウキさんのメールアドレス知りた~い!!」
「じゃあ、決定!」
 こうしてお互いのメールアドレスの交換会が始まった。
 そんな中、あげだまがショウキに小声で話しかけてくる。
「それにしても、今日は驚いたよ。俺があげだマンだってことがバレちゃうし、ショウキさんも変身しちゃうし」
「それは僕も一緒だよ。あんな怪物に遭遇しちゃったんだから」
 二人はそんなことを言いながらお互いに苦笑いを浮かべた。そして、あげだまはこう続ける。
「それでもショウキさんが“ヒーロー”だったのが一番の驚きだぜ。おまけに強いんだもん」
 彼のその言葉にショウキは一瞬だけ目を見開いた後、どこか哀愁の漂う表情を浮かべた。
「・・・・・・残念だけど、僕はまだそれほど強くもないし、ヒーローにも成れてないよ。あげだま君」
「え・・・・・・?」
 ショウキのそんな物言いにあげだまは唖然とした表情を浮かべた。

 そう、まだショウキは“ヒーロー”に成れていない。少なくとも、彼の中では目標とする“ヒーロー”には成れていなかった。故に、そんな言葉を返していた。
「でも・・・・・・まぁ、お互いこんな秘密がある訳だし、仲好くしていこうか」
「・・・・・・おう!これからもよろしく、ショウキさん!!」
 アドレスを交換し終えた後、ショウキはそう言って拳を突き出し、あげだまもそれに応える形で自分の拳をぶつけた。






 その日の夜、コダマタウンの河川敷で一人、仰向けに寝そべりながら星空を眺める少年がいた。その顔に気力はなく、まるで生きがいを失ったかのように呆然としており、顔にかけているその奇抜なグラス越しから見える宇宙(そら)を見つめていた。
 父親が残したか民ともいえるグラス越しに映る夜空と、人の視覚可能領域にして映る“町中を飛び交う数多の電波”を見つめ、少年は何をするわけでもなくそこで時を過ごしていた。
 ただ、気持ちの整理が付けたかっただけだったのかもしれない。
(スバルがその気になるまで、無理しなくていいよ)
 自分の悲しみを理解し、優しく接してくれる母親。
(父親が亡くなったショックでずっと学校を休んでいるという生徒は)
 突然現れ、掘り下げられたくない過去を掘り下げていったクラスメート。
(学級委員長としてのあたしの株が上がるでしょう?)
 点数稼ぎのために自分を無理やり学校へ行かせようとする女の子。
(俺を怒らせるなよ、“登校拒否”!)
 挙句の果てに力づくで事を運ぼうとする行い。
(心配してたぞ、君のこと。できれば学校に行って欲しいってな)
 そんなときに自分が心を開いている数少ない人から、母親が自分に友達がいなくて心配していると告げられる。
 登校拒否と言われたっていい、友達なんていらない、一人でいる方が気楽でいい。自分のことを理解してくれない人と繋がりを持ったって苦しいだけだ。でも、そのことで母さんに要らぬ心配をかけてしまっている。こんな時、自分はどうすればいいか。幼い彼にはまだ答えが見つけられずにいた。

 そんな時だった。彼がグラス越しに“あるもの”を見たのは。
「・・・・・・・・・・・・!?」
 彼は起き上がってまじまじと視界にとらえたものを確認する。
「何だ、あの光は?」
 彼の眼がとらえたのは、電波の波に交じってぶつかり合う二つの光だった。他の視覚化された電波とは異なり、この二つは明らかに自分の意志を持って動いている。
「・・・・・・何だか、戦ってるみたいだ」
 二つの光は何度もお互いにぶつかり合い、相手を吹き飛ばさんばかりの勢いで動いていた。
 そして、最後のぶつかり合いは眩い閃光を生み出し、二つの光は大きく弾き飛ばされ合った。
「!?こっちに落ちてくる!!」
 そして、その片方は少年の方へと向かってきていた。少年が逃げるという判断を下すよりも早く、その光は迫り、少年のもとへと直撃した。
「うわぁあああああぁぁぁぁぁっ!!?」
 少年は落ちてきた光の爆発に包まれる。漆黒の夜を切り裂かんばかりの閃光が少年のいた河川敷を覆い尽くした。

 そして、光が消えたその場に残されていたのは、気を失って倒れた少年の姿だけだった。






次回予告

あげだま「は~いっ!ヒーロー星から夏休みを利用して地球に来たあげだマンこと、源氏あげだまでーす!!」
ワープ郎「そんなあげだまの面倒を見るためについてきたワープ郎でーす、ダブルビックリ」
あげだま「何だよワープ郎、それじゃ俺が情けない奴みたいじゃん」
ワープ郎「実際そうじゃないか、僕が居なくちゃあげだマンに変身もできないし、地球にだって無事に着いてたかどうか分からなかったんだぞ、ハテナ。それに、どうやら地球にやって来ていたのは僕達だけじゃないみたいだ、ビックリマーク」
あげだま「マジ!?まさか、悪い宇宙人じゃ・・・・・・!?」
ワープ郎「その通り!でも、何か様子がおかしいぞ、ハテナ」

あげだま「次回、リトルヒーローズ・・・・・・」

第三話
   『電波変換!星河スバル、オン・エア!』

あげだま「気合いで面白いぜ!!」






ショウキ、今日のことわざ

・『危ない橋を渡る』
 わざわざ危ないことを選ぶ、しようとすること

・『虎穴に入らずんば虎子を得ず』
 危険を承知で行動しなければ目的のものが得られないということ

・『袖振り合うも多生の縁』
 ほんの些細な出会いでも重い意味を持つこと。また、前世からの因縁という意味もある


今日のヒーロー!

『あげだマン』
登場作品:ゲンジ通信あげだま
攻撃技:あげだマンショット、ダブルフリスベー
必殺技:あげだマンキック、気合カード
備考:
 あげだまがパワードスーツ状態となったワープ郎を装着した姿。ワープロをモチーフとした特殊能力を備えており、自身をあらゆる場所に転送できる『移動』、自分の分身を際限なく作り出せる『複写』、さらには自分の体の大きさを変更できる『拡大・縮小』などがある。さらにワープ郎の分析能力で敵の弱点を探り、あげだまの気合をもとに自信に必殺能力を付加する『気合カード』を生み出し、あらゆる敵に柔軟に対応できる能力がある。
 あげだまの気合・不屈の闘志とワープ郎の高性能な頭脳を兼ね備えたヒーロー。



キャラクター紹介2

『源氏あげだま』
登場作品:ゲンジ通信あげだま
性別:男
(外見)年齢:10(地球人でないため、正確な年齢は不明)
特技:お笑い(無自覚)・気合(?)
劇中ヴォイス:佐々木望(幽々白書:浦飯幽助, 機動新世紀ガンダムX:オルバ・フロスト)
備考:
 常に元気かつ能天気でお調子者な少年。
 ヒーロー星の夏休み(地球時間で一年間)を利用して地球の盛蕎麦市に遊びに来た。非常に正義感が強くて行動力もあるのだが、その性格からか空回りになることも多い。地球人でないためか体が常識外に頑丈で、高所から落とされても多生痛がるだけだったり、大気圏から地上に落下しても短時間延びている程度だったりする。転校初日にクラスメートになったいぶきに一目惚れし、良く行動を共にするようになる。
 「いたっきーっす!(頂きます)」や「サンキー(サンキュー)」といった挨拶を独自に略したものを口にする。


『ワープ郎』
登場作品:ゲンジ通信あげだま
性別:♂
年齢:不明
特技:情報分析・七変化
劇中ヴォイス:渡辺久美子(ケロロ軍曹:ケロロ軍曹, 勇者エクスカイザー:星川コウタ)
備考:
 あげだまとともに地球にやってきたワープロロボット。
 あげだまの最高の親友であり、相棒。七つの形態に変形可能であり、人目を気にしない自宅で過ごす際のボール状の体に兎さ耳と足をつけた『ロボット』、あげだまと学校に行くための『ランドセル』、地上を高速で移動できる『ポケバイ』、飛行可能な『ジェット』、潜水可能な『アクア』、動物を模した『アルマジロ』、休眠状態の『ボール』と言った変形形態を持つ。あげだまとは喧嘩することも多いが、彼のピンチになると駆け付け、あげだま変換してあげだマンとなる。
 語尾に「マル“。”」、「テンテン“・・・・・・”」、「ビックリマーク“!”」と言った表記を発音する特徴がある。


『平家いぶき』
登場作品:ゲンジ通信あげだま
性別:女
年齢:10
特技:ジャンケン、金魚すくい
劇中ヴォイス:三石琴乃(美少女戦士セーラームーン:月野うさぎ, 新世紀エヴァンゲリオン:葛城ミサト)
備考:
 正義感に溢れ、素直で優しい美少女。
 あげだまが地球に来て初めてできたガールフレンドで、当の彼女はあげだまが変身したあげだマンに恋い焦がれている(正体があげだまということは知らない)。
 九鬼家の権力に屈しない、誰にでも優しい、頭も良いと絵に描いたような美少女だが、極度の笑い上戸であり、そのエネルギーは底無しである。庶民的なスキルも高く、特にジャンケンと金魚すくいは最強の域。
 原作第五話にてあげだま達の推薦と応援のもと、盛蕎麦東小学校の生徒会長に就任した。


(C)NAS

以上!




[24668] 第三話『電波変換!星河スバル、オン・エア!』
Name: swoin◆b526f14f ID:a394d714
Date: 2010/12/01 23:35
 赤い服と奇抜なグラスを掛けた頭の少年は不思議な空間の中にいた。足元がなく、まるで宇宙に居るかのような浮遊感があり、回りは七色の輝きで満たされている。
 何故、自分はこのような場所にいるのだろうか。少年はここに来る前の記憶を掘り返していた。
「・・・・・・そうだ、あの妙な電波がこっちの方へ落ちてきて」
 コダマタウンの河川敷で夜空を眺めていた時のことを思い出した。夜空を飛び交う電波の海の中でただ二つ、まるで自分の意志を持つかのように動き回り、お互いに戦っていたものがあったことを。そして、たがいに落下していった二つのうちの一つが自分のもとへと来たことを。
 少年はより現状を把握するために周りを見渡す。すると、自分のすぐ近くにとんでもないものを見つけてしまった。

 そこにいたのは、蒼い鎧の様な体に緑色の光を放つ異様な怪物の姿だった。怪物の方も少年の存在に気がついたのか、その真っ赤な瞳を少年の方へと向けた。
「う、うわぁ!?出口・・・・・・出口!出口は何処ぉっ!?」
 少年は慌てて逃げようと中を泳ぐようにもがいた。しかし、宇宙遊泳の経験もない少年がその場から動けるはずもなく、無駄な足掻きに終わった。
「・・・・・・ガ・・・・・・ァ・・・・・・っ!?」
 少年が慌てふためく姿を余所に、怪物の方は苦しそうな声を出していた。それを聞いた少年は落ち着きを取り戻し、再び怪物の方へと視線を移した。怪物の方はまだ苦しいのか、声にならない声を微かにあげている。そんな悲痛な姿に少年の方も見ていられなくなったのか、思い切って声をかけてみることにした。
「・・・・・・どうしたの、君・・・・・・どこか怪我してるの?」
 少年はふと思い出す。河川敷で見た二つのぶつかり合う電波のことを。もし、目の前にいるこの怪物がその内の片方で逢ったのなら、今こうして苦しんでいるのにも納得がいく。
「そっか、さっきもう一つの光と戦った時に・・・・・・」
 このまま見て見ぬふりをする選択肢もあったかもしれない。自分はもとより誰かと関わりを持ちたいとは思っていなかったからだ。だから、この怪物のことも放っておけばいい。少年はそう思った。
 だが、少年にはそれができなかった。確かに誰かと関わりを持ちたいとは思わない。でも、ここで見て見ぬふりをするのは後々後悔し、自分を責め続けることになると、そう感じたからだ。だから、自然とこの言葉が出ていた。
「何か・・・・・・僕に出来ることはある?」
 その時、怪物は苦しさで閉じていた瞼を開き、少年の方を凝視する。
「!?・・・・・・お前の“周波数”・・・・・・」
「?何て言ったの?」
「・・・・・・いや、ただの掠り傷だ。ほっとけば治る」
 怪物はぶっきらぼうな口調でそう言ってそっぽを向く。
「良かった・・・・・・言葉が判るんだね」
 一方の少年は自分が思っていたよりも怪物が大丈夫そうだったことに安心し、何とか彼の近くまで体を運んだ。怪物の方も再び少年の方を振り向く。
「・・・・・・俺の名は『ウォーロック』」
「『ウォーロック』?」
「ああ、『FM星』から来た」
「・・・・・・『FM星』?」
 突然の聞きなれない言葉に少年は驚いた。この怪物ことウォーロックは自分がFM星と呼ばれる所からやって来たという。それが本当なら、彼は宇宙人ということになる。
 もし、ウォーロックが本当に宇宙人だとしたら、宇宙に想いを馳せる彼にとってこれ程までに嬉しいことはなかった。早速彼に何か質問をしようとする。
「・・・・・・・・・・・・シッ!」
 突然、ウォーロックがスバルの口を黙らせる。彼は何かを警戒するように周囲を見渡している。
「・・・・・・何?」
「誰か来る・・・・・・!」
 ウォーロックはそう言って体を緑色の光に変えると、少年の目の前から消えていった。
 それと同時に七色に光る世界が崩壊し、少年の周りには漆黒の宇宙が広がった。
「うわぁあああああぁぁぁぁぁっ!?」
 少年は何かに吸い込まれるように暗闇へと引き込まれていく。あまりの出来事に、少年の意識は再びそこで刈り取られた。
 そして、そんな少年の携帯電波端末である“トランサー”へと先ほどの緑色の光が入り込んでいった。






第三話
   『電波変換!星河スバル、オン・エア!』







 少年の身には疲れがどっと溜まっていた。あのウォーロックと呼ばれる宇宙人との邂逅の直後に気を失い、気がついた時には自分の家のリビングにいた。
 驚いて自分の傍にいた母親に何があったのか尋ねると、自分はあの河川敷で気を失って倒れていたところを“サテラポリス”に保護され、彼女の寄り添いのもとで家まで歩いて帰って来たという。(ちなみに、サテラポリスとは多様化する電波災害や犯罪に対抗するために警察内に立ち上げられた電波関係専門の部署である。)少年にはそんなことがあったなど記憶にない。ただ、記憶にあったのはあのウォーロックとの邂逅までの一部始終だった。
 母親は今、疲れているのだと言って自分に休むように促され、少年は納得できないまま自分の部屋のベッドへと体を落とした。
「変だよなぁ・・・・・・サテラポリスに言った時の記憶がまるでないなんて」
 いくら何でも、サテラポリスに居た時の記憶がないのはおかしかった。ましてや、そこから自分の足で帰ったのなら記憶にないのはおかしい。
「・・・・・・宇宙人も、夢だったのかな?」
「夢なんかじゃないぜ」
 突然、聞こえてきた声に驚き、少年は身を起こした。
「誰!?」
「名前は名乗ったはずだ」
「ウォーロック!何処なの!?」
 声の主を探してあたりを見渡すが、部屋には誰も見当たらない。
「お前の目の前だ、“ビジライザー”を着けてみろ」
「ビジライザーを?」
 そんな彼の姿に呆れるかの如く、声の主はそう言った。少年は言われたとおりに自分の頭に着けている奇抜なグラスこと『ビジライザー』を自分の眼元へ掛けた。
「よぉ」
「うわぁっ!?」
 ビジライザーを掛けた瞬間、少年の目の前に先ほどの宇宙人ことウォーロックの姿が顔面アップで現れた。正直、心臓に悪い。
「喧しいな・・・・・・そう何度も驚くな」
 このビジライザーは電波を人間の視覚可能領域に変換して写す機能を有している。つまり、ビジライザー越しでしか見えないウォーロックの体は“電波”で構成されているということだった。
「やっぱり夢じゃなかった・・・・・・でも君、今まで何処にいたの?」
「ずっとお前と一緒にいたぜ・・・・・・お前が腕に着けてるその電波端末に隠れてな」
「『トランサー』に・・・・・・?」
 少年は驚いて自分の左腕に着けているポケットノートPCサイズの電波端末『トランサー』に目をやった。
 現在、地球上のあらゆる地域で電波技術が普及しており、その恩音を受けるために人々は自分専用の電波端末を所持している。少年が使っているこのトランサーもその一つであり、電話やテレビといった情報通信機能のみならず、巷を騒がせている『電波ウィルス』もある程度駆除できる機能を持った端末である。とりあえず、この話は横に置いておこう。
「あのとき、俺の“電波”を嗅ぎつけて地球人たちが俺達のところにやって来ていた。だから、俺はそのトランサーの中に隠れたんだ。お前以外の地球人と接触して騒がれたくなかったんでな」
「そうだったのか・・・・・・」
「そういうこった。しばらく隠れ家に使わせてもらうぜ」
「うん・・・・・・・・・・・・」
 少年はあまりのことに思考が付いていかなかったのか、呆然と頷いた。
「それと、俺のことは誰にも秘密だ・・・・・・いいな?」
「え・・・・・・・・・・・・」
 少年はどんどん話が進んでいくことに戸惑った。何故、突然現れた彼にここまで話を進められなくてはいけないのか。
 だが、少年はウォーロックを拒否しようとは思わなかった。ここで彼を追い出したら、彼にはいくところが無くなってしまうような気がしたからだ。それはそれで可哀想に感じ、少年は彼の言うとおりにすることにした。
「うん、いいよ・・・・・・何だか悪い宇宙人じゃなさそうだし」
 何より、少年は何故かウォーロックに対する印象がさほど悪くなかった。何故、そう思うかは少年にも分からなかったが、目の前にいる宇宙人はそう危険なものではないと感じていた。
「僕は『星河(ほしかわ)スバル』、よろしく」
 改めて自己紹介をする少年ことスバルを余所に、ウォーロックは部屋の外にあるベランダへと体を運んでいた。
「ウォーロック・・・・・・ッ!?」
 彼の後を追ったスバルが窓に額をぶつけた。電波の体のウォーロックならともかく、実体を持つスバルの体では窓をすり抜けることが出来ないことを忘れていたからだ。スバルは痛みが残る額をさすりながら窓を開けてベランダへと足を運んだ。
「イツツ・・・・・・ウォーロック、どうしたの・・・・・・!?」
 スバルがビジライザー越しにベランダで見たものは今まで見たことのない光景だった。
 夜空を走る黄色い“道”が何本も走る世界。その上を数多の電波が物凄い速度で車の様に行き来する光景。スバルはしばらく、その光景に目を奪われた。
「・・・・・・地球人の肉眼では見えないが、これが俺達FM星人達が住む“電波の世界”だ」
「凄いや・・・・・・こんなにはっきり電波が見えるなんて。FM星人の君の力がビジライザーの性能を引き出したのかな?」
 今までのビジライザーでは見ることができなかったことを考えて、スバルはそう憶測した。
「電波世界の宇宙人か、父さんが訊いたら驚くだろうなぁ・・・・・・僕の父さんは宇宙人とのコンタクト実験をしてたんだ、宇宙ステーションで」
 彼の父、『星河 大吾(ダイゴ)』は日本の宇宙開発公団『NAXA(ナクサ)』の職員であり、宇宙ステーション『きずな』の乗組員として地球外生命体とのコンタクト実験に携わっていた。だからだろうか、目の前に其の地球外生命体がいるが故にスバルが興奮してしまうのは。自分の父親が目指した者がすぐ隣にいるのだから。
 当の宇宙人であるウォーロックはそんなスバルを余所に夜空を見上げて不意に口を開いた。
「・・・・・・やはりそうか」
「え?」
「お前は“星河大吾”の・・・・・・」
「!?ウォーロック、僕の父さんを知ってるの!?」
 彼の口から自分の父親の名が出てきたことにスバルは動揺を隠せなかった。
「ああ、“周波数”がそっくりだ」
 ウォーロックは父親のことを知っている。その事実にスバルはウォーロックに詰め寄った。
「教えてくれ、ウォーロック!宇宙ステーションで何があったの?父さんは生きてるの!?」
 NAXAの宇宙ステーション『きずな』はコンタクト実験の最中に突然音信不通となり、そのまま行方が分からなくなってしまった。その後の必死の捜索にもかかわらず、ステーションはおろか、乗組員の行方すら確認が取れず、捜索は打ち切りとなってしまった。その捜索中に唯一発見した星河大吾の発明品であり所持品である「ビジライザー」は、スバルにとって行方不明となっている父親の形見である。
 思わぬところで宇宙ステーション関係の事を知ったスバルは必死にウォーロックに尋ねた。彼が父親の行方を握る唯一の手掛かりだったからだ。
「・・・・・・・・・・・・」
 だが、当のウォーロックは沈黙を保ったままだった。
「答えてよ、ウォーロック!!」
「・・・・・・親父さんが宇宙ステーションに乗ってたことは知ってるが、それ以上は何も知らねぇ」
「でも君は父さんが発明したこのビジライザーのことを知ってたじゃないか!」
 尚も追及してくるスバルに嫌気を感じたのか、ウォーロックは肩をすくめる。
「チィ・・・・・・まだ傷が痛みやがる。悪いが、休ませてもらうぜ」
「!?ウォーロック!!」
 ウォーロックはそう言い残してスバルのトランサーの中へと消えていった。そうして残る静寂の中、スバルはやりきれない気持ちで自分のトランサーを見つめていた。






『・・・・・・次のニュースです。近年、我々人類の電波社会を脅かす存在である“電波ウィルス”の被害がここ最近で増加傾向にあります』
 そんな朝のニュースを観ながら友枝家の朝食は進んでいた。
「母さん、ソースを取って」
「はいはい」
 ショウキはハルカからソースを受け取り、それを目玉焼きにかけて口に運んだ。
「ほら、口元にソースがついてる」
「ん・・・・・・」
 ハルカに指摘されてショウキは口元をなめる。遥はテレビの方へと目を向けた。
『一般家庭の電波ネットワークに接続された電子機器の身にかかわらず、公共の重要な機械制御システムにも影響が出ており、消防・医療の分野にも深刻なダメージが現れないか警戒されています』
「本当に物騒ねぇ・・・・・・この間だって、盛蕎麦市の方で怪物騒ぎだし」
 ハルカがそう言った途端、ショウキの箸が止まる。ショウキの脳裏に盛蕎麦市で起こった出来事が再生される。合成獣が現れ、気合のヒーロー『あげだマン』と共闘して戦った記憶が。
「そういえば貴方って昨日、ルミちゃんと一緒にあそこに行ったのよね。ま~た危ないことに首を突っ込んでるんじゃないでしょうね?」
「やだなぁ、いくら子供が好奇心旺盛だからって・・・・・・僕だって流石に自分の命は惜しいよ」
「そう・・・・・・でも、あまり心配をかけないで頂戴。貴方の・・・・・・貴方達の身に何かあってからじゃ遅いんだからね?」
 明るい食卓を壊すまいと無理やりつくったであろう苦笑いを浮かべている遥の姿に、ショウキも釣られて苦しい笑みになる。彼女も自分の息子のことが心配でたまらないのだ。電波ウィルスに怪物騒ぎ、さらに治安の悪化とくれば心配にもなるだろう。
(それなりに『危険』と隣り合わせの世界に身を投じることになるぜ。場合によっちゃ死ぬかもしれない。一度入ったら絶対に抜け出せないぞ・・・・・・覚悟はあるんだろうな?)
 ルミを危機から救うために選んだとはいえ、母親の心配に背いているという現実にショウキは胸が締め付けられた。まだ、どんな危険があるかはわからないが、彼女の想いに背いていることが苦しかった。
「分かってるよ、母さん」
 とりあえず、今はそう言っておくことにした。まぁ、今考えても仕方がないと彼の楽天的思考回路が判断したようだ。
「本当に分かってるの?風邪が流行ってる時みたいに“自分は関係ない”って思ってたらいつの間にか自分がそうなってることってよくあるのよ」
「『明日は我が身』ってやつ?まったく、母さんは大げさ何だから・・・・・・」
 ショウキが呆れて再び箸を進めた時、彼のポケットにあるウェーブスキャナーからメールの受信メロディが流れる。受信したメールを確認するために、ショウキは再び箸を止めてウェーズスキャナーを取り出す。
「お!あげだま君からか、一体何事かなぁ・・・・・・?」
 ショウキがメールの本文を確認しようとしたその時だった。

 ショウキのウェーブスキャナーのモニターにノイズが走り、暗転した。
「・・・・・・あ、あれ?」
 電源ボタンを操作しても一向に受け付けないウェーブスキャナー。それを見計らうように、テレビのニュースでこう流れる。
『尚、ここ最近の電波ウィルスによる物的被害の対象となっているものはバージョンの古いタイプのウェーブスキャナーが大半で、既に3000件近くの被害報告が確認されています。サテライト管理局は端末機器開発業者と連携しての対応に追われており・・・・・・』
 ショウキとハルカはそろってテレビの方へと目がいく。その後、ハルカも慌てて自分のそれを確認すると、ショウキと同じ状態となっていた。
「・・・・・・まさに『明日は我が身』、だね・・・・・・」
 ショウキの顔は苦しくも笑顔だったが、被害者に含まれてしまった時点で笑えなかった。



 朝食をとった後、ショウキはすぐに自室で着替えを済ませ、封筒に入ったお金を確認していた。隣ではウィンが怪訝そうな顔つきでその姿を眺めている。
「お前、一体何やってんの?」
「母さんから預かった修理用の代金を確認してるの」
 二人のウェーブスキャナーが電波ウィルスのせいで壊れてしまったため、ハルカは急いで修理を受け付けてくれる手ごろな業者を探した。電波環境が普及している今の社会、その恩音に与かれなければ生きていくのは大変難しい。私生活に大きな影響が出る前に友枝家はウェーブスキャナーの修理を優先することにしたのだ。
「修理してくれるところを母さんが探し当てたんだけど、どうもここからじゃちょっと距離があるみたいでさ」
 ただし、友枝家の資産は母親であるハルカが一人で切り盛りしている状態にあるため、より安く、より安心できる所に限定される。だから彼女はあえて近場ではなく、安くて評判のいいところを探した訳だ。
「ふ~ん・・・・・・で、それがどうしてお前が銭勘定をしてる理由と結びつくんだ?」
「ふっふーん♪」
 ウィンからの問いかけに、ショウキは不意に唇を釣り上げて笑った。その顔に、ウィンは何故か背筋に寒気を覚えたという。



 その日、友枝家の住むマンションの屋上からウィングルが翼を広げて羽ばたいた。ただし、目的は悪党の成敗でもなければ、化け物の退治でもない。
「いやぁ、ウェーブスキャナーが壊れちゃったらモノレールにも乗れない世の中だからさぁ。便利なようで不便だよねぇ」
「・・・・・・だからって、T(トランス).E(イークイップ)をお使いの脚に使う奴は初めてだぞ」
 ウィングルの頭の上でウィンが呆れた表情で愚痴をこぼした。
 ハルカが見つけた修理センターはここより離れた場所に位置しており、そこへ行くにはモノレールを使用しなければならなかった。だが、ウェーブスキャナーがなければ駅の改札口を通ることができないため乗ることができない。
 そんな時にショウキが「そこへ行くための伝手が自分にはある」と手を挙げ、彼自身が遥の分も含めて修理に持っていくと申し出た。最初はハルカも怪訝そうな顔をしたが、修理が安く済むなら越したことはないと思い、愛息子に任せることにした訳だ。ちなみにハルカは、休日中に家で済ませなければいけない家事が溜まっているために留守番である。
「で、修理センターがあるのはコダマタウンだっけか。そこに向かえばいいんだな?」
「そういうこと。超特急で頼むよ」
「へっ・・・・・・舌噛むんじゃねぇぞ」
 ウィングルは翼を羽ばたかせて高度を上げると、目的の町へ向かって飛んで行った。






 一方、コダマタウン行きのモノレールの車内ではあげだまといぶきが二人揃って乗っていた。
「・・・・・・結局、ショウキさんから返事が来なかったなぁ。せっかく、ショウキさんも誘って遊びに行こうと思ったのに」
「そうよねぇ、ルミさんもルミさんで今日は家の用事があるって断られちゃったし」
 二人は、昨日の四人で親睦会も兼ねて隣町へ遊びに行こうとショウキ達に誘いのメールを入れたのだが、運悪くショウキのウェーブスキャナーはお釈迦になって音信不通、ルミもルミで家庭の事情で来られなくなっていた。仕方なく、二人だけで遊びに行くことになったのだ。
「まぁ、仕方ないから今日は二人で思いっきり楽しもうぜ、いぶきちゃん!」
「そうね、思いっきり楽しみましょう、あげだま君!」
(僕もいるんだけどなぁ、テンテン)
 楽しそうにはしゃぐ二人と正反対に、ランドセル携帯であげだまに背負われているワープ郎が、二人の会話を聞いて寂しそうに影を落としていた。



 あげだま達が乗っている車両の後ろの車両では、スバルが乗っていた。
『ほぉ~、これが人間の町か。なかなか面白そうなところじゃねぇか』
 スバルのトランサー越しからウォーロックが窓の外の街を眺めてはしゃいでいる。
「ウォーロック、怪我の方は大丈夫?」
『ああ、一晩寝たら楽になったぜ』
 トランサーのモニターに映るウォーロックはそう言って腕を捲る様な仕草をして見せる。そして、急にその表情を真剣なものへと変えた。
『それよりもスバル、俺以外のFM星人には気をつけろよ』
「それって、君が昨日戦ってたもう一人の方?」
『一人だけじゃねぇ。俺以外にも九人のFM星人達がこの地球に来ているはずだ・・・・・・地球を“破壊”する目的でな』
「地球を“破壊”だって!?」
 突然、ウォーロックの口からとんでもない言葉が出たことに驚き、スバルは大声で返してしまう。そのため、車内ではスバルの大声に反応して彼に視線が集まっていた。流石にスバルも気まずさを感じたのか、頭を掻いて車両の端の方へと移動した。そんな彼に構わず、ウォーロックは話を続ける。
『・・・・・・FM星人は好戦的な種族だ。その昔、俺の生まれる前だが“AM星”とかいう兄弟惑星をこの宇宙から“抹殺”したと聞いている。今、地球で騒がれている電波ウィルスも、実はFM星の産物だ。自分達以外の他の生命体を滅ぼすための無差別攻撃としてな』
「電波ウィルスがFM星のもの・・・・・・!?」
『ああ。地球の存在を知った以上、電波ウィルスによる攻撃はますます激しくなる一方だろう』
 スバルは呆然とした。ただの災害、電波障害でしかないと思っていた電波ウィルスが、実は宇宙からの侵略攻撃として送り込まれたものだとは思いもしなかったからだ。それも、それがウォーロックの故郷からというのだから、尚のことである。
 だが、スバルはふと一つの疑問が浮かぶ。
「じゃあ、どうして同じFM星人の君がそんなことを僕に教えるの?これって、十分過ぎる裏切りだよね?」
『さぁな・・・・・・ただ、連中と一緒にいるのが嫌になったからそうしただけだ』
 そんな会話をしている間にモノレールは目的地へと到着し、スバルは駅へと降りて改札口を目指した。
「あ~あ、隣町の病院かよ・・・・・・」
「!?」
 スバルの前方で、彼に聞き覚えのある声が聞こえた。スバルが前を見やると、少女一人とそれを取り巻くような形で二人の少年が歩いて来ている。彼女達はスバルとっては会いたくない三人組だった。
「おっと・・・・・・!」
 スバルは慌てて物陰に身を隠した。そんな彼に気づかず、彼女達は駅の改札口を通っていく。
「文句言わない、校長先生のお見舞いだって委員長の大事な役目よ」
 そう言って前を歩いている左右に長く螺旋状に延びる金髪ツインテールヘアーの少女の名は『白金(しろがね)ルナ』。コダマ小学校5年A組委員長であり、同小学校の生徒会長を目指して活動している。
「そうそう、これも一つの点数稼ぎです」
 彼女の後ろを歩くメガネを掛けた小柄な少年は『最小院(さいしょういん)キザマロ』。三人組の中では参謀的な扱いであり、生徒会長を目指すルナを頭脳面で支えている。
「はぁ、大変なんだな。生徒会長になるのって」
 そのさらに後ろにいる図太くて大柄な少年は『牛山(うしやま)ゴンタ』。見た目通りの力自慢であり、三人の中で力仕事やルナのボディーガードを務めたりする。
『・・・・・・FM星人か!?』
「違うよ、クラスメートだよ」
『クラスメート・・・・・・敵か?』
「的でも味方でもないよ。でも嫌いなんだ・・・・・・僕を無理やり学校へ引っ張り出そうとするから」
 実は昨日、スバルが自宅にいたところを彼女らがそこへ押し掛けており、スバルを無理やり学校へと引っ張っていこうとしたのだ。それが友達思いからというのならばまだスバルも許せるだろう。だが、彼女らの目的はあくまで“次期生徒会長に選ばれるために登校拒否生徒を登校させたという実績を得るため”であり、結局は点数稼ぎだ。これではスバルでなくてもいい想いはしないだろう。
『“ガッコウ”とは何だ?』
「いいよ、ウォーロックは知らなくて」
 いい加減、スバルも早く忘れたいことなのでウォーロックの質問に答えずにトランサーのカバーを閉じた。






 場所は変わって薄暗いドーム状のモニターで囲まれた広い空間。そこで、ジッポをカチカチと片手で開閉しながらモニターに映る情報をサングラス越しにじっと見る男がいた。
 男は目がちかちかするようなモニター情報をじっと見ており、尚もジッポの開閉を続ける。そんな彼の後ろを怪しく光るのキーボード端末が付けられたリフトに乗って二人のゴーグルを装備した女性が移動している。
「・・・・・・“ワイルド1”を補足しました」
「周囲のデータを取り込みながら拡大中、サテラポリスの電波ウィルス監視システムからコダマタウンの通信ネットワークシステムへと移動していきます」
 彼女らのその報告を聞き、男は忌々しそうにジッポを開閉するペースを上げる。
「・・・・・・トレーサーを撃て」
「了解」
 男の指示によって打ち出されたトレーサーが“ワイルド1”と呼ばれるものへと向かっていることがモニターの情報に表示される。
「トレーサーのバーチャルビジョンです」
 そして、モニターはデジタルネットワークを疑似視覚化したものへと切り替わる。そこに映っていたのは、正体不明の影が走っている姿だった。それを見た瞬間、男はジッポの開閉を止め、それを握る手に力を込める。
「こいつは、“リアライズ”しようとしているのか・・・・・・!?」
 その後、走っていた影が急にモニターの方へと近づいていき、その図太い腕をこちらに向かって振り下ろす。そして、その場に響いたのは“トレーサー消失”を示すアラームだけだった。






 そして、事件はスバルが駅を出て直後に起こった。
 突如スバルの背後から響く爆発音。彼が振り向いた先には、自分が先ほど乗っていたモノレールが高所に設置されたレールから外れ、今にも千切れるように落下しそうな状態だった。
「あれは・・・・・・!?」
 さらに追い打ちをかけるように、レールからは正体不明の爆発が連続して起こる。
『電波ウィルスだ・・・・・・!』
「電波ウィルスだって!?」
 トランサーに要るウォーロックにそう言われ、スバルはすぐにビジライザーで確認する。そして、スバルは息を呑んだ。人間の視覚領域に変換されて見える電波ウィルスの数は半端なく、それこそモノレールを中心に線路上に蟻の群れがまとわりついているかの如くいるのだ。
「大変だ、サテラポリスを呼ばなくちゃ・・・・・・!!」
 スバルがすぐにサテラポリスを呼び出そうとトランサーの電話機能を使用するが、画面にはエラーの文字が走った。
「クソッ!何でこんな時に電話回線がつながらないんだよ!?」
 スバルがイラつきながらトランサーを操作していると今度は事件現場の方から少女の悲鳴が響いた。再びモノレールへと目を向けると、扉のはがれたモノレール車両の出入り口から一人の少女が両手でぶら下がった状態で車両から落ちそうになっていた。
「あの子は・・・・・・委員長!?」
 その少女はスバルを学校へと連れていこうとした学級院長こと白金ルナだった。
『・・・・・・さっきの連中か』



「助けて!助けなさいよ、早く!!」
「委員長、じっとしててください!下手に動いたら車両がさらに傾いちゃいます!」
「すぐに助けるから大人しくしてくれ!!」
 車両を下手に揺らすまいとじっとしがみつくキザマロと、ルナを引っ張り上げようと手取っ手につかまりながら手を伸ばすゴンタ。しかし、車両は線路上の爆発でさらに不安定さを増し、ゴンタの伸ばす手もルナにあと一歩届かない状態だった。



「キャアァッ!!ど、どうしよう!あげだま君!?」
「いぶきちゃん、とりあえず落ち着いて!!」
 コダマタウンに遊びに来ていたあげだまといぶきも事件現場を目撃していた。そして、ルナが車両から宙釣りとなって現れた時、いぶきは悲鳴を上げた。
「でも、このままじゃあの娘が・・・・・・!!」
(どうしよう・・・・・・すぐにでも助けに行きたいけど、いぶきちゃんが近くにいちゃ変身できないぞ!?)
(かといって上手く離れ離れになる口実も思い浮かばない、ビックリハテナ)
 すぐにでもあげだマンに変換して駆けつけたいところだが、いぶきがあげだまにしがみついており、変換できない状態にあった。



 今にも落ちそうなルナの姿にスバルの心には焦りが広がっていく。
「どうしよう!?早く助けなくちゃ・・・・・・!」
『お前が助けにいくのか?』
 ウォーロックにそう言われ、スバルは焦った。
「え!?僕には無理だよ!!」
 そう言っている間にもルナの悲痛の叫びが木霊する。
「そうだ!ウォーロック、君なら何とかできる?FM星人の力で!?」
『生憎、俺の体は非物質なんでね。救助どころか握手もできねぇよ。第一、地球人を助ける筋合いもねぇしな』
「そんな・・・・・・!?」
 ウォーロックのあまりに無慈悲な物言いにスバルは言葉をなくした。そうしている間にも、彼女達を追い詰めるかの如く線路で爆発が起きる。
『お前だってあの連中のことを煙たがってたじゃねぇか。いいからほっとけほっとけ、とばっちり受ける前に早いとこ行こうぜ』
 ウォーロックがそうやってその場から去るようにはやし立てるが、スバルはモノレールにぶら下がるルナを、それを必死に助けようとするゴンタ達の姿を見る。
 確かに、あいつらは気に入らない奴らだ。自分の嫌がることをしておいて自分達のことしか考えていない。ウォーロックの言う通り、助ける筋合いは自分にはない。
「・・・・・・でも」
 でも、ここで見捨てたらきっと後悔すると思った。もし、彼女達の身に何かあったら誰のせいになるだろうか。すぐ近くに手の伸ばせる場所にいた自分が、その場にいて何もしなかった自分のせいになるんじゃないか、そんな風に感じてしまう。そう思うと、凄く怖かった。
 だから、スバルは意を決し、彼の足は自然と動いた。そして彼は線路の柱に設置された非常用の梯子へと向かっていた。



 その頃、モノレールの事故現場に向かって大量の緊急車両が走っていた。事件現場を遠くより見ていた住民からの通報を受け、警察、サテラポリス、消防隊などが現場へ急行していたのだ。
「クソッ・・・・・・今回に限って大量の電波ウィルスか!被害が拡大する前に急げ!!」
 先頭を走っていたパトカーに乗っていた男ことサテラポリス警部『五陽田ヘイジ』がトランサーで部下に指示を飛ばす。すると、それに割り込んでくるかのように彼のトランサーに通信が入った。警察署刑事課課長の羽田飛鳥だった。
『五陽田警部!サテラポリスの対電波ウィルス監視システムは何をやっていた!!こんなことが起きないようにフル稼働させてたはずだろう!?』
「も、申し訳ない、羽田警部。しかし、我が方の電波ウィルス監視レーダーがコダマタウン方面で突然誤作動を起こし、急いで復旧作業に取り掛かっている最中にこのようなことが起こって・・・・・・!」
『チィ・・・・・・言い訳は始末書の中だけでいいんだよ!とにかく、こっちは付近住民の避難誘導を優先する!被災者の救助は消防署の連中に任せておけ!いいか、お前らは電波ウィルス共の駆除を最優先だ!』
「了解した、よろしくたのむ!」
 そう言ってトランサーの通信は途切れた。五陽田は目つきを鋭くし、自分達が向かっている事件現場の方を睨みつけた。
「原因不明の誤作動に、それに伴って現れた大量の電波ウィルス・・・・・・本当にただの偶然なのか?」



 スバルは非常用の梯子を上り、線路の上へ移動した。高高度に設置された線路上から見下ろす地上は広く、そこを歩く人々は米粒の様に小さく見える。スバルは恐怖で息をのんで見下ろすのをやめた。そしてスバルはビジライザー越しに数多の電波ウィルスを睨みつけた。正直、数が半端ない。民間の間にもある程度は電波ウィルス対策としての対抗手段が出回ってはいるが、せいぜい身近な家電製品に取りついたものを駆除する程度だ。これほどの数を相手にするのは無謀に近いだろう。だが、この先では助けを求めている人たちがいる。スバルは、ここで彼女達を見捨てて後悔するのは絶対に嫌だった。
 腹を括ったスバルはトランサーのバトルカードホルダーからカードを抜き出し、それをトランサーのカードスロットへと挿入する。
「くらえっ!!」
 カード挿入と同時にトランサーから攻撃信号が送られ、電波ウィルス達がそれの影響を受けて消滅していく。スバルは立て続けにバトルカードを使い、また一体、また一体と電波ウィルスを駆逐していく。
 だが、その圧倒的物量差の前ではそれはあまり効果がなかった。やっとスバルの倒した電波ウィルスが二桁になった頃に数多の電波ウィルス達はスバルの方へと狙いを定め、津波のごとく押し寄せてきたのだ。
「ひっ・・・・・・!?」
 スバルは慌てて逃げた。やはり無謀だったのだ、自分一人の力ではこれだけの電波ウィルスを相手にするなど無理だったのだ。スバルは必死に逃げ続け、電波ウィルスは執拗に追い続ける。
 そんなとき、スバルは足を滑らせてその場に転倒してしまった。そんな彼に容赦なく襲いかかろうとする電波ウィルス。その時、トランサーの中から慕う地と共に緑色の光が飛び出し、電波ウィルスの群れの中を暴れるようにかき回し突き抜けていく。光が突き抜けた先には電波ウィルスの姿はなく、光の嵐が消えた後に残ったのは、スバルとその目の前で佇むように浮かぶ光ことウォーロックの姿だった。スバルが姿勢を起こしてウォーロックの方を見ると、ウォーロックの顔には強気な笑みが浮かんでいた。
「仕方ねぇ、力を貸してやる」
「ウォーロック・・・・・・?」
 驚いたスバルは呆然とウォーロックの方を見ていた。
「ただし、お前の“体”を借りるぞ。『電波変換(でんぱへんかん)』だ」
「で、電波変換?」
「そうだ!!」
 ウォーロックは何の前振りもなく体を光に変えるとそのままスバルに向かって突進してくる。
「うわぁあああああぁぁぁぁぁっ!?」
 驚いたスバルは何もできずに光となったウォーロックの突進を受け、その光に包まれてしまった。



 光の中でスバルの体に対し、ウォーロックが背後から抱きかかえるように包み込む。ウォーロックの体を構成する光こと電波の波がスバルの手足を包み、その光が消えた時には彼の体は深蒼のボディースーツが、手足にはウォーロックの蒼いアーマーとよく似た装甲が装着される。頭部にはウォーロックの頭部アーマーとよく似た配色のゴーグル付きヘルメットがかぶさり、最後にスバルの左腕にウォーロックの頭が丸々と現れてその瞳を輝かせる。
 ウォーロックに包まれた光が消えた先にいたのはスバルでもウォーロックでもなく、蒼いアーマーに身を包んだ少年の姿だった。いや、正確には彼はスバル本人で間違いない。だが、その格好は先ほどの彼とは全く異なったものになっていたのだ。
「僕は一体・・・・・・?」
 スバルは驚いて自分の今の格好をまじまじと見ていた。自分の左腕は何故かウォーロックの頭になってしまっている。
「僕は・・・・・・僕の体は・・・・・・!?」
「お前は今、俺と合体して電波世界に居るんだ。」
「電波世界に・・・・・・?」
 ウォーロックにそう言われ、スバルは周りを見渡した。ビジライザー越しでしか見えないはずの電波世界がはっきりと見え、スバルは呆然とする。その直後、不意打ちの様にスバルの体は足元の線路からすり抜ける。
「うわぁ!?」
「落ち着け!」
 落下は何とか右腕が線路に引っ掛かるようにしてとまったが、それ以外は完全に線路を突き抜けてしまい、スバルの体は線路の下に広がる高高度からの恐怖を煽るような景色のど真ん中にいた。
「ひぃっ!?」
「いいか、電波ウィルスと戦うために電波変換してお前の体を非物質化した。お前は『電波人間(でんぱにんげん)』なんだ」
「電波人間だって!?」
 つまり、ビジライザーなしに電波世界が見えたりスバルの体が線路から突き抜けたりしたのは、“自分自身が電波”に変わってしまったからなのだ。
「そうだ、戦えスバル!!」
「そんなこと急に言われたって・・・・・・うわぁっ!?」
 戸惑うスバルなどお構いなしにウォーロックは話を進め、スバルの左腕となった状態のまま彼を線路の上まで引っ張り上げる。スバルが線路の上に出た瞬間、彼を待っていたものは再び津波のように押し寄せる電波ウィルスの群れだった。スバルはその光景に再び息をのみ、身を下がらせる。そんな彼にお構いなく、電波ウィルス達はスバルめがけて迫っていった。
「で、電波ウィルス!?く、来るな・・・・・・来るな!!」
 スバルが恐怖のあまり我武者羅に腕を振り回す。するとどうだろう、その腕にぶつかった電波ウィルスがまるでボールのように大きく飛び、他のウィルス達を巻き込んで消滅していく姿だった。
「!?な、何だこの力は・・・・・・?」
 スバルは呆然とした。人間である自分に、それも子供であるはずの自分にこんな力などある訳がない。電波ウィルスだって実体を持たないとはいえその力はモノレールを壊すほどに強大だ。それなのにこの結果である。スバルは驚いて電波ウィルスを吹き飛ばした自分の腕を見る。
「おい、何感心してんだ!ボサッとすんな、おら次だ!!」
 左腕となっていたウォーロックにそう言われ、彼に引っ張られるようにスバルの視線も電波ウィルスの群れへと向いていた。そこに先ほどの様な恐怖はない。スバルはまっすぐと目の前の敵に狙いを定め、足腰に力を込めた。



 一方、モノレールの被害はさらに拡大していた。モノレールと線路をつないでいる車輪はボロボロになって外れており、ルナがぶら下がっている車両にも大きな亀裂が入っている。
「もう、早く助けなさいよ!!」
「そんなこと言ったって・・・・・・!!」
 ゴンタがさらに手を伸ばそうと姿勢を傾けるとそれに釣られてモノレールはさらに傾いてしまう。
「バカッ!下手に動くと落ちるでしょ!?」
「い、今助けるからな、委員長!!」
 ゴンタは自分の背後で手すりにつかまっていたキザマロの襟を掴むと、キザマロ諸共そのままルナの方へと差し出した。
「ひぃ!?こ、怖いですよ!!」
「怖いのは俺も一緒だ!!」
 ゴンタはそう言って姿勢を低くしてキザマロをさらにルナの方へと近づける。
「も、もう少し・・・・・・!」
 キザマロの腕がルナの方へと近づいていく。
 だが、あと少しというところで彼女達は不幸に見舞われる。車体の亀裂が限界まで達し、少女と少年達を引き裂くように車体は真っ二つに分かれてしまった。悲鳴を上げて遠ざかっていくルナ。
「「委員長!?」」
 二人が慌てて駆け寄ってみると、そこにはまだ何とか車体にしがみついているルナの姿があり、とりあえずの安堵を浮かべた。



「きゃあっ!?」
 ルナのしがみついていた車両が引き裂かれた光景を目の当たりにし、いぶきはさらに悲鳴を上げた。しかも彼女がしがみついている方の車体はいつ落下してもおかしくない状態だ。もしあの高度から落ちたら助からない。
 あげだまもその光景に我慢がならず、急いで助けにいくことを決めた。
「待ってて、いぶきちゃん!俺が何とか助けを呼んでくるから!!」
「あ、あげだま君!?」
 あげだまはそう言っていぶきの手を振り払い、人気のない裏路地へと駆け込んだ。いぶきの心配はとりあえずは大丈夫だろう。問題は一秒でも早くモノレールに取り残されて人々を救うことにある。
「いくぞ、ワープ郎!!」
「待ってました、ダブルビックリ」



 線路上の電波世界ではスバルが素早く軽やかな動きで電波ウィルス達を翻弄し、次々と薙ぎ払っていた。あるものは拳で貫き、あるものは手刀で一閃し、あるものはウィルスの群から千切って投げる。まさに圧倒的だった。
「凄いや、凄い!体が羽みたいに軽いぞ!!」
「!?おい、気をつけろ!!」
 あまりの展開に油断していたスバルにウォーロックが背後から迫るウィルスを感知して警告と飛ばす。スバルが気付いた時にはすぐ近くまで来て攻撃の態勢でいたため、慌てて後ろに向かって跳躍する。だが、スバルが飛んだ先にあったのは広くそびえたつビルの壁だった。
「!!うわぁっ!ぶつかるぅっ!?」
 ビルの壁が眼前まで近づ息、スバルは思わず目を瞑る。だが、衝撃はなく、先ほどの線路を突き抜けた時と同じようにビルの壁も突き抜けてしまった。
「!!驚いたなぁ、ビルの壁を突き抜けちゃった」
「“電波”だからな、当然だ」
 感心しているスバルを余所に電波ウィルスの攻撃は執拗に迫り、先ほど突き抜けたビルの壁を破壊していく。そしてがれきは地上へと落下していき、そこを通りかかったパトカーの進路をふさいだ。パトカーからサテラポリスが降り立ち、破壊されたビルの方を見やる。
「電波ウィルスは我々の頭上だ!!総員、駆除を開始しろ!!」
 五陽田の指示を受け、背中に掃除機を模した対電波ウィルス用のバキューム装置を背負った隊員達が電波ウィルスのいるビルに向かって構える。引き金を引くと同時に装置は作動し、装置は電波の波で吸引を始めた。電波ウィルス達はその吸引に抗うことも出来ず、次々と物凄い勢いで吸い込まれていった。
 その光景を目の当たりにしたスバルはただその光景を眺めていた。
「サテラポリスだ!」
「ああ、昨日の鬱陶しい連中か」
 昨晩、スバルの意識があいまいな間、ウォーロックは彼のトランサーの中に隠れていたため、ウォーロックはついそんな言葉を漏らす。スバルはとりあえず安心し、視線をモノレールの方へと向けた。
「ここはサテラポリスに任せよう。今は早く彼女を助けなくちゃ!」
 スバルは急いでモノレールの方へと跳躍した。
 それと同時に五陽田の頭部に取り付けられた特殊電波探索アンテナがサイレンを鳴らす。それに気付いた彼はすぐに自分のトランサーから詳細な情報を見るためにカバーを開いた。
「!?この電波反応は・・・・・・・間違いない、昨夜の展望台の!!」
 アンテナが探知したものが昨夜に電波レーダーが受信した不審物と同一だったことを知り、顔をこわばらせた。五陽田も件の電波反応を追うため、その場から駆け出した。



 場所は変わって、コダマタウンが目視できる位置の上空。ウェーブスキャナーの修理にやってきたショウキことウィングルは真っ直ぐ目的の方角を飛行していた。
「お、見えてきた見えてきた。コダマタウンだ」
「ほんじゃ、さっさと用を済ませて・・・・・・」
 ウィングルの目視可能距離に入ったとき、ショウキとウィンは言葉を失った。街の方から上がる煙の存在が、コダマタウンで事件が起こっているということを教えていたからだ。
「・・・・・・煙!?」
「少なくとも、何処ぞの阿保がキャンプファイヤーやってるって落ちじゃないことは確かだな!」
 ウィングルはその瞳を鋭く細め、煙の上がっている地点を見据えて両翼を大きく羽ばたかせる。
「急ごう、ウィン!修理屋さんは後回しだ!!」
「ああ!思いっきり暴ようぜ、ショウキ!!」
 ウィングルは事件現場へと進路を変え、一気に加速した。



 線路からぶら下がるように揺れる半壊したモノレール車両で、ルナは必死に落ちまいとしがみついていた。自分の足元には何もなく、手を放した瞬間には目が眩みそうな高さから地面に向かって落下することになる。そうなったら確実に命はない。まだ生徒会長になるという夢をかなえていないのに、まだまだやりたいことがたくさんあるのに死ぬなんて御免だ。ルナは腕がちぎれそうなのを我慢していた。
 だが、彼女の命綱でもあるモノレールは無慈悲にも車輪の一つが線路から外れた。その衝撃でモノレールは大きく揺られ、その衝撃は彼女のしがみついていた手を引き離してしまった。
「きゃぁあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「「委員長!!」」
 キザマロとゴンタの目の前で地面に向かって落下していくルナ。彼女の最期がすぐ目の前まで来ているように見えた。
「“周波数帯”を変えろ!!」
「うんっ!!」
 ウォーロックの指示の下、素早くルナの側へと移動したスバルは自身の体の周波数帯を“電波空間で活動する”ためのものから“現実空間で活動する”ためのものへと変換し、人間の視覚可能領域へと現れる。そして、そのまま彼女を抱きかかえると無事に地面へ着地した。
「ふぅ・・・・・・間に合った。もう大丈夫」
「・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・え!?」
 ルナは恐怖のあまりにつぶっていた目を開けると青い目っとを装着した少年の姿が目の前にあった。ルナからは少年の顔はゴーグルに隠れて良く見えず、口元から表情が見てとれる程度だった。
「・・・・・・手を放してくれよ」
「は、はぅっ!?」
 よく見るとルナからもスバルの首に腕を回す形で抱きついており、ルナを地面に下ろした少年はそれを離す様に促していた。ルナは慌てて腕を話し、スバルから後ずさって赤面した。
「・・・・・・貴方が助けて下さったの?」
「・・・・・・怪我は?」
 ルナの問いかけに対し、スバルは優しく笑ってそう返した。
「い、いえ・・・・・・」
 スバルの微笑みにルナは更に心を撃ち抜かれたようで、赤面した顔はますます赤くなった。
「だ、誰だアイツ?」
「何者でしょう・・・・・・?」
 まだ線路にぶら下がっているモノレールから見える二人の姿にゴンタとキザマロが呆然としている。突然、蒼いスーツを身にまとった少年が現れ、ルナを救ったという事実に頭が追いついていなかったのだ。
 しかし、状況は彼らに休む暇を与えない。今度は彼らの乗っている車両の車輪が分解し、車体と線路が引き離される。
「「う、うわぁああああぁぁぁぁぁっ!?」」
「!?キザマロ!ゴンタ!」
「!!」
 スバルは急いで落下寸前のモノレールの真下へと移動する。ただ、そこへ向かっているのは彼だけではなかった。ひとつはビルの物陰から、もう一つは空から突風の様に向かっていく。そして、スバルとほぼ同時に到着し、落下してきたモノレールの衝撃がその場に粉塵を巻き上げる。粉塵が消え去った時にその場にあったのはスバルを含める“三人”でモノレールを地上で受け止めていた光景だった。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「・・・・・・・・・・・・お?」
「・・・・・・・・・・・・あれ?」
 三人はモノレールの下で顔を合わせ、お互いに目を丸くしていた。一人は蒼いスーツを身に付けたスバル、もう一人は赤いバトルスーツを身に付けたあげだマン、最後の一人は蒼い翼も使ってモノレールを支えるウィングルだった。
「あ!ウィングル!!」
「おお、あげだマンじゃない。こんなところで何やってんの?」
「いや、それはこっちの台詞・・・・・・」
 スバルをそっちのけで知り合い同士で話を始めるウィングルとあげだマン。
「あの・・・・・・とりあえず、“これ”を地面に下ろさない?」
 流石にスバルはこの状態のままというのも嫌なので声をかける。
「え・・・・・・ああ、そうだね」
「よし、ゆっくり下ろすぞ」
「あ、そっち気をつけてね」
 そんなこんなで三人はバランスを考えつつゆっくりモノレールを地面へと下ろした。そしてスバルのもとにあげだマンがゆっくりと歩み寄ってくる。
「いやぁ、驚いた。俺が助けに来た時には君にもう女の子は助け出された後だし、モノレールを支えに来たらウィングルまで出てくるし」
「え・・・・・・いや、あの・・・・・・君は?」
「あ、悪い悪い。俺はあげだマンって言うんだ、よろしく!」
「あ、うん・・・・・・よろしく」
 呆然とするスバルを余所に、今度はモノレールを飛び越えて降り立つウィングル。スバルが彼の方を向くと、ウィングルは翼を折り畳みながらこちらを向いていた。
「へぇ、君も凄い力を持ったクチ?」
「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・」
「・・・・・・この姿の時はウィングルって名乗ってるんだ、よろしくね」
「えっと・・・・・・その、よろしく」
 ウィングルから差し出された右手にスバルは思わず握手を返した。
「それで、君は何て「御用だ、御用だ!!」」
 名前を尋ねようとしたウィングルの声をかき消し、彼らの下に五陽田警部が走り寄って来ていた。スバルの、正確には彼と合体しているウォーロックの電波を感知してここまで追ってきたのだ。
「サテラポリスの五陽田警部だ!そこのお前!お前が異常電波の発信源だな!?」
 五陽田に指をさされ、スバルは思わず自分の顔を指差す。
「そしてお前ら!お前らも怪しい連中だな!?」
「え、俺ってそんなに怪しい!?」
「まぁ、周りから見たら正体不明ってだけでも十分怪しいもの扱いだよね・・・・・・」
 慌てるあげだマンと汗を流してため息をつくウィングル。
「さぁ大人しく捕ま「素敵ぃっ!!」うぉっ!!?」
 今度は五陽田を背後から押しのけ、ルナがロックマンに迫ってきた。
「私を助けてくれたことといい、キザマロとゴンタの乗ったモノレールを受け止めたことといい、凄すぎます!貴方のお名前は!?」
「え!?」
「そういえば、君の名前を聞いてなかったよな」
「僕もそれを尋ねようとしてたんだ。で、何て名前なの?」
 三人から迫られ、スバルは思わず後ずさった。
「えと・・・・・・僕は星か・・・・・・」
「ン・・・・・・ウッウン!」
 スバルがつい自分の本名を口にしそうになったのを、ウォーロックがワザとらしい咳をして遮る。
「ウォー・・・・・・“ロック”?」
「え・・・・・・“ロック”?まぁ~!!「“ロックマァン”だと!?御用だ“ロックマン”!俺と一緒に署まで来い、“ロックマン”!!」きゃぁっ!?」
 今度はルナが復活した五陽田に押しのけられる。そして、ルナの台詞を遮ってスバルをそう呼んだ。
「いや・・・・・・あの・・・・・・」
「へぇ、君の名前は“ロックマン”って言うのか。なかなかカッコいい名前じゃないか」
「本当本当、俺と同じで最後が“マン”ってつけてるあたりがヒーローっぽくていい!」
 何故か、知らない内に自分の呼び名が“ロックマン”にされていた。追いつけない展開に、スバルことロックマンは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ちょっと、私がその方と話をしているのよ!?」
「・・・・・・その前に、一般人が勝手に事件現場に踏み込んで警察の仕事邪魔してんじゃねぇよ」
 突然、そう言って背後からルナの方を鷲掴みにし、物凄い形相で睨みつける女性の姿があった。その女性に見覚えがあったウィングルは思わず後ずさる。
(ゲゲッ!?あ、アスカさん!!)
 それはショウキにとっては鬼の様に怖い女性こと警察署に勤務する刑事課課長の羽田飛鳥、その人だった。彼女の鬼の形相に睨まれてルナは息をのんで大人しくなる。気がつけば、モノレールに乗っていたキザマロとゴンタもアスカの部下の警察官に支えられながら保護されていた。
「ほら、こっからは警察の仕事だから下がった下がった!そこの三人もそのオッサンの言うとおりにしろよ!じゃ、五陽田警部。とりあえず、今はそいつらの方をよろしく」
「あ、ちょっと・・・・・・!?」
「お、オッサンって・・・・・・」
 アスカがルナを強引に現場の外へと連行していく姿を余所に、五陽田はアスカの酷い物言いに口をあけた状態で呆然としていた。もちろん、モノレールを受け止めた三人もあまりの状況に呆然としている。
 そんな時、ウォーロックが何かを感じ取ったように彼方に目をやる。
「何だ・・・・・・この感じ・・・・・・?」
「どうしたの、ウォーロック?」
 そんなウォーロックの様子に、ロックマンは彼の方を見る。
「スバル、上だ!!」
「上・・・・・・?」
 ロックマンがウォーロックに言われた方へと視線を向ける。ウィングルとあげだマンも釣られるようにその方角を見ると、モノレールの線路の一部を包み隠すように不気味な霧が現れ、広がり続けていた。
「な、何だあれは!?」
「何で、あんな所に“霧”が広がってるんだ?」
「ウォーロック、あれ何!?」
「わからん・・・・・・だが、只ならぬ量のエネルギーの流れを感じる。恐らくここに現れた電波ウィルス共は全部“あれ”に引き寄せられた奴ばかりだろう」
 ウォーロックのその説明に、ロックマンは再び広がり続ける“霧”に目をやる。つまり、今回の事件の根本の原因はあの“霧”であり、あの中にルナ達を危険な目にあわせた張本人がいるかもしれないということだった。ならば、放っておくわけにはいかない。
「いくぞ、ウォーロック!!」
「へっ!そう来なくっちゃな!!」
 ロックマンは“霧”の中へと向かって跳躍していく。そんな彼を見て、ウィングルとあげだマンはお互いに顔を合わせた。
「どうする、あげだマン?」
「皆まで言うなって!」
 そして、お互いに頷いた。
「僕達も便乗するよ、ウィン!!」
「当たり前だ、思いっきり行け!!」
「ワープ郎、ロックマンとウィングルに遅れるな!!」
「勿論だ、ダブルビックリ」
 気合の声と共にウィングルとあげだマンも霧に向かって行く。五陽田は呆然としていたために彼らがその場から去っていくのに反応が遅れ、気付いた時には既に遠くの方に彼らの姿があった。
「あ!?これ、貴様ら!勝手に何処へ行く!?」
 五陽田の制止の声も虚しく、彼らは霧の中へと消えていった。



 ロックマンが霧の中に突入し、ゴーグル越しに辺りを見回す。そして、霧の影響で周りが霞んで見える中、かろうじて前方に何か居ることを告げる“影”の存在を確認する。
「ウォーロック、もしかして・・・・・・」
「ああ・・・・・・“あれ”が妙なエネルギーの“中心”みたいだぜ」
 ウォーロックがそう言った直後にウィングルとあげだマンが遅れて到着し、ロックマンの両隣へとそれぞれ並び立つ。
「・・・・・・“あれ”がこの事件の根本的な原因ってわけか!」
「油断するなよ、あげだマン。『鬼が出るか蛇が出るか』分からないんだから」
 彼らがそう言っている間に目の前の“影”ははっきりと姿を現していき、彼らと同じ背丈の大きさで現れた。
「・・・・・・思ったより小さい」
「・・・・・・っていうか、何だあれ?」
「・・・・・・どう見ても、人間じゃないことは確かだけど・・・・・・」
 ロックマンが目を丸くし、あげだマンが呆れた表情で見やり、ウィングルが占めを括る様にそう呟く。彼らの目の前にいたのは、彼らと同じ背丈をした緑色の怪物だった。人間の様に手足はあるが、腕は人間より図太く、頭は人間のそれよりも“瓜”のような形であり、手に持った棍棒がかろうじて原始人を思わせるが、チンピラを更に悪くしたようなその姿にあまり知性の欠片はあまりなかった。
 この少年達が『デジモンカードゲーム』を趣味としていたのなら、この怪物が何なのか理解できたかもしれない。だが、ウィングルことショウキは家庭の経済状況上故にカードゲームの様なコレクター性のある趣味は持てず、あげだマンことあげだまは最近地球に着いたばかりでそういった地球の娯楽への理解はまだ薄く、ロックマンことスバルは興味の対象が“宇宙”にあるのであまり見向きもしなかった。よって、彼らはこの怪物のことは分からない。
 だが、『デジモンカードゲーム』を遊んでいる者ならば大半はこう言うだろう、『ゴブリモン』と。
「・・・・・・データ・・・・・・データ・・・・・・!」
 ゴブリモンはそう言って三人に向かって手に持った棍棒を振り回しながら迫ってくる。だが、あまりに単調な攻撃は三人にあっさりとかわされてしまい、こん棒は空を切った。
「『ダブルフリスベー』!!」
 あげだマンが回避と同時に距離をとり、両腰に装備していた二つの円盤『ダブルフリスベー』を外してゴブリモンに向かって投げつける。
「ウゴァ!?」
 二つの円盤は弧を描く軌道でゴブリモンに向かっていき、ひとつは顎を、一つは腹部に直撃した。ゴブリモンは忌々しそうにあげだマンを睨みつけると彼に向かって再び突っ込んでくる。
「『アームショット』!」
 今度はゴブリモンの背後に経ったウィングルが腕の装甲の先端にあるクリスタルから緑色の速射ビーム『アームショット』を発射した。
「ギャァッ!?」
 ビームはゴブリモンのお尻に命中。ゴブリモンは前のめりに倒れた。
「何だか、物凄く弱いんだけど・・・・・・」
「本当にこんなのが事件の原因なワケ?」
 ウィングルとあげだマンが呆れた目つきでゴブリモンを見やる。はっきり言って勝負にすらなっていなかった。
 その時、ウォーロックとワープ郎がゴブリモンに対して異様な雰囲気を感じた。
「・・・・・・!?あげだマン、気をつけろ!あの怪物、ますますエネルギーの収束量が増えてるぞ、ビックリハテナ」
「いいっ!?マジかワープ郎!?」
「そいつの言う通りだ。こいつ、何処からかエネルギーを取り込み続けてやがる!あの体がパンパンに膨れ上がる程にな!!」
「何だって!?」
 三人がそれを聞いて驚いている中、ゴブリモンはゆっくりと立ち上がって体を震わせる。そして、周囲の霧から赤い粒子を取り出して吸収していった。
『“ゴブリモン”進化ぁ!』
 その直後、空気は一変する。



『“フーガモン”!!』


「!?お・・・・・・大きくなった!?」
「ゲゲッ!?いきなりパワーアップするなんて有り!?」
「・・・・・・本当に『鬼』が出ちゃったよ」
 怪物は先ほどの小柄な緑色の姿とは打って変わり、少年達の背丈の数倍あるであろう赤い巨体へと形を変える。頭部には牛のよな二本の角が生え、口は先ほどよりも凶悪さ漂う鋭い牙が顔を出す、まさに『鬼』と呼ぶにふさわしい姿だった。
 それはデジモンが『進化』と呼ぶ力。本来は“生物”が環境に適応しつつ、より高みへと上り詰めるために備わったシステムであり、デジモンはそれを行うことでより強い存在になることができるのだ。そして、今三人の前にいるのはゴブリモンが進化した姿、『フーガモン』である。
「・・・・・・『ヘビースイング』!!」
 フーガモン果てに持った棘付き骨棍棒を少年達に向かって勢い良く振り下ろしてきた。三人は散開してその攻撃をかわし、フーガモンと距離をとる。骨棍棒は三人がいた場所に叩きつけられ、コンクリートの地面を粉砕し大きく抉った。
「大きくなった分、パワーも上がってるわけか」
「あんなのを無防備に受けたらまず痛いじゃ済まねぇな・・・・・・」
 ウィングルとウィンが目を細めてフーガモンを見据えてそう言う。体格差だけでなく、あのコンクリートを易々と粉砕するパワーは危険だ。下手に接近できない。それは、格闘戦以外に攻撃手段を知らないロックマンにとっては厄介だった。
「ウォーロック、何か武器は無いの!?」
 接近戦以外の攻撃手段は無いかとロックマンはウォーロックに尋ねた。すると、ウォーロックはこう返した。
「・・・・・・トランサーの“バトルカード”を出せ」
「“バトルカード”を?」
「俺にバトルカードを“プレデーション(捕食)”させるんだ」
「え・・・・・・?」
 何故、バトルカードを食べさせろというのだろうか。ロックマンが疑問に浸っているのを余所にフーガモンがロックマンめがけて向かってくる。
「いいから早くしろ!!」
 フーガモンが迫っていることを知ってウォーロックはロックマンに早くそうするように急かす。
「分かった・・・・・・まずはこいつだ!!」
『プレデーション!!』
 ロックマンが“ガトリング”のバトルカードを取り出して中に投げる。ウォーロックはそれをすかさず“プレデーション(捕食)”した。
 直後、左腕となっていたウォーロックは光を放ち、瞬く間にバトルカードに描かれていた武器こと“ガトリング”へと姿を変えていた。
「凄い!腕が武器になった!!」
「感心してる場合か、来るぞ!!」
 ロックマンはガトリングの銃口を迫ってくるフーガモンへと向ける。ガトリングの銃身の束は高速回転し、凄まじい速度でエネルギーの弾丸を目標に向けて連射した。
「ぐぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!?」
 数多の弾丸の雨を受け、フーガモンは大きく仰け反る。ウィングルとあげだマンは目を丸くして感心していた。
「・・・・・・やるねぇ、彼」
「本当・・・・・・俺達も負けてられないぜ、ワープ郎!!」
「当然だ、マル。あいつのデータはそろったぞあげだマン、気合を入れろ、ダブルビックリ」
「おうっ!気合い、気合ぃ!!」
 あげだマンは気合カードを出すために気合エネルギーを充填する。
「じゃあ、僕達も行きますか!!」
「オウよ!“大鷲”の戦いっぷりを見せてやろうぜ!!」
 ウィングルも大地を蹴って舞いあがり、上空からフーガモンを見据える。
「スバル!休む暇を与えるな!!」
「わかった、次はこいつだ!!バトルカード・プレデーション!『キャノン』!!」
 ロックマンは『キャノン』のバトルカードをウォーロックにプレデーションさせ、左腕をキャノン砲へと変える。
 同時に、あげだマンは気合カードがヘッドギアからロードし終え、そのカードの絵柄を見る。
「・・・・・・『コンピュータ・ワクチン』カード?何でこんなのが・・・・・・?」
「そうだ、ビックリマーク。分析の結果、あいつの正体はコンピュータプログラムがこの“霧”の影響で実体化したものだと解かった、マル。それも“コンピュータ・ウィルス”に非常に酷似したデータ構造をしていることもわかったぞ、ダブルビックリ」
 ワープ郎の分析結果に、あげだマンは驚いて信じられないという表情をした。
「コンピュータプログラムが実体化したものだぁ!?冗談だろう!?」
「信じられないのも無理ないかもしれないけど事実だ、ビックリマーク。とにかく今はそのカードであいつを倒すんだ、ダブルビックリ」
「だぁ~!わかった、こうなったらとことんやってやるぜ!!」
 あげだマンは気合カードを胸のスロットに挿入し、バトルスーツに気合カードの能力を付加する。そして、あげだマンの右腕アーマーには銃が現れた。
「いくぜ!『あげだマンショット』、コンピュータ・ワクチン弾、装填!!」
 あげだマンはそう言って右腕の銃『あげだマンショット』をフーガモンに向けて狙いを定める。
「あげだマンショット、発射ぁっ!!」
 あげだマンショットから放たれたエネルギー弾はまっすぐフーガモンを捉え、その腹部へと直撃する。
「ぐぅおっ!?」
 放たれたエネルギー団ことコンピュータ・ワクチン弾を受け、腹を押さえて苦しむフーガモン。あげだマンの撃ち込んだコンピュータ・ワクチン弾がウィルス種であるフーガモンの体を急速な勢いで内部から破壊しているのだ。自分の体を構成するデータが破壊される苦しみで動きが鈍くなったところをロックマンは逃がさなかった。
「くらえぇっ!!」
 ロックマンは左腕のキャノンの砲身をフーガモンに向け、強力なエネルギー弾を発射する。
「がはぁっ!!?」
 それはフーガモンの背中に命中し、凄まじい爆炎を上げた。その姿を狩り時と言わんばかりに、上空のウィングルは翼を羽ばたかせる。
「こいつで最後だ!『ストライク・・・・・・キィイイイィィィックゥウウウウゥゥゥゥッ』!!」
「蹴り砕けぇええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 叫びと共に飛び蹴りの態勢で急降下するウィングル。
「ガャァアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!?」
 彼の足は須佐まじい勢いでフーガモンへと吸い込まれていき、フーガモンの胸を貫くかの如く深く突き刺さる。さらにその勢いは収まらず、慣性の法則でフーガモンの巨体を大きく引きずる様に後退させ、ウィングルが羽ばたいてフーガモンから離れた後もさらに大きく吹き飛ばされていった。フーガモンが吹き飛ばされた後の地面には大きく抉れた跡が残る。
 少年達は各々の位置でフーガモンを見据える。フーガモンは何とか起き上がろうとするが、最早そんな力も残っていなかったらしく、糸が千切れた操り人形の様に倒れる。そして、粒子となって崩壊し、霧の中へと消えていった。






 ドーム状のモニターに覆われた部屋で、モニターに表示されるマークの一つが消失した。
「ワイルド1、反応が消えました」
「ワイルド1に引き寄せられていた電波ウィルスもサテラポリスにより駆逐されていきます」
「・・・・・・そうか」
 サングラスの男は女性オペレーター達の報告を聞いて、握っていたジッポの開閉を繰り返す。
「室長、この後はいかがなさいますか?」
「ネットワーク警戒レベルをイエロー設定した後に、今回の件に対する情報規制を急げ」
「了解」
 男はオペレーター達に沿う指示した後、モニターの方へ目を移した。
「・・・・・・“秩序無き獣”以外にも、この世界の裏に隠れる存在がいるとでも言うのか?」
 男はジッポの開閉の速度を速め、忌々しそうにモニターを睨みつけた。






 フーガモンが消滅した後、周囲の霧は瞬く間に消えていき、周囲の景色がはっきりとわかるようになっていた。
「倒した・・・・・・のか?」
「ああ、そうみたいだな」
 ウィンからそう言われ、ウィングルは大きく息をついた。
「おっしゃ!あげだマン、またまた地球を救う!!」
「一件落着だ、マル」
「うん、これでもう被害が拡大することもないだろうしね」
「そうか・・・・・・よかった」
 ロックマンは安堵のため息をついた。これでもう、電波ウィルスによる被害がひどくなることが無くなったからだ。
「ああ・・・・・・何とか、間に合ったな」
「?・・・・・・“間に合った”って?」
 突然、ウォーロックがそんなことを言ったものだから、ロックマンは彼の方へと視線を向ける。
「・・・・・・そろそろ、俺のエネルギーも限界なんでね」
 ウォーロックがそう言った途端、ロックマンの体は輝きだし、光の中から電波変換の解けたスバルの姿が現れる。
「うわっ!?元に戻っちゃった!!」
『流石に、病み上がりで無茶をしすぎちまったようだ。悪いが、また休ませてもらうぜ』
 スバルのトランサーの中からウォーロックがそう言う。
「え・・・・・・あぁ、うん・・・・・・」
 スバルがそう呟いていると、何処からともなくパトカーのサイレン音が近づいてくる。
「!?・・・・・・サテラポリスがここに近づいてくる!!」
 スバルは慌てた。ここは先ほどまで霧のど真ん中だったところだ。そんな所に変身の解けた自分がいたら真っ先に疑いの目を向けられて面倒なことになる。かといってここは高高度に設置されたモノレールの線路の上。すぐに別の場所に移動するには相当な手間がかかる。このままでは、サテラポリスにつかまってしまう。
「ど、どうしよう・・・・・・」
 頭を抱えて慌てるスバルの肩に背後から突然と手が置かれる。
「・・・・・・君、とりあえず落ち着いて話をするためにも僕達とこの場を離れない?」
 スバルが振り返ると、ウィングルがサムズアップでそう言ってきた。






 一方、先ほどまで霧のあった場所が見えるビルの屋上から、彼らを見据える二つの影があった。ひとつは少年たちと同じくらいの少女の、もう一つは少女と同じくらいの体格をしたキツネの怪物のものだった。
「・・・・・・どうやら、先を越されたようだな」
「・・・・・・あいつら、デジモン?」
「いや、そのような気配は感じられない。恐らく、デジモンとは根本から異なる存在だろう」
「そう・・・・・・」
 少女は興味無さ気にその場を去っていく。そして、キツネの怪物もその後を追うように消えていった。






 フーガモンを倒した一同は、あげだマンは変身したままビルの屋上という屋上を跳躍し、ウィングルは電波変換の解けたスバルを運び、落ち着いて話をするために事件現場から少し離れたビルの屋上に来ていた。屋上に到着した後、ウィングルとあげだマンはスバルの前でそれぞれ変身を解き、スバルの方を向く。
「あ・・・・・・えっと、ここまで運んでくれてありがとう・・・・・・」
「いいよ、『袖振り合いも多生の縁』ってね」
 スバルはとりあえずお礼を言い、ショウキが普段の気の抜けるような笑顔で返す。そして、ショウキは改めてスバルに向かって手を差し出した。
「改めて、自己紹介といこう。僕は友枝翔己。で、こっちは相棒のウィン」
「よろしくな、坊主」
「あ、僕は星河スバルです。よ、よろしく」
 スバルは状況が追いつけずにいながらもとりあえず自己紹介を返しつつ、差し出された手を握った。
「俺は源氏あげだまっていうんだ。よろしくな、スバル!」
「僕はあげだまのパートナーのワープ郎だ、マル。よろしくね、ビックリマーク」
「ど、どうも・・・・・・」
 スバルはあげだまとワープ郎の元気すぎる自己紹介に若干引きつつも返事を返した。
「それで、君達は何者なの?」
 スバルがそう言った途端、あげだまは信じられないといった表情でスバルに詰め寄った。
「え!?あげだマンのこと知らないの?」
「えと・・・・・・その、ゴメン・・・・・・」
「ハァ~・・・・・・俺、結構活躍してるはずなのに・・・・・・」
「あげだま、それは盛蕎麦市内での話だ、マル。そこを出ればこんなもんだぞ、テンテン」
「ハハハ」
 とりあえず、その話はショウキが笑って締めた。
「それよりあげだま、いぶきちゃんのことは良かったのか、ハテナ」
 ワープ郎にそう言われ、いぶきのことをほったらかしだったのをあげだまは思い出した。
「いっけね、すっかり忘れてた!!ごめん、ショウキさん!俺、お先に失礼するぜ!!」
「ああ、いぶきちゃんによろしくね」
 ショウキ達にそう言ってその場を去っていくあげだまとワープ郎。ショウキは彼を見送った後、スバルの方へと向いた。
「まぁ、今日は思わぬ事件に巻き込まれてびっくりしたよね」
「あ・・・・・・うん」
 あなたもその内の一人です。スバルは心の中でそう思っていた。そんなスバルの心中を察してか、ショウキは肩をすくめる。
「とりあえず、心身ともに落ち着いてから話をしようか。僕も別の用事があってコダマタウンに来たわけだし。お互い連絡が取れるようにメールアドレスだけでも交換しとかない?」
「え・・・・・・・・・・・・」
 ショウキに突然そんなことを言われ、スバルは戸惑った。スバルとしては自分のメールアドレスを他人に渡したことはあまりない。何より、とある理由から無意識にそれを拒絶していた。
 だから、ショウキのその申し出は断ろうと考えていたが・・・・・・。
「・・・・・・お前、ウェーブスキャナーがぶっ壊れてるだろう」
「・・・・・・あ、忘れてた」
 ウィンに指摘されて、ショウキはそのことを思い出した。これではメールアドレスの交換もままならない。
「あ~・・・・・・とりあえず、僕のアドレスを書いて渡しておくね」
 ショウキはそう言って懐のメモ帳に自分のメールアドレスを書きとめると、それをちぎってスバルに差し出した。
「え・・・・・・あの、僕は・・・・・・」
「いいよ、まだ心の整理がつかないんでしょ?」
 ショウキはそう言ってスバルの手に押し込むように紙を握らせた。
「それじゃ、僕もウェーブスキャナーの修理を頼みに行かないといけないから」
「そんじゃ、あばよ」
 戸惑うスバルを余所に、ショウキとウィンはその場を後にした。
 ショウキ達が立ち去り、ウォーロックがトランサーの中でいびきをかいて眠る中、スバルは呆然とその場に立ってショウキに握らされたメールアドレスのメモを見ていた。



 スバルはあの後しばらくしてからビルを降りて外に出る。話魔理では事件の事後処理をしているサテラポリスや警察のパトカー、消防署の消防車や救急車が走っており、公務員たちがせわしなく動いている。スバルはそんな彼らを余所に、さっさとその場を離れようとした。
「おい、君!」
 そんな時、スバルは突然背後から呼び止められた。振り返ってみると、サテラポリスの五陽田がこちら慌ててこちらに向かってきていた。
「さっき、このあたりで怪しい連中を見なかったか?こうロックマンとか言う・・・・・・」
 五陽田はスバルの顔を見て驚く。昨夜、展望台で異常電波を検知して駆けつけた際に発見した少年にまた会ったのだから。
「あ!!お前は!?」
「け、警部さん」
「お前がどうしてこんなところに!?」
「あ・・・・・・で、電波ウィルスが怖くて隠れてたんです。それじゃ、僕はこれで!」
 スバルは五陽田から逃げるようにその場を立ち去る。
「・・・・・・例の怪電波を追って、二度もあの少年に出会うとは」
 五陽田はじっとスバルの背中を見ていた。



「・・・・・・で、何でお前がここにいるんだ?」
「いや・・・・・・今回はアスカさんの思っているような理由でここにいるわけでは・・・・・・」
 一方、別の場所ではショウキがアスカに捕まってしまい、頭を鷲掴みにされた状態で尋問を受けていた。
「ま~た警察ごっこのつもりで首突っ込んでたんじゃねぇだろうなぁ?」
「断じて違うよ!ウェーブスキャナーの修理をしにコダマタウンに来ただけであって・・・・・・!」
 必死に身の潔白を主張するショウキだが、アスカにはなかなか信じてもらえない。アスカは更にドスの利かせた目付きでショウキを睨みつける。
「お前は前例が前例だけに信じられないからな、また何か悪知恵回してんじゃねぇのか?さっさとゲロっちまえ、この馬鹿」
「ば、馬鹿は無いんじゃない・・・・・・?」
 この後、しばらくショウキは解放してもらえなかったという。
「信じてよ~、アスカさ~ん!!」



「あげだま君!何処行ってたのよ、心配したんだから!!」
「ご、ゴメン、いぶきちゃん!助けを呼びに行ったら思ったより遠くの方まで言っちゃって・・・・・・」
 いぶきのもとへ戻ったあげだまは、彼女からこっぴどく説教を受けていた。こっちもこっちで大変なようだった。
「さっきの女の子だって結局別の人が助けてくれたわよ!あげだマンとウィングルも駆け付けてくれてあっという間に解決しちゃったし!」
「そ、そう・・・・・・」
 自分がそのあげだマンです。あげだまはそう言いたい衝動に駆られたが、それは駄目なのでぐっとこらえる。
「もう、女の子を放っておくなんて最低よ!あげだま君、今日はとことん何か奢ってもらうからね!!」
「いいっ!?いぶきちゃん、勘弁してよぉ~・・・・・・!!」
 今日はあげだまの金銭運は限りなくゼロに等しかったという。



「やれやれ、女に絡まれる所はますます親父にそっくりだな」

「あげだまの奴、これで今月のお小遣いはゼロになったな、テンテン」



「「まったく・・・・・・何やってんだか(、テンテン)」」



 そんな彼らを見ていた相棒達は、呆れた眼で少年達を見ていたという。






 その日の夜、コダマタウンの展望台ではスバルが呆然と星空を眺めていた。今日あった出来事に、頭が付いていけずにいたのだ。
「信じられないよ・・・・・・まだ、夢を見ている気分だ」
 スバルは自分のトランサーで寛ぐウォーロックの方を見る。
「ありがとう、ウォーロック。今日は僕に力を貸してくれて・・・・・・」
 そんなスバルにウォーロックは怪訝な顔をしていた。
「分からん、理解に苦しむぜ・・・・・・」
「?・・・・・・何がさ?」
「嫌ってた連中を助けてやるなんて・・・・・・お前も変わった奴だな」
 ウォーロックは何故、スバルが嫌っていたはずのルナ達の危機を救おうとしたのかが理解できなかった。FM星で育ったウォーロックにとっては嫌な連中は見捨てるのが当然であり、スバルの今回の行動は不思議で仕方がなかったのだ。
 そんなウォーロックに対し、スバルはため息をついて笑みをこぼすとこう言った。
「そんなの当たり前だよ・・・・・・“人間”なら」
「そうか、“人間”なら当たり前か・・・・・・まぁ、いい!これからもよろしくな、『ロックマン』!!」
「うん!!」
 かくして、蒼き流星の戦士『ロックマン』がこの地球に誕生した。






 同刻、とある森林の中で何かが逃げまどい、何かがそれを追いかけている。
 いや、正確には逃げている方は傷を負い、体制を整えるために退いているだけだ。傷を負った方の姿は年端もいかぬ少年であり、その息は荒く、腕には傷口から流れ出たであろう血が流れ指先から滴り落ちている。少年は険しい目つきで周囲を警戒し、自分を狙っている“脅威”の居所を探る。
 突然、茂みの中から少年に向かって飛びかかってくる“影”。それは物凄い勢いで少年へと迫る。
 少年もそれに反応し、懐からビー玉の様な“赤い玉”を取り出すと怪物の方へと掲げる。直後、その球は真っ赤な光を放ち、少年の掲げた手のひらには見慣れない文字で描かれた円形上の“陣”が現れる。
『多恵なる響き、光となれ。許されざるものを封印の輪に!』
 少年はそう叫びながら光を挟んで真直ぐ“影”の方を見据える。“影”は少年の目前まで迫る。そして、一気に頭上からしとめようと跳躍した。
『“ジュエルシード”・・・・・・封印っ!!』
 “影”と少年の“陣”とがぶつかり合い、お互いに大きく吹き飛ばされる。“影”は不気味な色の体液や肉片の様なものをまき散らしながら地面へと落下し、弱々しく茂みの中へと逃げていく。
 少年の方も先ほどの“陣”が消えていき、力尽きたようにその場に崩れる。
「・・・・・・逃がし・・・・・・ちゃった・・・・・・追いかけなく・・・・・・ちゃ・・・・・・!」
 だが、少年の意識はそこで途切れそのまま仰向けの状態で倒れた。
(誰か・・・・・・僕の声を聞いて・・・・・・力を貸して・・・・・・『魔法の力』を・・・・・・)
 それは誰に対する言葉だったのか、それを知る者はその場にはいない。
 少年の体はそのまま光を放つ。そして、その光が消えた後に居たのは先ほどの少年ではなく、傷つき弱りきった“フェレット”のような姿をした動物だった。その隣に、先ほど少年が持っていた“赤い玉”を置いて・・・・・・。






 次回予告

スバル「コダマタウンで起こった事件は瞬く間にニュースや新聞に載った。けれど、取り上げられたのは電波ウィルスによる部分だけで、あの“霧”や怪物のことは一切触れられていなかった・・・・・・」
ウォーロック「おい、スバル。これはアニメ版と違ってお祭り作品だから堅苦しい次回予告はしなくていいってよ」
スバル「・・・・・・え、ええ!?でも、アニメ版では毎週こうやって・・・・・・」
ウォーロック「まぁ、適当に次の話の触りだけでも伝えときゃいいだろう?実際、今回の次回予告に割り振る文章数もそんなに無いみたいだし」
スバル「ああ、もう!ウォーロックがそう言うからさらに割り振りが減って・・・・・・って、もうこんだけなの!?え~っと・・・・・・
次回、リトルヒーローズ・・・・・・」

第四話
  『魔法の呪文はリリカルなの?』

スバル「え!?“ヒーロー”なのに魔法少女!?」
ウォーロック「細かいことは気にすんな」






ショウキ、今日のことわざ(一部ことわざでないものも含む)

・『明日は我が身』
 いつ自分に悪い出来事が起こるか分からないということ

・『鬼が出るか蛇が出るか』
 次に何が起こるか予測がつかないということ。物事は前途多難である



今日のヒーロー!

『ロックマン』
登場作品:流星のロックマン
攻撃技:ロックバスター
必殺技:バトルカード・プレデーション
備考:
 スバルとウォーロックが電波変換した姿。電波の体を有しており、周波数を変えてあらゆる電波の波に乗って移動可能。その気になれば地球一周に一秒もかからない。周波数によっては現実世界にも存在可能であり、現実世界と電波世界を行き来して活躍する。
 対電波ウィルス用のバトルカードを左腕となっているウォーロックにプレデーションさせることによって自身に武装や能力を付加可能で、多種多様な攻撃手段を有している。
 スバルの優しさとウォーロックの強さと勇気を兼ね備えたヒーロー。



 キャラクター紹介3

『星河スバル』
登場作品:流星のロックマン
性別:男
年齢:11
特技:電波技術に関連する知識
劇中ヴォイス:大浦冬華(MAJOR 1st season:佐藤寿也, To LOVEる-とらぶる-:レン・エルシ・ジュエリア、ルン)
備考:
 苦しむ人を見過ごせない、心やさしい少年。
 NAXA職員であり宇宙飛行士だった父親のことを尊敬しており、父親同様に宇宙に想いを馳せている。だが、その父親が宇宙ステーションの事故で行方不明になって以来、他人との関わりを避けるようになり、小学五年生になってからは学校には通っていない。本来の明るくて優しい性格も今は影を潜めてしまっている。
 ウォーロックと関わることである程度は変化を見せるが・・・・・・。



『ウォーロック』
登場作品:流星のロックマン
性別:♂
年齢:不明
特技:喧嘩・芝刈り機の乗りまわし
劇中ヴォイス:伊藤健太郎(機動戦艦ナデシコ:葵ジュン, 超者ライディーン:鷲崎飛翔)
備考:
 FM星を裏切って地球にやってきた電波生命体。
 地球にやって来て最初に出会った地球人であるスバルの下に隠れ住んでいる。母星ことFM星から『アンドロメダの鍵』と呼ばれるものを強奪し、それを取り返さんとするFM星人達から追われる身となっている。どうやらスバルの父親である大吾と面識があるようであり、彼自身がFM星を裏切った理由も大吾の存在が関係あるようだ。



『白金ルナ』
登場作品:流星のロックマン
性別:女
年齢:11
特技:勉強・集団の取りまとめ
劇中ヴォイス:植田佳奈(マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ:沙羅, ハヤテの如く!:愛沢咲夜)
備考:
 スバルの学校のクラスメートで学級委員長。周囲からの呼び名も彼女の氏名ではなく『委員長』で通っている。少々強引な性格だが、根っこはとても優しくて他人想いかつ面倒見の良い少女。
 コダマ小学校の生徒会長の椅子を狙っており、そのための活動に努力を惜しまず、キザマロとゴンタの支援のもと点数稼ぎとなる活動に余念がない。スバルの登校拒否改善もその内の一つだったが、彼に拒絶されたことで失敗に終わっている。ロックマンにモノレール事故の際に助けられてから心を撃ち抜かれており、“様”付けで慕い続けている。
 かなりのお金持ちのお嬢様であり、住んでいる家の敷地は球場三つ分の広さがあるとか。



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以上!


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