望 〜都の空から
東京の魅力や四季の彩り、さらに課題も空撮で紹介します
【放送芸能】人を見つめる“法曹俳優” 弁護士から転身 野元学二2010年12月2日 朝刊 裁判長は元弁護士!?−。BS−TBSで八日に放送される開局十周年記念ドラマ「松本清張特別企画 一年半待て」(午後9時)の法廷シーンで、裁判長を演じる野元学二は、元弁護士で、本物の裁判にも関わっていた。このドラマの法律監修も務めている。彼の珍しい経歴と、元法曹から見た裁判ドラマの楽しみ方を紹介する。 (宮崎美紀子) 野元は一九六七年生まれ。早稲田大学在学中の一九九二年に司法試験に合格。大学卒業後、弁護士として九年間活動したが、三十五歳で俳優に転身した。 「そもそも法律家を志したのは、『人間とはどういうものか』のプロになりたかったから。俳優は、もっとそれだけを考えていける仕事だという気がします。フィクションの中の方がより本当のことがわかるのでは、と。後付けかもしれないけど、今、僕はそう思いますね」 友人の死や自身の体調不良、第三子の誕生と一カ月の育児休暇。さまざまなことが重なった中で、「肩書や収入以外に自分に何が蓄積されたのか」と考えた末の結論だった。 弁護士バッジを返し、退路を断って、俳優の養成所に入った。現在はドラマを中心に出演。法廷、事件を扱った作品での裁判官、刑事、弁護士など「専門家」が目立つ(別表)。経歴を買われての起用かと思ったら、「いやあ、キャラクターのせいじゃないですか。人間が堅いんで」と苦笑。ただ、法廷内での所作の指導などを期待され、「裁判所の中にいる役」を割り当てられるという事情はあるようだ。 “出演兼法律監修”も多いが、これは全くの想定外だったという。きっかけはNHKの「マチベン」(2006年)。彼の経歴を知る人の紹介で脚本作りから関わり、それが、話題になった映画「それでもボクはやってない」につながった。 弁護士の経験は、俳優業に役立ったのか。 「弁護士時代、人間の良い面も悪い面も見たいという欲求がありました。いろんな人に会えたし、『先生』とおだてられたり、逆に今それを失ったり。いろんなことが、役者をやる上での引き出しになっているのかな」 ◆「一事不再理」テーマ 裁判員裁判で描く「一年半待て」は、一度判決が確定したら、二度と裁かれることはないという「一事不再理」をテーマにしたサスペンス。主人公・さと子(夏川結衣)は、暴力をふるう夫を殺してしまう。人権派弁護士たき子(市原悦子)の戦略が功を奏し、裁判は、世間の主婦たちの同情が集まる中で進んでいく。ドラマには、原作が書かれた当時はなかった「裁判員裁判」が描かれている。 元法曹という立場から、野元は法廷ドラマの魅力をこう話す。 「ドラマは、ある意味、現実を超えることができる。作り手の想像力が現実を超え、それを見た裁判関係者が『こういうこともあるかもしれない』と気付くこともありうる。そういう“先を行く”ことができるのが面白い」 「静かに」と傍聴人を抑える裁判長のセリフは、当初の脚本にはなかったが、裁判員に影響を与えかねないとして彼自身が現場で考え、付け加えたそうだ。 俳優としては、市原悦子の演技のすごさに感銘を受けたという。 「ドラマを見る人に考えてほしいのは、人が人を裁くことの難しさ。駆け引きがあったり、だまされることもある。裁判員制度を導入してしまったからには、いい制度にするためにどうすればいいのか、みんなで考えていかなければと思っています」
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